2017年2月から5月まで、六本木の国立新美術館にて個展「わが永遠の魂」が好評開催の草間彌生。彼女は、今や日本を代表するアーティストのひとりです。今回はその作品と人生から、草間作品の魅力にせまります。
草間彌生は、1929年に長野県松本市で生まれました。幼い頃から絵を描くことに親しんできた彼女は、絵画だけではなく立体作品や映画、パフォーマンスなど、様々な表現方法で創作活動を行っています。2016年には文化勲章を受章し、80歳を超えてもなお第一線で活躍する前衛芸術家です。水玉やカボチャのモチーフは、現代アートに詳しくない人でも見たことがあるかもしれません。
草間は1957年に渡米し、日本国内だけではなく海外でも大きな成功をおさめます。2014年にクリスティーズが行ったオークションでは、渡米中に制作された《White No.28》(1960)が日本円にして7億8000万円で落札され、大きな話題を呼びました。
草間の作品の最大の特徴は、「反復」と「増殖」だといえます。草間彌生と聞けば、多くの人がカラフルな水玉模様を思い浮かべるのではないでしょうか。実は草間は、幼い頃からモノが水玉に見えてしまう幻覚症状に悩まされていました。彼女は、幻覚を作品へと変換することで自らの病へ立ち向かったのです。やがて、水玉模様の反復と増殖は、無限に広がり続ける時間と空間の象徴へと変わっていきました。
一度見たら忘れられない強烈なインパクトと、圧倒的な存在感。繰り返されるモチーフを見ているうちに、鑑賞者自身も水玉の中に消えてしまいそうな感覚に襲われます。草間彌生は、絵画や彫刻といった枠組みを越え、無限に広がりつづける普遍的な世界そのものを具現化しようと試みているのです。
草間彌生の作品をまったく見たことがない、とにかく手軽に現代アートを楽しみたい…という人は、まず作品をビジュアルで見るところから始めてみましょう。その入口として最適な本が『ポケットに草間。』。タイトルのとおりポケットサイズながら、草間彌生の代表作がオールカラーで掲載されています。
小型の本ながら、初期のペインティングからパフォーマンスの様子、彫刻や空間芸術まで、草間の作品が満遍なく収録されています。どこでも気軽に開けるこの本なら、美術館にある草間作品を見る前の予習にも適しています。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2014-08-18
また、別の1冊として『クサマトリックス』もおすすめです。2004年に森美術館で開催された展覧会「クサマトリックス」の様子を収めた本書。一風変わったタイトルは、アーティスト本人の名前と「Matrix(生み出すもの、基盤)」をあわせた造語です。
撮影にアラーキーこと荒木経惟も参加したこの本では、タイトル通り草間彌生が生み出した作品と展示空間の様子がカラー写真で収められています。「クサマトリックス」展の開催は10年以上前ですが、今なお色あせない刺激的な作品を見ることができます。
2004の展覧会と、2017年に開催の展覧会「わが永遠の魂」を見比べてみるのも楽しいかもしれません。本の中にひろがる芸術の世界を楽しみ、そして、美術館で実際に体験するという楽しみ方ができます。
- 著者
- 森美術館
- 出版日
一度見たら忘れられないインパクトのある作品は、どのようにして生まれたのでしょうか?草間彌生は、自分の人生や作品について自分の言葉で綴っている数少ないアーティストのひとりです。
『水玉の履歴書』は、タイトル通り、草間が自分の半生と作品への思いを語っている本です。「私は子供の頃、死ぬことばかりを考えていました。」という衝撃的な書き出しで始まるこの本には、草間自身の芸術観が素直に綴られています。
この本を通して、われわれは草間が作品に込めたメッセージを知ることができます。自らの体験から出発し、世界全体、あるいは精神世界へとアプローチし続けるアーティストの頭の中を、少しだけ覗いてみましょう。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2013-05-17
草間彌生は、1950年代にアメリカへと渡り、前衛芸術家としてのキャリアを重ねています。自伝である『無限の網 草間彌生自伝』には、草間が影響を受けた国内外の文化や、渡米後の暮らしについてが彼女の言葉で書かれています。
女性がアメリカに渡って芸術活動をすることなど、無謀な挑戦だった時代。しかし、この時代は多くの現代アートのムーブメントが生まれ、新たな文化が生まれた時代でもありました。草間もまた、ヒッピー旋風やハプニング・アートの潮流に強い刺激を受けるのです。
また、この自伝の中ではジョージア・オキーフやアンディ・ウォーホル、ジョセフ・コーネルといったアーティストと草間自身の交流についても紹介されています。同時代のアーティスト同士の関係に注目してみるのも面白いかもしれません。
- 著者
- 草間 彌生
- 出版日
- 2012-03-28
最後に、少し異なった角度から草間彌生の作品を考えてみましょう。草間は、作品だけでなく本人のビジュアルも広く知られており、彼女が女性だということは周知の事実です。では、あなたは「女性のアーティスト」と聞いて、他にどんな人を思い浮かべることができますか?
多くの人にとって、「男性のアーティスト」に比べて、「女性のアーティスト」を具体的にイメージすることは難しいかもしれません。こういった状況は、女性が「作品を作る主体」ではなく「作品に描かれる対象」として認識されてきた歴史的・制度的背景に由来するものだと考えられています。
- 著者
- ["神林 恒道", "仲間 裕子"]
- 出版日
こうした歴史を踏まえ、女性アーティストや美術研究者に焦点をあてた論集がこの一冊。草間彌生のほか、モダニズムの潮流に位置しながら多岐にわたる芸術を追究してきた女性の姿を明らかにします。
この論集においては、草間彌生の作品における「自己消滅」をキーワードに、彼女自身が患っている「病」と、芸術作品の関係が分かりやすく述べられています。
草間自身が闘ってきたのは、自らの病であり、決めつけられた性別の枠組や性への強迫観念であり、既存の芸術の制度でもありました。様々な状況を克服して表現される草間の芸術から、鑑賞者はどんなことを感じることができるのでしょうか。
国内外を問わず活躍するアーティスト、草間彌生に関する本をいくつか取り上げてみました。大規模な展覧会が開催中の今は、本の中に登場する作品を実際に鑑賞できるまたとないチャンス。草間彌生「わが永遠の魂」展は、5月22日まで開催中です。