児童文学作品や絵本などの翻訳家・石井桃子は、「ピーターラビット」シリーズなど、有名な作品を数多く翻訳してきました。たくさんの作品を日本の子供たちに伝えてくれた、そんな石井桃子が翻訳した絵本のおすすめ6選をご紹介します。
1907年に埼玉県で生まれた石井桃子は、数多くの児童文学作品や絵本などを日本の子供たちに広めた翻訳家です。幼い頃から本が大好きな少女だったそうで、大学に在学中から、海外の書物を読んで翻訳に携わっていたのだとか。
石井桃子が翻訳した作品は、誰もが知っているような有名なものが多く、知らず知らずのうちに彼女の翻訳した児童文学作品や絵本を読んだことがある人も多いのではないでしょうか。子供にストーリーが伝わりやすく、温かみのある表現をしているものが多くみられます。また、海外の作品を翻訳するだけでなく、自ら絵本なども創作していて、数々の賞を受賞しているほどです。
戦争中や戦後の激動の時代も、農業をしながら翻訳を続けていたそう。2008年に亡くなるまで約70年もの間、石井桃子は児童文学の翻訳に情熱を注いできました。彼女の書物への愛情はとても計り知れないものなのでしょう。
石井桃子は、オランダの作家ディック・ブルーナの絵本「ちいさなうさこちゃん」シリーズの翻訳を手掛けています。彼女の翻訳作といえば、この絵本を一番に思い浮かべるという方も多いのではないでしょうか。
今回は、そのシリーズの中から、身近にあるものや出来事がストーリーとなっている「1才からのうさこちゃん絵本」セットをおすすめします。
こちらの絵本は、4冊がセットとなっていて、シンプルなタッチの絵と、ビビットな色使いが特徴的。また、小さなお子様でも分かりやすい言葉使いですので、そこも人気の理由となっているようです。
それぞれの絵本は、テーマや内容が異なっていて、うさこちゃんが動物園や、海に行く話もあります。定番の『ちいさなうさこちゃん』だけではなく、色んなお話をお楽しみいただけるでしょう。
- 著者
- デック・ブルーナ
- 出版日
- 2010-04-01
身近にあるものや、季節ならではのテーマをリズミカルに表現していて、発売当初から現在に至るまで、長く愛読されている絵本です。親世代が子供だった時から読んでいて、今度は子どもに読ませて親子2代で楽しんでいるという方も多いのではないでしょうか。
キャラクターがミッフィーの名前でおなじみですので、プレゼントにも喜ばれているようです。赤ちゃんのはじめての絵本としてもおすすめできる作品になっています。
世界的にも有名なビアトリクス・ポターの「ピーターラビット」シリーズ。こちらも、石井桃子が翻訳した絵本の代表作となっています。
子供でも読みやすいストーリーに翻訳されていて、それも日本でロングヒットとなった理由のひとつかもしれません。
青いジャケットがトレードマークのうさぎのピーター。このキャラクターは、日本でもグッズになっているほど有名です。しかし、意外とストーリーや設定などは知らないという方も多いのではないでしょうか。
- 著者
- ビアトリクス・ポター
- 出版日
- 2002-10-01
物語の冒頭で、人間の畑に入ってはいけませんとピーターにお母さんは注意をします。お母さんが厳しく警告するのもそのはず、ピーターのお父さんは人間の畑に入り込んだために捕まり、パイにされてしまったのです。この部分だけ読むと、かなり残酷な物語に感じますよね。
ですが、お母さんの忠告を守らずに、やんちゃなピーターは畑に入ってしまいます。すると人間に見つかってしまい、捕まりそうになったピーターは、何とかお家に帰ろうと必死に逃げるのです。
ピーターが逃げる途中、さまざまな動物たちと出会います。彼らとのやり取りも細かく描かれていて、動物たちの世界に入り込んだような気持ちにさせてくれるでしょう。
主人公がうさぎの絵本といった場合は、大抵メルヘンなストーリーが多いですよね。しかし、この絵本は人間と動物の住む世界のおきてなどを、子供たちにきちんと伝えることで、現実社会を学べる絵本となっています。
子供だけでなく、大人が読んでみるといろいろと考えさせられるシーンもあるので、幅広い年齢層の方におすすめしたい絵本です。
パット・ハッチンス作の『ティッチ』は、末っ子のティッチが主人公。大きなお兄さんのピートと、ティッチよりちょっと大きなお姉さんのメアリも登場し、末っ子だったら誰もが経験するようなもどかしい思いが描かれているのです。
暖色系の色が多く使われているため、絵のタッチもほのぼのとしていて、どこか懐かしいような感じがする作品となっています。
- 著者
- パット・ハッチンス
- 出版日
- 1975-04-25
物語では、末っ子のティッチはいつも大きなお兄さんとお姉さんの持ち物と比べて、自分の持っている物が小さく感じてしまいます。例えば、お兄さんとお姉さんは、長い坂も楽々に登れる立派な自転車を持っていました。ですが、ティッチが乗れるものといえば、ちいさな三輪車。お兄さんとお姉さんに走って追いつく事はできないのです。
切ない末っ子の気持ちが描かれたシーンが続きますが、ラストシーンではそんなティッチが誇らしくなれる出来事が起こるのです。その出来事こそ、この絵本が伝えたかったメッセージが込められたところなのでしょう。
末っ子の目線だけでなく、小さな弟や妹がいるというお子様も、いろいろと大切なことを学べる絵本なので、この絵本は特に兄弟がいるお子様におすすめです。
また、続編の『ぶかぶかティッチ』もあるので、本作を読んだ後も楽しむことができますよ。
マリー・ホール・エッツ作の『海のおばけオーリー』。モノクロの絵で、マンガのコマ割りのようにシーンが細かく区切られて描かれています。独特な作風の絵本で、一度読むと忘れられない一冊となるでしょう。
ある町の海におばけが出るという噂が広まり、そのおばけがとんでもない怪物だと思っている町の人たち。ですが、そのお化けの正体は本当は怪物ではなく、ちいさなアザラシなのでした。
海のおばけというタイトルからは、まさかアザラシが主人公だということは分かりませんよね。思わず引き込まれるようなストーリーは、子どもだけでなく大人の心にも残る絵本ではないでしょうか。
- 著者
- マリー・ホール・エッツ
- 出版日
- 1974-07-08
作中では、まだ赤ちゃんだったオーリーをお母さんアザラシから無理やり奪う水兵や、オーリーにひどい扱いをした水族館の館長が登場します。そんな酷い人間ばかりにふれる一方で、オーリーを海に逃がしてあげた優しい飼育員に出会う事ができたのです。
しかし、水族館ではお客さんはみんなオーリーをかわいいと見ていたのに、海に帰った後は彼をおばけだと勘違いして怖がってしまう人間たち。この出来事は、物語の中だけの問題ではなく、現実世界でも起こりうることですよね。いかに人間が自分たちの勝手で動物に対して接しているかを考えさせられます。
そういった人間と生き物との関わり方も学ぶことができる1冊といえるでしょう。
いたずらばっかりする猫のラルフと、その飼い主の家族が描かれた人気の絵本です。石井桃子が翻訳した絵本の中でも、ファンが多い作品といわれています。
猫のラルフは、飼い主の女の子・セイラと、そのお父さんとお母さんと一緒に住んでいました。でも、ラルフは絵本のタイトルにもなっているように、あくたれがひどい猫で家の中はいつもめちゃくちゃ。
- 著者
- ジャック ガントス
- 出版日
ポップなタッチの絵や、いろんな登場人物が面白く描かれているので、お子様もワクワクしながらページを読み進められます。また、石井桃子が翻訳した楽しくなるような言葉使いも、この絵本の魅力のひとつ。
ストーリーの中で、家族は、いたずらばっかりするラルフをサーカスに置き去りにするのですが、その後ラルフはサーカスを飛出してしまいます。野宿することになってしまったラルフの、とても寂しい顔が印象深いです。
無事にお家に帰ることができたラルフは、良い子に戻るのか……と思いきや、なかなかそうもいきません。
これだけあくたれっぷりがひどいラルフですが、それも含めてかわいい家族の一員だということが伝わってくる、心温まるストーリーとなっています。
バージニア・リー・バートン作の『ちいさいおうち』は、1952年には、ウォルト・ディズニー・カンパニーが短編アニメ映画を制作したことでも有名となりました。その後、石井桃子の翻訳によって、日本でも親しまれるようになった絵本です。
人と自然がテーマとなっているこの絵本は、温かみのあるタッチの絵が、よりストーリーに深みを感じさせられます。
- 著者
- ばーじにあ・りー・ばーとん
- 出版日
- 1965-12-16
この絵本の主人公は、静かな田舎町に建てられた昔からある小さなお家。
このお家は、のどかな暮らしの中に建っていましたが、時代の流れと共に、周りには大きな建物が建てられ、自然がどんどん消えていき……。
今まであった風景が変化していく寂しさを、1軒の小さなお家を通じて読者に伝えている一冊です。もしかしたら、この絵本は大人が読んだ場合と子供が読んだ場合の感想は違ってくるのかもしれません。
時の流れを描いたストーリーや挿絵も美しい絵本として人気があり、読み終わった後も余韻が続く絵本です。
小さなお家から見た世界はどう見えるのか?日々新しいものを造りだす人間をどう思って見ているのか?読みながら、そういった様々な感情になってしまうのではないでしょうか。
石井桃子が翻訳したおすすめの絵本をご紹介してきましたが、いかがでしたか?
彼女が有名な絵本の翻訳を手掛けてくれたおかげで、今こうしてたくさんの絵本が、日本の子供たちに読まれることとなりました。今後、何気なく手に取った絵本も、石井桃子が翻訳したものかもしれませんね。