皆さんこんにちは。私は大阪の堺という街で絵本を扱うお店をしています。今年11年目ですが、開店時から「手製本による創作絵本」も扱っています。生まれたばかりのお話を、作家が自分の手で仕立てた絵本です。 今回は私のお店の活動にちなんで、機械がなかった時代の本づくりや当時の周辺事情が描かれているもの、手仕事としての製本、絵本作家のことなど、読んで楽しいだけでなく「本が生まれる現場」を感じるような本をご紹介したいと思います。
甲州の方言で、「ささらほうさら」という言葉があったのだそうです。「色々あって大変だ、大騒ぎだ」という意味なのだと作中で語られています。そのような出来事が身内に降りかかり、江戸へ出ざるを得なかった素浪人の青年が主人公の物語が『桜ほうさら』です。
どう本づくりに関わるのかというと、彼が写本を生業にしている点。江戸時代にコピー機はありませんから、代わりに書物の内容を書き写す仕事があったんですね。
彼は美しい文字や絵を書くことで、仕事だけではなく、親しい人々を助けたり楽しませたりもします。その中で、文字にまつわる知識を豊かにしていく。やがては、彼自身に降りかかった事件の真相へ。
切なさを伴う事情を抱えた人々ならではの優しさや配慮に触れ、成長する主人公。それぞれの心の動きや行動に共感することで、読者の心も温かくしてくれる、この季節にぴったりの作品です。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2013-02-27
本書『けさくしゃ』の戯作の序、という扱いでの解説によりますと、けさくしゃ(戯作者)とは、要するにお江戸の作家、とのこと。若くてイケメンの殿様が主人公で、彼が戯作者ということなのですが、実在した流行作家がモデルになっているそうです。
こちらも時代物ですが、「桜ほうさら」が「文字」に焦点を当てているのに対し、こちらは「商いとしての本」に焦点をあてています。江戸時代の出版事情に絡めて痛快なエピソードが展開していきます。
新しいエピソードごとに、それぞれキーワードとなる用語の解説がついていて、例えば江戸時代における「重版」の意味、「絶版」の語源など、「へー!」と思うようなものがいっぱいなのも楽しいですよ。
- 著者
- 畠中 恵
- 出版日
- 2015-04-30
子供の頃、壊れても修復して残したいくらい、お気に入りの本はありましたか?『ルリユールおじさん』に出てくるソフィーという女の子には、そんな植物図鑑がありました。
西洋で印刷技術が発明されて出版が容易になった頃発展した、「ルリユール」という職業。60もの工程に及ぶ、製本・装幀の手仕事をいいます。出版と製本の兼業が禁止されていたフランスで成長したものだそうです。そういうテーマもあってか、この絵本は、一般の人が「絵本」と聞いて思い浮かべるイメージからは程遠い、大人の雰囲気をまとっています。
実際の取材に基づいて創作されているのもこの作品の魅力の1つ。アトリエの描写はもう、見たままといった具体性が端々まで伴っていて、何度もスケッチを重ねたことがはっきりと伝わってきます。作者がその世界にいかに感動したのかも。パリの街を描いた美しいイラストが楽しめる、短編映画のような絵本です。
- 著者
- いせ ひでこ
- 出版日
- 2011-04-12
『絵本作家という仕事』はタイトルの通り、現在活躍している絵本作家のインタビューをまとめた本です。帯に並ぶ作家の名前を見ただけでも興味を持たずにはいられません。
彼らの子供時代から、絵本作家を志すに至ったきっかけ、作家として学んだこと、思うこと、心がけていることなどが、コンパクトにわかりやすい文章でまとめられています。これらの文章が作家が話したままの言葉であるならば、「さすが絵本作家とはかみ砕くのが上手だなあ!」と。それくらい読みやすい文章です。カラーページが適度に散りばめられていて、アトリエの様子などが紹介されているのも、読みやすい理由の1つかも。
「絵本作家になりたい」と言い続けて実現した方もいれば、「そんなの考えもしなかった」と語る方もいるのが興味深い。絵本の仕事に興味がある人にぜひ読んでほしいなと思う一冊です。
- 著者
- 出版日
- 2012-04-27
私が自分のお店で日々目撃している「本が生まれる現場」は、この4冊にあるような大きくて確立されたものではなくて、個人による一番小さい規模のものがほとんどです。
とはいえ私にとってこの4冊は、一冊の本に伴う情熱や愛着について、より考えるきっかけを与えてくれました。同じように、本が好きな皆さんにとっても、本そのものに対する認識に何らかの興味深い変化をもたらしてくれるはず。ますます本が好きになること請け合いです。