逢坂剛のおすすめ本5選!ハゲタカシリーズも紹介

更新:2021.12.20

評価の高いハゲタカシリーズや、テレビドラマ化された百舌シリーズなど、数多くのミステリー作品や冒険小説を幅広く執筆されている直木賞作家の逢坂剛。彼の著作の中からおすすめの小説を5冊、ご紹介します。

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逢坂剛とは

母を幼くして亡くし、画家の父である中一弥の手で育った逢坂剛は、大学卒業後に広告代理店の博報堂へ就職します。執筆活動も並行して行っており、1980年に『暗殺者グラナダに死す』で小説家としてデビューしました。

それ以降17年程は兼業小説家として活動していましたが、1997年に博報堂を早期退職し、専業作家として神田神保町に事務所を開設。神保町には古書店や、カレー店・中華料理店などが多く軒を連ねており、逢坂剛はそれらにも精通して作品作りに活かしています。

17歳頃からクラシック・ギターを嗜んでおり、独習の限界を感じ始めた大学時代に、とあるフラメンコギターのレコードに出会い、衝撃を受けます。それをきっかけにフラメンコの音楽カンテにはまり、本場のスペインにも興味を持つことになりました。

1971年にはスペイン現地を旅行し、その時の経験は後の執筆活動にも影響を与えています。『カディスの赤い星』をはじめとする作品にそれを見ることができます。また同作品は直木賞を受賞しました。

2001年から2005年までは日本推理作家協会の理事長も務めていた逢坂剛の作品は、現代小説から時代小説、西部劇まで様々な世界を舞台としています。そのような広い世界の中で、読み進めるうちに謎が明らかにされていく過程を楽しむことができます。

正義の刑事の影に迫る『裏切りの日日』

公安部に異動した浅見は、桂田という刑事とコンビを組んで捜査をすることになりました。しかし津城という内部捜査官が、浅見に桂田を見張るように頼んだことから、浅見の桂田に対する正義感溢れる人という評価に疑いが差し込まれます。

そんな時、ビルを乗っ取るというテロと大物右翼の射殺事件が同時に起きました。桂田はこの2つの事件が関連しているものだと疑い捜査に乗り出します。

1981年発表の百舌シリーズに通じる序章ともいえる警察小説です。

著者
逢坂 剛
出版日

物語は浅見の視点を通して、桂田という一人の刑事を追う形で進みます。

まずコンビを組んだ彼らが日頃訪れている企業ビルで、乗っ取り事件が起きます。そして以前桂田達が追いかけていた右翼の大物が射殺されるという事件も発生しました。この2つの事件が同時に起きたことをきっかけに、物語が動き出すのです。

前者の事件では人質は無事解放されるものの、犯人が乗ったと思われるエレベーターは、いつの間にかもぬけの殻となっていた、という不可解な状況がありました。

また、殺された右翼の大物である遠山は事件の前に、東方の赤き獅子と名乗る者から脅迫状を受け取っていたのですが、彼らが起こした事件とは考えられない証拠が現場に残されており、こちらも不可解な事件であると気付くのです。

これら不可解な2つの事件の謎が少しずつ明らかにされていくのに伴い、桂田の言動にも注目することができます。この男は仕事に邁進するうちに家族にも見放されるのです。正義の男と思われていた彼はどのような行動を取るのでしょうか。

津城が登場するのみですが、百舌シリーズの序章ともいえる作品です。また、ハードボイルド小説のような展開と、ミステリーとしての展開を合わせて楽しめる、1つの独立した作品でもあります。ぜひ読んでみてください。

破天荒な刑事ハゲタカが野放図に暴れまくる『禿鷹の夜』

神宮署のデカと名乗る男は、ヤクザから大金の入ったアタッシュケースを奪い、警察も地回りの渋六興業も見逃す露店の男を殴ります。

名を禿富鷹秋といい、ハゲタカと呼ばれているその傍若無人な男は、このたび神宮署に異動してきました。そんな男の恋人である和香子が殺されてしまい、ハゲタカは復讐に燃えます。

2000年発表の、冷徹な刑事を描く暗黒小説です。またこの後ハゲタカシリーズと呼ばれる一連の物語へ繋がる、始まりの作品となります。

著者
逢坂 剛
出版日

ハゲタカと呼ばれる主人公、禿富鷹秋はやることなすこと破天荒な男ですが、物語序盤で襲われている女性を助けるという、弱者を助ける心意気も持ち合わせる男でもあります。

それでも読み進めていると、弱者を助けた人であるというのを忘れてしまうほどの悪徳刑事ぶりに、振り回されてしまいます。

その姿は仁義のあるヤクザよりもあくどくて、あまりの突き抜けたその性格に痛快さを覚えることでしょう。彼の心情は一切描写されていないので、同時に不気味さも感じるかもしれません。ヤクザがそれぞれ彼の姿を追い、その容貌を描写しているのです。

また南米マフィアに襲撃された渋六興業の組長である碓氷嘉久造を守ったことで、渋六興業とハゲタカの間につながりができました。これをきっかけに彼は事件の渦中に飛び込んでいくことになります。

物語序盤で彼が助けた女性、青葉和歌子は後にハゲタカの恋人になるのですが、彼女が殺され、ハゲタカはその復讐に取りつかれたように周囲を荒らしていくのです。そして、その犯人の姿に瞠目するラストが待っています。

スペインをギターと共に巡る『カディスの赤い星』

漆田亮が経営する会社の得意先である日野楽器では、ギター製作の名工であるラモスをスペインから呼び寄せていました。

そのラモスは漆田に、20年前スペインの自分のところを訪ねてきた日本人のギタリストを探してほしいと頼んできます。漆田は頼みに応え、その男を探すうちに大きな事件に巻き込まれていくのです。

1986年発表の直木賞を受賞した作品です。2007年には新装版が出版されました。過去にはテレビドラマ化もされた名作です。

著者
逢坂 剛
出版日
2007-02-10

ラモスが語った、20年前の自分を訪ねてきた日本人のギタリストについてのエピソードは、美しいものです。ただの人探しかと思われましたが、ラモスはパコという日本人青年の演奏を見て、真相を打ち明けてきます。

ラモスが本当に探していたのは、名工がこしらえたという赤いダイヤモンドがあしらわれたギターでした。そのギターの名前が、カディスの赤い星です。サントスという日本人のギタリストが、工房から持ち出したのです。

それと時を同じくして、ラモスがスペインから伴ってきた娘のフローラが、本国へ戻ることになります。日本の過激派と通じており、果ては公安に追いかけられるまでになったからです。

スペイン語も使える漆田は、フローラと共にスペインへ行くことになりました。奔走する漆田の姿と、漆田の目を通して見るスペインの情景に心躍ることでしょう。

作中に描写されている時代のスペインは、情勢的に安定した国ではないので、事件が次々と起こり、息をつく間を与えません。逢坂剛はスペインについて詳しいので、その描写を楽しむことができるでしょう。

30年を隔てて明らかにされる真実を読む『燃える地の果てに』

1965年、ホセリートと名乗る日本人の青年が幻のギター製作者を探して、スペインの小さな村であるパロマレスに滞在していました。とある晩、その村に米軍機が墜落し、核爆弾が行方不明になってしまいます。

その30年後の1995年、バーを経営する織部はその事件の当事者たちの消息を探るため、パロマレスへと向かいますが、村人は誰も語ろうとしません。彼らは何を隠しているのでしょうか。

1998年発表の、逢坂剛が愛するスペインとフラメンコとギターの魅力を詰め込んだミステリーです。

著者
逢坂 剛
出版日

1966年は、パロマレスを訪れたギタリストの日本人青年であるホセリートを中心にした物語です。米軍機墜落と同時に、核爆弾が行方不明になりました。

次々とアメリカ人、スペイン人、イギリス人、果てはソ連のスパイまでが登場します。その中で戦闘機の積荷の行方とスパイの正体について明かすために、多くの男たちの躍動が見られるのです。

その後、30年後の1996年にバーのオーナーである織部を中心に話が進んでいきます。彼が村を訪れる頃、1966年の事件に関わった人達の行方が全く分からなくなっています。彼らはどうなったのか、村人はそのことについて口を開こうとしません。

真相を探そうとする過程が、互い違いに編み込まれるように書かれて、物語は進んでいきます。最後に全ての謎が白日の下にさらされるのです。

登場人物が多く、男性も女性も魅力的なキャラクターたちばかりなので、読み応えがあります。そして1966年の米軍機墜落事故をモチーフに書かれた作品ということを考えると、ただの物語として消化する以上の読後感があるでしょう。

アメリカに渡ったサムライの軌跡を追う『果てしなき追跡』

1896年、箱館で亡くなったと思われていた土方歳三は、実は一命を取り留めていました。幼馴染の時枝ゆらの協力を得て、意識のないままアメリカ船に乗せられ密航します。

しかし土方は頭部を撃たれたためか、意識を取り戻した時には今までの記憶を全て失っていました。過去を失ったサムライはアメリカ西部に始まり、海へ大陸へと向かう壮大な旅へと足を踏み入れます。

2017年発表の歴史スペクタルの始まりの物語です。

著者
逢坂 剛
出版日
2017-01-17

土方歳三というキャッチ―な実在人物を使い、古きアメリカ西部における開拓時代の情景を描き出しています。

またその情景の中で、アメリカ人や少女の目線を通して、「刀を差すサムライとは何か」が余すところなく描写されています。ライフルや銃と対峙する際に武士道を貫くのです。

土方は幼馴染とアメリカへ密航する中で、船の中で記憶喪失になっていることに気付き、名前をも変えてしまいます。そのことで彼を彼たらしめる部分が消えたように感じるかもしれません。しかし心の根には、そのサムライ魂が刻まれていると分かります。

土方とゆらの2人がサンフランシスコを経て西部へと向かう中、連保保安官のティルマンがしつこく追いかけてきたり、インディアンとも交流を持ったりと、滅茶苦茶な展開の旅行記を読んでいるような感覚にもなるでしょう。

まだまだ彼らの旅は続きますが、土方歳三がどうアメリカという地に馴染んでいくのか、楽しみになります。また同じく逢坂剛作品の『アリゾナ無宿』や『逆襲の地平線』の前日譚としての物語でもあるので、併せて読んでみてはいかがでしょうか。

ハードボイルド要素を含んだ刑事小説から、彼が好むスペインやギター、西部劇を盛り込んだ冒険小説まで、幅広いエンターテインメント性を遺憾なく発揮する逢坂剛。ぜひ、気になった分野の作品から手に取ってみてください。

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