想像もつかないような奇想天外な世界観を創り出し、刺激的な読書体験を提供してくれる作家、山本弘。ここでは、そんな山本ワールドが炸裂する魅力的なSF作品を、5つ厳選してご紹介していきましょう。
山本弘は、1956年、京都府に生まれます。作家デビュー前には、筒井康隆が主宰するSFファングループ「ネオ・ヌル」に参加。SF同人誌に短編小説を発表するなど、精力的な活動をしていたようです。1978年、『スタンダード!』で、第1回奇想天外SF新人賞佳作を受賞するも、その後しばらくはフリーター生活が続いたのだとか。
1987年、クリエーター集団「グループSNE」に参加し、作家及びゲームデザイナーとしてデビューを飾ると、1988年、処女長編作品となる『ラプラスの魔』を発表しました。その後も数々の小説を発表するとともに、テーブルトークRPGなどの開発にも携わります。1998年、グループから独立し、フリーでの活動をスタート。2011年には『去年はいい年になるだろう』で星雲賞日本長編部門を受賞し、多岐にわたる活躍を見せています。
アンドロイドの少女が、人工知能やバーチャルリアリティを題材とした物語を語っていくSF小説『アイの物語』。7つの短編で構成された本作は、著者の山本弘が「泣ける話」だと太鼓判を押すほどの力作で、男性のみならず、女性読者からの評価も高い作品です。
今から数百年後の遠い未来。人類は衰退し、世界はマシンによって統制されています。そんな中、「語り部」の愛称で呼ばれる少年「僕」は、生き延びるための食料をアンドロイドから盗み逃げているところを、少女型の戦闘用アンドロイド「アイビス」に捕らえられてしまいました。
アンドロイドとの戦闘で負傷した「僕」は、病院に収容され治療を受けるも、マシンたちのことがどうしても受け入れられません。そんな「僕」に対しアイビスは、ある真実を教えるべく、幾つかの物語を「僕」に聞かせていくのです。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2009-03-25
人工知能の反逆は、SFエンターテインメントではたびたび取り上げられるテーマですが、この作品では恐ろしさではなく、優しさのこもった救いが描かれています。タイトルのアイに、「I(私)」、「AI(人工知能)」、「i(虚数単位)」、「愛」と様々な意味が込められている本作。人類と人工知能が辿ってきた歴史には、思わず人間の身勝手さを痛感してしまうことでしょう。
歪んだ感情を一切持たないアンドロイドが、不完全で矛盾だらけの人間をどう見るのか。物語で語られる未来の様子に、様々なことを考えさせられる作品です。これまでとは違った物事の捉え方や視点を、人工知能側から教わるという斬新さもとても魅力的。難解な言葉はなくとても読みやすいので、誰にでもおすすめできる作品です。
人と人を結びつけ、幸せを与えることができる、特異な才能を持った少女の日常を描く連作短編集『詩羽のいる街』。「SFとは何か?」と思考を巡らせた山本弘が、宇宙人やロボット、超能力など、SF作品に用いられるガジェットを、一切使わないSF小説の執筆に挑戦した異色作です。
第1話の主人公「僕」は、漫画家を目指し、出版社に原稿の持ち込みを繰り返す日々を送っています。ある日、原稿の作成に煮詰まった「僕」が、公園に散歩に出かけると、1人の若い女性が、小学生たちを集めトレーディングカードの交換会を開いていました。彼女は子供達を上手く仲介し、複雑なトレードをどんどん成功させていきます。
そんな様子を興味津々で眺めていた「僕」に、彼女は突然「これからデートしない?」という言葉をかけてきたのでした。こうして「僕」は、詩羽と名乗る謎の女性と街へ出かけ、彼女が起こす数々の奇跡を目の当たりにすることになるのです。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2011-11-25
4つの短編で構成されている本作は、どの物語にもヒロインの詩羽が登場します。出会うはずのなかった人々を繋ぎ、幸せをもたらしていく彼女の姿はとても小気味よく、驚くほど論理的。根拠のない愛や善意を振りかざすことなく、ピュアな心で最良の選択をしていく詩羽に、思わず魅了されてしまいます。
彼女のような考え方や感じ方ができれば、人生は今よりももっと豊かなものになるのではないでしょうか。読んでいて、とても温かい気持ちになることができます。様々な人間関係が綺麗に繋がる展開はさすがの一言。SFは苦手という方でも、有意義な読書体験ができることでしょう。
宇宙へと飛び立つ夢を叶えるべく、天才アイドルが奮闘する姿を描くSF長編小説『プロジェクトぴあの』は、山本弘の創造力が遺憾無く発揮され、その世界観を存分に堪能できる作品になっています。
舞台となるのは近未来の秋葉原。語り手となる少年・貴尾根すばるは、ある日電気街で電気部品を買い漁る美少女・結城ぴあのと出会います。天才的な頭脳を持ち、「宇宙へ行きたい!」とひたすら願う彼女は、実はアイドルグループに所属する、人気アイドル歌手でもあるのです。
ぴあのは、トップアイドルへの道を駆け上がる一方、宇宙へ旅発つ夢を叶えるべく、自宅のガレージで宇宙工学や物理学を駆使しながら、実験を繰り返す日々を送っていました。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2014-08-19
本作は、宇宙旅行を可能にする「ピアノ・ドライブ」を発明した、1人の少女の物語です。天才ゆえに人と違う思考を持ち、宇宙だけを愛するぴあのに恋をしてしまうすばるには、応援の声をかけたくなるでしょう。AR(拡張現実)技術が普及した、近未来の秋葉原の様子に、そこはかとないリアリティーを感じます。テレビ番組で、有名な物理学者が創ったインチキ装置を、アイドルのぴあのが完膚無きまで否定する姿はなんとも痛快。
斬新なこの物語の設定に、わくわくしながら楽しむことができるでしょう。作品内には、数々の難解な専門用語が飛び交いますが、ぴあのの魅力やストーリーの面白さに惹きつけられ、読むのをやめることができません。最後にはほろりとさせられる場面が待っていますから、ぜひその結末を見届けてみてくださいね。
怪獣が出現する世界で、その対応に全力で挑む「気象庁特異生物対策部」の活躍を描いた怪獣小説『MM9』。様々な怪獣の登場が面白い本作は、全5話が収録された1冊で、後にシリーズ作品も登場するなど、たいへん人気の高い作品です。
巨大怪獣が存在し、時おり街を襲っては多くの犠牲者を出している世界で、物語は展開されます。この世界では、怪獣の襲撃は地震や台風と同様、自然災害の1つとされており、怪獣の出現予測や正体の解明、怪獣と戦う自衛隊のサポートなどを行う、通称「気特対」が存在しています。
怪獣の大きさや脅威度を示す単位として、MM(モンスター・マグニチュード)が用いられ、MM5以上の怪獣は街に危険をもたらすため、無条件に射殺対象とする決まりになっています。未だかつてMM9クラスの怪獣が確認されたことはなく、過去に発見された怪獣の中では、MM8.9が最大級とされていましたが……。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2010-06-24
かつてウルトラマンなどにハマった経験のある方には、たまらない作品ではないでしょうか。実際に怪獣と戦うのは自衛隊の役目ですが、気特対の面々だって苦労は絶えません。プライベートを犠牲にしたり、テレビの取材にうろたえたり、ストレスで胃が痛かったり。公務員の苦労多き日常と、「怪獣災害」に立ち向かう設定のギャップが非常に面白く、思わずニヤリとしてしまいます。
冷静に分析を重ね、科学的に対処法を導き出していく気特待には、なんとも言えない格好良さを感じることでしょう。個性豊かな登場人物たちが揃い、スケールの大きい世界観の中で、綿密に練られたストーリーが展開されていく、読み応えたっぷりの作品です。
神は存在するのか?超常現象はなぜ起こるのか?山本弘が、そんな壮大なテーマに挑んだハードSF作品『神は沈黙せず』は、著者の類稀な知識が遺憾無く発揮された、エキサイティングな傑作です。
フリーライターの和久優歌は、幼い頃に台風での災害で両親を亡くし、神の存在を信じられなくなっていました。兄の良輔と共に奇跡的に生き残ったものの、心には深い傷を負い、しかも兄妹は別々の親戚の家に引き取られ、離れ離れで暮らしてきたのです。大人になり、優歌はフリーライターに、良輔は人工知能分野の研究者として活躍するようになっていました。
優歌はある教団に潜入取材をしたことをきっかけに、超常現象へ興味を抱くようになります。そして時を同じくして良輔は、進化シミュレーションの研究過程で、世界の成り立ちを根底から覆す、ある仮説にたどり着いてしまったのです。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2006-11-23
作品内では、神や宗教をはじめ、心理学やUFO、幽霊など、数々の超常現象について、多くの資料を用いて議論されています。もし神が存在しているとして、悲惨な出来事や人の不幸を傍観するのはなぜなのか?そんな説明のつかないような疑問に、真っ向から挑み、徹底的に論理的な考えを展開させていきます。
「人は自分が信じたいものしか信じない」という言葉には心底唸らされ、ふと、自分はどうだろう?と考えてしまう場面も。刺激的なストーリー展開にわくわくさせられる、圧巻のエンターテインメント作品です。興味のある方は、この作品で提示されている神の正体を、ぜひ確かめてみてくださいね。
「ビブリオバトル」とは制限時間内に1冊の本を紹介し、その紹介を聴いた人達が「どの本が1番読みたくなったか」を決定する、書籍紹介トークバトルです。「BISビブリオバトル部」シリーズはタイトルズバリ、ビブリオバトルを部活動とする主人公達を描いた現代青春小説となっております。
主人公・埋火武人(ウズミビ タケト)が少女・伏木空(フシキ ソラ)と出会い、物語がスタート。ヒロインである伏木は相手が若干引いてしまっているにも関わらず、本の話ばかりをしてしまうSFフリーク。そんな彼女を埋火がビブリオバトル部に迎え入れます。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2016-04-28
とてもテンポがよく、読みやすい文体です。主人公をはじめ、他登場人物達も一癖二癖ある人ばかり。ノンフィクションしか読まない主人公に、関西弁で軽快なトークを見せる部長、科学をこよなく愛す先輩女性に、ボーイズラブ好きの後輩などなど。登場人物を見るだけでもかなり楽しめる作品となっています。
しかしもちろん、本作の魅力はそれだけではありません。シリーズ名を見ただけでもおわかりいただけるかとは思いますが、作中では実在する様々な本が紹介されています。ヒロインが愛するSF小説はもちろんのこと、ノンフィクションや科学書にマンガ、果ては小説版『仮面ライダー クウガ』まで……。
登場人物たちは様々なジャンルの書籍を魅力的に語っています。本が好きな人にとって、読んでいるだけでワクワクできる場面がたくさん詰まっているのではないでしょうか。
また、作中でのビブリオバトルはもちろん、各巻ごとに存在するテーマが丁寧に描かれています。その内容は人種差別や戦争、ミステリーに恋愛など。
本書は主人公達のやりとりや、ストーリーを追うことによってテーマが見えてくる、というパターンではなく、ビブリオバトルで紹介する書籍テーマを「この世界」や「戦争」とズバリ指定することによって、テーマをわかりやすく青春小説に組み込んでいます。
各巻で語られるテーマの中には、重く、切実なものもあります。ですが、青春小説の中に無理なくテーマを取り込んでいるので、読後も気持ちが重たくなることもありません。本書はヤングアダルト向けではあるものの、年齢関係なく充分に楽しめる小説となっています。
山本弘のおすすめ作品をご紹介しました。どの作品も読み応えがあり、思わず世界観に引き込まれてしまう傑作ばかりです。SFを堪能してみたい方は、ぜひ読んでみてくださいね。