佐々木マキのおすすめ絵本5選!村上春樹等の装画で有名なイラストレーター

更新:2021.12.19

村上春樹の書籍で、挿絵や表紙を担当しているイラストレーターの佐々木マキ。実は、絵本をたくさん出版している絵本作家でもあるのです。ナンセンス絵本と呼ばれる独特の世界観を、手に取ってぜひ体感してみて下さい!

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漫画家としてデビューした佐々木マキ

佐々木マキは、1946年兵庫県神戸市生まれの漫画家、イラストレーター、絵本作家です。少年期には貸本屋と映画館に頻繁に通い、杉浦茂の漫画のファンになります。

京都市立芸術大学に進学、日本画科を専攻するも中退。1966年漫画雑誌「ガロ」に投稿した「よくあるはなし」が掲載され、漫画としてデビューすることになります。

ガロ時代には、ストーリー性重視の漫画とは一線を画す、セリフに頼らない実験的な作品を多く執筆し、前衛的実験漫画家として注目されました。

アーティストの中にも、当時の佐々木マキ作品のファンが多く、作家村上春樹もその一人です。デビュー作『風の歌を聴け』では、どうしても佐々木マキに挿絵を描いてもらいたいという春樹の熱い要望があり実現しました。以後、佐々木マキは、多くの村上作品の装幀、挿絵を手掛けています。

絵本作家デビュー作は『やっぱりおおかみ』。漫画家時代のコマ割りを駆使した構成や、どこかヨーロッパを思わせるような風景が印象的な作品が多い作家です。ガロ時代に漫画で描いたキャラクターが、絵本に出現することもあります。

独特の世界観で、日本でナンセンス絵本という分野を開拓してきた先駆者でもある作家です。

美しい街並みをさまよう一匹オオカミの孤独感に共感『やっぱりおおかみ』

「おおかみはもういない」とみんなが思っている世界に、一匹だけ生き残っていた子供のおおかみが主人公のお話です。街にいるのは、うさぎ、やぎ、豚などの動物だけ。おおかみと遊んでくれる子供は誰もいません。

本当は動物たちと遊びたいのに、おおかみゆえに怖がられ避けられてしまいます。「遊びたかったのになぁ」という本音を、「け」という一言でかき消し、一人とぼとぼと街をさまようおおかみ。その姿が、おおかみの寂しさを浮き彫りにしていきます。

著者
佐々木 マキ
出版日
1977-04-01

佐々木マキの描くヨーロッパのような美しい街並みの中に、黒いシルエットで描かれたおおかみが、孤独を象徴しています。心の中では、友だちが欲しいと願っているのに、その気持ちをうまく表現できないおおかみ。寂しいがゆえに一匹でも強がって生きるおおかみの姿に、共感する人も多いのではないでしょうか。

「やっぱり おれはおおかみだもんな おおかみとして いきるしかないよ」(『やっぱりおおかみ』から引用)

物語のラスト、建物の屋上にくくりつけてある気球。おおかみは、気球に乗らず気球が飛んでいってしまうのを見届けます。そして発する「け」という言葉。気球が何を意味しているのか、読む人によって意味合いが変わってくる深い作品です。

佐々木マキのナンセンス絵本といえばこれ!『ぶたのたね』

走るのが遅くて一度もぶたを捕まえたことがないおおかみは、ぶたにもバカにされるほどの鈍くさい性格です。なんとか足を速くしたいと、おおかみはきつね博士に相談します。「足を速くする薬はありませんが、これはいかが?」と、きつね博士からぶたのたねを貰うおおかみ。

ぶたのたねを地面にまくと、ぶたの木が生えてきて、ぶたの実がなるというのですが……。

なんとも間が抜けたおおかみが可愛いお話です。 

ぶたのたね

佐々木 マキ
絵本館

ぶたのたねから生えたぶたの木には、ぶたの実がなるというナンセンスな発想が実に痛快です!実際にぶたの実がなるページは、かなりのインパクトがあります。ナンセンス絵本界の名場面ともいえる画期的なページでしょう。

さらに、次のページでは、ぶたの実が落っこちてきてしまうのですが、その落っこち方がこれまた愉快なのです。ぜひ、手に取って確認してみてください。

果たしておおかみは、ぶたの木から落っこちたぶたの実を食べることができるのでしょうか?子供たちは、間抜けなおおかみに夢中になるはず。続編もあるので、親子で何度も楽しめる絵本です。

ナンセンスという分野を楽しく簡単に表現していて、思わずぷっと吹き出してしまうような面白さが詰まった愉快な一冊です。

『ムッシュムニエルをごしょうかいします』をご紹介します

魔術師のムッシュムニエル。ヤギの風貌で、六つボタンの黒いコートにスーツケースを持つ姿が実に怪しい人物です。弟子を探しに街にやってきたムッシュムニエルが、男の子をさらって弟子にしてしまおう!と目論むお話です。

街で一人の少年を見つけ、さらってしまおうと瓶に呪文をかける姿が、さらに怪しく見えてきます。

呪文をかけたビンは魚の形に変身し空を飛び、少年のもとへ向かうのですが……ムッシュムニエルが、うまく少年をさらうことができるかどうかは、絵本を読んでのお楽しみです。

著者
佐々木 マキ
出版日
1989-01-20

まず、ムッシュムニエルというインパクトの強い名前に興味を掻き立てられますよね。魔術師という古典的な職業もとても魅力的です。魔術で生み出したのは、空を飛ぶ魚型の潜水艦。

ビンに向かって呪文を唱える姿は、古典的なのに、生み出した魔術はSF的という矛盾が、ムッシュムニエルの怪しさを上手く醸し出しています。

佐々木マキが描く、ヨーロッパの街並みのようなオシャレな空間を堪能できる作品でもあります。絵本に出てくる風景は、近未来のようでもあり、昔の風景のようでもあり、読んでいるうちに不思議な感覚に陥ってくるでしょう。

クラシックカーが通る道路や、活気的な市場の場面は、細かく描かれていて、何度見返しても楽しさを感じます。

子供時代に読めば、ちょっと背伸びをして大人の世界を垣間見たような、そんな感覚になる絵本です。

千夜一夜物語のようなファンタジーの世界『変なお茶会』

ミスターオオイワカメタロウに例年通り一通の招待状が届きます。「変なお茶会」に招待されたオオイワカメタロウは、電気自動車に乗って会場へ向かうのでした。

5人乗り自転車、クジャクにひかせた馬車、空き瓶の船、空飛ぶ鹿など、愉快な乗り物に乗った招待客が、世界各国から変なお茶会に集まってきます。

昨年のお茶会で次の再会を約束していたみんなとトランスバールのお城で会い、暗い森を抜けた秘密の場所でお茶会が行われます。その「変なお茶会」とは……とっても「おいしい」お茶会なのです。

著者
佐々木 マキ
出版日

この『変なお茶会』という絵本自体が、招待状のようなサイズなのが嬉しくなります。シンプルなカラーで描かれたページは、一枚一枚が絵ハガキのような素敵さです。読んでいると、外国から絵葉書が届いた時のような高揚感を感じます。

招待状、お茶会、魔法の乗り物という要素がうまく配合されていて、ファンタジー好きの人の感性をくすぐってきます。こんなお茶会に招待されてみたいものですね。

楽しい乗り物がたくさん描かれているので、乗り物好きの子どもたちにもぜひ読んでもらいたい絵本。佐々木マキの絵で刺激された想像力を使って、親子で新たな乗り物を創造してみても面白い時間が過ごせるのではないでしょうか。

ハグを覚えたての赤ちゃんと何度も楽しめる一冊『はぐ』

明るい砂浜の静かな海辺。シマウマさんとラクダくんがハグをします。ワニくんとペンギンさんもハグ。おじさんとハグをするのは……?

どうぶつたちが砂浜でハグをする、というだけのことを描いた絵本。ぎゅっとハグをした動物たちの表情がとても幸せそうで、心が和みます。絵本から溢れてくる愛情や温かみを心から体感できる、そんな素晴らしい絵本です。

赤ちゃんのファーストブックとしてもおすすめです。
 

著者
佐々木 マキ
出版日
2013-09-04

幼児が、教えてもいないのにぬいぐるみを抱きしめる行為をすることがあります。なぜなのでしょうか?ぬいぐるみをかわいいと思う気持ち、大切と思う気持ちが「ハグ」という行為として現れてくるとしたら、人間は、愛という感情を生まれ持って備えているということになります。

欧米では、挨拶としてハグをします。しかし日本では相手を思いやる気持ち、相手の悲しみを包み込む気持ち、心に寄り添う気持ち、寂しさを分かち合う気持ち……そういった愛情の表れとしてハグを行うことが多いのではないでしょうか。

そんな日本版のハグの良さを描いたこの絵本。読んだ子どもたちはきっとハグを求めてくるので、心して抱きしめてあげてください。抱きしめているはずの大人の方も、なんとも言えない幸福感を味わえるのが、ハグの魅力でしょう。

佐々木マキの絵本の世界の面白さが、少しでも伝わりましたでしょうか。実際手に取って読んで見ると、絵本の中に別世界が広がっているような、世界観の広さを感じるはずです。

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