世界の民話絵本には、数々の名作があります。自分の住む環境とは異なる環境で生活する人々の暮らしや文化を反映するものが多いので、刺激的な読書体験となるでしょう。世界の民話が描かれている絵本から、おすすめの5選をご紹介いたします。
『王さまと九人のきょうだい―中国の民話』は、イ族の九人の兄弟が力をあわせて悪い王様を倒す物語です。
九人の兄弟の名前は、「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」というのです。思わず、くすりと笑いがこぼれてしまう変わった名前ですね。変わっているのは、彼らの名前だけではないのです。
- 著者
- 出版日
- 1969-11-25
九人の兄弟は、これらの名前にぴったりの個性をそれぞれが持っています。この個性をきらりと輝かせて、悪い王様をたおしていく痛快な物語です。
短所も見方を変えれば長所になるように、他の人との違いはその人独自の魅力になりうるのではないでしょうか。自分の個性も、相手の個性も尊重していけたら、そこから何か大きな力がうまれるのでは、と可能性を感じさせてくれる作品です。
『ラン パン パン―インドみんわ』は、クロドリの亭主が、王様にさらわれた自分の奥さんを助けるために、道中で出会った仲間たちを引き連れ、王様とたたかうお話です。
その仲間たちというのは、ネコ、アリ、木の枝や川。とっても不思議なメンバーですが、移動手段はもっと不思議。仲間たちは、なんとクロドリの耳の中に入って戦いに向かっていくのです。
- 著者
- マギー ダフ
- 出版日
タイトルにもなっている、「ラン パン パン」はクロドリがお手製の太鼓を叩いて行進するときの音です。
クロドリはとてもいい声の持ち主で、歌を通じて仲間たちに的確な指示を出します。すると、仲間たちが耳から飛び出して、活躍するのです。インド映画をみると、歌と踊りのシーンが出てくることが多いのですが、この作品も歌と動きの連動したところが、まるで踊っているかのようだと読み解くこともできるのではないでしょうか。この音楽的な要素のおかげで、リズム感がうまれ、読む人はうきうきとした楽しさを味わうことができるでしょう。
さらに、この作品の魅力はその独特な絵。シンプルですが、見ていて心地のよい明るく優しい色づかいと、緻密な動物たちの描写が素敵です。特に文中では、明記されていませんが、インドの国鳥であるクジャクの絵が様々なページにちりばめられているのも、見どころのひとつではないでしょうか。ぜひ、探してみてください。
『おだんごぱん―ロシアの昔話』では、美味しいものが食べたくなったおじいさんが、おばあさんに作らせた「おだんごぱん」の逃走劇が繰り広げられます。
「おだんごぱん」は、おじいさん、おばあさん、うさぎ、おおかみ、そしてくまから上手に逃げ延びていきます。野原に転がりついた「おだんごぱん」がお腹をすかせた動物たちから逃げ延びる方法は、いかにして自分が逃げ延びた「おだんごぱん」であるかを高らかに歌って聴かせて、そのすきに逃げるというものでした。
- 著者
- 出版日
- 1966-05-01
ところが、きつねはその歌を利用して、「おだんごぱん」に勝つのです。素晴らしい歌だから、近くで聴かせてほしいと、巧みに「おだんごぱん」をおだてて、鼻の上、そして舌べろの上へと誘導します。もちろん、舌の上まできたら、ぱくっと、きつねは食べてしまいます。
この絵本のキャラクターたちは、みんな生きることに必死のよう。パンを食べたいおじいさんに始まり、粉箱から小麦粉をかき集めて作るおばあさん、お腹をすかせた動物たち、知恵を働かせてパンを食べるきつね、そしてみんなから逃げのびようとするパン……。
どうやら、暮らしぶりは楽ではなさそうに感じます。パンを食べるということは、生きることに直結しています。パンが表へと転がり落ちていくところを見つめるおじいさんの、悲しそうな顔といったらなんとも言えないのです。
そして、最後にきつねに食べられるという筋書きは、おじいさんの口には入らなかったという点では単純にハッピーエンドとは言えないかもしれません。しかし、食べたいという欲求を満たす快楽をきつねと一緒に感じることもできるのではないでしょうか。
『てぶくろ―ウクライナ民話』は、森の中でおじいさんが落とした片方の手袋を、すみかに決める動物たちがどんどん増えていく物語です。くいしんぼねずみ、ぴょんぴょんかえる、はやあしうさぎ、おしゃれぎつね、はいいろおおかみ、きばもちいのしし、のっそりぐま……みんな手袋にもぐりこむのです。
- 著者
- 出版日
- 1965-11-01
わたしも、ぼくも!とみんなが手袋に入りたがるこの物語。たしかに、他のみんなが楽しそうにしているところには、自分もまざってみたくなるのかもしれません。
雪の降る、寒い森の中、片方手袋を落としてしまったおじいさんの手はさぞかし冷たかったことでしょう。しかしそのおかげで、おしくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅうに詰まった手袋の中で、動物たちはきっとあたたまることができたのです。
作中の絵ですが、手袋という服飾品を題材にしているだけあってか、動物たちの身に着けている冬の洋服がとても丁寧に描きこまれているのも魅力の一つ。ぜひじっくりと観察してみてくださいね。
『スーホの白い馬―モンゴル民話』では、馬頭琴といういちばん上が、馬の頭の形をした楽器のできた由来とされている物語が丁寧に描かれています。
貧しい羊飼いの少年スーホは、子馬を助けて大切に兄弟のように育てます。しかし、スーホの白馬は、あまりに立派すぎたために、殿様に奪われてしまいました。殿様から逃げ出した白馬は、命からがらスーホのもとに帰るのですが、殿様の家来から受けた弓矢のために、力尽きてしまいます。深く悲しんだスーホは、夢のお告げ通りに、白馬の骨や皮などを使って楽器を作りました。その楽器が馬頭琴です。
- 著者
- 大塚 勇三
- 出版日
- 1967-10-01
涙なくしては、読むのが難しいといっても過言ではないくらい心に刺さります。亡くなった後も、夢枕に立ちスーホをなぐさめる白馬の健気な姿に胸が熱くなります。人間と動物の友情を描いた美しい作品です。
世界の民話絵本5選、お楽しみいただけましたでしょうか。自分の住む国とは異なる世界の生活を、疑似体験できることは読書の醍醐味の一つです。ページをめくるごとに、きっと心の中に新しい風が吹き込むことでしょう。そうして、世界の絵本を読むことは、多様性への受容力を養うことに繋がるのでは、と思います。そしてなにより、読むこと自体もとても楽しいので、世界の民話絵本、おすすめです。