グリム童話は実は残酷、とよく言われますね。実際小さな子に読み聞かせると、怖がってしまうことも。怖さを軽減するために、実際の動物の世界について話してあげるとよいでしょう。人間社会についてはぜひ、絵本を通してメッセージを伝えてあげて下さいね。
『あかいくつ』はアンデルセン童話です。いわさきちひろが水彩で描く優しそうな女の子に、思わず手にとりたくなる表紙。内容は、赤い靴を通じたメッセージ性のあるものとなっています。
貧しい家に住むカーレンという女の子。いつも裸足だったので、親切な靴屋のおかみさんがカーレンのために、古い布で赤い靴を縫ってくれました。ある日、カーレンのお母さんは亡くなってしまうのですが、カーレンはそのお葬式に赤い靴を履いていくのでした。
さみしそうに歩く赤い靴をはいたカーレンを、よその奥様が不憫に思い、引きとってくれました。裕福な家庭の奥様のおかげで、カーレンはきれいな娘に育っていきます。
さて、この後のカーレン運命は……。
- 著者
- ["アンデルセン", "神沢 利子"]
- 出版日
- 1968-08-01
カーレンは、教会で初めて洗礼を受ける日のために、おくさまに靴を買ってもらいます。その時選んだのが、初めてはいたあの赤い靴と同じ色の、きれいな赤いダンスシューズでした。
ところがこの靴を履いたとたん、靴が勝手に踊りだしてしまったので、カーレンは踊りを止められなくなってしまいます。街中を狂ったように踊るカーレンは、いばらに刺され、岩にぶつかり、傷だらけになりました。そして、カーレンは思わず首切り男に、足を切ってくれるよう頼むのです。
大人も悲しく涙を誘う絵本。キリスト教でなくとも、考えさせられることがたくさん書かれています。描写を気にして読み聞かせることを躊躇する必要もない、おすすめの絵本ですよ。
『オオカミがきた』は、イソップ物語の1つです。
羊飼いの男がいました。ある日、男はあまりに退屈すぎたため、いいことを思いつきます。「たすけて、おおかみがきた」と言いながら村の方に走っていくのです。もちろん、オオカミなど最初からいません。
さてこの後、男はどうなってしまうのでしょうか。
- 著者
- 蜂飼 耳
- 出版日
- 2009-09-26
男の叫びをきいて、村の人たちが大勢やってきます。でも男の嘘だとわかり、怒って戻っていきました。男は舌を出すだけで、悪びれてはいません。
しばらくたった、またある日。男はまた退屈になります。そしてまた同じことをして、村人に怒られました。それでも悪びれない男。
ところがある日、本当にオオカミが来てしまいました。羊たちはみんな食べられたり逃げたりして、いなくなってしまうのです。男は初めて泣き崩れます。
「くさのうえを かぜがしずかに とおりすぎていきました。」という、ぐっとくる文で終わります。子どもたちは、この絵本が何を伝えたいか、すぐ分かることでしょう。
かわいい羊が死んでいるシーンは、子どもにとっては、確かに残酷な描写です。でも最後のメッセージ性を含むもの悲しい一文は、この本の魅力でもあるのです。
『おおかみと七ひきのこやぎ』は有名なグリム童話です。お母さんに留守番を頼まれた7匹の子ヤギは、お母さんの言いつけを守り、お母さんの白い手でないお客さまには、戸を開けないようにしていました。
それを知ったオオカミは、手を白くして戸を開けさせようと奮闘します。最終的には、子ヤギたちはオオカミをお母さんだと勘違いしてしまうのですが、それに至るまでの子ヤギとオオカミの我慢くらべのような展開は、子どもたちに人気があるのです。
この本の魅力は他にも、臨場感あふれ、その場の雰囲気が味わえる絵にあります。動物の毛並み、草や木の質感、お母さんヤギのあたたかさ、家の中の家具の雰囲気。優しい絵に、まるでその場にいるような感覚になれますよ。
- 著者
- グリム
- 出版日
- 1967-04-01
残酷といえばもちろん、お母さんヤギが子ヤギたちを食べたオオカミのお腹を、大きなハサミで切ってしまうところ。ただ、本作から子どもたちは、正義や知恵や、誠実であることを学ぶことができるのです。
この物語は、お子さんに留守中のあり方を教えるときの定番ですね。このご時世、改めて定番である童話に込められた、人間としてのメッセージを求めて絵本を選別して読み聞かせるのもよいかもしれませんね。
有名なお話だからこそ、絵や文のよさで読み聞かせの本を選別してみましょう。
『白雪姫』はグリム童話です。白雪姫の絵本は数多く、絵も文もかなりの違いがあります。子どもの年齢に合わせて、残酷さのレベルをみながら選別することも必要だと思いますが、いつかは、原作に近いものを読んであげたいですね。
この絵本は絵がとても美しく、お子さんの絵画の参考にもできそうですが、最初の数文から少し怖い雰囲気も感じられるのです。グリム童話の本当の奥の深さを感じるためには、少々の残酷さも必要になってきます。
ある国に白雪姫というとても美しい王女がいました。一緒に住むお妃さまは、世界で一番美しいのは自分だと思っています。毎日鏡に、誰が一番美しいかを問いかけるお妃さま。白雪姫が7歳になると鏡は、一番美しいのは白雪姫、と言いました。
怒ったお妃さまは、猟師に白雪姫を殺すよう命じるのですが、かわいそうに思った猟師は殺せず、森へおきざりにしてきます。
その後、森で出会った小人たちと生活するようになった白雪姫に、一体何がおこるのでしょう。
- 著者
- グリム
- 出版日
この本は、文章が大変多いです。その分、私たちが知っているお話よりももっと、臨場感あふれる場面の説明がこと細かく描写されています。それらがグリム童話は残酷、といわれる所以なのですが、その反面、白雪姫のやさしい気持ちも、しっかり描写されているのです。
悪いお妃さまの最期を知っていますか?白雪姫が王子様と結婚する場面で終わっている絵本が多いですよね。しかし、この絵本には最後もう1ページあります。
実はお妃さまも、白雪姫の結婚式によばれていました。そして、美しい服を着て、鏡にいつものように聞きます。
その後どうなってしまったのかは、絵本を読み終わるまでのお楽しみ。大人が原作として読んでおきたい絵本かもしれません。
『ハーメルンの笛吹き男』は、大量のねずみを笛吹きがあやつる、有名な童話です。
ねずみに悩まされる街の人々。ついにねずみ退治をするために、笛吹き男が現れます。男が笛を吹くと、街中のねずみたちが笛吹き男の後ろに一斉についていきます。笛の音がねずみにどのように聞こえていたか書かれている絵本は、多くはないのではないでしょうか。
ねずみに笛の音が、どのように聞こえていたと思いますか?
- 著者
- ["レナーテ レッケ", "グリム兄弟"]
- 出版日
この絵本では、笛の音の聞こえ方を子どもたちが楽しめるように書かれているので、ぜひ読み聞かせしてあげて下さい。子どもたちもきっと、ねずみの気分になってしまうことでしょう。少し残酷ですが、その後笛吹き男についていったねずみたちは、川に落ちて溺れて死んでしまいます。
ねずみ退治に金貨を支払う約束をしていた王様。贅沢な生活を続けたい王様は、笛吹き男に約束の金貨を支払うことをしぶってしまいます。それに怒った笛吹き男は、街の住民たちを笛の音でひきつれて、街から消えてしまいました。
ところが、笛吹き男の魔法が山にあけた穴に、足の悪い男の子が間に合わずに、穴のこちら側に取り残されてしまった、というシーンがあるのです。男の子の気持ちと共に、街の人々が行った世界が、ファンタジックな絵で対照的に描かれています。ここだけは、少し悲しい現実が感じられるでしょう。しかしこれも、何かの教訓になるかもしれません。