優しく自然味あふれる絵で読者の心を和ませるいわむらかずおの絵本。動物が登場する物語が多く、皆生き生きと描かれています。その愛らしさと垣間見える自然の厳しさ、そして人間へのメッセージとも感じられる言葉は読者の心にじんわりとしみわたります。
多くの読者に読まれ続けるロングセラー「14ひき」シリーズを執筆したいわむらかずおは、1939年東京都生まれの絵本作家です。
東京藝術大学工芸科を卒業後、1970年に「ぷくぷくのえほん」シリーズでデビューした後、栃木県に移住。農業を営みながら創作活動を続けます。自然をテーマにした作品を多く出版し、1983年に「14ひき」シリーズ第一作となる『14ひきのひっこし』『14ひきのあさごはん』を出版し、今も世界中の子ども達に愛され続ける人気シリーズとなりました。
1998年には「いわむらかずお絵本の丘美術館」を開設し、絵本の創作と共に美術館の館長も務めています。
『ねずみのでんしゃ』は、愛らしい7匹のねずみの兄弟が繰り広げる人気作「7つごねずみ」シリーズの第1作目となる絵本です。
物語の主役は、人間界でいうところの幼稚園である「ちゅうがっこう」入園を控えた7つ子のねずみ達。しかし何かと理由をつけて「行きたくない」と駄々をこねています。そこでお母さんは考えました。夜中のうちにちゅうがっこうまで毛糸を敷いて、次の日の朝。「ちゅうがっこういきでんしゃ、しゅっぱーつ!」。電車ごっこをしながらちゅうがっこうまで行くようです。ねずみの子ども達は慌てて線路の上に並び、お母さんの後ろからついていきます。
7つ子たちは、無事にちゅうがっこうまで行けるのでしょうか。
- 著者
- 山下 明生
- 出版日
- 1982-10-01
7つ子のねずみがちゅうがっこうに行くのを嫌がる様子と、そんな子どもに頭を悩ませるお母さんの姿は、そのまま幼稚園や保育園入園前の家族の様子に当てはまるのではないでしょうか。
今まで、お家で過ごしてきた子ども達が初めて親から離れて生活することはきっと不安でいっぱいですよね。そんな時に、子どもが大好きな電車ごっこをしながらちゅうがっこうに行くねずみ達の様子は、きっと子ども達の心を和ませてくれるはずです。そして、悩めるお母さんの気持ちも軽くしてくれますよ。
入園前に、親子でゆっくりと読んでもらいたい1冊です。
『14ひきのあさごはん』は、いわむらかずおの代表作「14ひき」シリーズの第1作目となる物語です。同時期に出版された作品に『14ひきのひっこし』があります。
登場するのは10匹の個性豊かなねずみの兄弟たちと、子ども達を見守るお父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんの14匹家族。大自然の中でたくましく、そして仲良く楽しく暮らしています。
物語の始まりは、ねずみ達が朝目覚める場面から。朝の支度を済ませたねずみの兄弟は朝ごはんの野イチゴを採りに森に向かいます。その間に大人たちはパン作り。さて、子ども達が帰って来たら楽しい朝ごはんの始まりです。
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
- 1983-07-10
こんな朝ごはんがあったら素敵!と子どもも大人もワクワクする絵本です。
朝ごはんの野イチゴを採りに行くのも、子ども達には大冒険。丸太の橋を渡って、お花や虫を見つけて……。頑張ったご褒美は出来立てパンと熱々スープ。それを家族みんなで頂きます。こんなに楽しい朝ごはんを食べたら、1日楽しい気分になれそうですね。
家族で食べるご飯の美味しさが、全てのページから伝わってきます。
『風の草原』は、トガリ山に住むネズミの冒険を描いた「トガリ山のぼうけん」シリーズの第1作目となる長編絵本です。
物語を語るのはトガリネズミのトガリィじいさん。若い頃にとても高いトガリ山に登った冒険話を、孫の子ネズミたちに聞かせる場面からお話は始まります。
たくさんの虫や動物たちに出会いながらトガリ山に向かうトガリィ。皆トガリ山に行くと聞くと驚いた顔をします。そんな中出会ったテントウムシのテントと友達になり2匹はトガリ山を目指すのです。
途中でお腹が空いて、獲物を捕まえるためのトノサマバッタとの戦い。鳥のウソが語る猿のように見える岩の物語。そして見たこともないような大きくて恐ろしい動物との出会い。読者は、ドキドキハラハラする2匹の冒険に引き込まれること間違いなしです。
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
絵本にしては長い物語ですが、1匹ずつの虫や動物との出会いがいくつかの章に分けて描かれているので、毎日少しずつ読み進めていくのにぴったりの絵本です。
トガリィとテントのハラハラドキドキする冒険物語であると同時に、自然の厳しさや生きていくということについて考えさせられる場面がいくつも登場します。
例えば、食料を得るためにトノサマバッタを食べる場面では、ついさっきまで生きていたバッタを食べる様子がリアルに描かれており、子どもにとっては衝撃的な内容であるかもしれません。しかし、バッタを食べた後に「トノサマバッタの元気が、わしの体の中でわしの元気になったのだ」という台詞から、生き物を頂くことでその生き物の命が身体で生き続ける、動物として大切な営みなのだということが伝わってくるでしょう。
冒険物語と一括りにはできない、深みのある絵本です。
『かんがえるカエルくん』では、草の気持ちや空、そして「ぼく」という存在について……とにかく色々なことが気になって考え続けるカエルくんと、彼と出会って一緒に考えるネズミくんのお話です。
虫にも動物にも顔はあるはず、でも自分と違う顔の動物はどうやって生活しているの?空はどこからが空なの?「ぼく」って一体何なの?など考えることは尽きません。1人で考えてみたり、友達に聞いてみたり……。
ユーモアも交えて子どもの「なんで?」を代弁してくれる絵本です。
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
- 1996-04-25
子どもの「なんで?」「どうして?」に対して言葉につまったことはないでしょうか?できるだけ真剣に答えてあげたいけれど、分からないこともあるし何となくわかっていても説明が難しいこともありますよね。
この絵本には疑問に対する答えが書いてあるわけではありません。ただ、子どもの不思議に思う気持ちに寄り添い一緒に悩んでくれるのです。聞かれたことに全て答えられなくても、子どもとじっくりと一緒に考えて意見を聞くことは子どもの考える力を育てます。その考える力を引き出すために、ピッタリの絵本です。ぜひ親子で、考える時間を持ってみてくださいね。
『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』は、山に住む動物たちが語る人間の様子から、自然や動物との共存について、改めて考えさせられる絵本です。
主人公は、小さな町の最終列車で眠ってしまった一人の男。目を覚ますと周りには誰もいません。しばらくすると、続々と乗り込んできたたくさんの動物たち。皆口々に人間の身勝手さについて語り合っています。動物たちは、人間と戦うための話し合いに向かう最中だったのです。たった一人の乗客が人間であることに気がついて、動物たちは慌てて列車を降ります。
これは、本当に主人公の男がみた夢だったのでしょうか?
- 著者
- いわむら かずお
- 出版日
- 1986-08-01
洋服を着た動物たちの絵はどれも可愛らしいですが、話している内容がもっともな意見ばかりで胸に突き刺さります。
自分たちを守るために動物を犠牲にしてしまうこと、人間から見たら仕方がないことと思ってしまいますが、動物から見たら、大切な家族や自分の命が生き残るかということでさえも人間次第なのです。もし自分の立場だったら、と置き換えて考えてみてください。絵本という物語ではありますが、実際に動物の声を代弁しているように感じます。
子どもも大人も自然について考えるきっかけとなる絵本です。
大人気シリーズから自然や動物について考えるきっかけをくれる作品まで、いわむらかずおの絵本を紹介してみました。
どれも自然の描写が美しく、擬人化された動物たちが魅力いっぱいに描かれています。シリーズとして長く続く作品が多いので、1冊読むと次のシリーズもどんどん読み進めたくなってしまうことも魅力の一つです。子どもと共に、自然の美しさと動物たちの愛らしさに癒され、そして時にはじっくりと考え……。ぜひお気に入りの1冊を見つけてみてくださいね。