ウィリアム・バロウズ作品おすすめ5選。映画化された『裸のランチ』など

更新:2021.12.20

アル中、ドラッグ中毒、同性愛、指詰め、妻殺し……自身の過激なエピソードをもとに作品を書いたバロウズ。自他の文章を切り貼りする、カットアップという、小説の定義さえ問う手法が代名詞。ビートニクの旗振り役バロウズの奇妙な世界を覗いてみませんか。

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異色すぎるアウトサイダー、ウィリアム・バロウズ

破天荒なエピソードには事欠かないウィリアム・バロウズは、様々なアーティストにカリスマ的支持を得ています。

1914年、セントルイスの裕福な家庭に生まれたバロウズ。実は子どもの頃は神経質で内向的、学校生活が大嫌いでした。人付き合いを避けて小説などを読み漁る読書好きな少年で、早くから物書きを志していました。

ハーバード大学に進んでからは、娼婦や男娼を買うこと、そして麻薬を覚えます。卒業後はウィーンで医学を学んだり、大学院で人類学を学んだりしながら創作活動を始めます。卒業後は定職に就かず各地を廻りながらドラッグ中毒が進み、あらゆる薬物に手を出しました。

パーティ中、誤って内縁の妻を射殺してしまったことや、ボーイフレンドにふられて小指を詰めてしまったエピソードも知られています。晩年は、俳優業や絵画制作などにも手を広げました。

自伝的処女作『ジャンキー』

麻薬中毒の男が、有象無象の闇世界で駆け引きしながら、様々な薬物を入手しては乱用する様子が事細かに綴られています。

バロウズがウィリアム・リーという筆名で書いたドキュメンタリー的な作品です。ジャンキーの世界を知り尽くしたであろう著者が、得意気でも卑下するでもなく、淡々とその世界を語っていきます。

1953年に刊行できたということがこの作品の意義の一つです。というのも当時はドラッグも同性愛も話題にすることも憚られた時代。バロウズのその後の作風を方向づけました。

著者
ウィリアム バロウズ
出版日

麻薬中毒の最も重い時期に発表したこの処女作。あらゆる薬物の種類や、効果の違い、入手方法や治療など詳細が語られています。ストレートな文体でテンポもあり、とても読みやすく書かれています。この作品を読んでからほかのバロウズ作品を読むと、その世界観を理解する助けとなり得る一冊です。

注釈にもある通り、作品内にある麻薬が身体に良いといった主張には何ら医学的根拠はありません。麻薬についてやや正当化するような言い回しも見受けられます。しかし、ドラッグ最高、ルールなんて知るか、というだけではなく、作品にはどこか、辛さと切なさが全体に漂っています。

一躍話題を呼んだ代表作『裸のランチ』

ニューヨークに暮らすウィリアム・リーは、害虫駆除の仕事をしていました。麻薬所持の前科を持つウィリアムは、あるとき再び嫌疑を掛けられ、取り調べを受けることに。今は完全に麻薬を断っていたウィリアムですが、そこで久々に幻覚を見てしまいます……。

麻薬と同性愛をここまではっきりと描いた例はこの作品以前にはほとんどなく、またそのグロテスクで猥褻な描写のために発禁騒動にもなったことがかえって話題を呼び、バロウズは作家として名を知らしめることとなりました。

著者
ウィリアム・バロウズ
出版日
2003-08-07

バロウズが麻薬を断っていく過程で書いたいくつものエピソードを、バラバラにつなぎ合わせるカットアップといわれる手法で書かれたこの作品。どういうストーリーなのか、著者が何を言いたいのか、といったことを追うことは必ずしも必要ではないと思います。小説といえば、起承転結や序破急などを期待してしまいますが、この作品においてはただその都度の場面を楽しんだほうが、むしろバロウズの醍醐味を味わえるかもしれません。

バロウズ作品の中では比較的読みやすいほうですが、全編にわたって薬物、暴力、性描写、同性愛などが並んでおり、相当の耐性は必要です。

さらにディープなバロウズワールドへ。『ソフトマシーン』

麻薬とその売人とジャンキーがテーマのこの作品。『裸のランチ』を読んだら、この『ソフトマシーン』でもっと深い世界に潜ってみるのはいかがでしょうか。

こちらは『裸のランチ』よりも、更に切り貼りの手法が激しく進化して、ストーリーを読み取ろうとしても、大半の読者はわけが分からないと思ってしまうことでしょう。そのわけの分からなさこそが最大の魅力の一つなので、無理に解読しようとせず、思い切りバロウズに振り回されてみてください。

著者
ウィリアム・バロウズ
出版日
2004-06-04

抽象画か、あるいはロールシャッハテストの画像でも見るように、無理に読み取らずフラットに見つめていると人それぞれに印象が浮かんでくるかもしれません。読みながらイメージが掴めたとすれば、それはきっと読者固有のものです。

単語やフレーズの羅列というのは、それ自体は読みづらいはずがありませんが、そこからストーリーを読み取ろうとするならそれは難しくなります。言葉のうねりに身を任せて、どこに漂流するか見守るほうが楽しいのではないでしょうか。読者が読みたいように読んで良い、自由な小説です。

晩年の、ネコに対する偏愛と投影。『内なるネコ』

「ここ2、3年で、わたしは熱烈なネコ好きとなった。」(『内なるネコ』より引用)

バロウズは晩年になって愛猫ラスキーを拾ってからは、ネコの魅力の虜となりました。ネコとの生活とネコに対する熱い思いが語られています。よくネコの夢を見るようになり、ラスキーがいなくなる夢を見たときは涙を流すほどです。

この作品はただ単にネコの表面的な愛らしさを描いているのではありません。著者がネコという小さく弱い存在に対してどう向き合い、何を投影しているのか、読者は思いを馳せながら読むことになります。

著者
ウィリアム バロウズ
出版日

『ジャンキー』などではむしろネコを虐待するシーンこそ出てきます。晩年のこの作品を読むと、その別人のような変わり様は驚くほどで、人間には色んな面があり、いくらでも変われる可能性があるのではと考えさせられます。

守ってやらなければ生きていけないような小動物に対する偏愛的なまでのすがるような思いが伝わります。守ることが、逆に自身の生きる糧になっているようです。若い頃は虐めていたネコを晩年になってからは愛することで、バロウズは何を償い、何を取り返したかったのか考えると何だか切ない思いがしないでしょうか。

初期の書簡集をもとにした『麻薬書簡 : 再現版』

バロウズは『ジャンキー』で、ヤーヘという究極の麻薬を手に入れるため、コロンビアに行くことを決意していました。『ジャンキー』が刊行された年、そのヤーヘを探す道中でバロウズが詩人アレン・ギンズバーグへ宛てた書簡をもとに、創作を加えて10年後に初刊となった作品です。

ビートニク文学を代表する二人は1943年に出会い、バロウズはギンズバーグから精神的にも金銭的にも様々な援助を受け、友人であり一時期は恋人でもありました。

著者
["ウィリアム バロウズ", "アレン ギンズバーグ"]
出版日
2007-09-04

単身アマゾン奥地まで出かけ、インディアンと探検するそのモチベーションには、もはや感心しそうになります。ヤーヘは見つかったものの、期待していたような究極のドラッグではなかったようです。

1953年に誤って内縁の妻を射殺し、その保釈中に旅に出たバロウズは、一体何をヤーヘに見出したかったのか、何から逃避したかったのかを考えながら読むと、その後『裸のランチ』以降で散り散りに切り刻まれた文章は、孤独で不自由だった精神状態と何か関連があるのだろうかと想像させられます。

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