甲田学人おすすめの小説5選!実はメルヘン?電撃文庫を代表するホラー作家

更新:2021.12.19

ライトノベルを中心に都市伝説や童話を基にしたホラーファンタジーを多数手がける甲田学人。グロテスクな描写と、人間の心の闇を描き出す心理描写にハマる人が後を絶ちません。作者本人はあくまで「メルヘン」だと主張してやみませんが、果たしてその真相は?

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ホラーと幻想的な世界を描く作家、甲田学人

甲田学人は1977年、岡山県津山市で生まれました。短編小説「夜魔 罪科釣人奇譚」が電撃ゲーム小説大賞の最終選考に残ったのがきっかけとなって注目を浴び、その後2001年に『Missing 神隠しの物語』でデビューしました。代表作は『Missing』『断章のグリム』などで、主にホラーやオカルト色のあるライトノベルを数多く発表しています。

作風としては、グロテスクで鮮烈な印象を残す文章を得意とし、擬音語等を巧みに使って読者の痛覚に直接訴えかけてくる内容が特徴。それだけでなく、鬼気迫る圧巻の心理描写などでもファンの心を捕らえて離しません。甲田学人自身は、自分の作品はホラーではなくあくまで「メルヘン」であると豪語しており、そのため彼の作品は「幻想奇譚」と称されることも。

魔術などのオカルトや民俗学等に造詣が深く、その知識は作品の中で如何なく発揮されています。かつてはイラストレーターを目指していたため、自画像のイラスト(名前は「チョシャ猫」)も自作。またかなりの酒好きで、本人曰く大学生の頃からの酒豪であるそうですが、作品の中で酒について語ることはほとんどありません。「どうぶつの森」を作家仲間とプレイするなど、ゲーム好きの一面も伺えます。

執筆をするうえで、「悪夢のように暗鬱で、桜のように狂おしく、時計のように精密な、物語を紡ごう」をモットーにしていると作品あとがきで語っていますが、彼が描く作品は陰鬱で救いがないながらも幻想的で文学的であり、メルヘンであるという表現はあながち遠いものではないのかも知れません。

現代怪奇幻想譚の金字塔、甲田学人の「Missing」シリーズ

甲田学人にとって初の長編小説となる、現代ホラーファンタジー。漫画化やドラマCD化もされ、甲田学人の今なお高い人気を誇る代表作のひとつです。シリーズは全13巻で、2001年7月から2005年6月までおよそ4年にわたって電撃文庫から刊行され、人気を博しました。

著者
甲田 学人
出版日

舞台は、房総半島にある聖創学院大附属高校。文学部2年生の男女5人と、神隠しの少女をめぐるストーリーがこの作品の柱です。神隠しに遭遇して以来、異界の気配を察知できるようになった少年・近藤武巳と、次々に起こる怪現象に巻き込まれる文芸部員たちが中心となって物語が展開していきます。関わる者全てを異世界へと引き込むという、とある少女にまつわる都市伝説を追う第1巻「神隠しの物語」に端を発し、「呪いの物語」「首くくりの物語」など、不気味な事件が頻発することに。

ファンタジーと銘打たれてはいますが、ライトノベルとしては珍しく猟奇的な場面も多く、ホラー度はかなり高めです。また物語が進むにしたがって、多くの人物が死亡・大怪我・狂気・行方不明のどれかに見舞われているのも異質で、通常は主要キャラクターがそうそう死ぬことはないのですが、本作ではとにかく欠落者が続出するため何か非情ささえ感じてしまいます。

しかし、文学的表現を多用した幻想的かつ怪奇的な文章が本作をファンタジーたらしめているのは間違いないところ。陛下と呼ばれる探偵役の空目恭一や、憑き物筋の家に生まれた木戸野亜紀など、主人公の周りを取り巻く登場人物も個性豊かで見所がありますよ。

童話とダークファンタジーを描いた甲田学人の「断章のグリム」シリーズ

「Missing」シリーズに続く長編シリーズの2作目であり、グリム童話をはじめ世界の童話がモチーフとなった作品。その世界観からキャッチコピーは「幻想奇譚(メルヘン)」。元になった童話は『灰かぶり』『人魚姫』『赤ずきん』などで、作中には童話に関する雑学やうんちくが盛り込まれたり、既存の童話についての新解釈も添えられ、作者の知識の深さが味わえます。
 

著者
甲田 学人
出版日

『断章のグリム』は、平凡な高校生の少年・白野蒼衣が「泡禍」にまつわる事件に遭遇することで「断章保持者(フラグメント・ホルダー)」として覚醒し、やがて「騎士(オーダー)」になることを決意する物語。

「断章(フラグメント)」とは悪夢の泡の欠片で、人間の心に潜むトラウマを引き金として現実世界に様々な怪現象を起こします。それを「泡禍(ほうか)」といい、この脅威に立ち向かう能力を有しているのが「騎士」と呼ばれる断章保持者たち。「泡禍」による事件の中では、童話の配役も重要なポイントで、誰がどの配役になっているか毎回予想しながら読み進めるのも楽しみのひとつです。

過去の経験から辛いトラウマを負ったキャラクターの心理や、流血など凄惨な場面の描写がまさに甲田学人らしいところですが、この作品も登場キャラの死亡率が高く、バッドエンドの様相を呈しているのも作者ならでは。

後述する「時槻風乃と黒い童話の夜」シリーズの主人公・時槻風乃の妹である時槻雪乃も活躍します。幻想的な専門用語が次々と出現し、慣れるまでは少し混乱してしまうかも知れませんが、全17巻を通してミステリーとしても読める作品となっているため、案外気軽にこの世界観に踏み込めるのではないでしょうか。

美貌のゴスロリ少女と怪奇の出逢い「時槻風乃と黒い童話の夜」シリーズ

甲田学人の代表作のひとつ『断章のグリム』のスピンオフ作品。『断章のグリム』も世界の童話を基にした物語ですが、本作も現代社会を『シンデレラ』や『ヘンゼルとグレーテル』などの童話になぞらえたホラーファンタジーで、全3巻。第1集と第2集は短編集ですが、第3集は『いばら姫』の1編のみを収録し、ひとつの事件を追う構成です。

著者
甲田学人
出版日
2014-01-25

本作の主人公である時槻風乃は、『断章のグリム』のキャラクターである時槻雪乃の姉で、彼女自身も同作品に登場しています。『断章のグリム』の中では既に死亡しており、亡霊として妹である雪乃の取り憑いているという設定。雪乃と瓜二つの美貌で、ゴシックロリータ調のドレスに身を包んだ姿が印象的な風乃。今回は、彼女がまだ生きていた頃のストーリーです。

どの物語も、家庭に問題を抱えた少女と風乃が出会うことで物語が展開。母と姉から虐められ、誰にも味方をしてもらえなかった「シンデレラ」、父を憎み、異性を嫌悪する「ラプンツェル」など、恵まれない環境の中で生きる少女たちが突きつけられる現実や悲痛、人間の負の面にスポットが当てられています。それぞれの物語が基となる童話をしっかり踏襲しているところもポイント。

甲田学人の持ち味であるグロテスクな描写も健在で、また多感な少女たちが次第に狂っていく見せ方も秀逸。風乃は自らを死人と称し、夜な夜なゴスロリドレスをまとって街を徘徊する不思議な存在ですが、見知らぬ少女たちの話を聞いてあげたり、アドバイスしたりする優しさも見せます。風乃が彼女たちにもたらすのは、救いか破滅か。思春期の少女が持つ退廃的な雰囲気をホラーファンタジーに落とし込んだダークさが魅力の作品です。

甲田学人のデビュー作を含んだオカルト幻想譚「夜魔」シリーズ

「Missing」の番外編となる連作短編集。ハードカバーで単行本化され、その後『夜魔-怪-』『夜魔-奇-』と2作に分けられてメディアワークス文庫から発売されました。『夜魔-怪-』には怪談ばかりを、『夜魔-奇-』には書下ろし作品を加えた幻想譚のみを分割して収録。都市伝説による恐怖を描いたオムニバスホラー作品です。

著者
甲田 学人
出版日
2005-11-10

「安全地帯」として白線しか踏めない少年、死者と満開の桜、人には見えない蟲など、幻想的でありながら不気味で狂気を感じる題材ばかり。収録作品のひとつ「罪科釣人奇譚(トガツリビトキタン)」は甲田学人が初めて執筆した小説で、デビューのきっかけともなった作品です。その他にも人間が蟲袋に見える少年を描いた「魂蟲奇譚(コンチュウキタン)」や、ぬいぐるみが悪夢を引き起こす「繕異奇譚(ツクロイキタン)」などオカルト的な幻想譚を全部で6編収録。

本作では「Missing」シリーズでは主人公の敵である「魔女」の十叶詠子と、「夜闇の魔王」と呼ばれる神野陰之が主な登場人物。彼らのファンであればより一層作品を楽しむことができるかも知れません。また、「Missing」シリーズに比べて十叶詠子が比較的好人物として描かれており、同作品を読んだことがある人は少し驚きを感じてしまうかも。おぞましくも美しい、しかし人知を超える怪異の超然とした力を感じるダークメルヘン。

学園で巻き起こる「おまじない」の怪『霊感少女は箱の中』

電撃文庫から2017年1月に発売されたの甲田学人の作品です。今回題材とされているのは「おまじない」。霊感が強く心霊関係のトラブルメーカーである主人公が、スクールカーストの渦巻く校内でおまじないをきっかけにした怪現象と出会う、学校を舞台にした心霊ファンタジーです。

著者
甲田 学人
出版日
2017-01-10

銀鈴学院高校に転校してきた柳瞳佳は、強い霊感体質をもっています。それが原因となって前の学校を退学処分になっていました。彼女は、転校初日に4人組の少女たちからとある「おまじない」の人数合わせを頼まれます。おそるおそる「おまじない」に参加した瞳佳ですが、そのまま心霊事故に巻き込まれてしまい……。

やがておまじないの発端となった少女が失踪し、瞳佳は占い師を営む同級生・守屋真央に助けを求めることに。ところが、真央には実際霊感がないことに気付いてしまいます。

「おまじないを誰かに見られたら、五人の中の誰かが死ぬ」……チェーンメールに端を発した心霊現象。5人で撮った写真に写っていた6人目の誰か。学生時代、誰もが耳にしたことのある学園の怪異を基にしたホラー小説で、甲田節を存分に堪能することができます。

対心霊現象専門のサークル「ロザリア・サークル」の面々も、心霊案件を全てお金で解決する真央を筆頭に、魔女や巫女など非常に個性的。真央はとある不思議な箱を持っていて、そのおかげで霊感がないにも関わらず占い師を続けることができるのですが、その箱の秘密も物語の核となる要素です。

心霊ファンタジーの名にふさわしく、何か来るのではと思わせておいて、その期待どおりに怖いシーンを用意してくれる展開は、ホラー好きであれば嬉しくなるのでは。本作はオチの評価も高く、犠牲者を出しながらもその人物の想いが伝わるような救いの部分も少しだけ感じられるのです。瞳佳の過去もまだまだ明かされていませんし、「ロザリア・サークル」が今後どんな活躍をしていくのかにも期待して、続編を待ちたいですね。

幻想的な用語と各シリーズの緻密な設定が、人によってはたまらない甲田作品。この機会にどっぷり世界観に浸ってみてはいかがでしょうか?

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