ボードレールの作品3選!詩集『悪の華』が有名!

更新:2021.12.19

世界中の文学に影響を与えた詩人、ボードレール。文学的な側面を抜きにしても、彼の詩はかっこよく、美しく、アンニュイな魅力があるため、多くの人に親しまれてきました。今回は主な作品を3つ紹介します!

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新しい美の追求者ボードレール

パリで生まれたシャルル・ボードレール(1821-1867)は、フランス文学を代表する詩人であると同時に、「近代詩の父」と称されるほど世界中に大きな影響を与えた人物です。

芸術に深く関心を持つ父がいましたが、彼がわずか6歳の時に亡くなります。若い母は軍人オーピックと再婚することになり、このことは彼に大きな衝撃を与えました。それ以来ボードレールは、鬱屈とした思いを生涯抱えることとなったのです。

初めは養父の希望通りの優等生でいましたが、次第に文学に耽溺し、放蕩な生活を送るように。実の父から受け継いだ遺産を使い込み、それを心配した家族によって無理やりインド旅行へと送り込まれるものの、嫌気が差して途中でフランスに戻ってきてしまいます。しかしこのときに得たエキゾチックなイメージは、彼の詩に活かされています。

詩人としてのイメージが強いボードレールですが、まずは評論で名が知られていきました。作曲家ワーグナーや画家ドラクロワ、作家フローベールなど、様々なジャンルに渡る芸術家たちを鋭く批評しています。詩人として評価されたのは、1857年に『悪の華』を発表してからのことでした。

彼の詩の特徴の一つは、様々な感覚が読み込まれている点です。嗅覚、触覚、聴覚など、読者の五感に訴えかけるような表現が多く使われています。様々な感覚が応え合う様を描いたのは、当時においては画期的でした。

また、全体としてアンニュイな雰囲気に満ちているのも、彼の作品の特徴です。アンニュイとは、ものうげな感じ、倦怠感のことを指します。彼自身の鬱屈とした感情や、娼婦や都市の汚さなどを詩に取り入れている点などから、作品にアンニュイな雰囲気が生まれているのかもしれません。

以上のように、感覚の交感やアンニュイさ、一見美とは対極にあるものなど、元々は詩の題材とされてこなかったものを作品に取り入れつつも、ボードレールの作品は美しいものとして完成されています。新しい美を追求した作品は、多くのインスピレーションを後世の芸術家たちに与えました。

ボードレールが与えた影響はフランス芸術界にとどまりません。日本でも、上田敏や永井荷風などの文学者が影響を受け、いち早く紹介しました。また、文学的な側面を抜きにしても、彼の詩は洗練されていてかっこいいと人気が高く、特にフランスでは、歌手がボードレールの詩に沿って曲を書いたり、CMで詩が使われたりしています。

常にどん欲に美と向き合い、新しい美を生んだ作品をご紹介します!

詩から見る、パリという都市の再発見

『巴里の憂鬱』は、ボードレールの死から2年後の1869年に出版された、散文詩をまとめた詩集です。巴里(パリ)というフランスの中心都市とそこにいる群衆をメインに据えた、散文詩が収録されています。『悪の華』と双璧をなす傑作です。

著者
ボードレール
出版日
1951-03-19

ボードレールは、当時における画期的な視点をもってパリを描いています。従来のようにパリの美しさを賛美したり、「古き良きパリ」を描いたりするのではなく、“あまたの人が群がる都市”としてのパリを現実的に見つめました。

本書には、パリの現実を見ると同時に、そこに憂鬱なものを見出しているような散文詩が並んでいます。作品を読んでいると、大勢の人がいるパリで、一人ものすごく深くてどうしようもない孤独を抱えているような気分にさせられます。

だからといって、ただ憂鬱に浸るだけの作品ではありません。言葉遣い、言葉の音が洗練されていて、単純にきれいなものを見たときに感じる美しさとはまた違う、思わず酔ってしまうような美しさがあります。耽美とはまさにこういうことではないか、と感じるのではないでしょうか。

パリという都市を新しい視点で見つめ、新しい美を発見した作品です。
 

ボードレールの代表作『悪の華』

『悪の華』は、1857年に初版が出版され、ボードレールの名声を永遠のものにした詩集です。ヴィクトル・ユゴーなど、名だたる芸術家たちから絶賛され、後世に多大な影響を与えました。

著者
ボードレール
出版日
1953-11-03

『悪の華』は、ボードレールの作品の中で最も評価されている作品の一つです。

どの詩も官能的な魅力や退廃的な美しさ、そして音楽性を持っていておすすめなのですが、特におすすめしたいのは「交感」という作品。

彼が画期的だったのは、嗅覚・触覚などの様々な感覚が応え合っている様を描いたこと、それも外から感覚を描くのではなくて感覚そのものを詩の中心に据えた点です。「交感」には、それが最も高らかに歌われています。全てはつながっていて一体のものであり、ひとつの感覚がまた異なる感覚を呼び覚ましていくような気分にさせられる詩です。

ひとつのものがまた別のものを喚起する感覚を与えるという技法なくして、ヴェルレーヌやランボーといった後世に続く詩人たちは誕生しえなかった、と言われています。

本作の詩は共感覚のようなものを味わわせてくれ、改めて人間の感覚や、それを表現するボードレールの技法に驚かされますよ。
 

女性とボードレール

『ラ・ファンファルロ』は、シャルル・ドゥファイスというペンネームで、1847年に発表された小説です。ボードレール唯一の小説作品で、彼自身の体験を反映している部分もあるといわれています。

主人公の若い詩人・サミュエルは、幼いころからの友人を助けようとしますが、その友人の夫を夢中にしたファンファルロにサミュエル自身が惹かれていってしまい……。

著者
["シャルル・ボードレール", "片山昇"]
出版日

この作品でメインの女性であるファンファルロは、ボードレールに生涯影響を与え続けた官能的な魅力を持つ女性、ジャンヌ・デュヴァルがモデルになったといわれています。彼女はハイチ生まれの女優であり、踊り子でした。一方、主人公サミュエルは、頭がいいながらも倦怠感を抱えているなど、ボードレールと共通する点があり、自身を反映させていると考えられています。

詩のなかにも女性との性的な交わりのイメージがあったり、インスピレーションを与えてくれる存在としての女性が登場したりすることからもわかるように、彼にとって女性は重要な意味を持つようです。『ラ・ファンファルロ』は、女性とボードレールの関係性を考える上で、欠かせない一冊です。

退廃的なものや、耽美的なもの、美的感覚に関心がある方に強くおすすめします!ボードレールが打ち立てた新しい美に酔ってみてください。

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