H.G.ウェルズのおすすめ本5選!イギリスの偉大SF小説家を見逃すな!

更新:2021.12.20

「SFの父」の名を持つイギリスの作家、ウェルズ。数々の名作の中から、5作を厳選してご紹介します。SF好きの人も、そうでない人もきっと楽しめる、エンターテイメント感満載の作品を集めました。

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歴史家や社会活動家としても名を残す、イギリスの偉大なSF作家ウェルズ

ハーバート・ジョージ・ウェルズは「SFの父」とも呼ばれる、イギリスの有名なSF作家です。1866年に、イギリスのケント州で商人の父とメイドの母の間に生まれたウェルズは、若い頃職を転々としますが、なかなか定職に就けずにいました。しかしこの頃の様々な経験が、のちの文筆活動に活きてきます。

やがて教員を目指しますが、体調が思わしくなかったのと、当時の教育界の保守的な姿勢になじめなかったことで、文筆活動に入ります。初めの頃はジャーナリストとして働き、様々な雑誌に寄稿。1890年ごろから小説も執筆するようになり、『タイムマシン』『宇宙戦争』などの名作を次々と発表しました。

これらの作品は全てウェルズの科学的知識をもとに執筆されたものだったため、作品の総称として「科学ロマンス」という呼び名が彼自身によって付けられました。彼の作品は今も多くの人に読み継がれ、何人もの監督の手によって映画化もされています。

SF小説の古典名作として広く知られる、ウェルズの代表作

本作は1898年に発表された、SF小説の古典名作として知られる作品。主人公の英国人男性が、かつての火星人の地球襲来(20世紀)を回顧するストーリーになっています。

火星人の襲来が緻密に表現されているのに加え、極限状態での人間の行動や信仰、希望や絶望などが描かれています。深い内容に加え、読者を全く飽きさせないスピーディーな展開が楽しめる作品です。

著者
H.G. ウェルズ
出版日

イギリス、ウィンチェスターを舞台に、火星人襲来とそれにまつわる世界の混乱を描いたこの作品は、ラジオドラマ、映画、音楽が次々に発表され、今でもファンが絶えない作品の一つ。この作品をもとにした最新の映画は、2005年に巨匠スピルバーグ監督、トム・クルーズ、ダコタ・ファニング主演によって映画化された『宇宙戦争』が記憶に新しいところです。

1938年にラジオドラマが放送された際は、火星人襲来やそれによって引き起こされる人々のパニック状態などがあまりによく描かれていたため、視聴者が本当の出来事だと勘違いし大騒ぎになったというエピソードも残っているほど。

今私たちが「火星人」と聞いて連想するタコのような火星人の姿は、本作の中で描かれている火星人が元になっているとされています。ウェルズは本作の中で火星人や彼らの文明の異質さを、19世紀末の当時からは考えられない豊かな科学の知識で、緻密に描き出しました。

街を戦車で走り回りながら毒ガスを撒き、熱線で無差別に人間を殺し、全てを破壊していく火星人たち。それに伴ってあぶりだされる、人間の絶望や狂気の様子。平和主義者であったウェルズは本作を通して、戦争の怖さと平和の大切さを訴えようとしていたと解釈できるでしょう。

SFのエンターテイメントさの中に、人類の未来を予見したかのような現実感のあるストーリーライン。読み返した数だけ新しい気づきがある、永遠に色褪せない名作です。

ウェルズのデビュー作にして最高傑作との名も高い、衝撃的な作品

本作は表題作「タイムマシン」を中心とした短篇集。ウェルズのデビュー作であり、同時に彼の最高傑作とも言われています。時間軸を移動するタイムマシンを題材にした初期作品のうちの一つです。

著者
H.G. ウェルズ
出版日
2000-11-17

本作は7篇の短編小説から成る短篇集ですが、中でも群を抜いて魅力的なのは、表題作の「タイムマシン」でしょう。タイムマシンを発明した主人公が80万年後の未来へ行ってきた体験を語るというストーリーです。

80万年後の世界では、作品が描かれた19世紀末に想像されていた未来の人間社会が描かれます。その社会では人間は仕事をしなくてもよく、遊んで暮らせる存在。しかし主人公はやがてその人間社会がエロイとモーイックという別々の種族で成り立ち、社会はエロイ族が仕切っていることに気づくのです。

本作は、社会主義派であったウェルズが、資本主義社会の行く末と考えられていた「格差社会」を予見して描いたとされています。ウェルズの科学的知識が本作でも抜群に発揮されており、タイムマシンという好奇心を駆り立てる存在と共に、文明に頼りすぎると人間が陥りやすい危険性を力強く描いています。

小説というものの奥深さや、小説はその時代の社会を色濃く映す媒体であるということを再確認させてくれる作品です。お子さんと一緒に家族で読んでも、きっと楽しめるでしょう。

ウェルズの人気を確立した作品の一つ。今読んでも新鮮な生物系SF小説短篇集

本作は『宇宙戦争』『タイムマシン』と同じく1890年代に描かれたSF・怪奇小説短篇集。ウェルズの人気を確立した作品の一つになりました。

表題作の「モロー博士の島」では主人公のエドワード・プレンディックが、乗っていた船の難破をきっかけにモロー博士と出会い、数奇の運命を辿って行く様子が描かれます。SF小説のエンターテインメイト性に不気味な怪奇要素が織り込まれた、今読んでも新鮮味を覚える作品です。

著者
H.G. ウェルズ
出版日

主人公プレンディックは、難破後たどり着いた無人島でモロー博士と出会います。博士は10年ほど前から島に滞在し、助手と共に動物を改造した「動物人間」を作っていたのです。動物人間の多くは従順でしたが、時間が経つと野獣に戻る欠点を持っていました。

主人公はモロー博士たちとともに1年ほど島に止まりますが、その間に動物人間との間で様々な事態が起こり、人間の奥に潜んだ凶暴性、獣性とでも言うべきものが否応無しに表面化し始めます。

本書が描かれた時代は19世紀末なので、博士が動物人間を製造する過程は今考えられる方法よりもかなり原始的ですが、その不気味さと危うさは今の時代に読んでも新鮮味を覚えるほど。

他の作品にも顕著に現れていますが、ウェルズは自身の作品を通して、人間社会の行く末に警報を鳴らしていました。

その歴史の中で何度も過ちを繰り返し進んできた人類。人類に潜む果てしない欲望と獣性、そしてそれらの極限状態を本作で示すことで、現実世界での過ちを少しでも減らそうと必死だったウェルズ。本作を読んでいるうちにふとそんな彼の意図が感じられ、作品の奥深さが心に染み渡るでしょう。

人間の願望を具現化した世界を描いた、あまりにも有名なSF小説の古典

本書はイギリス・ロンドンに住む主人公の科学者が、人間の常なる願望「透明人間になる」薬品を開発したところからスタートします。主人公はそれを使い実際に透明人間に姿を変え、数々の事件を巻き起こしていきます。

「透明人間」になりたいという願望はあれど、もし実際になった場合、一体人間はどうなってしまうのか。あまり注目されない所に焦点を当てて描き上げた傑作です。また当時(19世紀末)におけるイギリスの生活の様子が鮮やかに描かれており、イギリス文化や歴史に興味のある人であれば一層楽しめる内容になっています。

著者
H.G. ウェルズ
出版日
2003-06-19

本書の「薬品によって人間が姿を変える」というアイデアは、スティーヴンソン著『ジキル博士とハイド氏』にヒントを得たと言われています。

世間の人をあっと驚かせたくて透明人間になる薬品を作り、元の姿に戻れなくなった主人公の悲しい運命が、時々ユーモアを交えた文体で描かれていきます。空想の世界に止まらず、実際に透明人間になるとそれまで行なっていた人間の活動はどうなるのか。当時の常識・見解からすると、この物語がかなりリアルな視線で考えられていることが分かるでしょう。

何より読者をひやりとさせるのは、ストーリー自体よりも、名声を求めて猛進し、執念で周りが見えなくなってしまう人間の恐ろしさ。人間の思考が極端に振れる危険性がまざまざと感じられます。読者は自然と主人公の状況を自分自身に照らし合わせつつ、ハラハラしながら読み進めるに違いありません。

妙に現実味溢れる世界観にひやりとしながらも、先が気になり最後まで一気に読みたくなる、色褪せない名作です。

歴史がもっと身近に、面白く感じられる!一度は読んでおきたい名著

本書はSF作家のウェルズらしく物語性溢れる一冊で、他の歴史書とは一線を画すもの。歴史上の出来事や人々の関係性が、科学技術の発展を交えながら分かりやすくまとめられています。

出版当時は軍国主義が高まる世の中だったため、まず『世界史文化概観』の名で発表され、1965年に現在の題に変更されました。平和を常に願っていたウェルズが魂を込めてまとめた本書を読めば、私たちの生きる世界の歴史がもっと身近に、そして面白く感じられるでしょう。
 

著者
H.G.ウェルズ
出版日
1966-06-20

第一次世界大戦の惨状を目の当たりにしたウェルズ。常に平和を願っていた彼は大戦後間も無く、本書の執筆に取り掛かります。しかし世界各国はナショナリズムに傾倒していくばかり……。

再び世界の雲行きが怪しくなってくる中、人類全体が共有すべき歴史の概念を求めて執筆された本書。ウェルズは人類が共通の歴史(過去)を持つ事で、共通の未来を作っていけるのではないかと考えました。下巻と合わせ読者に歴史に対する新しい視点を与える良書として、今も読み継がれています。

読者が本書を読み始めてまず感じるのは、その読みやすさ。歴史書というと事実が淡々と述べられ、学生にとっては特に退屈なイメージがあります。しかし本書は、さすが作家とでも言うべきリズミカルな文体と展開で、読者を惹きつけ飽きさせません。

SF作家の間で大御所とも言うべきウェルズの名作5選を、一気にご紹介しました。映画化された作品を知っていたり、映画化されていなくても既に題名を耳にしたことのあるものも多いでしょう。どれから読み始めてもハズレはない作品ばかりなので、今回ご紹介したあらすじ・感想を参考に、自分が現在最も興味を持てる作品を選んでみてください。読み始めたが最後、ウェルズの世界にどっぷりハマっている自分に気づくはずです。

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