純文学的でありながら娯楽性の高い小説を多数発表する原田宗典。エッセイストとしても絶大な人気を誇る彼ですが、長いスランプに苦しみ活動を休止した過去があります。無事復活を果たした今、今後の活躍が期待される原田宗典のおすすめ作品をご紹介します。
1959年に東京で生まれ、後に岡山県で育った作家・原田宗典は早稲田大学第一文学部を卒業後、コピーライターとしてキャリアをスタートさせています。1984年に小説『おまえと暮らせない』ですばる文学賞の佳作となり、その後に専業作家となりました。純文学的でありながらも娯楽性の高い独特の世界観を持つ小説の他、日常に起こった少し変な出来事をおかしみのある文体で綴ったエッセイも多数発表しており、エッセイストとしても大変人気のある作家です。
しかし2013年、彼は覚せい剤取締法違反の罪に問われ、現行犯逮捕されました。多くのファンを持ち、素晴らしい作品を世に送り出し続けていた彼でしたが、実はスランプに悩み、躁鬱病を患っていたとのこと。執筆活動は休止状態となり、ファンには一日も早い復帰が望まれていました。
1年6ヶ月に及ぶ懲役を終えたあと、彼は家族や同じく作家である妹の原田マハの協力により執筆活動を再開したことを発表しています。また2015年には小説『メメント・モリ』が刊行され、作家として完全復活を遂げました。
躁鬱病を患い、覚せい剤にまで手を出した原田宗典ですが、彼が生み出した作品はどれも文句なしに面白く、その才能は本物です。復活後の活躍に期待の高まる原田宗典のおすすめ作品をご紹介します。
本作は1989年に刊行された原田宗典の意欲作。匂いを感じることができない「無嗅覚症」の主人公が巻き起こした"事件"をめぐり個性的な面々が力を合わせて世界を相手に戦うという、ユニークな青春小説です。
母親を亡くしたショックで嗅覚を失い無気力状態にある大学生の武井はある日、友人の六川をも亡くしてしまいます。悲しみに暮れ、孤独な毎日を過ごす武井ですが、その3年後、原因不明の強烈な異臭を発する身体になってしまいます。その異臭は東京中を大混乱に陥れ、ひょんなことから彼は世界規模の組織を敵に回すことに。そこに窮地を救うヒーローが現れ、ストーリーは壮大に展開していきます。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
- 1992-06-04
作者の持ち味であるユーモアと疾走感に溢れており、文句なしに面白いので、原田宗典を読むにあたってまず最初に読んでほしい1作です。
この作品の最大の魅力は、登場人物の個性的で強烈なキャラクター性でしょう。無嗅覚症で緊張するとすぐにどもってしまう武井、容姿が良くないのにも関わらず女にモテるインテリな六川、美人なのに風変わりなヒロインのマリノレイコなど個性的な面々ばかり。その他の登場人物も含め、彼らが奔放に展開する会話がウェットに富んでいて大変面白く、物語にスピード感を与えて読者を先へと進ませてくれます。急き立てられるように先を読まされた読者を待っているのは奇想天外な展開、そして結末。素晴らしい友情譚に、胸が熱くなります。原田宗典の才能とパワーを感じる、物凄い作品です。
「小さな星がありました。大陸の真ん中に、うす紫の湖があって、そのほとりには一輪、見たことも聞いたこともない花が、恥ずかしそうに控えめにこっそり咲いていました。「醜い花」というのがその花に冠せられた名前でした」(『醜い花』より引用)
原田宗典による詩的な文章に奥山民枝の美しい絵が添えられた、大人のための絵本です。真っ白な装丁の表紙に、黒字の明朝体で「醜い花 UGLY FLOWER」の文字が際立つ衝撃的なタイトルの1冊。英文訳も併録されています。忙しい毎日を過ごしている人に是非、手にとって頂きたい1作です。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
- 2008-11-07
本作の主人公は湖のほとりに一人きりで咲く「醜い花」です。その花は、おぞましい見た目をしていて毒のある棘を持ち、強烈な匂いを発するせいで誰からも忌み嫌われていました。もちろん花も、自分のことが嫌いでした。
花は月に問いかけます。なぜ私はこんな姿で咲いているのか、と。月は答えます。「みんなのため」だと。花は枯れることを望みますが、いつまで待っても一向に枯れる気配がありません。しかし、ある日人間がやってきて、彼女を引き抜いてしまいます。
そこであきらかになりますが、その花の醜さの正体は、大地の毒素でした。彼女はたったひとりで大陸中に根を張り巡らせ、毒素を吸い上げていたのです。花は、はじめて自分がみんなの役に立っていたことを知り、死んでいきます。
花が消えてしまった後、大陸は、どうなってしまうのでしょうか。
美しく幻想的な1冊ですが、そこには強いメッセージが込められているのです。人はどうして、美しいものが好きなのでしょう。醜いものを憎むのでしょう。それは本当に美しく、本当に醜いのでしょうか。
心を落ち着けて、しずかな場所で読んで頂きたい作品です。
本作は1992年の刊行後、2004年に『戦線スパイクヒルズ』の題で井田ヒロトの作画により漫画化もされた、原田宗典作品の中でも特にエンターテイメント性の高い作品です。
物語の舞台は1990年代の東京・新宿。スリの天才である高校生、ノムラノブオを主人公に、同級生のスウガク、女子高生のキクチと3人でタッグを組み、ヤクザが手に入れた大学入試の問題を横取りしようとするスリル満点の青春ストーリーとなっています。爽快な青春小説が読みたい!という方には特にオススメしたい1作です。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
「トム・ソーヤー」というからには、冒険ものであるはず。しかしこの作品は、ありふれた冒険譚とは一線を画した仕上がりです。
ノブオはスリ、つまり「盗み」が大得意です。これはとても褒められたことではありません。ですが彼は同級生のスウガクに持ちかけられ、もっと悪いヤツ、つまり大学入試の問題を手に入れたヤクザを凝らしめるためにその特技を使おうとします。原田宗典によって描かれる、荒んだ東京のアンダーグラウンドで奮闘する高校生3人組。テンポ良く展開していくストーリーに、始終ハラハラとさせられます。
ユニークな冒険譚を主軸としながらも、女子高生キクチとの甘酸っぱい恋愛や高校生ならではの大人に対する反抗も余すところなく描き込まれており、青春小説としての王道を外さないのが原田宗典の魅力でもあります。若さと疾走感に溢れた、平成の青春小説です。
本書は「ただの一夜」「夏を剥がす」「夫の眼鏡」そして表題作「劇場の神様」の4作が収録された原田宗典の傑作小説集です。
妊婦の妻を持つ主人公トオルが学生時代を過ごした町で途中下車してその町で過ごした最後の夜の思い出に浸る「ただの一夜」、プールサイドで肘のカサブタを剥がしていた主人公にクラスメイトの少女が告げたある秘密からはじまった、過去のできごとを反芻する「夏を剥がす」、そして、死んだ夫が注文していた眼鏡を受け取りに行く妻の心境を繊細に描いた「夫の眼鏡」。
上に挙げた3作品は独特の余韻を感じさせるラストシーンが印象的な短編作品となっています。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
- 2007-07-30
しかし表題作「劇場の神様」は、他3作品とはあきらかに異なる空気をまとった中編小説です。
所属する劇団で好青年として知られている一郎には実は盗癖があり、自分でもそれを持て余しています。彼は毎日劇場入りするたびに、劇場に設えられた神棚の前で柏手を打ち、祈ります。「どうか盗みませんように」「盗んでもバレませんように」と。果たして、彼はどうなっていくのでしょうか。
本作には一郎が演劇に没頭しつつも、時折顔を出す悪癖に振り回されるようすが臨場感たっぷりに描かれています。手癖の悪さからつい人の物を盗んでしまう心苦しい描写が多々ありますが、そこから人間味に溢れた面白い場面が物凄い勢いで次々に展開していきます。窮地に立たされた一郎がどうなるのかが気になってページを捲る手が止まらなくなること間違いなしの1作。ぜひ読んでみてください。
真実を口にすると死んでしまう嘘の国の女王と、嘘をつくと死んでしまう真実の国の王子の恋物語「嘘の女王」、雲の上に棲む天使が好き嫌いについて話し合う「三人めの天使」、この世からつまらないものを消すことができる男の行く末を描いた「消す魔術師」、誰の気にも留められない女が恋をすることで変わっていく「何の印象もない女」他、童話のようなテイストの短編作品が20編収録されたまさに『ゆめうつつ草紙』と呼ぶにふさわしい短編集です。
原田宗典特有のユーモアに富んだ軽妙な文体ながらも深いメッセージ性を持つ作品が多く、大人のための絵のない絵本という印象の1冊となっています。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
「昔むかし或るところに 言葉の世界がありまして その真ん中に穏やかな ひらがなの国がありました。「あ」から「ん」までの五十音らが くっつき合って意味をなしつつ 読んで字の如く暮らす国でした。ところが或る日の午下がり 同じ平和な毎日が過ぎゆくだけの この国にちょっとした事件 というか椿事が生じました。南部の鄙びた「や」行の町の 何てことない道ばたに どういうわけか「゛」と濁点のみが ぽつねんと置きざりにされていたのです。主たるべきひらがなもなしに 濁点だけで居るなんて そんな読めもしない不手際は ここ千年に一度もなかったことでした 」(『ゆめうつつ草紙』より引用)
上記の引用は後に柚木沙耶郎が絵を担当して絵本として刊行されることになった『ぜつぼうの濁点』の冒頭部分です。物語調の語り口は読書をふしぎな言葉の世界へ誘い込みます。
置きざりにされていた濁点は、実は深い森に棲む「ぜつぼう」に 長年仕えた濁点でした。濁点はいつも、不幸なぜつぼうを気の毒に思っていましたが、いつしかぜつぼうの「せ」についた濁点である自分の存在が、ぜつぼうをぜつぼうたらしめていることに気づき、主であるぜつぼうに頼んで「や」の町の路上に自分を捨ててもらったのでした。
濁点は町の住人たちに自分の身の上を話し、新たな主を探しはじめますが、ここから物語は意外な方向へと展開していきます。やがて迎える美しいラストで、読者は息を飲まされることでしょう。
また本作は非常にリズミカルな文章構成で書かれていることも大きなポイントとなっています。音読したくなるような楽しい日本語の連なりは、ファンタジックな内容との相乗効果で独自の世界観を生み出しており、原田宗典ファン必読の1冊といえるでしょう。
若かった当時はとんでもない出来事に思えたような数々のエピソードが、時を経て笑いに変わっていく。この作品にはそんなエピソードが盛りだくさんです。
小学生時代の視力検査で負けず嫌いの心がうずき、確実に視力が悪くなっているにもかかわらず「見えないのは負け」と思い込んだ原田少年は、視力の良い友人に頼んでカンニングしたといいます。そのせいで取り返しがつかないほどの近眼になり、メガネを通り越してコンタクトレンズを目に入れると医師に宣告され、メガネを眼球に押し込まれると想像して顔面蒼白になるなど、少年ならではの笑えるお話が盛りだくさんです。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
昭和の時代を感じさせるエピソードも多いですが、負けず嫌いで自尊心の高い著者の心の内を正直に語りつくした短編は幅広い世代の人の共感を誘うのではないでしょうか。
一見どうでもいいような事柄を研究熱心に真剣に掘り下げていく内容が多く、嫌なことがあった日にこの本を読むと、それまで自分の頭を悩ませていた事柄がどこか遠くへ消え去ってしまうようなスッキリとした気分を味わえることでしょう。
題名には「十七歳」という文字が入っていますが、この作品には東京から岡山に移り住んだ著者の、15歳からの3年間の高校生活が綴られています。
父親の転勤の都合で、岡山県にある進学校を受験し見事合格した原田少年。東京とは喋る言葉も雰囲気も交通の便も何もかもが違う岡山県で地元になじむために奮闘する原田少年の姿が面白可笑しく描かれています。
なんとなくカッチョいいという理由から不良になろうと奮闘する滑稽な姿や、身もだえしながら書いたラブレターで彼女を呼び出しての早朝デートなど、少年から青年になる時期のはじけるような情熱や恥じらいをユーモアたっぷりに描いています。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
- 1996-06-20
このエッセイは大人の男性が読んで自らの高校時代を振り返ることが多いようですが、女性にも、若者にも楽しめる内容です。時代は違えど思春期の子どもの自意識については大差はないということを、笑いを交えながら知ることができます。
どんなに大きなハプニングがあろうが、それが自分の黒歴史になろうが、それは自分が生きた証。そんな風に人生を前向きにとらえられる、原田宗典の最高の一冊です。
原田宗典のエッセイの中でも特におすすめしたい作品です。著者の幼少期から、貧乏学生として貧乏を楽しんでいた時代まで、ありとあらゆる面白エピソードが著者を取り巻く強烈なキャラクター達と繰り広げられています。
腕っぷしが強そうでハゲた歯科医師「アーノルド波平」や、香港のサウナで遭遇したマッサージ師「香港製土井たか子」など、個性的な人物が登場。軽快ながらも巧妙な文章を読むにつれ、著者と一緒にその時代のその場所にタイムスリップしたような気持ちになれます。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
どの短編もひとつ残らず全て面白いこの作品には、昭和の時代に生活の一部だった「ピーピーケトル」や「ハエ取り紙」など、その時代を懐かしむアイテムも数多く登場します。下ネタもたくさん登場しますが、下ネタを受けつけない人のために、冒頭で注意を促してくれるところも著者の親切な人柄を感じられます。
時代の流れによって消えていくものもあれば、いつまでも変わらないものがあるということを、笑えるエピソードと一緒に感じさせてくれる作品です。
原田宗典ファンであれば一度は手に取ってほしいこの作品。著者のエッセイを読んだことがない人にもぜひ読んで欲しいのがこの一冊です。
温泉でヤクザのお兄さん達と混浴状態になってしまった時の焦りっぷりや、4歳の子どもとのかみ合っているようでかみ合わない会話など、日常の中に潜む笑いのエッセンスが凝縮されています。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
著者が生み出した28もの作品の中から、笑いが止まらなくなるものだけを選んで収録したというこの作品。下ネタあり、家族ネタあり、青春ネタあり、なんでもござれのベスト盤です。
ファンであれば一度は目にしたかもしれない短編が入っているかもしれませんが、何度読んでも新鮮な面白さを味わえるのがこの作品の魅力でもあります。
この作品は、原田宗典がうつ病を患ってから執筆されたもので、それまでのものとは一風変わった作風です。随所に笑いの要素が盛り込まれているのは従来通りですが、その内容が本当に著者の体験したことなのか、あるいは想像の世界の産物なのか区別が付きかねる部分があるのです。
例えば、その石を手に取ると偶然が重なるという「偶然石」。手にした人間は岩手の花巻と東京の吉祥寺の間を行き来する運命になるという不思議な石です。その石を手にした原田宗典自身も、石の持つ力を感じて戦慄するという小説のような内容なのです。
他にも、短編「柴犬バッティングセンター」では、どんどん成長する息子に父の威厳を見せつけようと得意のバッティングを披露するべくバッティングセンターへ向かった著者。その目の前に現れたのは、バッティングマシーンの裏でせっせと働いている柴犬で……。
- 著者
- 原田 宗典
- 出版日
- 2006-09-07
この作品には著者の古くからの友人や、行きつけの市営プールで出会った柏手教室の講師など、個性的で不思議な人々が数多く登場します。それだけでなく「酢酸バー」や「男専用ブラジャー」など、好奇心をくすぐるような場所やモノが盛りだくさんです。
独特な視点で世界を眺めたら、こんなにも面白いのかと感心させられる短編ばかりで、憂鬱な日に読めば心のもやが吹き飛ぶような爽快な気分になれることでしょう。
いかがでしたでしょうか。純文学からエンターテイメント、深いメッセージ性を持つ童話まで、幅広いジャンルに跨って数多くの作品を発表している原田宗典。そのどれもが才能に溢れ、大変面白いためサクサクと読み進めることができます。ぜひ手にとってみてください。