気にはなっていたけど、ハードカバーの本は重かったり多少値段が高かったりして購入をためらっていた本も、文庫本になったら学生でも気軽に買うことができますよね。ここでは、文庫化された小説の中でも特に面白い高校生におすすめの作品ベスト15をご紹介します。
「ぼく」は天国に行く途中です。その時には既に、「ぼく」は自分がどういった人間として生きていたのか、名前をはじめ全て忘れていました。そんな「ぼく」の前に現れたのは、1人の天使。天使は、「ぼく」が生前に何か過ちを犯したために輪廻転生のサイクルから外れてしまったと言います。
しかし、抽選で当たったために、その過ちを正すチャンスが「ぼく」には与えられることになります。それは、服毒自殺で死亡した小林真の体に入り込み、「真」として1年間を過ごすこと。「真」として生き返った「ぼく」でしたが、そこで見たのは、自分勝手な家族や、友達のいない孤独な真の生活でした。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2007-09-04
産経児童出版文化賞を受賞した作品で、実写映画化、劇場アニメ化などもされました。
死んでしまった「ぼく」は、天使から転生するためのチャンスとして、自殺した小林真という中学3年生の少年の体に乗り移ります。最初はもちろん、真のことなど「ぼく」は何も知りませんが、生き返ってしばらく生活をするうちに、自分勝手な父親や、平凡な自分にコンプレックスを抱き不倫に溺れる母親、そして真に嫌味ばかり言って辛くあたる兄という、歪な家族の形に気がつきました。さらに、学校では親しい友達もおらず、真は孤独な生活を送っているなど、真として生活をするうちに彼がどういった生活をしているのかを知ることになります。
「ぼく」が真の体に乗り移り1年間生活することをホームステイと表現し、期間限定だからこその面倒な気持ちと、少しずつ真のことを知りながら真を通して他の人間と関わっていくことへの嬉しさと、矛盾しているようで誰もが共感できる「ぼく」の気持ちが、テンポの良い文体で気持ち良く描かれています。
児童文学の賞を受賞していることもあり、児童文学、あるいはヤングアダルトのジャンルに分類されることもあるので、10代の若い世代の方は特に楽しむことができるでしょう。また、それ以上の世代の方であれば、大人だからこそ見える視点で楽しむことができるかもしれません。普段から読書をする方であればサクサクと読めるので、休日の一気読み用にもいいですね。
婚約者である森崎朋美を事故で失った樫間高之は、彼女をしのぶために森崎家の山荘を訪れました。朋美は森崎製薬会社の令嬢だったのです。
山荘に集まったのは、高之の他に朋美の父親であり山荘の所有者である製薬会社社長の森崎信彦、母親の厚子、兄の利明、信彦の秘書である下条玲子、厚子の弟で朋美の叔父にあたる篠一正、一正の主治医の木戸信夫、朋美の従姉妹の雪絵、そして朋美の親友で小説家の阿川桂子の8人でした。
当初は朋美を忍び和やかに過ごしていた8人でしたが、突然、山荘に銀行強盗犯が逃げ込んできたことで状況は一変します。捕らわれの身になった8人は何とか脱出を試みようとしますが、状況はさらに悪くなっていくばかりで……!?
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1995-03-07
1990年にトクマ・ノベルズで発表されたミステリー小説です。少し昔の発表作になりますが、今でも各所のミステリーランキングなどでランクインしたり、数ある東野圭吾作品の中でも特に面白いと言われていたりするなど、根強い人気を誇っています。
山荘に閉じ込められるというシチュエーションや、限られた登場人物などは、ミステリーの設定としては昔からあるものなので、ミステリーファンとしてはむしろ少し手に取るのを躊躇うこともあるかもしれません。しかし、限定されているからこそのハラハラ感や、昔からあるシチュエーションだからこそ読者がしがちな予想を逆手に取ったような流れなどは、ミステリーファンも唸らせてくれるでしょう。予想外のラストについては、ぜひ手に取って確認してみてください。
また、読み終わった時に、あちこちに散りばめられていた伏線に気が付くこともあるはずです。そうなった時は、ぜひもう一度読んでみてください。新しい面白さが見えるかもしれません。
お調子者のマコトと俺は小学校時代からの友達のいわゆる幼馴染で、くされ縁という間柄です。マコトは人にドッキリをしかけるのが大好きで、俺はしょっちゅうその標的にされていました。
そんな間柄のまま、俺とマコトは30歳になり、マコトは会社の社長になっていました。ある日、マコトは恋人へプロポーズするために史上最大のドッキリを計画すると言い出して……!?
- 著者
- 行成 薫
- 出版日
- 2015-02-20
小説すばる新人賞を受賞した作品です。物語の冒頭は、高校生のマコトと俺の会話から始まり、ポンポンと勢いよく進む会話は、この物語が軽妙でコミカルな青春小説を印象づけますが、そう思って読んでいると、突然、「俺」達は30歳になっています。驚きながらも物語を読み進めると、また2人の高校生時代の話へと移行していくのです。
このように、物語の時系列はバラバラで、最初は理解するのに難しさを覚えることもあるかもしれませんが、いったん受け入れてしまうと、そこが面白みへと変わっていきます。現在と過去の記憶をまるで並べながら見ているような、新鮮な気持ちで楽しむこともできるでしょう。
また、タイトルに「エンドロール」と入っているように、作中には実在する映画が登場します。いずれも名作と呼ばれる作品ですが、それらの映画のストーリーもうまく絡めて描かれているので、登場する映画を知っている方にとっては、また違う視点から物語を楽しむこともできるはずです。
ラストに好みはわかれるかもしれませんが、それでも何かが読者の中に残ることは間違いありません。映画のような小説を読んでみたい方は、ぜひ一度チェックしてみてください。
舞台は、21世紀初めより1000年が経った日本です。その世界に暮らす人類は、「呪力」と呼ばれる超能力を持っており、その力を生活に利用しながら暮らしていました。
12歳の渡辺早季は、「神栖66町」という所で暮らしています。そこでは、「呪力」に目覚めた子供は、その力の訓練を行う「全人学級」へと入学しますが、目覚めない子供はネコダマシに連れて行かれると言われていました。
なかなか力に目覚めない早季は不安を募らせていましたが、とうとう「呪力」に目覚め、無事に「全人学級」へと入学することになります。先に入学していた朝比奈覚や青沼瞬、秋月真里亜、天野麗子らとの再会を喜びますが、ある日突然、麗子が学校から姿を消してしまい……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2011-01-14
近未来の日本で特別な力を得た人類を描いたSF小説で、2008年には日本SF大賞を受賞しました。後に、漫画化やアニメ化もされた人気作です。
本編は、主人公の渡辺早季が自らの経験を手記にしたためているという形で進められていきます。物語は、早季が12歳で「呪力」を発現し「全人学級」という呪力を訓練する学校へ入学した頃の話、14歳となった早季の友人・瞬が力を暴走させてしまう話、そしてさらに時が経ち、26歳になった早季達がバケネズミの調査や管理を担当するようになってからの話と、全部で3部構成の大長編になっています。
文庫本だと上・中・下と続く長い作品なので、普段あまり読書に馴染みのない方にとっては、その長さにまず手に取るのを躊躇ってしまうこともあるかもしれません。しかし、SF小説ではありますが、人によってはファンタジー小説でもあり、また、早季達の友情や恋愛は青春ストーリー、知ってはいけないものを知ってしまう辺りはミステリーやホラーの要素もふんだんに散りばめられているので、飽きることなく最後まで読む事ができます。
ただ、他ジャンルの要素が詰め込んであるぶん、SF小説好きの方がSF小説を期待して読むと、少し物足りなさや予想外な感想を覚えることもあるかもしれません。貴志祐介ファンの方にとっては、それまでの作品を全部味わえるような超大作として読むことができるでしょう。
大学の研究室にいた「おれ」ですが、助手との人間関係がうまくいかず、教授に勧められるまま奈良の女子高で短期的に教師をすることになりました。しかし、もともと「神経衰弱」とあだ名をつけられるほど胃の弱いタイプの「おれ」は、慣れない女子高生とのコミュニケーションがうまく取れず、悩む日々を送っていました。
そんなある日、「おれ」は奈良公園を訪れた際、突然、鹿から話しかけられます。人間の言葉を話す鹿が目の前にいるだけでも驚きなのに、「おれ」は鹿から、「運び番役」に任命されます。それは、60年に一度行われるという「鎮めの儀式」で使うという「目」を運ぶ役だというのですが……!?
- 著者
- 万城目 学
- 出版日
2007年に発表されたファンタジー小説で、テレビドラマ化や漫画化もされています。直木賞や本屋大賞にノミネートもされました。
主人公の「おれ」は、赴任先の奈良でいきなり鹿から声をかけられるのですが、この鹿は、実は1800年も前から人間を守り続けており、60年に一度の「鎮めの儀式」を行うための存在でした。この儀式というのは、地中にいる大鯰を封印し日本を災害から守るためのものです。その封印に必要なのが「目」であり、主人公が任命されたのが、この「目」を運ぶための「運び番役」でした。
「神経衰弱」とあだ名されるほど人とのコミュニケーションが苦手な主人公が、様々な出来事と向き合いながら成長していく成長物語であり、日本を危機から救う壮大なファンタジーであり、さらに「おれ」が顧問を務める剣道部の試合など甘酸っぱさや爽やかさもある学園ものでもある本作は、まさにエンターテインメント小説と言えるでしょう。
また、本作は夏目漱石の『坊ちゃん』を強く意識した作品でもあり、『坊ちゃん』を読んだことのある方にとっては、随所に見受けられるオマージュ的文体を読み解くのも面白さの1つかもしれません。奇想天外な設定ではありますが、同時にファンタジーばかりではないので、普段あまりファンタジーを読まない方でも受け入れやすいでしょう。読後感もスッキリと気持ちが良いので、楽しい読書をしたい方はぜひ手に取ってみてください。
家庭調査官の陣内は、その自由過ぎる考えや理屈で、職場では浮いた存在でした。そんな陣内の後輩である武藤は、ある日、マンガを万引きして捕まった高校生・志朗を担当することになります。
万引きはそれほど大きな罪にはならないため、武藤は志朗の家で、志朗の父親と共に面談を行うことになります。万引きなどを行う非行少年の多くは家庭環境に問題を抱えていると武藤は考えますが、予想通り、志朗の父親と志朗の関係はあまり良くないようでした。しかし、実は志朗と父親にはそれ以上の秘密があり……。
- 著者
- 伊坂 幸太郎
- 出版日
- 2007-05-15
短編集という形を取ってはいるものの、作者の伊坂幸太郎自身が「短編集のふりをした長編小説」と述べているように、収録されている短編は全て連作となっています。その短編作品全てに登場するのが陣内という少し変わった男なのですが、彼は登場するだけで、語り手になることはありません。
陣内はとても風変わりで自由過ぎる人物です。もし自分の職場に陣内のような男がいたとしたら、なかなか付き合い難いものがあるでしょう。しかし、物語の登場人物がそうであるように、不思議と憎めないキャラクターになっています。語り手にはなりませんが、彼の存在が、独特な世界観をより親しみやいものにしてくれています。
軽妙な物語の中にも、ふと考えさせられるようなメッセージ性もあり、幅広い世代の方に楽しんで頂けるでしょう。連作短編とはいえ、1つ1つの物語は独立しているので、長編を一気に読む時間のない方などにもオススメです。
大学1年の蔵原走(くらはらかける)は、あまりの空腹のためにパンを万引きしてしまいます。高校時代は中距離の選手として名を馳せていたカケルは、その足を活かして逃亡しますが、同じ大学の4年生である清瀬灰二に捕まってしまいました。
ハイジに連れられるまま、カケルは「竹青荘」、通称アオタケというボロアパートにやってきます。そこは大学の陸上競技部の寮として使われており、ハイジはそこで住人達の食事や掃除などの世話を焼きながら、陸上部では駅伝チームの主将を務める男でした。
「竹青荘」に住むことになったハイジは、そのままハイジ達と共に箱根駅伝出場を目指すことになるのですが、駅伝チームでもある竹青荘の住人は、運動音痴やヘビースモカーなど、スポーツとは無縁に見えるメンバーばかりで……。
- 著者
- 三浦 しをん
- 出版日
- 2009-06-27
2006年に発表された小説で、箱根駅伝をモチーフにした青春小説です。第1回ブクログ大賞文庫本部門で大賞を受賞し、実写映画化や漫画化、舞台化など幅広いメディアに展開されるなど、高い人気を誇っています。
王道のスポーツものなので、読む人によってはラストを予想できる部分もあるかもしれませんが、それを踏まえてもテンポ良く描かれたストーリーは最後まで面白く読むことができるでしょう。陸上素人のキャラクター達が無謀とも思える目標に向かっていく様は、陸上競技に通じた人にとってはもしかしたらリアリティが気になってしまう箇所もあるかもしれませんが、だからこそ予想外のワクワク感を生み出しているとも言えます。
走り続けなければならず、1人ではできないスポーツである駅伝。きらきらと輝くだけじゃない青春が、駅伝という題材と見事に絡み合って描かれています。駅伝に興味のある方はもちろん、青春小説を読みたいなと思った時は、ぜひこの本を手に取ってみてください。
後に、新選組の「鬼の副長」として知られるようになる土方歳三。しかし歳三は、元は百姓の家の子供であり、武士ではありませんでした。
彼がまだ百姓の子であり、近藤勇らと共に道場で剣の修行を積みながらも、夜ごと女と遊び回っていたある日、彼は佐絵という名前の女と出会い、逢瀬を重ねることになります。しかし、佐絵が身分の高い女であったために、その関係を秘密にするため、歳三は初めて人を斬ってしまいます。
一方で、江戸ではある職の募集がかけられていました。それは、京都に向かうことになった将軍の護衛というものでした。歳三は、同じ道場の近藤勇、沖田総司らと共に、この護衛の任に付き京都へと向かうことになりますが、着いた先で待っていたのは、歳三達の考えとは違う現実でした。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
1962年に「週刊文春」で連載が始まり、その後約2年に渡って続きました。映画化や舞台化の他、その後幾度かに渡ってテレビドラマになりました。老若男女問わず、世代を超えて愛されている歴史小説です。
上下巻に分かれており、分量も読み応えもあるので、あまり本を読み慣れない方にとっては読み終えるのに少し時間がかかってしまうかもしれませんが、時間がかかっても最後はきっと読んで良かったと思えるでしょう。
動乱の時代と言われる幕末で、己を貫き命をかけた男達の姿は、時代は違っても人が生きるということが強く伝わってきます。新選組や幕末が好きな方はもちろん、これまで特に興味のなかった方も、本作を読むことで興味が生まれることもあるでしょう。ただ、本作は史実に基づいた作品ではありますが、あくまでも創作なので、史実とは異なる部分もあります。もし本作で歴史に興味を持ったら、歴史を調べてから再読してみると、また新しい発見をしながら楽しむこともできるかもしれません。
池袋に店を構える果物屋の息子・真島誠、通称マコトは、地元の工業高校を卒業しましたが、働く気もなく、時折実家の果物屋を手伝っては小遣いを稼ぎ、相棒の森正弘、通称マサと遊んでいました。
マコトは、マサと何気なく寄った本屋で、1人の少年が本を万引きしているところに遭遇します。いいカモになると思い声をかけた2人でしたが、何故かマコト達に懐いたシュンと仲間になったのでした。
それからマコト達はヒカルとリカという少女と知り合いになります。5人はつるんで遊ぶようになりますが、ある日、リカがラブホテルで殺されるという事件が起きて……!?
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
- 2001-07-10
オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品で、「I.W.G.P」の通称で親しまれています。原作とは設定が異なる部分もあるものの、後に本作を原作としたテレビドラマ化も人気作となり、世間にその名を知らしめることになりました。
池袋に店を構える果物屋の息子である真島誠は、「池袋のトラブルシューター」と呼ばれており、彼の元には様々な問題が運び込まれますが、持ち前の正義感と行動力で解決に向けて動き回ります。登場する人物達は池袋を根城にしているちょっと悪ぶっている若者達で、誠に至っては補導歴もあり、見た目のいかつさもあっていわゆる札付きの不良といった雰囲気です。
しかし、そんな不良である誠が主人公として好感を持てるのは、誠が仲間思いで正義感が強く、小遣い稼ぎとはいえ母親の手伝いもちゃんとやってしまう可愛いところがあるからではないでしょうか。そんな誠は仲間からの人望も厚く、彼が池袋という場所で活躍する様子に胸がスッと気持ち良くなる方もいるでしょう。
ライトノベルに近い文体はテンポが良く、それがキャラクター達の性格や物語の世界観にも合っているので、どんどん読み進めることができます。石田衣良のデビュー作であり代表作とも言えるので、石田作品の1冊目としてもオススメです。
吃音に悩む少年・きよしは親が長距離トラックの運転手をしている関係で、小学校の頃、何度も転校を繰り返していました。しかし、吃音で「カ行」が苦手なきよしは、転校する度に繰り返される自己紹介の際、「きよし」の「き」がうまく言えず、そのせいで新しいクラスメイトにからかわれてしまうことが多くありました。
友達をうまく作れず、寂しい思いや自分の吃音と向き合い悩む日々を送るきよしでしたが、それでも小学校、中学校と、家族や周りの人々と触れ合いながら、少しずつ成長していき……。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2005-06-26
2001年から「小説新潮」に掲載された短編作品が収録された1冊で、主人公のきよしは作者・重松清の幼少期がモデルとなっているとされています。収録されている短編は、表題作の「きよしこ」を始め、「乗り換え案内」、「どんぐりのココロ」、「北風ぴゅう太」、「ゲルマ」、「交差点」、「東京」の7作品です。
吃音というコンプレックスを抱えた少年が、少しずつ周りと触れ合い成長していく様子は、少年の長い戦いを見ているようで、心が温まるというよりも胸が締め付けられるような思いになる方は少なくないのではないでしょうか。作者自身の体験を元にしているためなのか、行間からにじみ出てくるリアリティが読者をあっという間に物語へ引きずり込んでくれます。
作中ではきよしの吃音が描かれますが、吃音ではなくても同じように何かのコンプレックスを抱えている人にとっては、きよしの成長に勇気づけられるなんてこともあるでしょう。狙ったような感動ものではなく、1人の人間として日々を一生懸命に生きているきよしが丁寧に描かれており、人は誰かの一生懸命さに感動するものなのだと改めて感じさせてくれる作品です。
中学1年生の女の子である山野内荒野は、幼い頃に母親を亡くし、家政婦の奈々子さんと父親の正慶(しょうけい)と暮らしています。正慶はプレイボーイの恋愛小説家で、女の影が消えることのないような人でした。
ある日、荒野は電車のドアにセーラー服を挟まれて困っていたところを、通りすがりの男の子に助けてもらいます。同じ制服を着たその少年に思わず見惚れる荒野でしたが、少年はさっさとその場から去ってしまいました。
しかし、荒野とその少年・悠也は、同じクラスであることがわかります。しかし、悠也は荒野の名前を知った途端、何故か荒野に対して冷たい態度を取ってきて……?
- 著者
- 桜庭 一樹
- 出版日
- 2017-05-10
「恋の三部作」とも呼ばれている作品で、その通り物語は全部で3部の構成になっています。1部と2部はもともとライトノベルとしてそれぞれ発表されていましたが、その後、3部を合わせ、改めて一般文芸として刊行されました。2011年には少女向け漫画雑誌「なかよし」で漫画化もされており、若者を中心に人気の高い作品になっています。
荒野は、父親がプレイボーイな恋愛小説家であることもあり、恋愛に免疫のある子供かと思ったらそうでもなく、むしろ色恋には疎いタイプの女の子です。そんな子供と大人のちょうど中間にいるような荒野が、少しずつ成長していく過程の心理がとても丁寧に描かれている辺りも、若者からの共感を得ている理由の1つかもしれません。
第1部と第2部がライトノベルとして発表されていることもあってか、一目ぼれした男の子と兄妹になってしまう展開など少女漫画のようなシチュエーションが多くあるので、一般文芸よりももっと軽めの文芸を好む方向けとも言えるでしょう。
とはいえ、恋愛だけでなく、家族や友達との人間関係、進路の不安など、10代の女の子の不安や期待がみずみずしく描かれている辺りは、軽過ぎることもなく一般文芸として十分に楽しむことができます。舞台となっている鎌倉の雰囲気も、より物語の魅力を増大させています。初々しい恋愛物語を楽しみたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
在日韓国人の杉原は、中学時代までは朝鮮学校に通っていましたが、高校は日本の高校へと進学しました。
そんな杉原は、ある日、加藤の誕生日パーティーで桜井という少女と出会います。お互いに惹かれあった2人は少しずつ交流を重ねていきますが、杉原は桜井に自分が在日韓国人だということを打ち明けられずにいました。そんな中、杉原の親友である正一(ジョンイル)が事件に巻き込まれてしまい……。
- 著者
- 金城 一紀
- 出版日
2000年に直木賞を受賞した作品で、同作を原作とした映画は、日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を受賞するなど、高い評価を受けました。
主人公の杉原は、「クルパー」というあだ名の、腕っぷしの強い在日韓国人です。彼の腕っぷしの強さは、元プロボクサーの父親に仕込まれたものでした。そんな杉原の友人には、日本のヤクザの息子である加藤や、朝鮮学校時代からの悪友である正一(ジョンイル)がいます。
在日韓国人の杉原は、その立場故に様々な葛藤や苦しみを経験しますが、どう足掻いても変えられないものから逃げることなく、真っ向から立ち向かっていく姿に勇気づけられる方も多いのではないでしょうか。国籍というものがどれだけ人間に影響を与えるか、考えされるものも多く描かれています。
しかし、テーマは重みがある一方で、笑いを誘うような描写などもあり、重く考え過ぎることなく、単純に読み物として楽しむことができるのが、この作品の特徴でもあるでしょう。普遍的なテーマを扱っているぶん、性別や世代を超えて多くの人の心に届く作品です。
高校3年生になる春、和泉勝利(いずみかつとし)は、父親の福岡への転勤を聞かされます。既に母親が亡くなっていた勝利は、高校3年生へ進学する春から、叔母の家である花村家に居候することになりました。
勝利はそこで、5歳年上のかれんと再会するのですが、久しぶりに会った彼女がとても美しくなっていて驚きます。しかも、さらに驚くことに、かれんは勝利の通う高校に新任の美術教師として赴任してきたのです。学校、そして家で、かれんと同じ時間を過ごすうちに、勝利は次第にかれんに恋心を抱くようになり……。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1999-06-18
1994年に発表された当初は1巻完結の物語でしたが、その後、人気が高まりシリーズ化もされた作品です。
主人公の勝利は、母親を幼い頃に亡くしていることもあり、家事が得意な男子高校生です。一方、5歳年上のかれんは、久しぶりに会った勝利が驚くくらい美人な女性で、勝利のことを「ショーリ」と呼んで可愛がるのんびり屋。家事も不得意な彼女のことを勝利は少しずつ、男として守ってあげたい存在だと自覚し始めます。
しっかり者の年下男子高校生とのんびり屋の新任教師、さらに2人は従姉弟同士で同じ家で同居しているなど、王道のシチュエーションや展開がたくさん詰め込まれており、そのぶん展開の予想などもつきやすくなっているのですが、それでもつい読み込んでしまうのは、登場人物達の心理描写が丁寧で、引き込まれてしまうからでしょう。また、ストーリーがわかりやすいぶん、余計なことを考えずただピュアな恋愛模様を楽しむことができます。
文体も軽く、上記したように内容もわかりやすいので、読み応えよりもサクサクと読めるものを探している方にオススメです。少女漫画のようなキュンとする恋愛小説を読みたい方はもちろん、気楽に小説を読みたい方もぜひチェックしてみてください。
結婚した頃は幸せだったが、子供ができて生活が変わった頃から喧嘩が増え、仲の良かった頃などまるで遠い昔のようになってしまった夫婦。そんな夫婦を、ある日突然悲劇が襲います。それは、夫の交通事故。夫は一命を取り止めたものの、視覚や聴覚などほとんどの五感を失ってしまいました。ただ1つ、男に残された感覚は、右腕の皮膚感覚だけです。
妻は、そんな状態になってしまった男に自分の気持ちを伝えるために、あることを思いつきます。それは、男の右腕に文字を書くこと、そして元音楽教師である妻が右腕の上でピアノを弾くように指を動かすことでした。
- 著者
- 乙一
- 出版日
表題作である「失はれる物語」を始め、他に「Calling you」、「傷」、「手を握る泥棒の物語」、「しあわせは子猫のかたち」、「ボクの賢いパンツくん」、「マリアの指」、「ウソカノ」と、全8編が収録された短編集です。
それぞれ、ミステリーのような作品であったりファンタジーのような作品であったり、またシリアスであったり切なかったりとする物語ですが、いずれもストーリーやテンポが軽快でわかりやすく、さらに短編集なのでサクサクと読むことができるでしょう。とはいえ、ストーリーは面白くもありながら、ふと何かを考えさせられるような厚みも持っているので、簡単に読むことができながらも読み応えはしっかり感じることができます。
簡潔でわかりやすい文体は若者向きなのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、作品の内容はどの世代の方が読んでもきっと共感できる部分があるでしょう。乙一の他作品は少し好みではなかった方や、乙一作品を他に読んだことのない方にもオススメの1冊です。
公立春野台高校へ進学した神谷新二には、2つ上の兄・健一がいます。健一はサッカーユースの日本代表候補に選ばれるほどの天才フォワードで、同じようにサッカーをやっていた新二はそんな兄とサッカー強豪校の高校で一緒にプレイすることを夢見ていました。しかし、天才の兄との実力差や、同じ学校への進学の道が絶たれたこともあり、中学3年生でサッカーを辞めてしまいました。
高校に進学した新二は、体育の授業で幼馴染の一ノ瀬連と短距離勝負をすることになります。連は中学時代に短距離で全国7位にもなった実力者です。そんな彼に真剣勝負を挑む新二でしたが、連にはかなわず負けてしまいました。
しかし、新二のタイムはクラスメイトの陸上部・根岸康行よりも早く、そこに目を付けた康行に勧誘されたことをきっかけに、新二は連と共に陸上部に入ることになり……。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2009-07-15
2006年に書き下ろしとして発表された後、2007年には本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞し、その後、テレビドラマ化や漫画化などもされた評価と人気を兼ね備えた青春小説です。
サッカーを諦めた新二は、部員から「ターミネーター」と揶揄されるほどタフに練習をこなす努力家ですが、一方で本番になると緊張してしまうメンタルの弱さも持っていました。そんな新二の親友で抜群の運動神経を持つのが連で、新二達を陸上部に誘った康行など、陸上部員をはじめ、様々な個性的なキャラクターが登場し、物語を賑わせてくれます。
テンポの良い文体とストーリー、それに新二をはじめとしたキャラクターの生き生きとした感情はとても読みやすく、普段あまり読書の習慣のない方や中高生くらいの若い方もサクサクと一気に読むことができるでしょう。走っているシーンの爽快感は、読んでいてこちらも走っているような気分にさせてくれます。
「イチニツイテ」、「ヨウイ」、「ドン」とそれぞれ副題を付けられた3部で構成されており、全3巻で完結します。1巻ずつじっくり読むのも楽しいですが、3巻を一気に読むと、物語の特徴である疾走感をより楽しむことができるでしょう。
いかがでしたか? 文庫本は持ち運びにも便利なので、通学時などちょっとした隙間時間に読む本としても良いですね。これを機会に、ぜひ鞄に入れたくなるお気に入りの1冊を探してみてください。