自分の好きな本が映像になったら観てみたいと思いませんか。映画化されるから、と原作小説を読んでみたり原作小説を読んでいたから映画を観てみたり、楽しみ方はそれぞれです。今回は、映画化されたミステリー小説からおすすめの作品をご紹介します。
『半落ち』や『臨場』など多くのヒット作を持つ横山秀夫の代表作と言えば『64』です。わずか7日間という短い期間で幕を閉じた昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」の謎と事件解決に挑む男達の哀しくもアツいストーリーは必見です。
- 著者
- 横山 秀夫
- 出版日
- 2015-02-06
登場人物たちの人間くささ、解決への執念、それぞれの葛藤と正義感、裏腹の野心など人間の心理をえぐるように描かれる横山秀夫の世界観がたっぷり詰まっています。
警察内部の抗争や政治的な思惑などが入り乱れる複雑なストーリーながら、主人公である三上をはじめ登場人物それぞれの感情の機微までも詳細に描き出しているため、感情移入しやすく、すらすら読み進められます。警察と記者クラブの駆け引き、警察内部の対立構成、プライベートの事情などリアリティあふれる描写で読者を惹きこみ、かつ時効までのタイムリミットや犯人の正体などミステリー要素も満載の、まさに傑作。読了後にはゆったりと心地良い余韻に浸れる、おすすめの1冊です。
『Another』は、「館」シリーズで有名な綾辻行人が描く、学園ホラーミステリーを楽しめる1冊です。「野性時代」にて2006年から連載され、2009年に単行本化、2011年に文庫版が上下巻で刊行されました。
父親の仕事の都合で、夜見山北中学3年3組に転校することになった、主人公の榊原恒一は、まるで「いないもの」のように扱われている生徒がいることに違和感を覚えます。その「いないもの」のはずの生徒と交流をしてしまったことで、凄惨な連続殺人事件が発生していく……。という物語の展開が読む人を惹きつけます。
続編として『Another エピソードS』があり、こちらも2016年に文庫化されています。
- 著者
- 綾辻 行人
- 出版日
- 2011-11-25
綾辻行人の代表作である「館」シリーズの格式や重厚な様式美を感じさせる作風と異なり、新境地とも言える「フレッシュ」な空気が全編に漂っています。
本格ミステリに難解なイメージを持つ人にも読みやすく平易に書かれていますが、そこはやはり綾辻行人、たたみかけるように繰り広げられる謎謎謎の息をも尽かせぬ展開に読む手が止まりません。
ヒロインである見崎鳴のツンデレ的な可愛さはもちろん、だんだんと増えていく「犠牲者」たちの死に様が美しく派手で、文章から映像が容易に想像できる、その筆致の圧倒的なすごさ! さすがです。
「なぜ」クラスでは生徒が「いないもの」として扱われているのか?という謎と次々に起こる殺人事件の謎、2つの謎が解き明かされる時に、衝撃が待っていますよ。
『悪人』『パレード』などで人気を博する吉田修一が2014年に刊行した『怒り』は、東京・沖縄・千葉を舞台に繰り広げられる、「人を信じること」を問う傑作小説です。
- 著者
- 吉田 修一
- 出版日
- 2016-01-21
自分の大切な人が、もしかしたら犯罪者かもしれない……と思った時、あなたならどうしますか?
東京と沖縄と千葉とで、それぞれ別のストーリーが展開し、絡み合って本筋を成している構成力は圧巻のひと言です。東京で起きた残虐な殺人事件の容疑者・山神一也と思しき人間が、自分の身近にいるかもしれない、という疑心暗鬼のになる周囲の人間の心を丁寧に描きだし、「人を信じることとはなにか」を読者に問いかけます。
なぜ、本当の名前を言えないのか、なぜ、過去を隠しているのか、何かやましいことがあるからではないのか? 疑いながらも信じたい、信じているけど疑ってしまう、その思いに心を打たれます。
3人の怪しい男たちのうち、本当の山神は誰なのか? 謎解きのようなミステリー要素を含みながら、人間とは何かを考えさせる重厚な1冊です。
2009年に刊行された、湊かなえの書き下ろし作品です。『告白』や『リバース』など映像化された作品も数多く、今作もその1つ。
主軸となる物語は女子高生2人が経験したひと夏のお話、という体裁ですが、ラストに明かされる真実を目の当たりにすると、それまでのストーリーががらりと変わって見える、驚愕のトリックが潜んでいます。
- 著者
- 湊 かなえ
- 出版日
- 2012-02-16
イマドキの女子高校生2人を主人公に、彼女たちの視点が次々と入れ替わる独白体で進むストーリーは、まさに映画向きの内容ですね。
ある時を境に、「人の命の終わる瞬間」を見たいと思うようになった敦子と由紀の2人が、それぞれの経験を独白という形で語る形式で物語が進んでいきます。一見すると、親友同士の友情物語に思えますが、実はその一方で別の物語が進行している、という湊かなえらしいどんでん返しの構成が秀逸です。
冒頭と結末で語られる内容によって、裏のストーリーが顔を出し散りばめられていた伏線が回収される展開にゾクッとしますよ。
ところどころに「因果応報」という言葉が出てきますが、作品全体のテーマが「因果応報」であるならば、登場人物すべてに因果関係があり、相応の報いが発生するのでは?と、そんなことまで考えてしまう「イヤミス」の典型とも言えるもやもや感、最高です。
2003年に刊行された伊坂幸太郎の代表作の1つ『重力ピエロ』は、仙台の街で起こる連続放火事件を解明しようとする2人の兄弟とその家族の切なくもいとおしいヒューマンミステリーです。
グラフィティアート連続放火事件の謎を軸に、兄弟の絆、家族の絆、さらには遺伝子レベルにまで発展する話の構成が伊坂幸太郎らしいです。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2006-06-28
作品全体の印象としては、清々しい雰囲気ですが、根底に流れるテーマは重いです。ともすれば暗く、救いのない展開になりがちの物語ですが、それを感じさせない美しさやさわやかさを醸し出しているところが素晴らしいです。
どんでん返しがあったり、凄惨な事件が起きたりする訳ではなく淡々と進んでいくストーリーの中に、悲しく辛い過去のエピソードや、家族の信頼関係が盛り込まれ、読了後はすっきりとした気分になれます。
人間の運命は、果たして遺伝子によって決めらえているものでしょうか? 実際はそうかもしれませんが、春の生き様は、遺伝子は決してあらがえないものではないと教えてくれます。
放火事件の謎が解けた時、秘められた家族の謎も解ける、2つの謎が交錯する美しい物語を堪能して下さい。
言わずと知れた宮部みゆきの代表作の1つである『模倣犯』は、1995年から「週刊ポスト」にて連載され、2001年に単行本化されました。
宮部みゆきらしい丁寧な人物描写で、そこに生きる人々の息づかいすら感じられる本作は、まさに傑作と呼ぶにふさわしい長編ミステリー小説です。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2005-11-26
ひと言でいうと、めちゃくちゃ長くて、めちゃくちゃ面白いミステリー小説です。
普通に生きている人が、突如巻き込まれた凄惨な事件に翻弄され、それでも懸命に生きている日常を切り取った丁寧な描写が光ります。多くの人物が登場しますが、それぞれが複雑に絡み合いながら1つの物語を作り上げています。人物の感情の機微であったり、背景であったりを緻密に描いているので、そこにある日常の尊さをより感じる事ができるでしょう。犯人の残虐さや犯罪心理をより如実に浮かび上がらせて、一層「異質なもの」としての対比を成している描写が素晴らしいです。
終盤の犯人を追い詰めるシーンもそうですが、『模倣犯』というタイトルの意味が分かるクライマックスのシーンは手に汗握る展開で、ジャーナリスト・滋子を応援しながら読んでしまう迫力満点のラストになっています。
映画化された結末と原作とではストーリーに違いがあるので、比べてみるのも楽しいですね。
2001年に発行された高野和明のデビュー作である長編ミステリー小説です。
冤罪の可能性がある死刑囚を救うため、仮釈放中の青年と刑務官が、10年前に起こった殺人事件の謎を追うストーリーで、江戸川乱歩賞を受賞、2003年には映画化されヒットしました。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
- 2004-08-10
殺人事件の謎を究明するミステリー要素に、死刑制度の是非を考えさせる重厚なストーリーで、読み応えたっぷりです。
死刑執行までのタイムリミットが迫る中、「階段を上っていたことしか覚えていない」という受刑者が無実である証拠を探して東奔西走する主人公・三上と刑務官・南郷の2人の活躍も見どころです。どんでん返しにつぐどんでん返しの連続で息を尽かせぬストーリー展開は必読ですよ。
人権問題などのテーマを取り入れつつ、平易な文章で疑問を投げかけてくる本作は、日頃あまり意識しない事柄について、深く考えるきっかけを与えてくれます。
リアリティある描写で、最後までスラスラと読めてしまう珠玉の1冊、ぜひ手に取ってみて下さい。
2013年に、東野圭吾による文庫書き下ろしで発刊された『疾風ロンド』は、発売からわずか10日で100万部を突破するベストセラーとなったことでも話題を集めました。まさに疾風ですね。
盗まれた生物兵器をめぐり、人間の愚かさや醜さも描かれた本作ですが、文体に重さはあまりなく、軽いタッチで描き出されているため、気軽に読み進めることができます。
- 著者
- 東野圭吾
- 出版日
- 2013-11-15
大学の研究所から新型病原菌「K-55」が盗まれ、脅迫メールが届くところから物語はスタートします。秘密裏に作った生物兵器のため警察に知らせることもできず、研究員が自ら取り返しに行く羽目になってしまうのですが、この任務を与えられた栗林という男、主人公なのにめちゃくちゃ冴えない!
いわゆる探偵役のはずなのですが、謎解きするでもなく走り回るでもなく、スキーも下手だし頼りない、けれど周りの助けを借りながら二転三転する事件を追いながら、犯人を追い詰めていく展開は見事です。栗林がちょっと格好よく見える瞬間もあったりするのがニクいところなんですよね。
綿密に練られたプロットをはじめ、クスリと笑えるコミカルな要素もあり、謎解きの要素もあり、やはり東野圭吾、さすがです。
肩肘張らずに楽しめるミステリー小説、読後の爽快感は抜群です。疾風のような怒濤の展開を、ぜひ満喫してみてください。
2009年刊行の『愚行録』は、貫井徳郎によるミステリー小説です。殺害された夫婦の関係者へのインタビューという形式で進むストーリー展開で、まるでワイドショーを見ているかのような臨場感にあふれた作風が特長です。
数々の証言をもとに、やがて明かされる真相とは……?
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
- 2009-04-05
「愚行」とは、「愚かな行い」のことですが、『愚行録』に描かれているのは愚かな人間たちの記録です。
記者である田中が、殺害された田向一家について関係者にインタビューしていくという展開で、ほとんどすべてが口語体で書かれています。そのため、まるで自分もその場にいて話を聞いているかのような錯覚に陥り、さらにはインタビューされている人間たちの心理や言葉が自分にリンクして「嫌な気分」になる読後はまさにイヤミスの典型です。
関係者へのインタビューから見えてくる人物像はどれもちがっていて、どれが本当かわからない。意識していない人間の心の闇を白日のもとにさらすことで、物語全体に漂う「危うい」「恐ろしさ」が際立っています。どの人物にも共感できて共感できない、えぐられるような心の葛藤を感じてください。
物事は1方向から見ているのではわからない、とよく言いますが、人間もまさにそうなんだと気づかせてくれる1冊、おすすめです。
2013年に刊行された『暗黒女子』は、秋吉理香子によるミステリー小説です。2017年に映画化され話題を集めました。
お嬢様ばかりが通う女子校を舞台に、文学サークルのメンバーが、マドンナ的存在の1人の女生徒の不審死を題材に物語を執筆し、それぞれが告発しあう……という展開で物語が進みます。
- 著者
- 秋吉 理香子
- 出版日
- 2016-06-16
文学サークルの定例会のスタートから、おのおのの小説を朗読するだけで展開するストーリーが斬新です。すずらんを抱えて死んだ、白石いつみの死の真相を、小説という媒介を使って解き明かす異色のミステリーと言えるでしょう。
登場する少女たちのそれぞれの裏の顔やそれぞれの物語があり、彼女たち1人1人のストーリーがおり混ざって紡ぎ出す物語は、謎が謎を呼ぶミステリアスな展開へと広がり、衝撃的な結末へと繋がっていきます。
ヒマな貴族の遊びのような、けだるい雰囲気が全編に醸し出されていますが、その中に散りばめられたほんの少しのスパイスが、白石いつみの不審死なのです。
思春期の少女ならではのきらめきと冷たさ、美しさと残酷さが織りなすコントラストが鮮やかで、読む人を惹きつけます。「綺麗な薔薇には棘がある」と言いますが、作品に漂う美しさと危うさのバランス感が秀逸です
女子の世界にはびこる、女子特有の「闇」の描かれ方は、さすがに女性作家ならではです。一体、誰がいつみを殺したのか? 驚愕の真相と犯人ならではの動機に、きっとびっくりするはずですよ。
3年前の自動車事故で視力を失いながらも一人暮らしをする本間ミチルは、親友の手を借りつつ生活していました。視力を失ってからは引きこもり、生気のない生活を送っていました。
- 著者
- 乙一
- 出版日
ある日交番の巡査が「何か不審な事がありませんでしたか?」とミチルの部屋へ訪ねてきました。それは大石アキヒロという男が容疑者となった殺人事件の聞き込みでした。
この男・アキヒロは同じ会社に勤める先輩・松永トシオに殺人を犯したい衝動に駆られるほどのひどいいじめを受け、職場で孤立していました。
ある日同じ駅から出勤する松永に対し、アキヒロはついに突き落とした衝動に駆られ……次の瞬間、松永は電車にはねられています。アキヒロを見つめる女性に我に返ったアキヒロは、駅員が近づいてくるのを見て、とっさに逃げ出します。
そして人目を忍んで逃げて行くうちに、ミチルの部屋へ潜り込んだアキヒロは、ミチルに見つからないように住みつきます。ミチルも日々の違和感を覚えつつ確認が得られずにいました。
決定的になったのは、ある時ミチルがキッチンで作業していると上から土鍋が落ちてしまいます。それに気づかないミチルに息をひそめていたアキヒロが、土鍋をキャッチし事なきを得ます。しかしこれで部屋に自分以外の誰かがいるということを、確信したミチルは見えない同居人に「あ、ありがとう」と言いました。
その出来事があってから意を決したアキヒロは、ミチルがいる時には動かないよう気をつけていたことをやめます。畳を歩くことにより振動やかすかな音をミチルに感じさせ、少しずつ自分の存在を知らせていきます。そして二人の距離は徐々に縮まって行くのでした。
ラストはなぜミチルの部屋を選んだのか、ミチルの気持ちの変化、殺人事件の真相が明らかになります。なぜこの二人がであったのか、という背景が丁寧に、人物たちの心情を描きながらすすんでいくので、明らかになった全貌に胸が締め付けられます。奇妙で切ない同居生活のお話、おすすめです。
いかがでしたか? どれも傑作揃いで、映画化される理由もわかりますね。映画を観たことがあるという人も、原作小説に興味を持ったら、ぜひ一読してみてください。映画とは違った魅力あふれる世界を堪能できるはずですよ。