ロマン・ロランのおすすめ作品5選!ノーベル文学賞受賞者の美文に浸る

更新:2021.12.21

ロマン・ロランの作品は、読んだ経験がなくても一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ロランは多くの優れた作品を世に残しましたが、今回は厳選した名作5作品をご紹介します。きっと気になる作品が見つかり、すぐに読み始めたくなるはず。

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平和主義を貫き、戦争反対を訴え続けたノーベル文学賞作家、ロマン・ロラン

ノーベル文学賞受賞者であるロマン・ロランは平和主義を貫き、戦争反対を世界に訴え続けた作家です。1866年にフランスで公証人の職を持つ両親の元に生まれたロランは、勉学に励み、若いうちからその頭角を現しはじめます。

パリの高等師範学校で哲学、歴史、そして音楽などの芸術も学んだロランは、大学などで音楽史や芸術史について教鞭をとる傍ら執筆活動も開始しました。33歳の時に発表したのが『ベートーヴェンの生涯』でした。これが好評を博し、その後の『ジャン・クリストフ』の執筆につながります。

第一次世界対戦が勃発すると、ロランは祖国フランス及び相手国に対し戦闘中止を訴えました。彼の姿勢は祖国で好感を持たれず、国際的には高く評価される一方でフランスでは受け入れられないという状態が、その後も長く続きます。

そして50歳になった1916年、1915年度ノーベル文学賞を受賞。第二次世界大戦勃発後も、ナチスの侵攻により沈黙を強いられるものの、戦争反対の姿勢を貫き通しました。世界大戦が終わる前から病床につき、パリ解放後1944年末に息を引き取りました。

ロランは日本と交流のあった作家としても知られており、1971年設立された「ロマン・ロラン研究所」が現在も存在します。

ベートーヴェンの音楽を心の拠り所としていたロマン・ロランの、魂のこもった一冊

ロマン・ロランは少年時代よりベートーヴェンの音楽を心の支えとし、2度の対戦を経験する過酷な人生を忍びながら生きました。本書は著者がその心の救い主、ベートーヴェンに捧げた一冊と言っても過言ではないでしょう。

自分のためではなく、苦しんでいる他者のために作曲を続けたベートーヴェンの生き方が鮮やかに描かれており、静かな感動を覚えます。読後は以前とは違った心持ちで、思考を巡らせながらベートーヴェンの音楽を鑑賞するようになるでしょう。

著者
ロマン・ロラン
出版日
1965-04-16

ロマン・ロランはベートーヴェンの音楽とその生き方を心の支えとしていたため、それをつぶさに描いた本書に少し著者の感情的な思い入れが見て取れるのは否めません。

本書に描かれているのが正真正銘のベートーヴェンだとは言い切れないものの、その人生と音楽への情熱が真摯に描かれている本作に、読者は読み終わるその瞬間まで強く惹きつけられるでしょう。

本書はロマン・ロランが書いた音楽の評論書の中でも最も有名な作品で、その後の日本におけるクラシック知識層に多大な影響を与えました。ベートーヴェンがどのような思いを持ち作品を残していったか、彼の情熱と神に対する信仰心などが手に取るように身体で感じ取れる、正にベートーヴェンの音楽を表現したかのような1冊です。

フランス革命後のパリでの人間模様を描いた、ロマン・ロランの美しい戯曲

本作はそのタイトルも印象的な、フランス革命後のパリを舞台にした深みのある美しい戯曲です。1794年のパリでは、革命議会の恐怖政治のもと人々が怯えながら暮らしていました。

革命勝利に力を注いだ、主人公の議会会員のジェローム。老人の域にさしかかっていた彼には歳の若い妻ソフィがいます。しかし、彼女はかつて相思相愛の中にあった、逃亡中のジロンド党員ヴァレーに再び思いを募らせているのです。そのヴァレーが革命議会の賞金首の対象となり命を落としたという偽りの知らせを聞き、ソフィは大きく動揺します。

それを見て全てを悟ったジェローム。ソフィとともにパリへ舞い戻ってきたヴァレーを匿いますが、今度は彼とソフィが危険な立場に置かれることに。

ジェロームは妻ソフィの気持ちを知り、友人のカルノーが準備してくれた逃亡のための旅券2枚を彼女に渡します。ヴァレーと共に国外へ逃げることを薦めながら……。自分はヴァレーを匿ったこと、そして革命議会が決定したダントンの処刑に反対したことで捕らえられ、いずれ処刑されるのを覚悟した上でのことです。

ソフィはそんなジェロームの決意を知り、自分も究極の選択を迫られます。彼女が出した結論とは果たして……?

著者
ロマン・ロラン
出版日
1960-01-05

タイトルにある「愛と死」とは、作品の中に表れる2通りの「愛」と「死」の対立を指していると読み取れます。

その1つは、ヴァレーと共に逃げる「愛」、もしくはジェロームと共に「死」を選ぶのかという、ソフィの極限の決断。逮捕を覚悟しているジェロームの気持ちを察したソフィは、ヴァレーを送り出し、ジェロームと共に留まることを選択するのです。

そして2つ目は、狂信的になってしまった革命議会の意向に反するジェロームが対面する「愛」と「死」。友人カルノーが薦めてくれたように革命議会の独走に目をつぶり、妥協して国外へ逃亡するのではなく、「死」を受け入れてでも自分の信念を貫くと決意します。

ヴァレーを心から愛するからこそ、彼を1人で国外へ送り出し、「死」を伴う選択をしたソフィ。そして「現在を未来のために犠牲にする」という議会の姿勢に反対し、個人が国家権力の犠牲になることに最後まで抵抗し続けたジェローム。

本作はそんな究極の選択に迫られた人間の姿を静かにあぶり出し、私たちに「愛」と「死」とは何か、そして生きる意義を教えてくれる傑作と言えます。

第一次世界大戦前後のパリで、懸命に生きる一人の女性を描いた大河小説

題名にある「魂」とは、主人公アンネットの魂の遍歴のこと。本作は第一次世界大戦前後、共産主義とファシズムが交錯する中、アンネットがパリで幾多の困難を乗り越え生きて行く姿を描き出す、全3巻に及ぶヨーロッパ版大河小説です。

裕福な家庭に生まれ育ったアンネットは、父の死後彼の手紙の整理をしていたところ、自分に母親違いの妹シルヴィがいる事実を知ります。衝撃を受け戸惑うアンネットでしたが、妹に会ってみたいという好奇心からシルヴィに会いに行くことに。

当時のフランスでは、自立した生き方を求める女性に対し大きな偏見がありました。自立した女性として存在したかったアンネットは、その時代当然とされていた結婚を拒みます。しかし恋の末一度関係を持ったことで息子マルクを授かり、そこからシングルマザーとしての新たな闘いが始まり……。

著者
ロマン ロラン
出版日
1989-11-16

ロマン・ロランの最高傑作と名高い『ジャン・クリストフ』に次ぐ名作と言われる本作。様々な困難や障害にもめげず懸命に生きる主人公アンネットの姿に、深い感銘を受ける読者も多いでしょう。以下の引用では、アンネットの強く気高い精神性がとてもよく表現されています。

「魅せられたる魂の女は、熱を帯びた手でそれを振り払うが、それは次々にやって来て、最後の臨終で断ち切られる。しかし、すべてが過ぎ去り、すべてが魔術であるとしても、幻想と夢の力、不断に創造し更新する生命の躍進力は残るのである。それは彼女、アンネットの生命の源だからだ。」(『魅せられたる魂』より引用)

アンネットは、ロマン・ロランが自身の理想の女性像を形にした存在と解釈されています。個人として自由に意見を表明し生きることが難しかった当時、ロランは本作の物語そして彼女の姿に未来への希望を託したと言えるのではないでしょうか。

ロマン・ロランの平和への願いが託された、2ヶ月の切ない恋物語

舞台は第一次世界大戦下のパリ。軍隊へ召集を受けたばかりの良家の息子ピエールと、生活の糧を得るために画を描くリュースは、ドイツ軍の空爆が始まった時、パリの地下鉄で偶然出会いました。

結ばれるのは難しいと分かっていても、惹かれる気持ちを抑えられない2人。「戦争さえなかったら……」と読者の誰もが思うでしょう。この作品は恋愛小説であるとともに、ロマン・ロラン自身の強い信念を映し出した反戦小説でもあるのです。

著者
ロマン ロラン
出版日
2015-12-16

半年後には戦地に出向かなければならないピエールと、軍需工場で働く母と2人で暮らしているリュース。偶然地下鉄の混み合う車内で出会った2人は、厳しい現実に対抗するように恋人同士の濃密な時間を過ごします。

その姿はまるで、現実から逃避し自分たちが望む幻想の「幸せ」を求めて生きているよう。彼らはいつまでもこの状態が続くわけではないとどこかで既に悟り、諦めているようにも見えます。

ピエールが軍隊に入るまでの6ヶ月間、初めてであり、おそらくは最後の恋になるであろう時間を健気に生きる2人の姿に、読者は感動を覚えると共に「今、生きている」ということ、そして「生きて誰かを愛せるということ」の有り難みを深く感じることでしょう。

今井正監督の日本映画『また逢う日まで』(1950年)は本作を元に作られたと言われています。作品の舞台は異なりますが、物語の筋と心揺さぶられる主人公2人の恋愛の描写、そして戦争の残酷さを伝えるメッセージ性はそのまま。本作を読んだ後、『また逢う日まで』を観て余韻に浸ってみるのも良いかもしれません。

全10巻にも及ぶ、ロマン・ロランの作品の中で最も有名な歴史大作!

本作はロランの作品の中で最も知られている、全10巻にも及ぶ超大作です。1904〜1912年にかけて発表されました。

主人公クリストフは、ドイツのライン河沿いに位置する小さな街で、宮廷音楽家の家系に生まれます。父は酒に溺れ、母は家計を支えるために女中として働きながら3人の子供を育てなければなりませんでした。

父はクリストフの音楽の才能を見抜くと、彼に厳しい特訓と練習を強います。やがてクリストフは宮廷で指揮やピアノの演奏を担当するようになり、母の代わりに家計を支える大黒柱となりますが、彼の心の中では相反する思いが葛藤していました。

名声を得るために音楽活動を薦めてくる父親や祖父に対し、貧しくても音楽というものの本質を大切にし、神と自然に繋がる生活をしてこそ人々の心に響く音楽を作れるのだと考える叔父ゴットフリート。それぞれの根本的な違いに苦しむクリストフでしたが、同時に彼を大きく成長させていきます。

やがてクリストフは真実の愛と友情を求めて出会いと別れを繰り返すようになり、また封建社会から市民社会へと移り変わるヨーロッパ史の転換期の中で揉まれ、彼の音楽はさらに深みを増していくのでした。

著者
ロマン・ロラン
出版日
1986-06-16

主人公クリストフの人物像は、ロマン・ロランが心酔し最も影響を受けた人物といっても過言ではない、ベートーヴェンを参考にして生み出されたと言われています。本作は著者が『ベートーヴェンの生涯』を出した後に発表されており、前作の影響を色濃く受けていると言って良いでしょう。

本作は全10巻にわたりクリストフの人生を鮮やかに描き出し、彼の人間としての成長の様子を追います。単に彼の生涯を綴るのではなく、彼の音楽家としての人生とヨーロッパ社会の変動も並行して描いているのが特徴と言えるでしょう。

読み始めればすぐに、本作がロマン・ロランの最も優れた作品と讃えられている理由が分かってくるはず。まるで数時間に及ぶオーケストラの演奏を聴いているかのような読感と、全巻読み終えた時の達成感は、他のどの作品にも取って代わることのできない特別なものです。

読者もクリストフとともに人間として成長を遂げられる、稀有で貴重な名作です。

ロマン・ロランの作品の魅力、分かっていただけたでしょうか?ここでは伝えきれないほどの魅力、そして奥深さが著者の作品には詰まっています。

おすすめの読み方はまず『ジャン・クリストフ』と『ベートーヴェンの生涯』の2作品を読み、それから他の作品に取り掛かること。この2作品はロランの生涯の支えとなったベートーヴェンを題材として描かれているため、著者の人生に対する考え方、向き合い方が最もよく分かる作品となっています。これらを読んでおけば、ロランの他の作品を読む際の心構えとでもいうべきものが築かれ、著者の作品をさらに深く理解し味わうことが可能になるでしょう。彼が魂を捧げて書いた作品の数々を心ゆくまで堪能してください。

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