名言で読むトーベ・ヤンソンのおすすめ本5選!『ムーミン』作者

更新:2021.11.4

世界中で人気のムーミン。日本では1969年にアニメが放送され子供たちの間で大ブームに。児童文学に分類されていますが、子供たちだけのお話にしておくには勿体無いくらい、たくさんの人生哲学にあふれていて、大人にもオススメのシリーズです!

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北欧のマルチ芸術家、トーベ・ヤンソン

トーベ・ヤンソンは1914年にフィンランドで生まれた画家・小説家・児童文学作家です。両親とも芸術家という環境で育ち、15才にして雑誌の挿絵の仕事をするなど才能に恵まれ、20代ではイタリアやパリに留学。公共建築の壁画を描くなど画家としての地位を築きました。

ムーミンシリーズは1945年に第1作目が発表されていますが、挿絵で有名なムーミントロールはこのお話を書くより前に、雑誌の挿絵の中に既に誕生していました。1948年発表の3作目は英語にも翻訳され世界に知られることに。1954年にはイギリスの新聞でムーミンの連載漫画が始まり、1969年には日本でアニメが制作されて子供たちの間に大ブームを起こしました。

ムーミンシリーズのお話の背景となったのは、作者が子どもの頃に家族と共に過ごした、夏のバカンスでの幸せな思い出です。晩年は喧騒から離れた小さな島での生活を好み、86歳最後の日まで筆を置くことはありませんでした。
 

家族を取り戻し、安住の地を探す旅

『小さなトロールと大きな洪水』は、寒さの苦手なムーミントロールが冬の前に、安心して過ごせる場所を求めて旅に出るお話です。戦争が始まった時期に執筆された影響か、アニメで見るようなのどかなイメージとは全く反対の「不安」「暗やみ」「危険ないきもの」といった言葉が最初からたくさん使われています。

しかしムーミンママは何にも動じません。

沼に落ちたら新しいソックス、具合が悪いときはお薬、お腹が空いたら大きなチョコレート、とドラえもんの4次元ポケットばりのハンドバックを駆使して旅のピンチをしのぎます。洪水で流されてきた猫の家族を身を挺して助けることも。正に母は強し、なのです。
 

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
2015-02-13

けれども、そんなムーミンママが、ムーミンパパの事となると感情を抑えられなくなってしまう所が、他のムーミンシリーズと違ってこの作品に深い魅力を与えているのではないかと思います。

ママはパパのことを聞かれ「ある日ニョロニョロにだまされて連れていかれたので、多分もう会えないでしょうね」と涙するのです。そして、旅の途中に浜辺でニョロニョロたちを見つけた時には全速力で駆け出し、なにやらとても興奮してパパのことを聞き出そうとします。

大人になってから読み返してみると、ムーミントロールの冒険にワクワクするというよりも、ムーミンママが頼りがいのある母であろうと頑張っている姿と、頼りにしたくても夫がいない、という切ない妻としての思いのほうが、より強く胸に迫ってくる一冊です。

つまり、これはパパを探す旅、ママが家族を再び取り戻すお話だといえるでしょう。

恐ろしいはずの洪水のおかげでパパとやっと再会できたママは、わたしたちもう二度と離れ離れにならないわね、とすすり泣きながらパパを抱きしめます。

こうして、戦争の影に怯える必要がなくなった時期に書かれた後半は、トーベ・ヤンソンがはじめて書いたハッピーエンドとなっています。

さて、どうやって恐ろしい洪水の中で、ムーミンパパを見つけることができたのでしょうか?探し続けていた安住の地がムーミン谷になったのは、いったいどういうハプニングのおかげだったのでしょうか?

究極のミラクルとハッピーエンドに満たされていますので、是非読んでみてくださいね。

めちゃめちゃを超えて幼児期を卒業するお話

『ムーミン谷へのふしぎな旅』はごきげんななめな女の子スサンナが、自分の言葉のせいでめちゃめちゃになった世界で、ムーミン谷を探す旅を続けるお話です。

ある朝機嫌が悪かったスサンナは猫に八つ当たりしたあげく、「なにもかも、めちゃめちゃな世界になーれ!」なんて言葉を口にしてしまいます。そしたらまあ大変!猫は怪物みたいに、草原は真っ暗な森に、沼に写っている自分まで魔物みたいに変わってしまったのです!

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
1991-07-16

スサンナはびっくり。おうちへかえりましょ、と猫に呼びかけながらも、心の中ではワクワクしていることに気が付きます。自分にはすごい力があると思えて、もとの世界にはかえりたくない!もっとこうしていたい!と思います。世界が変わったのは自分の力のおかげなんだわ、と大満足。

スサンナが感じている気持ちは幼児期特有の万能感なのでしょう。でもその力をコントロールできないと世界はめちゃめちゃになってしまいます。その危なっかしさにハラハラしつつも、どこまでも自由奔放で前向きな幼児期を懐かしく、そして羨ましくも感じる読者は少なくないでしょう。

自ら作り出してしまっためちゃめちゃな世界をスサンナはたくましく楽しんでいるのですが、ほかの生き物たちにとっては、そうではありません。魔物が呪いをかけたんだ!とパニックになってしまいます。

自分では素敵な魔法だと思っていたのに、他人にとっては恐ろしい呪いだったなんて!

幼児期に初めて他人からの視点を意識した時の驚き、あるいはショック、そして罪悪感。「ごめんなさい、ほんとうはわたしのせいなの」とスサンナはためらいながらも白状します。

その途端、火山が噴火します。さらに吹雪にもみまわれ、逃げおおせたと思った目の前には絶体絶命の滝!幼児期から卒業する過程で起こる不安定な心の表れのような、大ピンチの訪れです。

神の助けのように現れた気球は、全員の重さに耐えられずどんどん下降していきます。気球にはムーミンの遊び仲間で、金目のものが大好きなスニフという子がいましたが、彼は気球を軽くしようという案に、自分の宝の小石を捨てるくらいなら他のもっと重い生き物を下ろせばいいのに、と抗議します。

気球に乗っている他のみんなは「宝物ならムーミン谷にもあるから」とスニフを慰めます。人生の旅をする時に大切なのは仲間なんだよ、というメッセージが伝わってくる名場面です。

幼児期を卒業したことを自覚した瞬間(大人になってしまっては二度と体験できない!)を追体験できる貴重な作品。子供向けの不思議な絵本、だけで終わらせずに、別の視点からも楽しんでいただきたい一冊です。

ドキドキって楽しい!

『それからどうなるの?』はドキドキな仕掛けがいっぱいの、楽しい絵本です。

ミルクのおつかいを頼まれたムーミンは森の中を超えて無事お家に帰れるでしょうか?めくるたびに仕掛けの穴があって、次のお話の一部がこっそり覗けるようになっています。

森の木の向こうに見えるお家の煙突は……実は!缶のなかに閉じ込められているのは猫ではなく……実は!

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
1991-05-10

めくる前に見えているものと、めくったあとに見えるもののギャップが楽しい驚きに満ちていて、読む方も聞いている方も、どちらも楽しめる一冊です。

また、作者が画家ならではのお楽しみもあります。

「げんきをとりもどしたフィリヨンカ、えはあなたが書いてね 作者より」(『それからどうなるの?』より引用)

なんてワクワクするページがついているのです。

さてさて、ずっと牛乳を抱えて、やっとのことで自宅にたどりついたムーミン。大切に持ち帰った牛乳を待っていたがっかりエピソードとは一体なんだったのでしょうか?その時のママの反応は?

ビン牛乳世代、特に牛乳が苦手だった読者とっては、懐かしい笑いを誘うエピソードかもしれません。

ご家庭ではお子さんと、学校では子供たちと、「さ~て それから どうなるの?」とコミュニケーションを取りながら楽しむことができるので、読み聞かせにもピッタリのオススメ本です。

怖がりさんが強くやさしくなるために

『さびしがりやのクニット』は怖がりでひとりぼっちだったクニットが、夜が怖いといって自分の家を飛び出し、各地を放浪しながら、強く優しく成長していくお話です。

小さなトロールのクニットはとても怖がりで、誰も慰めてくれる人がいません。夜が怖くて家を飛び出してしまいます。賑やかな通りでも、心地よい笛の音色が聞こえる草原でも、お祭り会場でも、様子を伺うだけです。人見知りが激しく、人が多いほど孤独に感じやすいタイプの読者には、クニットのことを他人事とは思えないでしょう。
 

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
1991-06-19

「しんぱいしなくてもいいのよ、と なやんでいるクニットに、だれかおしえてあげるといいのに」
「かくれていては、ともだちになれないでしょう、といってあげる人はいないのでしょうか」
「クニットを げんきづけるひとは いったい どこにいるのでしょう?」
(『さびしがりやのクニット』より引用)

と、天の声なのか、クニット自身の心の声なのか、クニットが勇気をもって自分だけの恐怖の世界から一歩踏み出していけるように、とナレーションは各ページごと優しく語りかけます。

そんなクニットは恐怖から逃れるために歩き続け、ついには浜辺にたどり着きます。大きな巻き貝を見つけたり、きれいな石を集めたりしているうちに、クニットは初めて「ゆったりする」ことを知るのです。母なる海、癒しの海……なのにまだ悲しいのはなぜなのでしょうか?「ここは いいことずくめなのに」とクニットははじめて自問します。

そんな時、浜辺に打ち寄せられた瓶の中に手紙を見つけるのです。その手紙を読んだクニットは、自分よりもっと孤独で怖がっている誰かがいることを知って、勇気が湧いてくるのを感じます。

強くやさしくなるために、クニットはどうすることを決意したのでしょうか?クニットがとった当たり前でシンプルな行動の中に、その答えと深い洞察があります。人との関係づくりに一歩を踏み出すのが苦手な読者にとっては背中を押されているようなお話かもしれません。

クニットがどうやって恐怖を乗り越えることが出来たのか、是非このお話を手にとって確かめてみてくださいね。

どんな感情だってOK!

『ムーミン谷の名言集』は、個性的なムーミン谷の住人たちのつぶやきが素敵なイラストとともに集められています。

各章のタイトルは

●人生って川のようだ
●自分の中のもうひとりの自分
●自由ってのは独立してること
(『ムーミン谷の名言集』より引用)

など、とても哲学的です。

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
1998-09-18

「きっと読者のみなさまはこの引用文たちを読んでいると、身につまされたり、吹き出したり、ムカムカしたり、それとも反論してみたくなったり、するのではないでしょうか。」(『ムーミン谷の名言集』より引用)

と冒頭でトーベ・ヤンソンが述べているように、読み進めていくといろいろな感情が自分の中から湧き上がってきます。

●自分の中のもうひとりの自分

「この子、怒ることもできないのよ……それがこの子の悪いところだわね」

に、ついつい他人の目を気にして自分を抑えてばかりの読者は、なるほど一理あるかも!と唸らせられるかもしれません。

●家族にもたまには風を通さなくっちゃ

「親戚同士なのにどうしてあんなに憎み合うのでしょう」「ほんとにご先祖様なら……気をつけて対応しないと、誤解されて怒らせてしまったりしたら大変です」

といった悩みに、こういった悩みは日本だけではないのだなあと発見して驚く一方で

「ご先祖様をもっているなんて、ムーミンは、急に誇らしい気持ちがしてきました」

に家族を思う気持ちも同じなんだなとほっとしたりするでしょう。

人生にちょっと迷っている時には、どうぞ『ムーミン谷の名言集』手に取ってみてください。

どんなことを感じてもいい、それが自分なのです。トーベ・ヤンソンのお墨付きもあります。プッと吹き出しながら、なるほどと唸りながら、時には涙が頬を伝わることもあるかもしれません。全ての自分の感情を受け入れて許せるようになること間違いなしです。

トーベ・ヤンソンの作品は、絵本や児童文学の形をとってますが、彼女の芸術家であるがゆえの深い洞察感と万物への愛に満ちている、いわばオールマイティ文学というような名著ばかりです。

是非”自分にピッタリの一冊”を見つけてくださいね。

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