スポーツ系青春小説おすすめ6選!読んだあとの爽快感がバツグン!!

更新:2021.12.20

スポーツを題材にした作品というと、スポ根ものを想像する方が多いかもしれません。しかし、単なる根性論や成長譚という言葉ではくくれない作品も多いのです。深みがあり、読後は爽やかな気分にさせてくれる作品をお届けします。

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傲慢なまでの真摯さで野球と向き合う主人公『バッテリー』

ピッチャーとして天賦の才を持つ原田巧は中学入学間前の春休みに岡山に引っ越してきます。そこで出会ったのが野球大好きな永倉豪です。巧の球に魅せられた豪は彼とバッテリーを組むことを願います。

巧は卓越した才能だけでなく自らの野球哲学を持っており、新田東中に入学後もそれを貫き通そうとして、管理的な野球をする顧問の戸村や先輩の展西たちと衝突してしまいます。そして巧の強さは、やがて豪をも傷つけることになってしまうのです。
著者
あさの あつこ
出版日
2003-12-25
あさのあつこはこの作品について「少年の成長物語などと言わせるものか。友情物語などに貶めたりしない」と述べています。その言葉の通り、『バッテリー』は単なるビルドゥイングスロマンではありません。

巧は12歳にして野球に対する完成された感性を持っています。自分の思う野球をするためなら障害となるすべてのものを排除する強さがあるのです。彼の球に魅せられ、それを受けるキャッチャーでありたいと願う豪ですが、あまりの一途さに疑問を持つこともあります。しかし巧はそんな豪さえ許すことができないのです。

巧の真摯な姿に胸を打たれながらも、「凡人」の気持ちもよくわかるという読者も多いのではないでしょうか。例えば巧たちの先輩展西。彼は内申のためとはいえ、ずっと真面目に部活動としての野球に取り組んできました。しかし巧の出現によって歯車が狂っていき、最終的に問題を起こしてしまいます。彼のやり方はほめられるものではありませんが、そう動かざるを得ない状況に追い込まれていった気持ちを考えると、やるせないものがあります。

全6巻を通して巧の基本的な姿勢は変わることがありません。マウンドに立つのは独りです。負うものは大きい。それでも、その視線の先には必ず女房役がいます。そこに、この作品の光があります。

3巻以降にはライバル校横手二中の天才スラッガー門脇と幼馴染でショートを守る古典好きな瑞垣のコンビも出てきます。2組のコンビは互いに影響しあい、それぞれの道を模索していくのです。似たような環境にある2組ですが、行く道が違ってくるのが面白いです。

その他にも実は伝説の監督だった巧の祖父井岡洋三、体が弱いものの野球が好きな巧の弟青波、野球を愛するキャプテンで策士の海音寺など個性的な登場人物がたくさん出てきます。どんな年齢や性別の人が読んでも訴えるところのある作品です。

全力で走り抜ける青春『一瞬の風になれ』

サッカー選手としての将来を嘱望される兄健一の背中を追ってサッカーを続けてきた新二は、高校受験で兄の通う強豪校に落ちたのを機に、限界を感じていたサッカーをやめてしまいます。自分にもできる何かを探していた新二は、幼馴染の連と一緒に陸上部に入部することになります。実は連もまた、陸上界では有名な存在なのでした。
著者
佐藤 多佳子
出版日
2009-07-15
走ることに青春をかけた高校生たちの物語です。健一と連という2人の天才が近くにいながら、努力を重ねることのできる新二が眩しいです。そして、そんな新二の力を認め、ここぞというところで必要なアドバイスをくれる三輪先生の存在にも心が温まります。

2016年のリオ五輪で日本チームが銀メダルを獲得した時に、マスコミでリレーにおけるバトンワークの重要さが頻繁に取り上げられ、リレーとはただ4人が走るというだけではなく緻密な技が求められることが知られるようになりました。この本にもそうした技の部分で悩む部員たちの姿が描かれ、陸上が実は奥の深いものであることを教えてくれます。

三輪先生以外にも、天才の名をほしいままにしながらも挫折を味わう健一、連と新二を素直に認めるチームメイトの根岸、新二が密かに思いを寄せる谷口などたくさんの人の中で、新二は走り続けます。サッカーや野球に比べ、やや地味な印象の陸上ですが、実はドラマティックなところのある競技なのです。

記録が伸びていく喜びや競技前の緊張などはスポーツに限らず、何かに一生懸命に打ち込んだことのある人なら経験したことがあるでしょう。そんな瑞々しい気持ちを思い出させてくれる作品です。

襷と共に想いをつなぐ『あと少し、もう少し』

『あと少し、もう少し』は駅伝に出ることになった中学生たちの物語です。陸上部部長の柳井は駅伝大会の為、目をつけていたメンバーを勧誘し始めます。足は速いがいじめられっ子だった設楽、不良の太田、陽気で頼まれると嫌とはいえない性格のジロー、吹奏楽部でサックスを吹くクールな渡部、そして柳井を慕う後輩の俊介。
著者
瀬尾 まいこ
出版日
2015-03-28
指導は厳しいが結果を出してきた満田先生が異動し、新しい顧問は陸上とは縁のない美術教師の上原先生です。ただ参加するだけではなく、勝って上の大会に出場したい柳井は、頼りない顧問と寄せ集めのチームで願いをかなえることができるのでしょうか。

中学男子の駅伝は6区間がありますが、章立てはそれに準じて1区~6区の6章で、その区間を走る選手を描くというスタイルをとっているのが面白いです。章を通じて6人が抱える悩みや思いの背景が明らかになっていきます。更に、それぞれが襷を渡す相手との間にあったわだかまりが、柔らかくほどけていくのが心地いいのです。

瀬尾まいこの作品の多くは、芯はあるもののふんわりした人物が登場し、いい抜け感が出ています。この作品でも顧問の上原先生がそんなキャラです。陸上に縁がなく応援すらも単調で、柳井のアドバイスをそのまま鵜呑みにしてしまうような天然ぶりですが、実は非常によく生徒たちをみていることがわかってきます。それでも、最終章で力尽きた柳井に「本当に貧血だったんだ」などと能天気なセリフを言ってしまうのが笑えます。

「あと少し、もう少し」早く走りたい、「あと少し、もう少し」みんなと走りたい。そんな登場人物たちの思いと共に、「あと少し、もう少し」この作品に浸っていたい……そんな風に思わせてくれる本です。

ドラマを観ているような鮮やかな小説『Box!』

高校教師の耀子は電車の中で不良たちに絡まれたところを一人の少年に助けられます。彼は鮮やかに不良を倒し、風のように去っていきました。翌週、耀子はその少年が自分の学校の生徒であることを知ります。彼の名は鏑矢義平。ヘラヘラと軽口ばかり叩くのにボクシングでは圧倒的な強さを見せつける鏑矢に、耀子は興味を抱くのでした。
著者
百田 尚樹
出版日
2013-04-12
ドラマのような導入にパッと心を掴まれます。恵まれた運動神経を持ち、ボクシング以外のスポーツも器用にこなせる鏑矢と、友人で彼に憧れて強くなろうとする優等生の木樽。天才型と努力型という対照的な2人はどんな道をたどるのでしょうか。そして2人は立ちはだかるライト級のモンスター、稲村を倒すことができるのでしょうか。

タイトルをみると「箱?」と思う方が多いと思いますが、動詞では「ボクシングをする」という意味があります。試合を始める時にレフェリーが選手にかけるのが、「戦え!」という意味の「ボックス!」という言葉なのだそうです。作品中ではさりげなくボクシングに関する説明がなされており、今までボクシングには縁がなかったという方でも抵抗なく楽しむことができます。

才能はあるが練習嫌いでおちゃらけの鏑矢、とにかく努力で伸びていく木樽、自分を完全にコントロールしているターミネーターのような稲村。3人のうち2人が当たる試合のたびに、どちらも応援したくなります。また、木樽が耀子に想いを寄せていたり、あけっぴろげに鏑矢好きを公言する丸野が出てきたりと恋の香りもするのです。悲しいエピソードも出てきます。

読めそうで読めない展開に引きずられ、登場人物たちと疾走するように読み終えてしまうこと間違いなしの1冊です。

わずか1.4秒の勝負『DIVE!!』

存続の危機にさらされているミズキダイビングクラブで飛び込みをしている知季たちの前に浅木夏陽子という新しいコーチが現れます。的確ではあるものの強引な指導をする彼女は、クラブ存続のために選手の中からオリンピック選手を輩出するといい、伝説のダイバー沖津白波の孫で、海でしか飛んだことのない自然児、飛沫を連れてくるのでした。
著者
森 絵都
出版日
2006-05-25
成績は残していないものの、夏陽子に「ダイヤモンドの瞳を持っている」と言わしめる知季の他に、富士谷コーチの息子でサラブレットといわれる要一、荒削りだが才能を感じさせる飛沫の3人の姿が描かれていきます。「海でしか飛びたくない」という飛沫を動かした夏陽子の策略とはなんだったのか、誰がオリンピック代表枠に残るのか、夏陽子が知季にマスターさせようとする無謀ともいえる技は成功するのか、ミズキダイビングクラブの存続は?など読みどころ満載です。

何より、幼い知季が「コンクリート・ドラゴン」と呼んだ飛び込み台からの心理描写が圧巻です。知季たちがしているのは5m、7.5m、10mの台から飛び込む「高飛び込み」という競技です。ただ立っているだけでも足がすくむような高さから神経を研ぎ澄まし、爪先まで気を抜かない美しいポーズを保ちつつ回転等の技をし、魚のようなしなやかさで飛沫をあげずに水面に沈む。……芸術の域のことをわずか2秒足らずの間にやってのけるのですから、その精神力たるや凄まじいものがあります。

この作品では、スポーツの政治的な側面もきちんと描かれます。飛沫の祖父、白波は伝説のダイバーでありながら戦争という暗い歴史の中で無冠のまま終わりました。個人の想いや努力だけではどうにもならない事情は、白波の悲劇から何十年も経った知季たちとも無関係ではありません。そこで3人がどう出るのかも面白いところです。

スポーツに勝ち負けがある以上、そして勝った選手やクラブ、更には国に名誉が与えられる以上、常に公明正大に……というわけにはいかないのでしょう。しかし、それでも3人は、飛び込みが好きだ、もっとうまくなりたい、もっと難しい技を決めたい、という気持ちで進んでいくのです。競技人口が少なく、馴染みのない方がほとんどでしょうが、読み終えた後は実際に飛び込みを見に行きたくなることでしょう。

自転車と共に歩む青春時代『自転車少年記』

幼馴染である昇平と草太、2人の成長と友情を描いた物語です。幼い頃昇平は、自転車のスピードを出し過ぎてしまい、草太の家の庭へ突っ込んでしまいます。それが2人の出会いでした。

自転車と向き合い、一緒に成長していく2人の青春物語です。

著者
竹内 真
出版日
2006-10-30

昇平と草太が自転車に触れながら、成長していく青春小説で、テレビドラマ化もされ、竹内の代表作となっています。

2人が出会うのは、まだ幼い3歳の時です。そこから月日が流れ2人が30歳になるまでの、自転車と向き合っていく様子を描いています。その間、友達関係の悩みやそれぞれの彼女への悩み、大人になっていく悩みと、たくさんの山場を自転車と共に乗り越えていくのです。

最初は数メートルだった距離がどんどん長くなっていき、最終的には日本縦断に挑戦します。自分のためや人のために、長い距離を自転車で駆け抜ける2人の姿はとてもすがすがしいものです。

作品を読み進めていくと、昇平と草太の青春が自分のものと重なってくることを感じます。自転車に乗って恋人に会いに行ったり、友達と出かけたり、レースをしてみたり……。

自転車を本格的に趣味にしている人はもちろん、学生以来乗っていない方にももちろんおすすめです。青春の傍にはいつも自転車があった、ということに、気づくかもしれません。

スポーツを題材にした青春小説をお届けしましたが、いかがでしたか?部活動を義務付けている中学が多く、そのうち7割近くの生徒が運動部という日本。かなりの人がスポーツ経験者なのです。スポーツ大好きな方も、ちょっと苦手という方も、青春真っ只中の人もそうでない人も、是非この世界に浸ってみてください。

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