恋愛を主軸に、登場人物たちの抱える秘密を絡めたミステリー要素を盛り込んだ作品が多い綾崎隼。言葉の選び方も物語全体に雰囲気を与えています。様々な恋愛が描かれ、時に切なく、時に心あたたまるそんな作品の中から、5作品をピックアップしました。
1981年生まれ、2017年現在新潟県在住の作家です。2009年『夏恋時雨』で電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞し、2010年に『蒼空時雨』と改題してデビューしました。主にメディアワークス文庫と講談社タイガで作品を発表しています。
恋愛をテーマとした作品が多いです。しかし、そのどれもが複雑な恋愛模様を描いており、どのような結末を迎えるのか読者は想像を巡らせながら読み進めることができます。また、恋愛模様のみならず、様々な伏線が張り巡らされるミステリー要素が含まれていることも特徴の一つです。読者の想像を超えるストーリー展開からは目が離せません。
さらに、綾崎隼作品に面白さを加えている要素が、物語同士の関連性です。それぞれ独立した物語を紡いでいながら、別の物語で語られなかった側面を発見することもあります。読者が様々な視点から読み進められることができるのが綾崎隼作品です。
ある雨の日の夜、自宅のアパートの前で倒れていた女性を助けた舞原零央。譲原紗矢と名乗る女性は、帰る場所がないと語り、零央のアパートに居候を始めます。
次第に紗矢に惹かれていく零央。そんな零央に紗矢は自分の抱えている秘密を語り始めます。紗矢から明かされたのは、紗矢が零央の所へ来た理由でした。理由を知った零央は、その内容に驚きつつも彼自身の重大な秘密を打ち明けます。
- 著者
- 綾崎 隼
- 出版日
- 2010-01-25
一話ごとに視点が変わることで、それぞれの人物が同じ出来事でも異なる思いを持っていることがよくわかります。そして、それぞれ独立しているように見える話でありながら、様々な人物が抱える秘密が綿密に絡み合い、一つの物語として収束していく様から目が離せません。また、それぞれの不器用な部分も見え隠れし、すれ違いながらも前に進もうとする登場人物たちに心動かされます。
一冊読み切りの物語のシリーズである「花鳥風月」シリーズの一作品です。『蒼空時雨』は、雨をモチーフとしています。雨の日が物語の始まりとなるほか、雨が象徴的に描かれている場面があり、雨の日に読むと一層雰囲気の出る作品ではないでしょうか。
教育学部に入学した榛名なずなの視点の物語となずなが恋した羽宮透弥の視点の物語がそれぞれ第一部、第二部となる物語です。
念願の教育学部に入学したものの、苦労の多い大学生活を送る榛名なずな。そんなある日、なずなは、一人の男子学生により窮地を救われました。その男子学生は、社会人をやめて教育学部に入った年上の羽宮透弥。突き放すような言動をする透弥でしたが、そんな彼になずなは、惹かれます。距離を縮めようと日々奮闘するなずな。あっという間に4年が過ぎ、教員採用試験前日になずなは、透弥に告白します。
そして、透弥の視点で語られる第二部へと物語は進んでいきます。
- 著者
- 綾崎 隼
- 出版日
- 2017-01-25
コミカルな前半部分と一転してシリアスな雰囲気が漂う後半部分の開きが大きいものの、それすらも味方にして読者にページをめくらせる作品です。そして、綾崎隼の言葉の選び方が光る作品でもあります。文章の透明感が物語に雰囲気を持たせ、読者の胸に迫る描写になっているのではないでしょうか。
なずながなぜ、教師になることにこだわるのか。そして、そんななずなを見つめる透弥の想いがわかったとき、切なさと共に温かさも感じるはずです。
舞台は、宇宙を航行中の宇宙船。コールドスリープから覚醒した医務官のリブカが目にしたのは、艦長の死と酸素発生器の異常でした。
宇宙船に乗員しているのは、先遣隊の8名。酸素発生器の異常により、目的の惑星まで全員分の酸素が足りないため、乗員を減らすしかありません。しかし、減らす乗員に確実に選ばれそうな人物は、リブカの最愛の女性であるアリア。リブカは、アリアが生き残る道を模索します。
- 著者
- 綾崎隼
- 出版日
- 2014-08-23
綾崎隼にとって初めてとなるSF作品ということもあり、全体の雰囲気もほかの作品と大きく異なります。殺伐とした雰囲気を漂わせながら描かれる人間模様。しかし、リブカの一見一途でありながら歪んだ愛の表現は、綾崎隼らしさを醸し出しています。
物語の終わりをハッピーエンドととらえるか、バッドエンドととらえるか。それぞれの登場人物により感じ方が異なる終わりは、読者によっても感じ方が異なる切なくも美しい作品です。
大好きな女の子が死んでしまった悪夢を見た杵城綜士。その日登校すると親友の海道一騎が休んでいました。さらに一週間姿を現さないことに不安を覚えると同時に、ある違和感にも気づきます。それは、授業内容に聞き覚えがあるなどの既視感でした。違和感を覚えながらも、一騎について担任に確認するとそんな生徒はいないと言われ、混乱する綜士。そんな中、奇人として有名な先輩・草薙千歳と出会います。
時間が巻き戻るたび、親しい人たちが一人ずつ消えていくタイムリープ。それを止めるには、愛する人を救う必要があります。失敗の許されない過酷で理不尽なタイムリープを止めるため、綜士が先輩・草薙千歳と同級生・鈴鹿雛美と共に奮闘するタイムリープ・ミステリです。
- 著者
- 綾崎 隼
- 出版日
- 2015-11-19
愛する人を救うことができなければ強制的に過去に巻き戻されるタイムリープ。そして、その代償は、親しい人が消えていくこと。この過酷なルールは、タイムリープをテーマとした作品を読むたびに綾崎隼自身が感じていた疑問から生まれたと講談社BOOK倶楽部のインタビューにて語っています。タイムリープに代償が伴うことにより、単純なハッピーエンドにならないと語られるように、複雑に入り組む物語は読者の想像をかき立てます。
次の展開が気になり次々にページをめくると同時に、新たな事実が判明したときもう一度読み返したくなる作品です。
旧家の跡取り舞原吐季は、睡眠確保のために一つだけ空いた部室を手に入れるため、演劇部と偽って部活の申請をします。しかし、時を同じく、舞原家と因縁のある千桜家の娘である千桜緑葉も保健部の申請を行おうとしていました。
部室争いを機にお互い関わっていくこととなった吐季と緑葉。次第に惹かれあう二人に、それぞれの一族の因縁が影を落とします。一族の因縁に翻弄される少年少女の物語。
- 著者
- 綾崎 隼
- 出版日
- 2011-06-25
公式ブログにて、現代版『ロミオとジュリエット』を描きたかったと語った綾崎隼。裕福な家庭に育ったものの一族のしがらみにとらわれる少年少女の物語が描かれています。日常ミステリー的導入から愛憎入り乱れるミステリーへと物語が発展していく中、『ロミオとジュリエット』のように悲恋として終わるのか。それとも成就するのか。
様々な人物の思惑が交錯する「ノーブルチルドレン」シリーズ。吐季と緑葉の恋愛模様も気になる一方で、それぞれの登場人物が葛藤しながら、しがらみからの脱却を目指す様が胸に迫ります。
リンク性の強い綾崎隼作品ですが、今回紹介した5作品の中にも共通する登場人物や背景があります。それぞれ手に取って探してみるのも楽しいのではないでしょうか。