大佛次郎のおすすめ本5選!映画化もされた『鞍馬天狗』の作者は猫好き

更新:2021.12.20

『鞍馬天狗』『赤穂浪士』『パリ燃ゆ』などの名作を生み出した昭和の大衆時代小説・ノンフィクション作家、大佛次郎。少年時代から演劇や歴史、文学に親しみ、時代小説で名を挙げた彼のおすすめ作品を5つご紹介します。

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大衆時代小説で名を挙げた昭和を代表する作家、大佛次郎

時代小説シリーズの『鞍馬天狗』や『赤穂浪士』、ノンフィクションの長編作品『パリ燃ゆ』『天皇の世紀』など多数の名作を生んだ昭和を代表する作家の1人、大佛次郎。彼は1897年に横浜で、同じく作家の野尻抱影の弟として生まれます。幼少期を横浜で過ごしましたが、小学校入学後間も無くして東京に転居。第一高等学校在学中に小説「一高ロマンス」を雑誌連載したことがきっかけで、1917年に作家デビューに至ります。

東京帝国大学時代は演劇に熱中し、仲間と劇団「テアトル・デ・ビュー」を結成。またフランスのノーベル賞作家ロマン・ロラン作品の翻訳に取り組み、同人誌を発行するなど意欲的に創作活動を行なっていたそうです。

卒業後は鎌倉高等女学校の教師となった後、1922年より本格的に翻訳の仕事に就くことにした彼はサバチニやゴーグなど海外小説の翻訳を数多く手がけました。翌年の関東大震災をきっかけに専業作家になり、時代小説やノンフィクション作品を中心に生涯を通して作品を発表し続けました。その素晴らしい作品群は現在でも多くの読者を魅了しています。

日本芸術院賞や文化勲章、朝日文化賞など権威ある賞を多数受賞し、没後にはその業績を称えて自身の名前が冠された「大佛次郎賞」が創設された偉大な時代小説作家です。今回は、ぜひ読んで頂きたいおすすめ5作品をご紹介します。

大衆人気を博した大佛次郎の「鞍馬天狗」シリーズ

言わずと知れた大佛次郎の代表作「鞍馬天狗」シリーズ。1924年から1965年まで長きにわたって新作が発表され続けた、大佛作品では最も有名なシリーズ作品です。

舞台は幕末の京都・大阪。「鞍馬天狗」と名乗る勤王志士(江戸時代に天皇に忠誠を誓い、民間で活動していた者)が新撰組と対立し、縦横無尽に活躍する様子が描かれた大変爽快なフィクション作品です。幾度も映画化・テレビドラマ化された大衆人気の非常に高い作品でもあり、現在も多くの時代劇ファンに愛されています。

著者
大仏 次郎
出版日

鞍馬天狗入門として最初に読むべきは本書に収録されている長編「角兵衛獅子」です。鞍馬天狗は彼を慕う少年・杉坂を囮(おとり)に取られ、新撰組に取り囲まれてしまいます。そこへ新撰組隊長・近藤勇も仲間を引き連れて駆けつけ、鞍馬天狗は絶対絶命。しかし彼は諦めません。

読んでみるとわかりますが、本作は当時の少年に向けて書かれたジュブナイル作品となっています。ヒーローものの先駆けといわれるだけあって、バトルシーンは大変爽快。しかし勤王志士と新撰組の確執や登場人物の心情には深く踏み込んだ描写がされており、大佛次郎の筆力で大人も楽しめる作品に仕上がっています。

幕末の歴史が好きな人はもちろん、あまり興味がなかった人もきっと夢中になって読み進めてしまう、魅力に溢れた作品です。ぜひ読んでみてください。

赤穂事件をモチーフに描いた大佛次郎の傑作『赤穂浪士』

続いてご紹介するのは1927年に東京日日新聞で連載された大佛次郎の代表的な長編時代小説の1つ『赤穂浪士』です。

本作は江戸時代、元禄年間の江戸城が舞台。高家の吉良上野介を斬りつけたとして、赤穂藩藩主の浅野長矩が切腹刑に処せられた赤穂事件を題材としています。浅野長矩の死後、家臣47人が吉良邸に討ち入り主君の仇を討ったことから「義士」とされた47人でしたが、大佛次郎はこれを幕藩体制に抗う「浪士」としてこの物語を描きました。

著者
大佛 次郎
出版日

物語の主人公は架空の浪士・堀田隼人です。彼は虚無的な人物とされており、怪盗蜘蛛の陣十郎、謎の女お仙らとともに事件の陰で暗躍する様子が描かれます。

史実をもとにしてはいますが、大佛次郎により命を吹き込まれた架空の人物である彼らの言動は、大変面白く魅力的。またそれを彩っているのは著者の豊かな表現力による情景描写であり、こちらにもぜひ注目して読んで頂きたいです。特に序盤に描かれる江戸の町人文化の華やかさは、読者をぐっと物語の世界へ引き込んでくれることでしょう。

「たびたびの華奢の禁令も、熟れきった時代の空気の醗酵を止めることは出来なかったと見える。ほどよい日光と湿気とを得て花は咲くよりほかになかったのであろう。紫、浅黄、紅打などの染綿の帽子、袖口に針金を入れ綿を厚く入れてふくらみをとる工夫までして美しく丸くきった袖も軽々と、吉弥結びに帯を結んだ女たち、流行りの子太夫鹿子、千弥染は、そこにも、ここにも見受けられる。」(『赤穂浪士』より引用)

大衆小説の先駆者、大佛次郎が生んだ傑作。堅い時代小説ではないので、今まで難しそうだと敬遠されていた方にもきっと楽しんで頂ける作品だと思います。おすすめの1作です。

大佛次郎の遺作となった明治維新史『天皇の世紀』

『天皇の世紀』は今回ご紹介する文春文庫版で全12巻刊行された大佛次郎の超大作です。本作は1967年1月1日から1973年4月25日まで、約6年間にわたって朝日新聞朝刊で連載されました。彼は25日掲載分を「病気休載」と締めくくり、30日に逝去したため、これは未完のまま遺作となりました。

本作は後に明治天皇となる祐宮の誕生から戊辰戦争に至るまでの激動の時代を描いた大佛次郎の明治維新史です。膨大な歴史資料をあたって緻密に描かれた本作は歴史小説として大変評価が高く、テレビドラマ化も果たされ、多くの国民が明治維新について知る契機ともなりました。

著者
大佛 次郎
出版日
2010-01-08

物語は明治天皇の誕生からはじまり、ペリーの黒船来航に安政の大獄。さらに攘夷運動、その後の大政奉還と新政府樹立、そして勃発した戊辰戦争まで描かれます。歴史に親しみのない人にとってこのような歴史的事件やできごとは、「歴史の教科書に載っていて、テストのために丸暗記した」程度のものかもしれません。

文字になって教科書に載っているそれらは、日本人が過去に経験した出来事であることに間違いありません。しかし、それを理解することはできても、なんとなく実感が薄い。本作は、そう思っている人にとって、一読の価値がある作品でしょう。史実に忠実に描かれた大佛次郎の物語は、力を持って読者に迫ります。「日本にはこんなことがあった」と、思い知らされるような内容です。

1897年生まれの大佛次郎は、明治維新後の日本を生きた人です。連載を終えることなくこの世を去ってしまいましたが、彼はこの続きの物語、明治時代の歴史も描こうと思っていたのではないでしょうか。この作品は明治を知らない私たちのために彼が遺してくれた、史実を伝える物語だと思えてなりません。大佛次郎の心意気を感じる傑作です。ぜひ読んでみてください。

パリ・コミューンをモチーフにしたノンフィクション『パリ燃ゆ』

次にご紹介する大佛次郎の大作『パリ燃ゆ』は上でご紹介した2作とは全く雰囲気の異なる作品です。彼は大衆向けの時代小説で名を挙げましたが、その後史実をもとにしたノンフィクション作品も多数手掛け、高い評価を得ました。

題材となっているのは1871年の3月から5月にかけてフランスで起こった史上初めての労働者政府「パリ・コミューン」。本作はその成立に至る過程とヴェルサイユ軍による弾圧の様子を描いたドキュメンタリー作品です。

大佛次郎は当時の新聞や著作、人々の証言などを丹念に調べ上げ、執筆にあたりました。まるで実際に見てきたかのようにリアルな筆致で描かれる凄惨でいてドラマティックな物語は、読者に当時のパリの空気を追体験させるほどの迫力を持っています。

著者
大佛 次郎
出版日
2008-03-07

全3巻にわたる壮大な物語の序盤で描かれるのは、「パリ・コミューン」の約20年前。1851年の12月にナポレオン3世が起こしたクーデターの様子です。彼は見物に来ていた一般市民を国家に危機をもたらす内敵だと主張し、大量に殺傷しました。

その後このクーデターが王党派や財界に支持されたために多くの共和主義者が逮捕または追放されることとなり、後に『レ・ミゼラブル』などを書いたフランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーも労働者に変装し、ベルギーのブリュッセルに逃れます。

ここから、パリを舞台にコミューン成立までの長い過程が描かれていきます。歴史小説に難しいイメージを持たれる方は読むのをためらってしまうほどボリュームのある作品ではありますが、読んでみると大佛次郎の筆力によって各場面がリアルに想像でき、先へ先へとページをめくっていくことでしょう。

誰もが憧れる花の都パリ。その土地で起こった実際の出来事。フランスの歴史や政治、そして思想を学ぶことのできる素晴らしい1作です。興味のある方は、ぜひ読んでみてくださいね。

猫好きで有名な大佛次郎による傑作『スイッチョねこ』

最後にご紹介するのは偉大な時代小説家、大佛次郎が「私の一代の傑作」と評した著者お気に入りの童話『スイッチョねこ』です。大佛次郎の文に安泰が絵をつけ、かわいらしい絵本に仕上げてフレーベル館から出版されました。

著者は大の猫好きで、面倒を見てきた猫は野良猫を含めなんと500匹以上だそう。『猫のいる日々』という題のエッセイを刊行して猫への愛を語ったこともあるほどで、大佛次郎の猫好きは大変有名な話です。

著者
大佛 次郎
出版日

物語の主人公は白吉という名前がついた、小さな白ねこ。

「あんなにいい声をしている虫だもの、きっと、たべてうまいにちがいないなあ。」(『スイッチョねこ』より引用)

なんだか呑気な白吉は、虫が食べたくて食べたくて、ほかの子猫が家に帰っても、木の下に座って待っています。そのうち夜がふけて白吉は眠くなり、あくびをした瞬間でした。口の中に入ってきた虫を、飲み込んでしまったのです!

虫はお腹の中で「スーイッチョ!」と鳴きます。白吉が静かにしているほど、お腹の中で安心したスイッチョは鳴いてしまい、白吉は眠れなくなってしまいました。白吉とスイッチョは、どうなってしまうのでしょうか?

大佛次郎による、かわいらしい童話です。猫好きの方には特におすすめの1冊。子供から大人まで楽しめます。ぜひ手に取ってみてくださいね。

いかがでしたでしょうか?時代小説で名を挙げた大佛次郎の傑作の数々。爽快な大衆時代小説も克明なノンフィクション作品も、どちらも大変面白くおすすめです。ぜひ読んでみてください。

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