”恋愛の神様”と呼ばれる天才シナリオライター・北川悦吏子。普段はテレビドラマを観ない方も、書籍から彼女の魅力的な世界に出会ってみませんか?今回は北川悦吏子らしさを感じられる作品5つをご紹介します!
日本の恋愛テレビドラマのライターと言えば、”恋愛の神様”北川悦吏子です。彼女が手掛けたタイトルは有名なものが多いですが、意外と彼女自身を知らない方は多いのではないでしょうか。
北川悦吏子は1969年生まれの女性です。幼いころはスカートよりズボンを好む男勝りな女の子だったそうで、恋愛にはあまり縁がなかったとか。
「ミュージシャンの小田和正と同じ大学に行きたいから」と選んだ早稲田大学にはストレートで合格。ちなみに、小田和正は結婚したいくらい好きだそうです。好きな相手に対してまっすぐな姿勢は、彼女の描く恋愛ドラマにも通じるものを感じます。
大学卒業後に入社した広告代理店は半年で退職。テレビ番組の企画制作会社に転職し、プロデューサーとしての道を歩み始めます。26歳の頃「プロデューサーは向かない」と自覚し、番組のシナリオに興味を持ち始めたのが、”恋愛の神様”北川悦吏子のスタート地点でした。
シナリオライターとしての才能を見出された後は、1992年『素顔のままで』、1993年『あすなろ白書』など、数々の恋愛ドラマヒット作を生み出していきます。1996年放送の『ロングバケーション』は社会現象に至るほどの大ヒットを記録し、2000年『ビューティフルライフ』では 向田邦子賞、橋田賞を受賞。”恋愛の神様”と呼ばれるようになり、シナリオだけでなく、エッセイや映画監督など活躍の場を広めていきました。
数々の輝かしい業績は、彼女の負けず嫌いな性格によって成し遂げられてきたようです。インタビューでは「ライバルのシナリオライターは?」という問いに対して「シェイクスピア」と答えており、彼女の志の高さを表しています。また、「どんなに好きな相手だろうと偉い人だろうと、仕事ならば言いたいことは言う」という印象的な言葉もあり、決して作品に妥協しない姿勢が伝わってきますね。
一方家事は苦手だそうで、得意料理は「お茶漬け」というかわいらしい一面もあります。「恋愛と仕事は両立できない」と言いつつも、「忙しくても好きな人とは一緒にいたいから」という理由で現在の旦那さんとの結婚を決めたんだとか。キュンとくるエピソードです。
現代のキャリアウーマンのお手本になりそうな、強くてかわいらしい女性。それが”恋愛の神様”北川悦吏子です。
大学生5人が織りなす恋愛や人生の悩みを描いた青春ドラマです。ちなみに表題にあるオレンジは、彼らがつくる「オレンジの会」というグループ名に由来するもの。青春って、とても元気で甘酸っぱいオレンジのようだけれど、夕日のオレンジ色のように懐かしく切なくも感じられます。絶妙な青春の日々を一言で表したタイトルは、さすがの一言です。
主人公の櫂は、社会福祉心理学を専攻している大学生。そんな彼が卒業後のことを考え始めた折、耳が聞こえない美少女・沙絵と出会います。沙絵はバイオリン奏者としての才能があったのですが、耳が聞こえなくなったことで挫折し、周囲との関わりを持たず、心を閉ざしていました。
彼女の苦悩に少しでも寄り添いたいと感じた櫂は、自分の友人や沙絵の親友などの力も借りながら、沙絵と心を通わせていきます。仲良しになった彼ら5人は「オレンジの会」というグループを結成し、耳の聞こえない沙絵にも障壁のないノートでそれぞれの感情や状況を共有することに。若いからこそ起きるすれ違いや感情のぶつかりを繰り返し、彼らは次第に幸福探しの答えを見つけていきます。
この物語の素晴らしい所は、ハンディキャップの有無に関わらず、見えない将来に対する不安を抱えた大学生たちの心情が繊細に描かれているところです。恋愛観も、子供のように無邪気な「好き」という気持ちと、大人として「どう生きていくか」を考える頭が交錯します。
- 著者
- ["北川 悦吏子", "片岡 忠彦"]
- 出版日
- 2006-02-24
ところで「私の不幸は誰にもわからない」と感じたことはありませんか?人は不幸を感じるからこそ本当の幸福を手に入れることができるのだと思いますが、不幸のまっただ中だとなかなかそうは思えないものです。
沙絵も「耳が聞こえない自分の不幸は誰にもわからない」と感じています。好意を寄せる櫂に心にもない言葉をぶつけてしまい、感情をコントロールできません。櫂のことを本当に好きだと思うがゆえに「自分の不幸を共有したくない」「迷惑をかけたくない」と思ってしまうんですね。この気持ちの裏返しはとても共感しますし、胸が締め付けられます。
もどかしく感じるシーンも多いですが、それを彩るセリフたちが青春のオレンジ色に染め上げてくれるのが『オレンジデイズ』の素晴らしいところ。未完成な登場人物たちが織り成す青春劇を楽しみたい方にお勧めします。
北川悦吏子の代表作ともいえる作品。テレビドラマ放送時は平均視聴率32.3%、最高視聴率41.3%を記録しました。
難病に侵され車いすでの生活を強いられている女性、杏子が本作のヒロイン。障がい者がヒロインという設定が、テレビ放送当時は斬新と話題になりました。才能があるけれど日の目を浴びることのできない男性美容師・柊二は、難病に負けず強い芯を持って生きる杏子の美しさに心惹かれます。
憎まれ口をたたきあったり、お互いの良い所に魅せられたり。2人が積み重ねていく時間は、カップルとして自然で幸せな日々です。「障がい者と健常者だから普通の恋愛ができない」なんてことは思わなくても、実際生活を共にしていくには困難も葛藤もあります。そんな障壁をものともしない2人の愛は、純粋そのもの。
杏子の命のタイムリミットは残酷にも迫っていきます。それでも愛し合う2人の姿に、心動かされる数々のシーン。「人生や命は美しい」というメッセージをぎゅっと詰め込んだラストは必見です。
- 著者
- 北川 悦吏子
- 出版日
- 2002-02-22
本作が大ヒットした後、国内に「バリアフリー」という言葉が一般化しました。杏子に対して柊二が「俺があんたのバリアフリーになってやるよ」と口説くシーンと、彼女に寄り添うために彼が様々な心配りをすることが社会の感心を誘ったそうです。北川悦吏子がそんな効果を期待したかはわかりませんが、障がい者に対する意識を変えたという点で、社会的意義のある作品と言えるでしょう。
北川悦吏子の書く作品には、他人には理解しえない苦しみを背負った人物と、その苦しみに共感して寄り添うパートナーが多く登場します。きっと人間の持つ苦しさや葛藤を大切にしているのでしょう。そして、そこから生まれる愛が純粋で尊いことを知っているのだと、作品を通じて感じさせてくれます。
最悪の日に出会った2人が、最良のラストを迎えるまでのちょっとした心の休暇。そんなコンセプトで誕生した本作は、等身大の2人の何気ない恋愛が描かれます。
ピアニストを目指すけれどもパッとしない日々を送るイケメン音大生瀬名と、婚約者に逃げられた30代崖っぷち女性の南。2人の問題は、うまく言葉にはできないもやもやしたもの。そんな2人の心の傷や、蓄積した疲れが徐々に癒されていく過程が繊細に物語られていきます。しっかり者だけれど弱い部分もある年上女性と、芯は強いけれど生活力はいまいちな年下男性。こんなカップル像は、当時新鮮に受け入れられ、多くの年齢層にカルチャーショックを与えました。
物語で特に印象に残る点は、キスシーンです。年上独特の余裕と直観力を持つ南と、自由奔放で本能的な一面を持つ瀬名だからこそ美しい描写が、数々のキスを彩ります。お互い、想いを寄せる相手以外にも近づいてくる異性がいるのですが、他との想いの違いを表すツールとしてキスを使うところが憎いですね。
- 著者
- 北川 悦吏子
- 出版日
「いつも、いつも走ることはないと思うんだ」という瀬名のセリフは、働き尽くしの人には響くのではないでしょうか。瀬名も、才能を羽ばたかせる前の休暇期間に南と出会っただけ。そして、休暇だろうと本気の期間だろうと共にいられる人が、運命の相手。
社会現象と言われるほど「ロンバケ」の略称で大ヒットした本作を、日々に疲れている方へ贈りたいですね。
本作には、少しひねりのある登場人物と秘密が隠されています。
幼い頃、再開しようと約束した「運命の人」がいるまま45歳になったシングルマザーのカスミ。経済力のない元旦那や、クリーニング屋での労働にあくせくする日々。そんな彼女のもとに現れた年下の天才デザイナー・ユーリ。謎めいた魅力を持ち容姿端麗な富裕層・ユーリは、なぜか平凡なカスミに興味を持ちます。
本来であれば結ばれるはずのない、年齢も経済力も何もかも違う階層に生きるカスミとユーリは、「運命の人」なのかもしれない、という期待と疑惑で結ばれていきます。しかし、掛け違えたボタンのような違和感が物語の進行とともに徐々に明らかになっていき……。
- 著者
- 北川悦吏子
- 出版日
- 2016-10-07
この物語に出てくる登場人物の特徴は、全員「まっすぐではない」こと。どこかで何かを隠し、嘘をつき、それに苦しんでいるのです。シナリオを描いた北川悦吏子自身が、「幸せな人物は誰一人いない」と語っていることからも、作品の特徴がつかめます。
「誰かを愛する」ことを具体的に形にしようとすると、難しいですね。「愛している」という言葉に集約されるのかもしれませんが、何が愛なのかを指すには、言葉だけでは足りないような気がします。
この作品で描かれる「愛」の形は様々です。中には、なかなか「愛」と呼べないようなものもあります。この物語で最後「愛」として残るのは、かけた時間・想い続けた時間です。「運命の人」を基軸に、様々な想いを持ち続けている登場人物たちの時間はどんな結末を迎えるのでしょうか。
ほろ苦く、一筋縄ではいかない物語を好む方におすすめしたい作品です。
恋愛ものでありながら、サスペンスやミステリーの要素も取り入れた一作。北川悦吏子の作品にはあまりない、キーパーソンが3人いる構成が見どころです。
過去に心の傷を負った妹想いの刑事完三と、心優しく兄を想う妹の優子。2人は、優子が過去に家庭教師をしていた令嬢のパーティに参加した際、見習いコックのミステリアスな男性、涼と出会います。最初はなんてことない出会いだったのですが、完三が追う事件の被害者と涼の関係が疑われたところから、3人の関係性は急変していくことに。
涼は女性関係をゲームのように転がす蠱惑的な男性で、人を寄せつけません。そして、今まで人を本気で愛せなかった彼の心を少しずつ開くのが、優子の愛なのです。惹かれあう2人と、涼を殺人犯として疑う兄の完三、錯綜する感情や疑惑。そして過去の意外な真実へと物語は帰着していきます。
- 著者
- ["北川 悦吏子", "小泉 すみれ"]
- 出版日
- 2004-03-25
様々な要因が交錯し、結末で深く感動させる展開は北川悦吏子のシナリオ力を感じます。
シェイクスピアが仕事上のライバルと語る北川らしい悲劇ですが、「月9」枠で放送されるテレビドラマとしてサスペンスが起用されることは、とても珍しいことでした。
それを可能にしたこの物語の醍醐味は、サスペンスとしての面白さと、恋愛劇としての切なさがどちらも楽しめる所です。「絶対に結ばれない」と感じさせる2人が恋に落ちる様子は、読者や視聴者の胸に響きます。
北川悦吏子の描く恋愛ドラマでは恋に落ちた2人が変化していく様子が美しく描かれますが、特に本作の涼の変化は大きく、魅力があります。彼が完全に心を閉ざすきっかけになった過去を思えばこそ、優子との関係によって愛に目覚めていく涼の姿は感動的です。
単純な恋愛物語は苦手という方は、まず本作から読んでみてはいかがでしょうか。
現在もなお、第一線で活躍する”恋愛の神様”北川悦吏子は、様々な障壁を越えて愛し合う人々の”美しさ”を描く天才です。また、ドラマで映像化されていた物語は場面ごとのイメージや登場人物が想像しやすく、説明文が多いと読みにくいという読者にもおすすめできます。是非これを機会に、様々な恋愛模様に浸ってみてください。