背景の色や立体感にもこだわる秀逸なデザインと、読み手を考えさせる「間」の取り方が抜群にうまい村上康成の作品に登場する動物たちは、どれもシンプルでほのぼのとした顔をしています。村上が描く空間に、あなたの心は何を感じとるでしょうか?
村上康成は1955年生まれの絵本作家です。自他ともに認める「みずぎわ族」で、少年時代はザリガニ釣りのチャンピオン。魚釣りと絵を描くことが大好きだったそうです。
ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞、日本絵本大賞など数多く受賞しており、国内外で高く評価されているだけでなく、イラスト、エッセイ、オリジナルグッズ、最近はウクレレの演奏もするマルチなアーティストです。
伊東市の村上康成美術館や石垣島の村上康成絵本ギャラリーでは、自然の中でその世界観を堪能することができます。
『こんにちワニ』は「わはははは!ことばあそびブック」シリーズの1作目です。「いただきます」「ただいま」「さようなら」など、幼児にもわかりやすい言葉の語尾をダジャレに変えた、ことば遊びの絵本です。
「こんにち・・・・・・は」かと思ったら、ワニなの~!?
絵本のタイトルにもなっている「こんにちワニ」は、大きな口で今にも話しかけてきそうです。読み聞かせで子どもたちが大喜びしそうな、子ども心のツボを押さえています。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
幼稚園・保育園の卒園ソングでもお馴染み「みんなともだち」などの童謡も手掛けるシンガーソングライター、中川ひろたかの文章に村上康成のユニークなイラストがマッチして更なる笑いを添えています。
シンプルな言葉が語尾を変えただけでワハハと笑えるフレーズになり、幼児から大人まで愉快にさせるのです。「いないいない・・・・・・ばあちゃん」のおばあちゃんは、シワシワな顔でばあ!と大きな口を開けています。「ジャンケンポン、あいこでしょ」のページでは、お母さんとお父さんがジャンケンをしながら何かを持っています。さて、何でしょう?
子どもたちはきっと次から次へと楽しいフレーズを浮かべ、ことば遊びのアイデアは尽きないことでしょう。
この本が気に入ったら、擬音や濁音のことば遊び『とんとん どんどん』『ブルドッグ ブルブル』などもおすすめです。シリーズ6冊すべてに、村上康成が描くひょうきんな動物たちが登場します。
『ようこそ森へ』では1組の家族が森へキャンプにやってきます。わんぱくな男の子とお父さん、お母さんの3人が森でテントを張り、木登りやイワナ釣りなどを楽しみます。
家族の声は一言も出てきません。すべてカケスの独り言で話がすすみます。カケスの目線で描かれた絵は、深い山、大きく育った樹々、高い空を感じさせ、読み手の周りも森に囲まれたような気持ちになります。イワナが飛び跳ねる川は水しぶきがキラキラと光り、森の中からは虫たちの声も聞こえてきそうです。
- 著者
- 村上 康成
- 出版日
自然と生き物を愛する村上康成ならではの、緑豊かなお話ですが、何よりも立体感のあるイラストとストーリーの間の取り方が素晴らしい作品です。イタリア・ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞しました。
樹々や草原の緑色、たき火に照らされる顔のオレンジ色、満点の星の黒い色、清々しい朝を表す真っ白な背景・・・・・・。それぞれ使われている色も計算されています。好奇心旺盛な真ん丸な目玉でじっと見つめるカケスと家族の距離感も、森の深さ、空の高さを感じさせる構図が素晴らしく、子どもも大人も自然にカケスの目線で見ることができるのです。
「どうだい、いいところだろう。」カケスの声が読み手を森へ誘っています。
『オタマジャクシのうんどうかい』は、ドーナツ池のオタマ学校のお話です。オタマジャクシたちは立派なカエルになるために、ゲロゲーロが口ぐせのカエル先生から音楽や図工、体育などを習います。明日の運動会にそなえ、かけっこの練習にも熱が入ります。
でも、赤ちゃんの時にザリガニにしっぽを半分ちょんぎられてしまったタマだけは、みんなのように早く泳ぐことができません。みんなはタマのために何ができるか一生懸命に考えます。
- 著者
- 阿部 夏丸
- 出版日
- 2002-07-18
見学にしたら?競争はやめてみんな一列に並んで泳いだら?タマのために色々な提案が浮かびます。タマは自分のことを考えて提案してくれたオタマジャクシたちの気持ちを考えると、断ることもできません。でも、しっぽが短いのはたまたま運が悪かっただけで、みんなと同じオタマジャクシなのだから、みんなと同じようにしたいと本当は願っているのです。さあ、タマはかけっこでどうしたでしょう?
ラストは子どもも大人もホッとする結末ですが、心に一石を投じる深いストーリーです。カエル先生も言っています。「大切なのは、相手の気持ちになって、考えることだぞ。」
オタマ学校と同じように、様々な子どもたちと集団生活をスタートさせた小学校低学年の一人読みに、特におすすめしたい作品です。
『だっこして』では、甘えんぼのちっちゃいタコが「だっこして、だっこして!」とおかあタコにいつも言っています。掃除や洗濯、お化粧をしながら、朝食を食べさせながら、おかあタコはちっちゃいタコをいつでもだっこしてくれます。だって足が8本あるからとても便利なのです。
でもイルカの親子はだっこをしていません・・・・・・。愛情がたっぷりつまったお話です。
- 著者
- エクトル シエラ
- 出版日
村上康成の描くちっちゃいタコはつぶらな瞳がかわいらしく、抱っこをおねだりしてきます。おかあタコは口紅をつけてお化粧をし、やさしい笑顔でちっちゃいタコのリクエストに応えます。
おかあタコはどんなに忙しくても、8本足を器用に使いちっちゃいタコをいつでも抱っこしてあげるのです。タコのお母さんのように電話でおしゃべりをしながらお化粧をして、雑巾がけや掃除もしつつ絵本を読んで抱っこもしてあげることができたなら・・・・・・。8本足とは、なんとうらやましいことでしょう!毎日の家事や仕事に追われるお母さんたちには夢のようですね。
8本足がないイルカのお母さんは子どもを抱っこしていませんが、しっかり子どもを守っています。それに気づいたちっちゃいタコは、おかあタコのために何ができるか考えます。片づけを手伝ったり、マッサージをしたりしてくれるなんて、これもなんとうらやましいことでしょう!
子どもを抱っこしてあげられる年月は意外と短いものです。是非とも、お子さんを膝に抱っこしながら、一緒に読んでいただきたい本です。
『どろんこ!どろんこ!』は、色々な動物たちがどろんこの中に入り、真っ黒になって出てくるお話です。動物たちはみんな、どろんこが大好き。どろの中で「ちゃぽちゃぽ」「どろん でろん」と遊びます。カエルにネコに犬・・・・・・。カラスはどろから出ても真っ黒です。さあ、最後に入っていたのはだあれ?
良く知られた動物たちのシンプルな絵とお話で、赤ちゃんから楽しめる絵本です。
- 著者
- 村上 康成
- 出版日
- 2013-02-22
まず、色がいいのです。どろんこは真っ黒ではない黒い色で、ピンクの猫やグリーンの犬が、泥だらけになって出てきたときに、どろんこの中はひんやり冷たくて気持ちがいいだろうなあ、と思わせる色をしています。表紙を開くと見返し一面がどろんこ色、各ページの背景も白とどろんこ色がリズミカルに続きます。
次々にどろんこの中に入り楽しんでいく動物たち。次は何の動物かな?と子どもたちはワクワクし、動物たちのどろんこの楽しみ方を真似したくなることでしょう。意外な生き物も入っていてびっくり!
読み聞かせではラストの「おつぎはだあれ?」の問いかけに、みんなが競い合って「ハイ!ハイ!ハイ!」と手を挙げてくるに違いありません。
今回は幼児への読み聞かせから、小学校低学年のはじめての一人読みに適した本をご紹介しました。村上康成は、他の作品にも生物をたくさん登場させています。どれも色や空間を上手につかったイラストで、読者をぐっと惹きつけ、何を感じた?と尋ねてくるような物語です。心に残る、お気に入りの一冊を見つけてくださいね。