独特の文体から紡ぎ出される個性的な世界観と、キャラの濃い登場人物たちの軽快な会話に魅了される読者が多い入間人間の作品。映画化やアニメ化なども多くされています。そんな入間人間の作品を今回はシリーズも含めて5作品ご紹介します。
入間人間(いるま ひとま)は1986年生まれ、岐阜県出身の作家です。2006年、電撃小説大賞に「幸せの背景は不幸」を投稿し、最終選考に残りました。審査員の評価が分かれ受賞は逃すものの、2007年に『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 幸せの背景は不幸』と改題・改稿し、デビューを果たします。
独特な感性を持つ人物による一人称が不思議な雰囲気を醸し出していることが特徴です。随所にパロディも散りばめられ、読み手にちょっとした笑いを提供しています。
ほぼすべての作品がリンクしていることも特徴の一つではないでしょうか。舞台は、出身地の岐阜県または大学生時代を過ごした愛知県名古屋市が多いです。
誘拐された過去を持つみーくんとまーちゃん。事件以来会っていなかった2人ですが、一人暮らしをしていたまーちゃんのもとにみーくんが訪れます。そのまーちゃんの家には、なぜか小学生の兄妹がいました。そこにいた兄妹は、実は現在町で起きている誘拐事件の被害者で――。
まーちゃんの起こした誘拐事件の裏側が明らかになる中、町では連続殺人事件も進行します。そして、2つの事件の根幹にあったのは、みーくんとまーちゃんが被害者となった8年前の誘拐事件。全てが明らかとなったとき、みーくんとまーちゃんの関係は、どうなるのでしょうか。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
タイトルにある通り、みーくんは自他ともに認める嘘つきです。そして、まーちゃんは、過去の誘拐事件により精神が壊れてしまっています。人とはズレた2人を軸に進行する話は、猟奇的な雰囲気を醸し出しながらも、ラブコメ的側面も描き出されているのです。
シリーズを通して目が離せないみーくんとまーちゃんの関係。誘拐事件の影響を色濃く受ける2人を通して幸せとはなにかを考えさせられるのではないでしょうか。
本編と直接関係するわけではないものの、各章のタイトルやカバー裏の仕掛けも注目ポイントの一つです。
授業をさぼった2人の女子高生・しまむらと安達。出会ったのは、体育館の2階でした。お互いに色々な話をしながら、次第に友情を育みます。
やがて変化していくしまむらに対する安達の気持ち。時には親友のような、時には姉妹のような2人の関係は、周囲の人とも関わりながら少しだけ変化していきます。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2013-03-09
しまむらと安達、2人の視点で交互に進行していく物語です。一人称と三人称で受ける印象に若干の違いが見られます。また、シリーズが進むにつれ、2人の関係の変化はもちろん、2人の内面も少しずつ変化していく様子が伺えるでしょう。大きな事件が起こるわけではなく、心理描写をメインに話が進むことに起因するのかもしれません。
ふんわりとした雰囲気を持つ「安達としまむら」シリーズ。百合小説といわれるものの、人間関係に対する恐怖や人との距離の取り方への不安など、恋愛ではない人との関わり方についても描写があります。2人の見え隠れする価値観や人間観の違いがお互いにどう影響していくのかという点に注目して読むのも面白いかもしれません。
両親の海外転勤により、叔母の家に居候することになった高校生の丹羽真。叔母は仕事で留守が多いため、一人暮らしに近い生活ができると期待していた真が叔母の家で見つけたのは、足の生えた布団でした。その正体は、親戚には黙っていた叔母の娘・藤和エリオ。青春を謳歌したい真でしたが、その障害となりそうなエリオの世話をすることになりました。
青春を謳歌するために青春ポイントなるものを稼ぐ真と、自称宇宙人のエリオのラブコメディです。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2009-01-07
「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」シリーズのオマージュと取れる部分が見え隠れします。しかし、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」シリーズのようなダークな雰囲気はなく、登場人物たちの方向性が微妙にズレながら進む、コミカルな雰囲気が漂う物語です。
エリオのお世話という予想外のアクシデントに見舞われた真。さらに、転校先で出会った少女たちと青春を謳歌するはずが、ここでもエリオが障害となります。そのため、真の青春ポイントは、減ったり増えたり。ひねくれたストーリーと思いきや、エリオの世話を抱えながらも爽やかに青春を満喫しています。
ラブ要素よりコメディ要素がふんだんに盛り込まれた「電波女と青春男」シリーズ。清涼感あふれる作品です。
プロローグは、20年前。余命を宣告された一人の青年は、やり残したことを行います。それは、好きな女性への告白でした。それから青年はちょっとした事件に巻き込まれ、とある行動をとります。その出来事はのちに20年後の現代に影響を及ぼすのでした。
第1章から舞台は現代にうつり、ある青年とその妹の視点から物語は進んでいきます。青年は、好きな人に告白をし、条件付きで付き合ってもらえることになりました。その条件とは、彼女が受けているストーカー被害から身を守り、護衛すること。
その一方、青年の妹は引きこもりがちになっていました。ひょんなことから靴屋でアルバイトを始めることになり、その店によく来る絵描きの男性と親しくなります。彼は、彼の妹が絵の製作の邪魔をするので、少女にその監視をお願いしました。
やがて、この4人が物語上で交錯していくのです。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2011-05-25
日常が淡々と繰り広げられていくと同時に少しずつ明かされていく事実にページをめくる手が止まらない作品です。そして、入間人間の描く人物たちの中では、平凡と言えるかもしれない今作の登場人物たちですが、軽快な会話の中に個性がきらりと輝きます。
4人の登場人物たちが抱えている問題を解決する、20年前のとある青年が起こした小さな奇跡。誰かにとっては小さな出来事でも、他の人にとっては大きな出来事なのかもしれない。読み終わった後、そんな風に思えるのではないでしょうか。
「カツ丼は作れますか?」というインターネット上の書き込みをきっかけに動き出す群像劇です。
路上でギターを弾くニートの女性とその彼氏や、万引きを繰り返す男子高校生とクラスメイトの少女。家出を考える小学生の女の子、ニートの青年と同じくニートの彼女。そして家出を決行した女の子を保護する投稿者の老人。
彼らはウェブ上の掲示板で少しずつつながりあって、影響しあい、現実世界で集まることになりました。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2010-05-25
書き込みをきっかけにつながった人々。しかし、もともとつながっていたのかもしれない。そんな不思議な感覚になるお話です。
物語のキーワードとなるカツ丼ですが、それぞれの登場人物がカツ丼にまつわるエピソードを持っています。そのため所々にカツ丼が出てきて、読み終わった後に無性にカツ丼が食べたくもなるのです。
また、青春群像劇として読む以外にも、短編一つ一つを掘り下げて読むことも楽しいかもしれません。カップルが3組出てきますが、それぞれ違った味を出していますし、他の入間人間作品の登場人物とつながりがありそうな人物もいます。
ささやかな交流と小さな出来事。それでも、その中心にいる人にとっては、重要なことなのだと気付かされます。日常の小さな出来事を大切にしたいと思えるのではないでしょうか。
いかがでしょうか。独特の文体は、比喩も多く癖が強いと感じる読者も多いです。しかし、はまれば癖になること間違いなしなのが入間人間の作品です。