子供の成長過程において、9歳という年齢は大転換期であると言われています。学校での学習内容がガラリと変わり、ついていけなくなる子が増えることで「9歳の壁」という言葉も存在しているくらい気になる時期に、おすすめしたい絵本をご紹介します。
つよしとけんたは地球の裏側まで旅行しよう、と計画します。でも、その移動手段は、飛行機でもなく船でもなく、なんと、地面を掘っていくというもの。はたして、少年二人は、地球の裏側まで無事に行き着けるのでしょうか?
地球の裏側はどこなのか?けんたの考えによると、そこはアメリカ・ケンタッキー州。まともにまっすぐ掘り進めると地球の中心にあるマントルにぶつかるので、それは回避しなければならない。そこで、斜めに掘ることに。斜めに掘っていけば、いずれアメリカに到着するというわけだそうです。
- 著者
- 川端 誠
- 出版日
本の作りがとにかく斬新です。はじめは普通に読んでいたはずが、本を少しずつ回しながらでないと読み進められなくなっていくので、読み聞かせするにはちょっと高度な技術が必要かもしれません。ラストは本も逆さまになるため、ちゃんと地球の裏側まで来れたんだな、と実感できるようになっているのです。思わず唸ってしまうユニークさがあります。
また、とうとうアメリカに着いた時には、文章も日本語から英語に切り替わるあたりは芸が細かいですね。読み聞かせするには英語を読む練習も必要かもしれません。ちなみに日本語訳も添えてあります。
日本から地面の下斜めに進むとアメリカに、というのは本当にそうなのか?と疑問に思うかもしれませんよね。近くに地球儀をおいて回しながら読むのがおすすめです。単に面白いお話としてだけではなく、もしかしたら地理に興味をもつきっかけにもなり得るでしょう。
8月6日とはもちろん、第二次世界大戦中、日本に原爆が落とされた日をさしています。本書の作者である中川ひろたかが、広島で亡くなった伯父と被爆した母の体験をこどもたちに伝えるべくして作り上げた渾身の絵本です。
中川の作品には、どちらかというと面白おかしく読める楽しい作品が多いのですが、この作品は全く違います。仲良し兄妹だった伯父と母。食料を届けるため兄に会いに行く妹が、その日もいつものように出掛けるのですが……。
- 著者
- 中川 ひろたか
- 出版日
- 2011-07-15
絵は長谷川義史が担当。表紙に描かれているのは瀬戸内の穏やかな海です。8月6日、その日に起きた悲惨な出来事から逃げ惑う人々であふれかえり、すっかり姿を変えた広島の景色。海のブルーにはひたすらに静けさが漂うようで、その対比から、ただならぬことが起きたのだということがわかり、ぐっと胸に迫ってくるのです。
戦争の悲惨さをストレートに語った本ではありませんが、事実を淡々と綴っているので戦争がテーマの作品にしては、読みやすいでしょう。そろそろ戦争のことを教えていきたいと思った時に、ぜひお子さんにすすめてあげてほしい絵本です。
ほのぼのとした和田誠の絵が印象深い『どんなかんじかなあ』は、自分とは違うことについて、それって「どんなかんじなんだろう?」と想像してみることの大切さを教えてくれる絵本です。
主人公のひろくんは、目が見えないまりちゃんや、耳の聞こえないさのくんが、どんなかんじなのか気になって、目をつぶったり耳栓をしたりして過ごしてみます。そうしてひろくんなりに感じたことを、まりちゃんやさのくんに語り掛けます。「すごいんだね」と。
人と違うことは「障害があること」だけではありません。ひろくんは、おとうさんやおかあさんがいない友達にも目を向けます。でも、試してみることなんかできないから、自分なりに想像してみたことを、その子に言ってみると、彼女もまた、ひろくんについて「どんなかんじかなあ」と考えるのでした。
- 著者
- 中山 千夏
- 出版日
- 2005-07-01
文はすべてひらがななので、字を覚えたての子供でもひとりで読めますが、心身ともにぐっと成長する9歳にこそ読んでほしい一冊。和田誠のほのぼのした絵が、ひろくんの素直さと、とてもマッチしています。
今日もまた「どんなかんじかなあ」と考えているひろくんの姿で締めくくるラストには、誰もが少なからずショックを受けるはずですが、「自分とは違うこと」について、考えるきっかけとなるでしょう。きっと、記憶に残る一冊となる、そんな絵本です。
「いのちには、はじまりとおわりがあって その間を“生きている”という。」(『いのちの時間』より引用)
本文冒頭のこの一文に、はっとします。そんなことは当たり前のことなのですが、「生きていること」の定義の仕方として、シンプルで正しい表現のひとつ、と言えるでしょう。
生きていればいつかは死ぬ時がくるということは、なかなか理解するのは難しいことです。本作は、昆虫、魚、植物など様々な生物を例に挙げながら、そのことを非常に分かりやすく伝えています。
- 著者
- ブライアン メロニー
- 出版日
- 1998-11-25
ロバート・イングペンの細密画に圧倒されることでしょう。まさに、生き物たちが今にも動きだしそうなのです。そして、そのいのちを終えて、もう動くことはなくなった姿も描かれています。生きている様も、おわりを迎えた後も、それぞれがとてもリアルに、丁寧に描かれ、タイトルでもある「いのちの時間」が分かりやすくビジュアル表現されています。
説教めいてはおらず、それぞれの生物、そして人間のいのちの時間についての説明が簡潔に書かれているので、読みやすいでしょう。ラストに近づくと、冒頭と同じような表現があり「輪廻転生」のイメージが含まれているよう。「生きること」そして「死ぬこと」について、考えるきっかけになる一冊です。
『算数の呪い』は、算数に拒否反応のある子に追い打ちを掛けるようでもありながら、実は虜にしてしまうという、なんともユニークな本です。
算数が苦手な人は「この世に算数なんてなくても生きていける」と言うことがありますよね。しかし、この本を読めば、日常生活のそこかしこに算数が散りばめられているという現実を知ることになるのです。
まさにそこが「算数の呪い」、進もうとすればするほど呪いが立ちはだかりますが、これは一種のクイズのようなもの。それじゃあ、受けて立とうじゃないの!と子供が挑戦する気になること請け合いです。
- 著者
- ジョン・シェスカ
- 出版日
小学校低学年の時は苦手ではなかったのに、中学年になり学習内容のレベルがぐんと上がったことによって算数に苦手意識を持つ子が増えることもあるでしょう。そんな時に、この本が算数への興味を取り戻すきっかけになってくれるかもしれません。読む際には、問題をその場で解きたくなった時のために紙と鉛筆をそばに置いておくのがおすすめです。
アメリカの児童文学作家である著者、ジョン・シェスカは教師の経験もあるそうですが、こんな楽しい授業なら受けてみたいものですね。
小学校中学年となる9歳という年齢は、低学年の時よりも、考える能力が飛躍的に伸びる時期。だからなのか、急に本を読むのが好きになる子が増えてくるとも言われています。
本を読み、「面白かった」「つまらなかった」という単純な言葉だけでは終わらない、様々なバリエーションのある感想が持てるようにもなるでしょう。語彙も増えてくるこの時期にこそ、考える力を身につけてほしいものです。ご紹介した本が助けになりますように。