なかにし礼のおすすめ作品ランキングベスト5!作詞家としても有名な作家!

更新:2021.12.19

昭和歌謡曲の作詞を多数担当し、数々のヒット曲を生み出したなかにし礼。1998年からは小説家としても活動し、幅広いジャンルの作品を精力的に発表しています。再発がんを克服し、今日もめざましい活躍を続けるなかにし礼の代表作5作品をご紹介します。

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複数の顔を持つ作家・なかにし礼

『天使の誘惑』『今日でお別れ』『北酒場』『時には娼婦のように』など日本の歌謡曲シーンに多数のヒット曲を生み出した作詞家なかにし礼。1998年からは小説家としても活動し、2000年には『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞しました。

活躍はそれだけに留まらず、テレビやラジオ番組でコメンテーターをつとめるなど、その多彩な才能を活かした複数の顔を持つ人物です。

1938年に、満州国牡丹江省牡丹江市に生まれた彼は幼い頃に戦争を経験しており、終戦後の満州引き揚げ時にはその命を危険に晒されました。彼は当時の混乱の様子を実体験にもとづいて執筆し、『赤い月』で小説化しています。

ほか実兄との関係を描いた『兄弟』など自伝的な著作も発表し、有名作詞家の半生を描いたものとして世間の注目を集めました。

また2012年、食道癌に侵され闘病生活を余儀なくされますが、手術や放射線治療を行わず、インターネットで見つけた陽子線療法で癌の克服に成功しています。2015年に再発するも、これも克服。

著書『生きる力 心でがんに克つ』『生きるということ』ではがんと向き合いながら自らの戦争体験にもとづいた、平和に対する意見を綴り、戦争反対を訴えかけています。

多数の顔を持ち、活躍を続けるなかにし礼。今回は小説家としての彼の魅力に迫る5作品をランキング形式でご紹介します。

5位:なかにし礼初の自伝的小説『兄弟』

本書はなかにし礼が実兄との関係を題材とし、自らの体験にもとづいて執筆した自伝的小説です。

直木賞候補となり、1999年にはテレビ朝日の開局40周年スペシャルとしてドラマ化を果たされるなど、デビュー作にして代表作となりました。戦後破滅的な生活を送る兄との関係に苦しみながら、作詞家としての才能を開花させていくなかにし礼本人の姿が描かれています。

彼の兄は太平洋戦争中に学徒出陣で陸軍に入隊しており、特攻隊に配属された経験があります。終戦を迎え帰国した彼は戦後投資に失敗して破滅的な生活に陥り、多額の借金を背負うことに……。夢の実現に向かう最中にいた弟は兄に振り回されることとなり、やがて憎しみを抱きます。

著者
なかにし 礼
出版日

「兄が死んだ。姉から電話でそのことを知らされた時、私は思わず小さな声で「万歳!」と叫んだ。十六年待った。長い十六年だった。」(『兄弟』より引用)

物語は兄の死を知った弟が、その電話口で思わず喜んでしまうシーンから始まります。

終戦後に帰国したなかにし礼の兄は、弟が必死に歌詞を書いて稼いだ金を使い込み、事業に失敗しては多額の借金を作って一家を苦しめました。弟はそんな兄の借金を肩代わりし、仕事に追われる日々。

弟は自身の人生に影を落とし続ける兄を憎みますが、尊敬していた過去の兄の面影を手放すことができず、また兄弟の実母を献身的に介護してくれる兄嫁の存在もあってなかなか兄を突き放すことができません。

母の死後、弟は兄との決別を決意し、以後作詞家としていっそう仕事に没頭していきます。本書にはそこに至るまでの日々と、兄の死を迎えてからの弟の心の動きが情感あふれる文体で綴られており、読者を引き込みます。

有名作詞家の、影の物語。一家の壮絶な体験を記録した作品ではありますが、そこには彼の創作活動に大きな影響を与えた、兄への執着を感じずにはいられません。なかにし礼入門として、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
 

4位:生きるすべを説く『生きる力 心でがんに克つ』

なかにし礼は2012年、食道癌と診断されたことで一時活動を休止しています。発病を知らされた際、医者には抗がん剤や放射線治療、手術でのがん細胞切除といった治療法を提案されますが、心臓に疾患を持つ彼は一考し、もっと良い治療法はないかと模索しながら闘病の日々を過ごしました。

本書にはがんが宣告されてから完治するまでの出来事が事細かに記されています。

なかにし礼は何度もセカンドオピニオンを受け、妻とともにがんを切らないで治す方法を探し続けました。その末に二人はインターネットで見つけた最新先進医療「陽子線治療」にたどり着きます。
 

著者
なかにし 礼
出版日
2015-01-15

本書はなかにし礼の日記を中心に構成された1冊です。そこには彼の闘病の日々における出来事だけでなく、日々がんについて考えたこと、現代医療について思ったこと、また、思い出したこと――幼少時に満州引き揚げを体験した時の記憶や、そこから派生した戦争や平和についての切実な思いが綴られており、著者の気持ちが伝わってくる内容となっています。

また当時の状況や気持ちをヘッセやカフカ、カミュなどといった外国文学の文豪の言葉を使って説明していることも、本書を読み解く上で重要なポイントです。彼の言葉は著名な文豪の言葉とシンクロして、よりいっそうの重みを持ち、読者の胸に迫ります。

本書は一般的な「芸能人の闘病記録」では、決してありません。以上に挙げたように、彼は日記全体を通して自分の戦争体験や読書体験にもとづいた、生きることへの強い思いを読者に伝えようとしているのです。自分を信じ、諦めることなくがんを克服したなかにし礼。彼を知る上では外すことのできない、非常に重要な1冊です。
 

3位:我が子を守り満州国を脱した母の強さ『赤い月』

2001年に刊行された『赤い月』は20万部を超えるベストセラーとなり、映画化・テレビドラマ化・戯曲化を果たした、小説家なかにし礼の出世作といえる作品です。一家が経験した、終戦における満州引き揚げでの壮絶な体験をモデルに描かれた自伝的作品として、広く反響を呼びました。

太平洋戦争中、彼の両親は酒造業で成功し、一家は満州で裕福な暮らしを営んでいました。しかし1945年の終戦間際、満州国はソ連軍に侵攻され、その暮らしは崩壊します。

無敵だと信じていた関東軍も役には立たず、満州に暮らしていた日本人は引き揚げを余儀なくされるのです。それは命をかけた脱出であり、困難を極めることとなりました。

著者
なかにし 礼
出版日
2003-11-28

本書の主人公は、なかにし礼の母をモデルとした波子という女性です。彼女はソ連の満州国侵攻を受け、新京に出張中の夫の帰りを待たず、2人の子供と数人の使用人を連れて避難列車に乗ることを決意し、奔走します。

「子供を持つ親にとってはね、この世に善いも悪いもないんだわ。卑怯も人情もないの。子供を守るためだったら、母さん、鬼にだって畜生にだってなってみせるわ。人殺しだって泥棒だってなんだってやってみせるわ。善意を気にして子供を死なせてしまったのでは元も子もないじゃないの。母親とは、どんな罪をかぶってでも子供を生かそうとして戦うものなのよ」(『赤い月』より引用)

父を見捨てて逃げることを娘に糾弾されるシーンで、波子は叫びます。戦争という極限の状況下で子供を守ろうとする母の姿には言葉にし得ない迫力があり、読んでいて胸が痛くなるほどです。

満州国を脱出しようとする親子にはこの後も数々の困難が待ち受けており、目を覆いたくなるほどの出来事や光景が連続します。不謹慎な表現になりますが、これは小説として非常にドラマティックであり、読者はページから目を離すことができません。

当時現実の光景としてこれを見て、体験した著者は、どうしてこれを書き上げることができたのでしょうか。筆者の凄さを改めて感じる作品です。
 

2位:美しい古歌にのせた恋物語『長崎ぶらぶら節』

本書は長崎県に伝わる民謡『長崎ぶらぶら節』を題材として描かれた長編小説で、2000年には直木賞を受賞しています。後に映画化・テレビドラマ化も果たされ話題となった、なかにし礼の代表作です。

物語の舞台は明治時代の長崎で栄えた花街。主人公は丸山で芸者として生きた、愛八(松尾サダ)という一人の女性です。彼女は50歳の時に長崎学の研究者である古賀十二郎と出会い、大人の恋が始まりました。2人はともに長崎の古歌を探すうちに、長崎ぶらぶら節の存在を知ることになります。実話をもとにした、切ない恋物語です。

著者
なかにし 礼
出版日
2003-09-28

彼女が恋に落ちたのは50歳の時。歌謡曲の作詞で名を挙げたなかにし礼の手腕によって、明治から大正、昭和を生きた大人の女性の恋心が情感豊かに描かれています。

そこで重要な役割を果たしているのは作中に登場する長崎の古歌や登場人物の話す方言であり、こちらも大変魅力的です。長崎で栄えた花街の世界をリアルに想像させてくれます。

「花の雲 鐘は上野か 仇夢を 結ぶ四つ手の誰を待つ 駕籠に角田の夕景色 あれ散るわいな」(『長崎ぶらぶら節』より引用)

美しい古歌の調べにのせて瑞々しく描かれた彼女の生き様には、尊敬の念を抱かずにはいられません。ぜひ読んでみてください。

1位:大阪の肝っ玉母ちゃん『てるてる坊主の照子さん』

『てるてる坊主の照子さん』は2003年に『てるてる家族』の題でNHKによってテレビドラマ化されました。多数の歌謡曲を使用して、ミュージカル調に仕上げたドラマがヒットしたことで話題となり、今も幅広い世代に愛されている、なかにし礼の代表作のひとつです。

本作は戦後復興期の大阪を舞台に、筆者の妻とその家族をモデルとして描かれた作品となっています。母である照子さんが夫とともに家業のパン屋と喫茶店を切り盛りしながら、それぞれに大きな夢を追う4人の娘を育て上げ、立派に巣立たせたという実話をもとにして執筆されました。
 

著者
なかにし 礼
出版日

物語は後になかにし礼の妻となる石田ゆりをモデルとした4女、冬子を語り手として進みます。彼女の目線から見る照子さんは明るくパワフルな肝っ玉母ちゃん。それぞれの夢に向かって邁進する4姉妹を応援する照子さんの姿は、読者を元気付けてくれます。

本書は上・中・下の3巻に分けての刊行となった長編小説ですが、昭和の日本を明るく生きる家族の様子が笑いあり涙ありで描かれており、非常に楽しく読み進めることができます。

大阪弁の飛び交う会話文には生き生きとしたリアリティが宿り、読者を作品に引っ張り込んでくれるため、ページをめくる手が止まらなくなること請け合いです。なかにし礼の魅力を存分に感じられる1作となっています。
 

いかがでしたでしょうか。再発がんを克服し、今日も精力的に活躍を続けるなかにし礼。どんな状況でも希望を失わずに生きてきた彼が生み出す作品は、私たちに生きる力を与えてくれます。ぜひ読んでみてくださいね。

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