イケメン男子は何をやらせてもイケメンですが、普段我々が見慣れない姿であれば、そのギャップから美形がさらに引き立つものです。今回は和服の似合うイケメンが登場する恋愛漫画5作品をご紹介します。
桃園家は父親のギャンブルのせいで借金まみれでしたが、娘の奈々生(ななお)はめげずに日々を生きていました。しかしある日、娘を残して父親は蒸発し、借金の形に家財を没収され、奈々生は途方に暮れてしまいます。
そんな時、奈々生は犬に襲われる謎の男ミカゲを助けます。奈々生の事情を聞いたミカゲは彼女に住所のメモを渡し、自分の家を譲ると言い残して立ち去りました。メモの場所には廃れた神社があり、訪れた奈々生を出迎えたのは奇妙な3人でした。
神使(しんし)の巴衛(ともえ)、鬼火童子の鬼切、虎鉄と名乗る人外の者達。実はミカゲはその神社を20年前に放棄した土地神で、奈々生に神社と土地神の能力、責務を譲渡したのでした。紆余曲折を経て土地神になってしまった奈々生は、巴衛達と共に神社を盛り立てていきます。
- 著者
- 鈴木 ジュリエッタ
- 出版日
- 2008-09-19
本作は2008年から「花とゆめ」で連載されていた鈴木ジュリエッタの作品。コメディタッチの和風ファンタジーです。
主人公の奈々生は芯の強い女の子として描かれます。元々の生活の借金苦にもへこたれず、蒸発した父親を恨むこともしない快活な少女。土地神となってからも前向きさは変わりません。未熟ながらも縁結び神社の新米神様として奔走し、徐々に周囲から認められるようになっていきます。
そんな奈々生の相棒と言えるのが神使の巴衛。神使とは読んで字の如く、神道における神の使い、神意の代行者です。我々に馴染み深いところですと、神社の本殿を守る狛犬などがそうです。巴衛も狛犬ですが、その正体は狐。狐なので本来は稲荷狐かと思いきや、先代神ミカゲが犬嫌いだったため狛犬にされました。
巴衛は元はミカゲの神使だったので、当初は奈々生に反発。改めて奈々生と神使の契約を結んでからは徐々に彼女を認めていきます。契約前と後で奈々生へのつっけんどんな態度は変化しませんが、神であると同時に儚い人間でもある奈々生の身を常に案じています。素直にならない辺りは、いわゆるツンデレと言ってもいいでしょう。
神道に仕えているからか、巴衛は普段から和装。神職に携わる時には、長年勤めた貫禄を見せて狩衣を見事に着こなして見せます。
作中では他にもキャラの表現や展開に日本の昔話、民話、説話をしっかり取り込んでいて、和風テイストが満載です。
歌舞伎界の名門「木嶋屋」の御曹司、河村恭之助は家柄から周囲に期待される反面、本人にはまるでやる気がありませんでした。ある日の公演後、ファンに囲まれた恭之助は、彼に見向きもしない千葉あやめという少女に出会います。彼女は見向きもしないどころか、恭之助のやる気のなさ、技術不足を完全に見抜いていました。
普段、恭之助の取り巻きになる女は全員、家柄やルックスしか見ない者だけでした。そのためあやめは、彼の心に引っかかったのです。偶然にも同じ学校だった2人は再会し、恭之助はあやめに告白。これをあやめは、好きな人が他にいる、と断ります。
あやめの想い人。それは歌舞伎の家柄に生まれた恭之助と違って、轟屋で一から研鑽を積む澤山一弥(さわやまいちや)でした。心から歌舞伎が好きなあやめの気を引くため、身分の違う2人の歌舞伎役者が歌舞伎界の上を目指していきます。
- 著者
- 嶋木 あこ
- 出版日
本作は2009年から「Cheese!」で連載されていた嶋木あこの作品。現代歌舞伎の舞台裏をモチーフにしたユニークな恋愛漫画です。
タイトルになっている「ぴんとこな」とは、歌舞伎用語で「男らしく芯のある二枚目」を意味する言葉。ほぼ看板役者と同義でしょう。物語開始当初、木嶋屋の恭之助は人気知名度ともに抜群の看板役者ではありますが、実力が伴っていませんでした。一方、実力だけで成り上がろうとする轟屋の一弥は知名度こそないものの、一本芯の通ったまさに二枚目役者。
木嶋屋、轟屋とは作中に登場する歌舞伎一門の屋号。あまり詳しくない方でも、大見得を切った役者に「中村屋!」のように「○○屋!」と合いの手で屋号を叫ぶというのはご存知なのではないでしょうか。これは「大向こう」と呼ばれる観客のかけ声で、舞台演出にも組み込まれているお約束のやり取りです。
歌舞伎とは家で引き継いでいく芸事。幼い頃から練習を積む伝統芸能です。実力を認められるには、とにかく研鑽しかありません。2人の役者にはお互い欠けている部分があり、あやめに好かれようという動機ではありますが、徐々に欠けたところが埋められていきます。
恭之助と一弥は身分だけでなく性格も正反対。情熱的で衝動的な恭之助に対して、一弥はひたむきで生真面目。それでも、両者の目指すところは一致しています。歌舞伎の大成、そしてあやめ。
本作は歌舞伎をモチーフにしているだけあって、有名な演目が多数描写されます。もちろんそれを演じるのは恭之助や一弥。煌びやかな着物に身を包み、雄々しく勇壮に舞ったかと思えば、しっとりと濡れるような女形の演技まで多種多彩。
1人の女を巡る伝統芸能の三角関係。歌舞伎の縁で結ばれた恭之助、一弥、あやめの演目は一体どのような結末を迎えるのでしょうか。
主人公の大熊忍(おおくましのぶ)は、苗字に反して学校で一番小柄な女子高生。忍はある日不注意から、可愛らしい氏名とは裏腹に学校一凶悪で大柄の男子、小熊美晴(こぐまみはる)の紙袋に牛乳をかけてしまいます。袋の中身はなんと高価な着物でした。責任を取れ、と迫る美晴は迫力満点。忍は彼の指示通り、放課後に猫町アパートメント3階を訪れます。
そこには美晴の祖母が運営する着物ショップ「こぐまや」がありました。美晴は祖母から看板娘を連れて来るよう厳命されていたのですが、見た目と違って純情で照れ屋だった彼はなかなか実行出来ませんでした。美晴はアクシデントをこれ幸いと、忍を選んだのです。
汚した着物を弁償するために「こぐまや」で働き始めた忍でしたが、普段のイメージと異なる美晴と働くうち、段々と彼に惹かれていきます。
- 著者
- サカモト ミク
- 出版日
- 2007-02-19
本作は2006年から「ザ花とゆめ」及び「花とゆめ」誌上で不定期に連載されていたサカモトミクの作品。同作者の『猫町ショップガイド』に登場する猫町アパートメントを舞台とし、アンティーク着物店の悲喜交々を描く漫画です。
物語には「こぐまや」のお客さんや、小熊家の人々が多数出てきますが、基本はスモールな忍とビッグな美晴の凸凹コンビです。強面な美晴が実は真面目な純朴少年というギャップが魅力的。要所要所でさり気ない優しさを見せては忍をときめかせることに。
小熊家で言うと「こぐまや」の店主で祖母の富士子の存在感もかなりのもの。学校では恐れられる美晴が、それこそ小熊のように扱われます。
作者の和装へのこだわりが随所に見られ、若年者向けのお洒落なコーディネートが富士子の手を通して描写されます。看板娘の忍は元より、彼女と連れ添って広告塔となる美晴も同様です。着物の上から上っ張りを羽織り、マフラーと帽子を被る様などは「若旦那」といった風情。
ひょんなことから始まった着物ショップ店員の関係。忍と美晴はお互いのことを少しずつ知るうち、距離が縮まっていきます。そして同時に、忍が緩衝材となって学校での美晴の対応、周囲の美晴への対応も変化。
男兄弟ばかりで、個性豊かな大家族の小熊家の人々。忍と美晴、それぞれに接近するクラスメイト。そしてカメオ出演的に『猫町ショップガイド』のキャラも登場します。
猫町アパートメント3階の「こぐまや」は今日もほのぼの開店中。和服への興味が刺激される1作です。
明治時代、東京。没落華族の桐院鈴子は、9歳にして吉原遊郭で遊女見習いをしていました。彼女はひょんなことから知り合った藤島津軽という青年に身請けされます。津軽は老舗呉服屋の後継ぎで、支店の店主をする傍ら、道楽で「さがしもの屋」を営んでいました。鈴子の賢さを見込んだ津軽は、その副業の助手に彼女を選んだのです。
なぜ自分を苦界から救ってくれたのか。そう鈴子が問い詰めても、縁があったから、と津軽ははぐらかすばかりでした。共に「さがしもの屋」をこなすうちに、悪い男でないことはわかっていきます。津軽を真似て仕事をするうちに、やがて鈴子は自らの出生に関わる秘密を知ることに……。
- 著者
- リカチ
- 出版日
- 2011-09-13
本作は2011年から「BE・LOVE」誌上で連載されていたリカチの作品。完結後、『明治メランコリア』と改題した続編も描かれました。
明治という、時代の動乱が落ち着いた時期、江戸時代と近代が奇妙に入り交じった不思議な時代。そんな時代の東京を舞台に、数々の事件を解き明かすミステリー仕立ての物語です。とはいっても、本格的な謎解きではなく、あくまでエッセンス程度なので頭を悩ませる小難しさはありません。
本編に登場する「さがしもの屋」とはなんでも屋というか、俗に言う探偵業に近い仕事です。依頼は犬猫、失せ物、失せ人探しなど。営む津軽当人からして、道楽と言い切る適当さです。
鈴子の年齢に似合わない賢さ、心の強さが際立ちます。数年経てばとびきりの美人になると言われる器量があるもののが、まだ年相応の精神も同居する愛らしい少女です。彼女の家柄、出自は本編にも関わる謎の1つ。姉の夕香と共に遊郭に売られ、まだ座敷に上がる年齢ではないと見習いをしていました。そこで津軽と出会い、姉と別れることになるのですが……。
明治の法律では女性の結婚年齢は15歳からと決められていました。しかし、実際には江戸時代の慣習を引き摺っているケースも少なくなく、10代前半やそれより早く娶られることもあったそうです。そういう時代なので、津軽がそういう目的で鈴子を身請けしたとしても、そうおかしな話ではありません。
ただ、藤島津軽という男は、謎と趣味に生きる道楽男。鈴子を無理して引き取ったのも他意はなく、当初は純粋に助けたいからでした。呉服屋の跡取りだけあって、生活は裕福。西洋化の進む時代に逆らうように和服を愛用しています。
優しく大らかに接してくれる津軽に、鈴子は恩義を越えて、一個人として信頼を寄せるようになります。数々の事件に立ち会い、「さがしもの屋」としても、人としても成長していく鈴子。彼女の出生にまつわる秘密、2人の関係はどのように展開していくのでしょうか。
時は江戸、ところは吉原。天涯孤独の身となった武家の娘、朱音はある目的を胸に秘め、自ら遊郭の大門をくぐります。15歳の朱音は花魁を目指すには遅すぎる年齢でしたが、吉原でも名だたる「曙楼」の楼主に見出されました。
朱音の意気を買った見世の内儀は、曙楼で最も売れっ子である花魁、朝明野(あさけの)に彼女を付かせようとします。これに対して、朝明野は指南するための条件を提示。それは今から夜見世が始まるまでの間に、外に立って客を1人でも連れてくること。生娘の朱音には無理難題に等しい条件です。
それでも諦めず客を探しに出た朱音は、偶然近江屋惣右助(おうみやそうすけ)と出会います。彼は吉原でも有数の遊び人、近江屋の若旦那でした。彼が朱音を見初めて曙楼を訪ねたことで、朝明野は彼女を認めます。そして朱音は「茜」と名を変えて、女郎として生きることになりました。彼女の真の目的、両親を殺した賊の情報を集めるために。
- 著者
- 桜小路 かのこ
- 出版日
- 2015-10-26
本作は2015年から「ベツコミ」で連載中の桜小路かのこの作品。自ら遊女に身をやつした少女と、色男の若旦那の交流を描いたロマンス漫画です。
タイトルの「青楼」とは妓楼のこと。本作では一見華やかな吉原の内情を、両親の死の謎を探る少女の目から描き出します。
花魁とは吉原遊郭の遊女の中でも、特に人気で位の高い者の俗称。中でも最高位の「太夫」ともなれば、よほどの大金持ちでも滅多に相手に出来ないという超高級遊女です。例えば将軍クラスの身分でようやく自由に出来るほど。
普通、女郎の見習いは幼いうちに「禿(かむろ)」と呼ばれる女郎の付き人から始めるので、自身の目的のためとはいえ、太夫を目指すと大見得切った朱音がいかに茨の道を選んだか窺えるでしょう。
朱音は武家の娘だったので、一通りの芸事はすでに覚えており、躾も行き届いています。何よりも、自身を犠牲にしてまで目的を達成しようとする芯の強さがあります。惣右助も朱音のそういった部分に惹かれたのでしょうか。
放蕩人、近江屋惣右助。浮き世を流す色男ですが、なぜか朱音に執心します。まだ見世にも出ていない朱音を落籍(身請け)すると申し出るほど。本来なら身請けは苦界とも言われる遊郭から抜け出る唯一の方法ですが、両親の死の真相を探りたい朱音はこれを拒否してしまいます。これまで思い通りにならなかったもののない惣右助は余計に朱音に固執。
朱音の稽古を引き受けた朝明野は、立派な遊女に育つまで待つよう言い含めます。見事一人前になるまで、何人たりとも手を付けさせないと惣右助に約束。
朱音は惣右助の行動にただただ困惑し通しです。お家騒動の真相を探るために遊女になったのに、馴染みになるため通い詰めてくる惣右助にも段々と惹かれていくことに。しかし、2人は身分違いの上、朝明野との約束もあります。なまじ顔を合わせ、言葉を交わすだけに、2人の想いは募っていくばかりです。
果たして惣右助はなぜ朱音に執着するのでしょうか。そして朱音の両親の死の真相は? 遊郭を舞台にした男女のロマンスの行方はいかに。
いかがでしたか? 今日、日本では洋服が当たり前となっています。外来の洋服が当然で、伝統の和服が物珍しい世の中。今回ご紹介した作品に触れて、和服の世界に浸って、興味を持ってみるのも良いかも知れません。