ベストセラー『もてない男』の著書として知られる比較文学者・評論家であり、小説家としても活躍している著名人・小谷野敦。おすすめ5作品をご紹介します。
ベストセラーとなった『もてない男』の著者として知られる小谷野敦は、比較文学者・評論家・小説家と3つの顔を持ち、幅広い分野で活躍するマルチな才能の持ち主です。
彼は東京大学を卒業後カナダに留学しブリティッシュコロンビア大学で日本文学や比較文学を研究しました。川端康成の研究で知られる日本文学研究者・鶴田欣也の指導のもと留学中から多くの論文を発表し、各界の注目を集めていたそうです。彼は後の1999年、著書『もてない男』が10万部を超えるベストセラーとなったことで世間にも広くその名を知られることとなり、以降精力的に評論を発表し続けています。また小説家としても意欲的に活動しており、2010年には『母子寮前』、2015年には『ヌエのいた家』で芥川賞候補に名前が挙がっています。
鋭い眼と広い見解を生かし多くの分野で活躍する小谷野敦。恋愛に関連する独自論や過去の文学作品への辛口な批評は、特に読書に慣れた方にとって大変面白く感じられるものだと思います。今回は複数の顔を持つ彼の研究者の面に着目して選んだ、おすすめの5作品をご紹介します。
2017年3月に刊行された本書は、著者が1935年の第1回芥川龍之介賞受賞作である石川達三の『蒼氓』から、2016年の第156回同賞受賞作、山下澄人の『しんせかい』まで、すべての受賞作を読んだ上で偏差値をつけるという企画のもとに構成された1冊です。
文豪芥川龍之介の名を冠した、最も有名な純文学作品の文学賞である芥川賞。受賞作はメディアでも大きく取り上げられるため、普段あまり本を読まない方でも受賞作家の名前や作品名を耳にしていることだと思います。本が好きな方は特に毎回注目している賞でもありますよね。
- 著者
- 小谷野 敦
- 出版日
- 2017-02-13
最初に断っておきますが、この本に掲載されている各受賞作品の偏差値は、100パーセント小谷野敦の主観により、独断と偏見でつけられています。選考委員や世間の評価が高い作品でも低い偏差値がつけられているものも、もちろん存在していました。しかしそれに添えられた、辛口な批評が面白いことも事実。逆に読んでみたくなるかもしれません。名作とされている文学作品ですから「自分で読んでみる」ことが結局一番良いのです。そう、これは小谷野敦の評価がどうあれ「名作とされている文学を知る」ことができる非常に有難い本でもあります。
また著者は本書のまえがきで、こう語っています。
「同じ作家でも、ほかに面白い小説はあるのに、芥川賞に選ばれるのは、面白くないものが多く、また候補作の中でも、面白くないものを選ぶという性質がある。」(『芥川賞の偏差値』より引用)
この本は彼の芥川賞に対する考え方の記述からはじまり、それを踏まえての批評が延々と続いていきます。そして最後には、「芥川賞受賞作は名作群というわけではない」として独自に選んだ名作を偏差値つきで紹介しています。こちらも必見。本が好きな方には特に、大変面白く読んで頂けることだと思います。是非読んでみてくださいね。
2番目に紹介するこちらも小谷野敦の毒舌が冴え渡る、インパクトのある1冊です。まずタイトルが『バカのための読書術』。本書においての「バカ」とは「哲学や数学が苦手で抽象的な本を読めない人」と定義されているようで、著者はそのような人に対してまず、読めもしない難解本を「読まないこと」を勧めます。というのもインテリなイメージの強い著者も抽象的な哲学書と格闘した経験があり、本書はその末に導き出した答えを記した小谷野敦流「学問のすすめ」的1冊なのです。
- 著者
- 小谷野 敦
- 出版日
著者は本書の中で「バカ」に向けて、ある指針を示しています。それは「歴史を学ぶこと」。彼は特にフランス現代思想に興味を持つ人を例にして話を進めていますが、最初から抽象的な思想を論じるような難解本をわからないままに読むのではなく、小説でも漫画でも良いから、とにかく歴史的事実を面白く学べ、と言うのです。深めてゆくのはそこからだ、と。
辛辣で過激な内容も多分に含まれた1冊ですが、小谷野敦は本書を通して学問に対する読者を叱咤激励してくれているように感じます。学びたいことがあるけれど難しくてなかなか身が入らない、と悩んでいる人には是非、おすすめしたい1冊です。
1999年に刊行され10万部を超えるベストセラーとなった本書『もてない男』は小谷野敦の出世作と言える1冊です。彼は「好きでもない女100人とセックスしてももてるとは言えない」という立場から全7回を通して童貞喪失や嫉妬、強姦、愛人など恋愛にまつわる様々な事柄に関する自らの価値観を語り、新しい恋愛論を展開しました。甘やかなイメージのある恋愛に関するこれまでの常識を覆すような記述も多数あり、多くの読者に衝撃を与えたことも納得の内容となっています。
- 著者
- 小谷野 敦
- 出版日
本書は「童貞論」「自慰論」「恋愛論」「嫉妬・孤独論」「愛人論」「強姦・誘惑論」「反恋愛論」の全7回から構成されています。各回の内容には独自の思想に並べて恋愛にまつわる文学作品や漫画を取り上げての考察が為されているため、本が好きな方は特に興味深く読むことのできる1冊だと思います。また各章の最後にはその章の主題に沿ったブックガイドが付属しており、小谷野敦の知識の深さ、見解の広さを思い知らされることでしょう。
「もてないということは別に恥ずべきことではない。また、「もてるというのはただでセックスができるということだ」と規定したものがあったが、私はこの定義を認めない。」(『もてない男―恋愛論を超えて』より引用)
恋愛中の方もそうでない方も、きっと得られるものがあるはず。読めば、本書が大ヒットを飛ばした理由がよくわかると思います。是非読んでみてください。
古典文学から現代文学、評論や随筆、学術書に至るまで、膨大な数の本を読んできたという小谷野敦。本書はただタイトル通りに「文豪、夏目漱石の『こころ』が本当に名作かどうか」を論じたものではなく、本当に良い文学、面白い文学とは何なのかを著者の主観で研究・考察し、著者の選ぶ「名作」を読者に向けて案内する、という内容となっています。鋭い審美眼による辛辣な論評は大変興味深く、こちらも読書に親しんだ方には是非おすすめしたい1冊です。
- 著者
- 小谷野 敦
- 出版日
世界の古典文学と呼ばれる作品を、あなたはいくつ読んだことがありますか?シェイクスピアの『ハムレット』、ホメロスの『オデュッセイア』、ジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』、マーク・トウェインの『ハックルベリーフィンの冒険』、ドストエフスキーの『罪と罰』などなど。日本にも紫式部の『源氏物語』や滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を筆頭に多数の古典文学が存在しますが、教科書に載ってはいたものの、全文を読んだ方は少ないのではないでしょうか。
人類の長い歴史の中で生み出された「名作」と呼ばれる数々の文学作品を、著名な比較文学者、小谷野敦はどう見るのか。それを正直に綴った本書は、古典文学に興味を持つ人にとって非常に面白い内容となっています。
文学なんて読まなくても、人は生きていけます。しかし過去を生きた人の思想に触れること、物語に親しむことは、人生を豊かに彩ってくれるのではないでしょうか。本書は辛辣な批評をまじえた小谷野敦の「案内」によって「自分で読んでみたくなる」優れた読書案内書です。
小谷野敦の隠れた名著『退屈論』。前述したベストセラー『もてない男』を読んだ後に是非、読んで頂きたい1冊です。
著者は冒頭、19世紀のユートピア思想家・フーリエの理想社会論を例にし、読者に問います。フーリエが理想としたのは「すべての人間がすべての相手とセックス可能な社会」らしいけれど、それって飽きないだろうか、と。そしてそこから展開していくのは人の営みのすべて――例えば恋愛もセックスも子育ても、退屈しのぎに過ぎないのではないか、という著者の独自理論です。少々過激な内容ですが、さすがは小谷野敦。力のある筆致で読ませます。
- 著者
- 小谷野 敦
- 出版日
「私が言いたいのは、「遊びが大切だ」とか「快楽を肯定せよ」とか言われると、もうごく単純な疑問が沸いてくる、ということなのである。それはつまり、「飽きないか」ということなのだ。」(『退屈論』より引用)
考えてみればその通り。歳を重ねて一通りの経験をし、名誉や富を得た現代人の中には、「あらゆることに飽きている」という人も少なからずいるのではないかと思います。しかし生きている限りは、その「退屈」と戦う必要がある。本書はあなたが退屈に殺されそうになった時、希望を見出すヒントとなってくれるかもしれません。
著者は作中で多数の文学作品に「退屈」を見出して考察し、身の回りに起こる様々な事象から退屈しない工夫を模索しています。小谷野敦の見解の広さが存分に発揮されており、読み物としても大変面白い1冊。一見堅い本にみえますが、読み始めればまったく退屈させられません。是非手にとってみてください。
いかがでしたでしょうか。小谷野敦の鋭い眼と膨大な知識、広い見解で論じられるまったく新しい恋愛論や文学論は、私たちがそれについて考えるきっかけとなり、役に立つヒントを与えてくれると思います。是非読んでみてくださいね。