ちょっと生意気そうな少女の表情が心をつかむ、しらびのイラスト。特に少女の登場頻度が高い昨今のライトノベル界ではひっぱりだこです! 今回は、そんなしらびの挿絵が堪能できる作品をご紹介します。
数多くのライトノベルの挿絵を手がける、しらび。その魅力は何といっても女の子の可愛らしさ! もちろん描く男の子にもたくさんの魅力的なキャラクターがいるのですが、可愛い女の子の華やかな表紙イラストは、書店で圧倒的な存在感を放っています。
今回紹介した作品以外にも人気作の挿絵は多く、アニメ化された『無彩限のファントム・ワールド』もそのひとつ。壮大な一枚絵というよりは、はっと目を惹くキャラクター絵が多いので、企業チラシへのカットなども手がけていました。
小説キャラクターの人物的魅力を最大に引き出してくれるしらび作品、せっかくだから面白いものを読みたいですよね! ですので、キャラクターはもちろんのこと、世界観にも脱帽な傑作ラノベをご紹介します。
まずはヒロイン小学生の表情が最高にグっとくる『りゅうおうのおしごと!』から。
主人公・八一(やいち)は中学生にして将棋界の最高峰タイトル・竜王位を得ますが、それから3年経った現在では「クズ竜王」(八一の苗字は九頭竜なのです)などと呼ばれ、連敗続きのスランプな日々。
そんな中で出会ったのが、弟子入り志願の女子小学生! 末恐ろしい才能を持った彼女を導き、時には競いながら将棋の高みを目指して戦い続ける主人公を中心として、将棋に取り憑かれた人々が描かれたノベルです。
- 著者
- 白鳥 士郎
- 出版日
- 2015-09-12
なんだか異世界ファンタジーもののようなタイトルですが、棋士の生きざまや対局場面が濃厚に描かれている"将棋もの"の作品です。
実際の棋士の監修や将棋雑誌の協力を経ていることもあり、納得のリアリティがあります。対局に負けた師匠棋士がとる奇行など、「ほんとにそんなことあるの!?」というような驚きの現実モチーフも多く散りばめられていますので、読みながら調べてみると楽しいかもしれません!
もちろん、将棋には詳しくない人でも大丈夫。テンポの早い展開でぐいぐい読ませるので、わからないにも関わらずドキドキやハラハラの臨場感はびっくりするくらい伝わります。そして、将棋に詳しい方は言わずもがな。何倍にも楽しめることでしょう。
このように内容自体がおもしろいのですが、その魅力を倍増しているのが、そう。しらびの絵。弟子入りシーンの女の子が、決死の表情ながらちんまりと正座しているシーンは、とにかくまた可愛らしい! 表紙でも女の子の膝小僧が覗いていますが、小学生や中学生の女子キャラクターが元気いっぱいなので、その躍動感にドキドキします。
次に紹介するのは、しらびの描く洗練されたラインがダークな世界観にぴったりの「東京侵域:クローズドエデン」シリーズです。
ある日突然日本中を恐怖に陥れた厄災、それは「東京厄襲」。またたく間に東京一帯を覆ったその現象では、人間がまるで煙のように消え失せ、直後に起こった大爆発で、消失を免れた者たちと都市に甚大な被害がもたらされました。
そして主人光・蓮次もその瞬間に立会い、大事な幼馴染を失ってしまったのです。
2年経った今は変わらぬ日常を送っているかに見えて、実はその幼馴染を取り戻すべく、彼は自ら災厄の街に侵入し、戦いを続けています。
東京厄襲をもたらした人類の敵の正体とは何なのか? また人々は失った存在を再び手中にできるのか? 息もつかせぬ戦いの展開が、始まるのです。
- 著者
- 岩井 恭平
- 出版日
- 2015-03-31
主人公は謎の敵だけでなく、東京侵入を犯罪とし取り締まる国家組織とも戦わなければなりません。家に帰れば、周りは大事な人を失っていて、おめおめと一人生き残った彼に対して冷ややかで、まさに四面楚歌。泣きっ面に蜂。
それでも幼馴染の隣に再び立つ日のため諦めず、立ち上がる主人公に、心打たれます。そして、同じく厄襲で失った弟を探して闘う少女とのタッグがまた強力で、かっこいい。さらには、それを彩る、しらびの絵。バトルものなだけあって武器のイラストも豊富なのですが、描線の鋭さが素晴らしいのひと言です。
戦闘という無骨な画面ながらも少女の華奢さを引き立てており、そこが素晴らしいコントラストとなっています。激しい動きの間の一瞬の間を切り取ったような、美しくも激しい、主人公たちの立ち姿をご堪能ください。
次は赤月カケヤ「俺が生きる意味」シリーズ。
ある日突然外界と遮断され、高校の中に閉じ込められた主人公たち。それまでの平穏な生活から一転し、命懸けで逃げ惑うこととなります。なぜならそこには人喰いの化物がいるから!
化物と戦いながら、様々な真相を掴んでいく主人公たち。この異様な世界を終わらせるためにはある犠牲を払うことが必要だと分かったとき、彼らは一体どうするのでしょうか?
密閉された空間で人間の極限が描かれる、パニック・ホラーラノベです。
- 著者
- 赤月 カケヤ
- 出版日
- 2013-03-19
今回もしらびの描く魅力的な生意気風女子が数多く登場しますが、この作品では化物に注目です。巻末にも化物図鑑のように整理されて紹介されているのですが、ものすごくデザインがスタイリッシュ! 蜘蛛の脚など、とても格好いいのです。
表紙の女子たちもなんだか若干目が死んでいて、世界観のダークさを如実に表しているようです。
全6巻刊行されているだけあって物語は壮大で、校内での単なるゾンビものには留まりません。精神性や宗教性をも絡めていて、かなり読みがいがある作品です。校内見取り図がついているのも主人公たちの動きをいろいろ想像できて楽しいですよ。
次は安里アサト『86 ―エイティシックス― 』。
有色人種は、人ではなく人型のブタ同然である。そんな社会通念が浸透したサンマグノリア共和国では、他国の脅威から逃れるため、被差別民たちを都市外へと追いやり、彼らを隣国が開発した無人機と戦わせていたのでした。
都市外で指揮をとる寡黙な少年は、上官となる少女と出会います。彼女は、ブタ扱いされる彼らの命と心を当たり前に感じる、共和国内では風変わりな人物でした。
- 著者
- ["安里 アサト", "I-IV"]
- 出版日
- 2017-02-10
人間って本当に恐ろしい……!
序盤はそんな震えが止まりません。表向きは平等とされる国で、”無人”戦闘機に乗せられて命をかけることを強いられる子供たち。え?無人じゃないって? いいのです。だって彼らはブタ同然で、人ではないのですから。…そんな間違った認識が、国中に広がっているのです。
帝国では当たり前となった生活が描かれますが、それは人類の歴史上の過ちをも想起させるもので、何とも後味わるく悲しい気分になってきます。また描写が淡々としながらも巧みなので、そんな気分になりながらも物語に入り込まされてしまうのです。
前線に出る彼らの、戦闘ではない日常のシーンの挿絵では、しらびお得意の無邪気で可愛らしい子供たちの姿も描かれます。けれど、それと対比して、なんとも言えない暗さと諦念をにじませた主人公の表情を描くシーンもあり、余計に、理不尽な暴力に対する怒りがこみ上げます。
少年の仲間は次々と死に、エリートである少女も現実を知り、たくさんの涙と後悔を覚えます。読者の私たちも、人間の業と救いを見て、涙を流さずにはいられないでしょう。
最後に、望公太『ラノベのプロ! 年収2500万円のアニメ化ラノベ作家』を紹介します。
ライトノベル作家、陽太の年収は2500万円。さらに上を目指す彼は市場調査を忘れず、世に求められるライトノベルの出版を目指して奮闘中です。綿密な計算のもとに執筆する陽太のまわりは、天才肌の弟子入り志願者や新人大賞受賞の女子中学生、書くもの書くもの大ヒットの売れっ子イケメン作家などが取り巻いていて、賑やかな日々。
そんな、明るく楽しいだけのようでいて、実はアツい彼らの日常が描かれています。
- 著者
- 望 公太
- 出版日
- 2016-12-20
主人公は売れる作品を目指して執筆するため「売り豚!」などと罵られることもある少年。けれど彼は、ただお金を稼ぎたいのではなく、ライトノベルをたくさん売ってお金を稼ぎたいのです。
とにかく彼は、ライトノベルが好きすぎる! それは面倒なこだわりで熱苦しく、一方でクールを気取っている男なのですが、同じくラノベがお好きな方は共感できるところもあることでしょう。
ところで、1巻表紙の女の子は主人公の幼馴染なのですが、この子がすごく明るくて優しくて可愛い! ビジュアルも作品にぴったりで、さすが名イラストレーターのしらびです。
そして主人公を密かに焦らせる後輩作家もキュンときます。彼女は女子中学生なのですが、彼女と幼馴染、弟子入り志願の女子高生らが主人公の家に集まるシーンのイラストはなんだか彼女がお母さんのようで……しらびには珍しく、癒し系の可愛らしさも堪能できる作品です。
どれも勢いのある作品です。まずは一作、お手にとってみては?