松田青子のおすすめ作品5選!独特の文才にハマること間違いなし!

更新:2021.12.18

翻訳家である松田青子の小説やエッセイには、彼女の魅力がたっぷり詰まっています。読んでみれば、翻訳家ならではの、そして松田青子ならではの書き味にはまること間違いなし。今回はそんな松田青子の作品をご紹介します。

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松田青子とは

松田青子はリズミカルで笑える独特の文体で人気の作家です。小説家、翻訳家、絵本作家とさまざまな形で本の執筆に携わっています。戯曲形式の『ウォータープルーフ嘘ばっかり!』でのデビューを皮切りに、『スタッキング可能』など数々の作品を発表してきました。とくに『スタッキング可能』は、Twitter文学賞受賞、野間文芸新人賞候補、三島由紀夫賞候補と高い注目を集めた作品です。

彼女の作品の特徴はなんといってもそのテンポのよさ、タイトルからも滲み出る抜群のセンス、そして笑えること。この3つが合わさって松田青子にしかない独特の魅力を生み出しています。ここではそんな彼女の作品についてご紹介していきます。

リズミカルな文章が魅力的な『スタッキング可能』

著者
松田 青子
出版日
2016-08-05

『スタッキング可能』は、松田青子に関心を持ったらまず読んでいただきたいおすすめの小説集です。

表題作「スタッキング可能」はオフィスが主な舞台の作品です。A田、B田、C田……といった、どんなところにもいそうな人たちが、どんな場所でもやっていそうなこと、考えていそうなことを描いています。

「それにしても男いないですよね」
「いないねー男。どこに行けばいるんだろうねー男」
「いても最終的に結局いないんですよね。まあ、相手が悪かったって片付けちゃうんですけどね。それだけの話なんですけどね」
(『スタッキング可能』より引用)

こんな感じでゆるく、楽しく、笑える話が続いていきます。また、この作品のテーマは、どこにでもいそうだけど、どこにでもいない固有の「わたし」。それがどうやって生まれるのか、そんなところにも注目したいですね。

「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」は会話形式で話が進んでいく、リズミカルな流れが魅力的な作品です。

「Aおばちゃん、トレンディだね。
Bさすがオトナって感じ。
Cふふっ。トレンディなんて死語よく知ってるわね。(中略)ところであなたたち、さっきからおばちゃんおばちゃんって言うけどね、それこそ現代社会では死語だから。私はね、アラサーだから。そこんとこよろしく。
ABアラサー?
Cそうよ。それからアラフォー、アラフィフとあらあら言ってるうちに皆いつの間にかお墓の中よ。」
(『スタッキング可能』より引用)

おばちゃんと子供たちの軽妙洒脱な会話がとにかくおもしろいのがこの作品の特徴。日常の気になること、これだけは言いたいこと、そんなことについて登場人物たちがずばずばと斬っていきます。

「もうすぐ結婚する女」もフレーズの繰り返しが妙に癖になる作品です。

タイトル通り、もうすぐ結婚する女について書かれている本作は、作中で「もうすぐ結婚する女」という単語が何度も何度も出てくるのが奇妙でおもしろいところ。それが心地よいリズムになって、気づいたらはまっていること間違いなしです。

くすっと笑える痛快エッセイ『ロマンティックあげない』

著者
松田 青子
出版日
2016-04-22

『ロマンティックあげない』はエッセイ集です。著者が日頃思っていること、おもしろかったことなどを独特の語り口で述べていて、笑いながら読むことができます。『ウォータープルーフ嘘ばっかり!』やその他の作品に触れている箇所もあり、ファンにはたまらない作品です。

いくつか内容を紹介します。著者、松田青子はパスタセットにバゲットがついてくる理由が分からない。どうしてパスタを食べる前に他の炭水化物を取らないといけないのか? それならパスタの量を増やしてくれた方がいいのだけれど……。読んでいて確かにそうだとうなずいてしまいます。

ほかにもニューヨークで革靴を履いていたらどうしても足が痛くなって靴下であちこちを歩き回っていたこと、駅で緊急のブザーが鳴り、何事かと思っていたら線路にパンが落ちたというなんともシュールな話、頭に30本以上の黒ピンをした女の子を見かけたこと、好きな映画、好きなスケート選手、シャンプー、服……など、読んだ後に笑って元気が出てくる話がぎゅっと詰め込まれています。

小説家による小説の話『読めよ、さらば憂いなし』

著者
松田 青子
出版日
2015-10-22

『読めよ、さらば憂いなし』は映画、小説、漫画などにまつわるエッセイ集です。松田青子の作品は、内容もさることながら、タイトルも秀逸で興味を引かれるものばかり。本書に収録されているエッセイも、タイトルからして惹きつけられるものばかりです。

「「雑」と書かれた箱に入りたい」「かかりたくない魔法」「ダメをみがく幸福」……これらは収録されているエッセイの一例です。どれもネーミングセンスが最高で、紹介されている本や映画はどれも読んだり見たりしたくなってしまいます。

とくに松田青子の小説には、テーマとしてジェンダーやフェミニズムが登場することが多いのですが、著者がそれらについてどう考えているのか、どうしてそのテーマの小説を書いているのかがわかります。

疲れたときにはこの一冊!『おばちゃんたちのいるところ』

著者
松田 青子
出版日
2016-12-07

『おばちゃんたちのいるところ』は歌舞伎や落語の演目をモチーフとして、現代風、さらにいえば松田青子風にアレンジした短編集です。

「みがきをかける」は自分を裏切った男に復讐するという「娘道中寺」がモチーフとなっています。

主人公は彼氏に振られ、今もそれを引きずっています。そんなとき、突如死んだはずのおばちゃんが現れ、永久脱毛に通う主人公に毛の力を大切にしなさいというのですが……。

「あんた、毛の力をみすみす手放すんか。知ってんで、二股男にフラれて、自分磨きとかいって、ちまちま永久脱毛通い出したん。そんなんたいして変わらんわ! その毛はなあ、あんたに残された唯一の野生や。」
(『おばちゃんたちのいるところ』より引用)

おばちゃんのおかげで立ち直っていく主人公。歯切れのいい関西弁にも注目です。

「クズハの一生」は落語「天神山」をモチーフとした作品です。主人公のクズハはキツネ顔で、小さい頃から勉強ができ、大人になったら仕事もできる器用な女性。家庭面ではいい夫にめぐまれて、今では子供も高校生になり何不自由なく人生を送っているおばさんです。そんなクズハでしたが、いつもどこか冷めている、そんなところがあるようなところが自分にはあることに気づいていました。

あるとき、クズハは「そろそろ逃げて」という声を耳にします。そこから、クズハが自身でも知らなかった事実が明らかになっていきます。

「菊枝の青春」は、お菊さんでおなじみの「皿屋敷」がモチーフ。「いちまい、にまい、さんまい、よんまい……」ここで納品されたお皿が1枚足りない場面から始まります。

本作は落語とは違い、ほっと優しい気持ちになれておすすめです。

固定観念を覆される短編集『ワイルドフラワーの見えない一年』

著者
松田 青子
出版日
2016-08-26

『ワイルドフラワーの見えない一年』は50の短編が集まった、松田青子の魅力を存分に楽しめる一冊です。

「あなたの好きな少女が嫌い」はジェンダーがテーマの話です。

「あなたの好きな少女が嫌いだ。あなたの好きな少女は細くて、可憐で、はかなげだ。間違ってもがははと笑ったりしない。がははと笑うような少女をあなたは軽蔑している。というのか、それはもうあなたにとっては少女ではない。では、がははと笑う少女はどこに行けばいいのか。」
(『ワイルドフラワーの見えない一年』より引用)

このような内容が続いていくのですが、ジェンダーという一見すると難しそうなテーマでありながら、まったく退屈しないどころか、むしろおもしろく読めます。もちろん、男性が読んでも楽しめる作品です。

松田青子はこの作品集の中で、ほかにも「男性ならではの感性」というジェンダーを題材にした作品を書いています。これは現実で起きていることを男女逆転したものです。

たとえば、「女性にとってキャリアとは何か」というところを「男性にとってキャリアとは何か」として、「女性の結婚と仕事は両立可能ですか?」といったところを男性に置き換える。女性が活躍する社会のなかで、とある男性ライターが世の中を変えるべく奮闘していくというストーリーで、とても新鮮な気持ちで読み進めることができます。

ここまでジェンダーを扱った2作品を紹介してきましたが、本書には、半ばふざけたような、それでいてくすっと笑えるものも収録されています。

「TOSHIBAメロウ20形18ワット」は次のような作品です。

「わたしがホームセンターの蛍光灯のコーナーで途方に暮れたように立ち尽くしているのをもし見かけたら、そう耳元でささやいて欲しい。」
(『ワイルドフラワーの見えない一年』より引用)

これですべてなのですが、どうでしょうか。「えっ、これだけ?」と拍子抜けしてしまいますが、この独特のセンスにはまる人も多いのではないでしょうか。

最後にもう1つ、「魔法」という作品をご紹介します。

「コンソメキューブよ、さあ、一刻もはやく溶けるのです」
(『ワイルドフラワーの見えない一年』より引用)

魔法と聞いて何かと思っていたら、ちょっと裏切られた感じがします。このセンスはやっぱり素晴らしい、と感服させられる作品です。

松田青子の小説やエッセイには、一度読んだらやみつきになってしまう独特の魅力が詰まっています。まずは一冊手に取ってみてはいかがでしょうか。

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