いつかできると信じながら31歳まできてしまった童貞男の最後の大勝負を描いた『恋愛の神様』。意中の彼女との「悲願」のために泥臭く足掻き続ける姿に共感する作品です。今回は本作の魅力をご紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
いつの頃からか「恋愛の神様」という額にハートマークをつけた仙人のようなおじいちゃんが見えるようになった渡良瀬橋。彼は「童貞は童貞でもやろうと思えばやれないこともなくはなかったちょっと意外でかわいらしい童貞」です。
そんな自分への言い訳をしてきて早31歳。思考も言動もまさに絵に描いたような、というか絵に描かれた童貞ですが、彼は最近2歳年下の同僚・里子といい感じ。今日は3回目のデート、そして里子の誕生日です。
渡良瀬橋は今日、決意しています。
「いま目の前にいる彼女……森高里子と……!!
セックスがしたい……」
おしゃれなレストランに来て、彼女と話をしていてもやはり考えるのはあのことばかり。
そしてメニューを見て高すぎるワインの値段に恐れをなし、それじゃぁビールでもと見たビールが1杯850円することに驚き、それでもやはり考えるのはあのことばかり。
「おしゃれな店内…おしゃれな人々…おしゃれな音楽…
このグラスビール850円にもおしゃれ代が含まれているのか!!
おしゃれな連中はおしゃれなセックスをするのか!!」
アホなことを考えながらとりあえずビールで乾杯。そして楽しい時はあっという間に時間が経ってしまいます。いつしか里子はほろ酔いの様子。
「何だか酔っ払っちゃったみたい…
楽しくてついつい飲みすぎちゃった…
私…渡良瀬橋くんといると安心できるっていうか
まるでお風呂に入ってるときみたいなゆったりした気持ちになれるの…」(中略あり)
- 著者
- 鈴木マサカズ
- 出版日
- 2013-05-18
出典:『恋愛の神様』
もちろんこの言葉で渡良瀬橋が想像するのは里子の入浴シーン。これは勝ち試合だと彼の気持ちは最高潮に達します。その横でエールを送る恋の神様。
「決まったな 今夜やれるぞ」
その言葉を聞いて今夜こそキメる決心をした渡良瀬橋ですが、さぁ名台詞をかますぞという時に恋の神様が見当たりません。つい周りをキョロキョロしてしまい、里子に心配される始末。
しかしここで決めなきゃ男でない!焦った渡良瀬橋は何と……。
続きは作品でご覧ください。渡良瀬橋の迷言に泣けること間違いなしです……。
結局3回目のデートでキメることのできなかった渡良瀬橋は今回4回目のデートです。もちろん考えることは変わっていません。
出典:『恋愛の神様』
デート前、ひとりきりの時に口に出して「初セックス」とつぶやいてみたものの、全く実感が湧かなかった渡良瀬ですが、なにわともあれデートは始まり、戦いの火蓋は切って落とされたのです。
「今夜キメるぜラブ&セックス!! セックス&ラブ!!
31年の童貞人生にさよならを……」
そしてひととおりデートを済ませ、食事の後に駅までの道を散歩するふたり。渡良瀬橋は当初計画していた予定通りにそのままラブホゾーンへと向かいます。
今までこの禁断のゾーンをひとりで歩いた時の情けなさ、さみしさを思い出す渡良瀬橋。しかし今夜はひとりじゃありません!里子も何も言わずについてきます。さぁ今こそ大チャンスです!
しかしやっぱり31年間積み上げてきたものの重みで渡良瀬橋は身動きがとれなくなります。怖くてホテルに誘えず、踏ん切りがつかない様子を見て恋愛の神様が一喝します。
「これ以上女に恥をかかせるな渡良瀬橋!!
彼女のほうから『ホテルにいこう!』なんてそんな都合のいい言葉は神に誓ってもないぞ!!」
その言葉に目を覚ました渡良瀬橋。歩みを止め、決意の面持ちで里子にこう宣言します。
「俺は 里子ちゃんとラブホテルに入りたい!!です!!」
どストレートの豪速球!!ひねりもありませんが、そこまで失敗とも言えない言葉ではないでしょうか?果たして渡良瀬橋は男になれるのでしょうか!?
その日、渡良瀬橋は重大なミッションをこなしにある場所へやって来ました。それは里子の実家。そう、ついに彼はここまでやってきたのです。
優しそうな母に迎えられ、緊張しながら里子の実家に足を踏み入れる渡良瀬橋。ちょうど父親がいないと言われ、「あ!!そうなんですか!!」と言いながらも、いきなりふたりは荷が重すぎるからと今日を選んだ渡良瀬橋。
今日の彼のクエストはまず里子の母をお母さんと呼ぶことです。
里子の小さい頃のアルバムを見ながら体の弱かった彼女の昔話を始める母親。父親が忙しいから自分が急いで自転車で彼女を病院に運んだことを振り返ります。
それを聞いた渡良瀬橋、しんみりした表情で「そうだったんですか……お母さん…」と自然に言葉が口をついて出ます。まさかの早々のミッションコンプリート。しかしそこは渡良瀬橋、こんなに軽々とクエストを終えるような有能な人物ではありません。
調子をこいて何度もお母さんを連発する渡良瀬橋の目の前に現れたのは何と父親!雨のせいでゴルフを切り上げて早めに家に帰ってきてしまったのです。
まさかの追加ミッションにいつものように頼りなく慌てる渡良瀬橋。果たして彼は第2ミッション、里子の父をお父さんと呼ぶ、をクリアすることができるのでしょうか?
- 著者
- 鈴木マサカズ
- 出版日
- 2013-05-18
童貞でなくとも期待してしまう男心、スケベ心に共感できる『恋愛の神様』。この後も渡良瀬はそのこじらせパワーで次々と失敗を起こし、何とか誠意で乗り切っていきます。
渡良瀬橋の様子は見ていて思わず応援したくなるもの、そして恋の神様の言うことは勉強になることばかりです。
それにしてもこんな渡良瀬橋に付き合ってくれる里子は本当に女神のような人物。彼女のキャラクターもぜひ作品で味わってみてください。