名言で読む武者小路実篤のおすすめ本5選!

更新:2021.12.20

武者小路実篤という難しそうな名前を聞いて、今まで敬遠していた方もいるかもしれませんが、名前に反して分かりやすく、明るい文章を書く作家です。また、心に響く数々の名言を残しています。今回は、その名言と共に作品を紹介していきます。

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現代人にも愛される名言ばかりを残した作家、武者小路実篤

武者小路実篤(むしゃのこうじ さねあつ)は1885年生まれの、大正・昭和を代表する作家です。武者小路、という名前はペンネームのように思われがちですが、実は本名で、子爵家の息子として生まれ育ったお坊ちゃまの経歴の持ち主なのでした。

そんな家に生まれた実篤は、初、中、高と学習院で学び、東京帝国大学に入学します。その中で、学習院から同級生として親しかった志賀直哉らとともに雑誌を発表するなど、文学活動に目覚めていくのです。

東大を中退後、作品集『荒野』を出版します。そして仲間と共に『白樺』という雑誌を創刊したため、「白樺派」と呼ばれるようになりました。

文学活動以外で特徴的なのは、自分の理想郷を作ろうとして「新しき村」という村を作ったことです。そのときの経験は彼のその後の文学作品に大きく影響していきました。

武者小路実篤が、人はなぜ生きていくのか?を問う

実篤自身が書いたとされる、なんとも味のある本作の題字。この作品は、人生とは何か?愛とは何か?という、日々を生きる人たちが普段じっくりと考えることのないものを、実篤が深く掘り下げていく随筆です。全15編が収録されています。

著者
武者小路 実篤
出版日
1969-11-27

この『人生論』全編が、生きていくために大切なことを、実篤が淡々と書き連ねていくというエッセイになっています。

名言をご紹介します。

「人生にとって健康は目的ではない。しかし最初の条件なのである。」(『人生論』より引用)

この言葉、一見普通のことを言っているように思えます。しかし、忙しい毎日の中で「健康に気を付けよう」と考え、行動している人はどのくらいいるでしょうか。

たしかに、やりたいことがたくさんあったとしても、健康でいなければそれは成り立ちません。そんな、基本的でつい忘れがちになりそうなことを改めて教わることができます。

そしてもう1つ、

「どんな小さいことでも少しずついいことをすることはその人の心を新鮮にし、元気にさせる。」(『人生論』より引用)

なんだか日めくりカレンダーに書かれていそうな名言ですね。

いいことをする、というのは自分に返ってくるのかどうか曖昧な部分があります。そのため、つい「してあげる」といったイメージとして捉えがちかもしれません。

しかし、実篤は、いいことをすると自分が元気になる、という解釈をしています。この文を読み、自分がしてきたことを肯定されたような気持ちになる方は必ずいるでしょう。

本作中には、これらのような、人生を肯定する前向きな言葉が多く残されています。今の自分の状況に当てはまる文章を探してみて下さい。また、この小説の中には、実篤が手をかけた「新しき村」開発の思いも込められています。それもぜひ読んでいただき、実篤の熱い理想を感じ取ってほしいです。

友情と恋、あなたならどっちを選ぶ?

主人公は、駆け出しの脚本家の野島。彼には、小説家を志す大宮という友人がいました。同じ、文を書く者として、日々互いに尊敬し合い、切磋琢磨して歩んできた関係です。

野島は、他の友人の妹である杉子に一目ぼれをします。もちろん、友人の大宮にもその恋心を打ち明けますが、大宮はあまり良い顔をしませんでした。

そのころ、大宮はヨーロッパへ旅立ってしまいます。

著者
武者小路 実篤
出版日
2003-03-14

大宮と野島の友情が色濃く描かれていると思いきや、彼らと杉子との三角関係が繰り広げられるのです。

大宮がヨーロッパに旅立った後に、野島は杉子にプロポーズします。しかし、それを断った杉子はなぜかヨーロッパへと旅立っていくのです。その出来事から何ヶ月か後、野島に大宮から手紙が届きます。

「尊敬すべき、大いなる友よ。自分は君に謝罪しなければならない。」(『友情』より引用)

こちらの文と共に明かされた真実。大宮は、なんと杉子と両思いであったのです。

大宮は、互いに競い合っていた文章でこの真実を明かしていきます。大宮が執筆した小説には、大宮と杉子のやり取りが描かれていました。

野島の杉子への恋は初恋でした。そのためでしょうか、杉子のことを理想化し、まさに自分の理想とぴったりだと思い込んでしまうのです。その思い込みが、大宮から野島に真実を告げられずにいた一つの理由かもしれません。

また、杉子からも、

「野島さまが私を愛して下さったことを私は正直に申しますと、ありがた迷惑に思っております。」(『友情』より引用)

という言葉を大宮に送っています。野島の理想とは異なる杉子の反応をありありと映し出している文だと感じられるでしょう。

好きな人を同時に失った野島は、悲しみに暮れながらも大宮への言葉を残します。

「君よ、仕事の上で決闘しよう」(『友情』より引用)

文章を書く仲間として築き上げてきた友情を、「決闘」に表すこのセリフは、野島の吹っ切れた言葉なのか、それとも傷ついた言葉なのか、実際に読んで感じてみて下さい。

武者小路実篤が描く、恋人の死から見つめる愛

主人公である小説家の村岡は、お転婆で活発な野々村夏子という女の子に恋をします。その思いが通じ合い、二人は村岡の旅の後に結婚することを決め、幸せな毎日を過ごしました。

しかし村岡は帰国する途中、夏子の訃報を受け取ることに……。想いが通じ合っていたからこそ、届かない夏子への想いがより一層切なさを感じさせます。

著者
武者小路 実篤
出版日
1952-10-02

互いを思いやり、愛をはぐくんでいく二人の様子は、旅の中でも毎日やり取りする手紙の文章からも感じることが出来ます。甘い恋の様子に思わずにやついてしまうものばかりなのです。

例えば、次のようなセリフ。「あなたのおまえより」(『愛と死』より引用)

なんとキュンと来るセリフでしょうか。これから未来をお互いと歩んでいくことが確定されているかのような口ぶりに、この部分だけでも思わず赤面してしまいます。これ以上のノロケは、ぜひ本文でご覧ください。

そして、そんな二人の愛らしさがあったからこそ、夏子の死、といういきなりの出来事は起きて欲しくない結末だったのです。

「死んだものは生きている者にも大いなる力を持ち得るものだが、生きているものは死んだ者に対してあまりに無力なのを残念に思う。」(『愛と死』より引用)

まさにこの文章の通りです。亡くなった人は、生きている人の心の中に生きているとはよく言ったもので、裏を返せばいつまでも心にいてしまう存在です。

この二人の場合は、これから結婚という幸せが訪れる予定だったのにも関わらず、何もできないまま終わってしまいました。村岡の落ち込む様子から、読者も思わず胸を締め付けられるでしょう。

今の時代であれば、テレビ電話で毎日通話ができて、交通も発達しています。今これを読むからこその、切なさも感じられることでしょう。

人生を真っすぐ生きることの大切さ

主人公の山谷五兵衛は、真理先生(しんりせんせい)という人物のことを噂では聞いていました。しかし、真理を説く先生、ということでうさん臭く感じ、実際に会ったことはありません。

しかし、真理先生に会い、その他の人物と触れ合う中で、真理のもとに生きることに関心を持ち始めます。

著者
武者小路 実篤
出版日
1952-07-02

この作品の面白い部分は、個性的なキャラクターたちです。

画家の馬鹿一、白雲子、書家の泰山など、性格や職は異なるものの、みんながみんな真っすぐ自分の好きなことをしながら生きています。そのため、勝手な行動をすることもしばしばありますが、それもまた無自覚で純粋に生きているさまを表していているといえるでしょう。

真理先生は、実に真っすぐな言葉を残します。

「辛抱できないときは泣く。泣けるだけ泣く。 人生に辛抱できないことがあるので、人は再生できる。」(『真理先生』より引用)

この言葉からは、泣いてもいいんだ、という気持ちがふとこみ上げてきます。

大人になるにつれ、社会的に、人間的に、自分のおもむくがままに行動することが難しくなってきます。しかし、大人になっても素直に生きている真理先生の言葉は、現代人にとって胸に刺さるのではないでしょうか。

力、金は必要ない、という真理先生の言葉は儚い理想のように思えるけれども、そうなったらもっと正直に生きることが出来るのに、という言葉ばかりです。この理想は、武者小路自身の考えでもあるのだと考えられます。

また、この作品の他の見どころとして、登場人物同士が恋をしたり、友情を深めたりと、真っすぐに生きることで人生が好転していきます。

社会に疲れた大人に、おすすめしたい一冊です。

温かい言葉が溢れる、武者小路実篤の詩をまとめた一冊

ここまで作品を紹介してきて、一番顕著に出ている実篤の特徴と言えば、まさしく「前向きである」ことです。今回の作品では、実篤のポジティブな気持ちが存分に伝わる詩が120篇も収録された一冊となっています。

この詩集を読めば、実篤のぶれない理想を感じていただけるでしょう。

著者
武者小路 実篤
出版日
1953-01-13

一見、わかりやすく単純な、誰でも書けそうな詩が多く並びます。現代語で、まるで日記のように書き綴られた詩はとても読みやすく、解釈がいらないほどです。

実篤の詩の特徴を挙げると、一番に「気が抜けるほどおだやか」という言葉が思い浮かびます。そのくらい、肩の力を抜いて読むことができる詩集です。

「俺はこの幸福を誰に感謝しようかな。」(『武者小路実篤詩集』より引用)

この文からもわかるように、とっても穏やかな詩を書くのです。

詩と聞くと、それは芸術というような認識をされ、自分には理解できないと除けられがちかもしれません。しかし、実篤の言葉は心にしみやすく、わかりやすいものばかりといえます。

また、実篤は理想が高いとされています。平和に対する思いが強く、こんな世の中を作りたい、という想いが実篤の考えの根本にあるためです。この詩集からは、そんな理想を掲げる実篤の純粋な、真っすぐな人間性が窺えるでしょう。

皆さんも、この中からお気に入りの詩を探してみませんか?


いかがでしたでしょうか。実篤の作品を一貫して言えることは、実篤の理想の強さが表されている物ばかりだということです。真っすぐで純粋で、ポジティブな実篤の思想の一部をあなたも感じてみませんか?

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