数々の名言を生み出し、感情を揺さぶる戦争漫画。生死のはざまに立ったからこそ見えてくる人間の本質など、本当に深いところまで掘り下げている名作ばかりです。戦争漫画が好きな人から読んだことがない人まで楽しめるであろう、5作品を選出いたしました。
200X年、海外派遣のためエクアドルへ向かっていた海上自衛隊のイージス艦「みらい」は、ミッドウェー沖にて予期せぬ嵐に襲われてしまいます。レーダーからは寮監が消えてしまい、衛星通信も途絶えてしまいました。突然の出来事に戸惑う船員達ですが、そんな彼らの目の前にもっと驚くものが現れたのです。それはなんと、現代にはあるはずのない戦艦大和率いる大日本帝国海軍連合艦隊でした。
最初は映画の撮影などではないかと思っていた「みらい」の乗組員たちですが、目の前で起きている戦争の光景に、自分たちは本当にタイムスリップしてしまったのだと悟ります。彼らがタイムスリップしたのは1942年、ミッドウェー海戦直前の太平洋上でした。
- 著者
- かわぐち かいじ
- 出版日
- 2001-01-20
そんな彼らの前に零式水上観測機が墜落し、みらい副長である角松は水没しそうな観測機から一人の男を助けます。男の名は草加といい帝国海軍通信参謀の少佐でした。その彼に、未来の日本のことを教えてしまったことから、歴史が大きく変わっていってしまうのです。
歴史とフィクションが絶妙な絡みをみせる『ジパング』ですが、話の作り方がとても秀逸で、もしも歴史がこうだったらという設定がとてもよくできています。ストーリー進行のテンポもよく、登場人物たちの心理描写もとても細かく描かれているので、すんなりと『ジパング』の世界観に入っていけるのです。
時代は違えど、目の前で同じ日本人が死んでしまうかもしれない、しかし助けてしまっては歴史が変わってしまうかもしれない。敗戦国になったからこその未来が、日本が戦争に勝ってしまうことで大きく変わってしまうのではないか。そんな組員たちの揺れ動く気持ちは、読んでいるこちら側にもはっきりと伝わってきます。
戦争を知らず、専守防衛を掲げる自衛隊が過去の戦争の中でどのように生きていくのか。日本の未来はどうなってしまうのか。戦争に対する根本的な是非など、とても考えさせられる漫画です。
ヴァイセン王国の陸軍特務少佐であるベルント・バルツァーが主人公の『軍靴のバルツァー』は、架空の中世の軍事国家が舞台の漫画です。ある日戦場から戻ったバルツァーは士官学校の特務教官として隣国の軍事後進国バーゼルラントに派遣されました。
しかし、彼が派遣されたバーゼルラントは、武器も戦術も指導法も一昔前のものを使っていて、それに何より平和に慣れてしまっているのです。そんな中で、バルツァーは一体どのようにしてこのバーゼルラントを改革していくのでしょうか。
- 著者
- 中島 三千恒
- 出版日
- 2011-07-08
士官学校が舞台という、普通の戦争漫画とは一風変わったストーリーの『軍靴のバルツァー』ですが、まずイラストが綺麗でとても読みやすいです。そして、主人公のバルツァーが、とても頭の切れる人間で、なにか問題を見つけると様々な策を使い解決していきます。
時には上手に人の心に入り込み、時にはワガママにふるまい、人によって違う表情を使い分けるバルツァーは見ていて爽快さを感じます。戦争漫画というよりは、弱い運動部を独自の理論と人望で強くしていくスポーツ漫画のような要素も備えているのです。しかし舞台が戦場ということで、スポーツ漫画よりも戦術理論がおもしろい、そんな作品です。
他に類を見ない切り口の新感覚戦争漫画『軍靴のバルツァー』、イラストもとても綺麗で楽しく読み進めていくことができます。キレモノで腹黒だけどかっこいいバルツァーと生徒達の、学園ものにも近いミリタリー漫画はおすすめです。
11世紀初頭、ヨーロッパでヴァイキングと呼ばれる蛮族がその名を馳せていました。彼らは様々な戦地に傭兵として赴き、圧倒的な武力で金銀財宝を奪い去っていきます。『ヴィンランド・サガ』は、父の仇であるヴァイキングの首領アシェラッドに復讐を果たす為、兵団に入った少年トルフィンが主人公の物語です。
父の仇をとりたいトルフィンは戦果を挙げると、報酬としてアシェラッドとの決闘の権利を得ます。2本の短剣を巧みに使い戦場で戦果を挙げ、アシェラッドとの決闘をするトルフィンですが、どうしてもアシェラッドに勝つことができません。
- 著者
- 幸村 誠
- 出版日
- 2006-08-23
そんなトルフィンですが、ある事件をきっかけに奴隷身分にまで落とされてしまうことになります。そして、今まで自分が生きてきた殺し合いの連鎖の世界に疑問を抱き、戦争も奴隷制度もない世界を目指すようになっていくのです。
王室・貴族・平民・奴隷・ヴァイキングと、中世ヨーロッパの時代背景が実に鮮明に描かれています。その時代にどのような格差が存在したのか、人々はどのように生きていたのか、そういったものを、まるで自分がその世界にいるかのように感じられます。それは、しっかりとした設定と、作者の画力の高さが相まって表現されているのです。
特に戦闘シーンは圧巻で、キャラクター1人1人がしっかりと描かれているので、よく戦闘シーンでありがちな、ごちゃごちゃしていて分かりづらいということもありません。また、個性豊かなキャラクターが揃っている為、物語自体に深みがあります。
波乱万丈なトルフィンの人生はどうなるのか。トルフィンが目指す、戦争と奴隷のない世界は作れるのか。2017年4月現在も月刊アフタヌーンで連載中の為この先どうなるかとても気になります。
銃士の早撃ちの決闘(デュエル)にお金を賭ける時代が舞台のガンアクション漫画『PEACE MAKER』。世界は「深紅の処刑人」という私設軍隊の武力によって支配されていて荒廃しています。そんな世界で主人公のホープ・エマーソンは、行方不明の兄を探し旅していました。
- 著者
- 皆川 亮二
- 出版日
- 2008-01-18
ホープの父はかつて伝説の銃士として世界に名を馳せていた人で、それを見て育ったホープもまた天才的な実力の持ち主です。しかし、ホープは銃士にはなりません。人を撃つことを嫌っている彼は、「人の皮を被った悪魔」のような人間しか撃ちません。
そんなホープと「深紅の処刑人」のオーナーであるフィリップの孫で、彼から逃走中の金髪の少女ニコラが、あらゆる困難を乗り越え平和のために戦っていきます。
勝てば大金、負けたら死、決闘の世界はそんな厳しい世界です。銃士たちは生活をする為に生きるか死ぬかの仕事をしています。たった1発、一瞬で勝負が決まってしまう決闘シーンはとても緊迫感があり、読んでいて固唾をのんでしまう程です。
しかし、そんな緊迫感に溢れた内容ばかりではなく、ふとした日常のシーンなども沢山あります。特にホープは普段は全く頼りなく気の抜けた優しい人物なので、ギャグシーンなどもあり、戦闘シーンとのギャップのメリハリに間延びすることなく楽しめるのです。
平和を作るための銃「PEACE MAKER」を手に持ち、平和の為に戦う天才銃士ホープの旅は一体どうなるのか。まるで西部劇の世界のような本作はおすすめです。
『パイナップルARMY』は元傭兵で世界各地の戦場を渡り歩いた、ジェド・豪士が主人公の戦争漫画です。ジェドは戦場での様々な技術に長けていて、爆弾を解体する技術や戦術にも大変詳しいため、傭兵を引退後は民間の軍事顧問機関で傭兵のインストラクターとして、戦場で生き抜く為のノウハウを依頼者に教えていきます。
- 著者
- 工藤 かずや
- 出版日
戦争に疲れた人や戦争の中でしか生きられない人、はたまた戦争によってノイローゼになったり、狂気の殺人鬼になってしまっていたり、ジェドが出会う人々は戦争によって心を深く傷つけられてしまっているのです。
本作ではそういった心理的な描写がとてもよく描かれていて、人を殺す、殺されるといった部分の恐怖だけではなく、殺してしまった側や目撃してしまった側の心の深い傷を垣間見ることができ、戦争の本当の恐ろしさを思い知らされます。
派手さはないですが、ストイックで純粋なジェドに惹かれ、どんどんと読み進めてしまいます。ただのミリタリー漫画に終わらず、しっかりとヒューマンドラマが描かれている本作は、時間のある時にじっくりと味わうように読んでいただきたい作品です。
一口に戦争漫画といっても、本当に多種多様な種類の漫画があります。主人公の視点によって全く違う景色や心情が垣間見れるので、ぜひ色々と試してみて下さい。