生き生きとした世界を切り取った写真の絵本おすすめ5選!

更新:2021.12.20

絵本でもなく写真集でもない。ちょうどその中間である、絵本の「絵」の替わりに写真を使った絵本。ふつうの絵本とは一味も二味も違う魅力のある、写真の絵本の世界。それぞれ異なるアプローチから出来上がった写真絵本5冊をご紹介します。

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こどもの日常を綴った、心温まる写真絵本『イエペはぼうしがだいすき』

主にこどもを撮った作品を発表し続けている写真家・石亀泰郎。彼の代表作のひとつ『イエペはぼうしがだいすき』は、石亀がデンマークの公園で出会った少年・イエペが「ぼうしがだいすき」な理由を、石亀が撮影した写真と共にイエペ自身が語る形で綴った本です。

帽子が好きということを語っているだけなのに、保育園に通う3歳のイエペがどんな性格の子で、どんな環境の中でどんな毎日を過ごしているのかが手に取るようにわかるのが不思議です。イエペの日常を切り取った石亀の写真は、その1枚1枚が印象深く、彼のイエペに向けた優しい眼差しが感じられます。

著者
文化出版局編集部
出版日
1978-12-17

デジタルカメラが普及しスマートフォンなどでも高画質の写真撮影が可能となって久しく、誰でも気軽に写真を撮れるようになった現代。オリジナルのフォトブックを作るという人も少なくないと思いますが、この本はフォトブックの先駆けではないでしょうか。

子どもを撮る技術が天才的な石亀が、偶然イエペに出会えたこと自体が奇跡に感じられるでしょう。出版されたのは数10年も前ですが、写真の瑞々しさは全く色あせていません。ちょうどイエペと同じ年頃のお子さんをもつお父さんやお母さんなら、我が子が主役のこんなフォトブックを作ってみたくなりそうですね。

「科学の種」を身近に感じられる写真絵本『まほうのコップ』

『まほうのコップ』は、いわば科学絵本です。実験絵本と言ってもいいかもしれません。

水の入ったコップを通して見ると、向こうにあるものが変化して見えます。ぐにゃりとつぶれて見えたり、数が増えて見えたり。ちぎれて見えたり、ビヨビヨに曲がって見えたり。その様子はとてもグラフィカルで芸術的にも見えます。簡単に試せる実験ですが、結果はとっても不思議。そして「どうして、こんなふうに見えるの?」と疑問もわいてきます。

身の周りのものが「まほうのコップ」によって命を吹き込まれたようにも見えて、面白いです。大人は水を通すと光が屈折するので、不思議な見え方をするのだということを知っていますから、そんな状況を目の当たりにしても、さほど気にも留めないでしょう。でも、初めて見る子どもには「発見」になります。子どもにとっての「初めて」の体験は、強烈な印象を残すものです。

著者
長谷川摂子
出版日
2012-09-19

「発見」して「驚き」、「面白い」と感じる。この本を見てから、家で同じようにコップに水を入れて実験をしてみる子もいるでしょう。本に出ていないものでも、何でも、手当たり次第に試してみるかもしれません。こうした体験は、科学的なことに興味を持つきっかけになり得ます。

色々なことに好奇心が芽生えてきたお子さんと、ぜひ一緒に読んでみてくださいね。きっと科学の入口に立たせてくれることでしょう。

牧場の暮らしを写真でリアルに伝える絵本『ぼくじょうにきてね』

『ぼくじょうにきてね』の主人公・5歳のまどかの家は牧場です。まどかはお兄ちゃんのたもつと一緒に牧場で飼育している乳牛のお世話を手伝っています。

この本は、まどかが語る形で、牧場での生活を紹介するというものです。写真のまどかは「本人」なので、牧場の暮らしは臨場感があり、当然ながらとてもリアルに描かれています。

まどかは牧場が大好き。それから、もちろん牛たちのことも大好き。そんな気持ちがあふれています。ある日、仔牛が生まれ、まどかはとても喜び、お兄ちゃんと共に一生懸命お世話をします。しかし「おとなの事情」で仔牛と数日でお別れすることになってしまい、悲しむまどか。切ない気持ちもお父さんに寄りそう写真から伝わってきます。

著者
["星川 ひろ子", "星川 治雄"]
出版日

いくつかのエピソードにより、ペットではない動物と一緒に生活するということが、どういうことなのかを教えられる内容になっています。お父さんが、生計のために牛を育てていることを説明する場面がありますが、まどかは子どもなりに納得し、さらにお手伝いを頑張ろうと決意します。

まどかの成長の過程を描きつつ、人が生きていくために牛の乳や肉などの恵みをいただいているのだということがさらりと書いてあるので、食についての理解も深まるでしょう。

活字は大きめで、すべてひらがな・カタカナで書かれているので、まどかと同い年くらいの、字をおぼえたてのお子さんにもおすすめします。自分と同年代の子が主人公だと、感情移入もしやすいですよね。愛がいっぱいの写真絵本です。

地球上に命をもたらす、水のさまざまな形が写真で見られる本『水は、 』

「、」の後に何と続くのか?早く表紙を開きたい衝動にかられる『水は、』。神秘的に輝くグリーンの水の玉のアップの写真が印象的です。

作者は1992年より屋久島在住のカメラマンの山下大明。本作品には、こどもの頃から山歩きが好きだったという山下が撮影した自然界における水の姿がバリエーション豊かにおさめられています。

水は様々に形を変え、自然の中に存在しています。我々の生活の中で、最も身近で欠かせないもののひとつである水。地球上に命をもたらすものであるのだ、ということが写真を通して伝わってくるようです。

著者
山下 大明
出版日
2012-11-07

主役はあくまでも写真。見開きページにたったひとつだけの文が添えられているだけです。それだけに見る者の想像力がかきたてられるのか、実際のサイズよりもずっとスケールが大きく感じます。山下の写真は美しく、幻想的です。

「水は、」に続く言葉のひとつひとつが、まさに大地にしみこむように印象深く、心にしみていくようです。ひとり読みができるようになったばかりのこどもが、無理なく読める構成となっています。図鑑のようでもあり、あまり本が好きでない子にも楽しめる作品です。

環境問題に向き合うきっかけになる本『世の中への扉 ゴミにすむ魚たち』

人が海に捨てたゴミの中で、魚が暮らしているという現実。そこから何が語られるのか?『世の中への扉 ゴミにすむ魚たち』は、環境保護について考えるきっかけをくれる本です。

海底には実に様々なものが沈んでいます。空き缶や空き瓶の類のみならず、ギターやバイクに至るまで。それらは人間が捨てたものに他ならないのですが、そんなゴミの中に魚が住みついていることに驚きます。写真を見る限り、魚はとても快適に暮らしているようです。ユーモラスにも感じる写真の数々を見るにつけ、ならば、そんなに悪いことじゃないのかも?と、錯覚してしまうのですが……。

著者
出版日
2011-06-28

人間の身勝手によって作られてしまった信じられない光景に、愕然とします。

たくさんの写真には、「海の底でゴミと共に生きている魚たちはたくましいけれど、決して幸せな訳ではない。必死に人間がもたらした過酷な環境を受け入れようとしているだけなのだ」という著者のメッセージが込められているようで、胸に迫ります。

前半は写真・後半はその解説と水中写真家である作者の環境活動の話など文章のみの構成となっています。文章は少し長めで、小学校低学年には理解するのが難しいかもしれません。ひとりで読むのは高学年になってからの方が良いでしょう。家族みんなで読むのもおすすめです。

いかがでしたか?写真は当然ながら思い切りリアル。しかし、時に絵よりも叙情的です。この度ご紹介した作品をはじめとする写真の絵本から、絵とは異なる写真の魅力を改めて知ることができるでしょう。写真の絵本は、趣の違う絵本を探している方に、ぜひおすすめしたいです。

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