昭和から平成にかけて生きるねじめ正一の作品は、昭和の香り漂うどこか懐かしい作品ばかりです。また、小説の他にも絵本の作者としても活躍しています。温かいねじめ作品の雰囲気に浸ってみませんか。おすすめの5作品を紹介したいと思います。
ねじめ正一は1984年、東京、高円寺にて生まれました。実家は乾物屋を営んでおり、それを基にした物語も執筆しています。
ねじめ正一という名前はペンネームのようですが、本名は、漢字で禰寝正一と表記するのです。親族に芸術家が多く、父は俳人、兄は声優、娘は脚本家という芸能一家としても有名です。
高円寺を舞台にした『高円寺純情商店街』は、第101回直木賞を受賞しています。教科書に掲載されたり、推薦図書になったりしていることが多く、非常に人気の高い作品です。
また、上記をはじめとする大人向けの小説はもちろん、子供向けの絵本の原作をしていることでも有名な作家だとご存知でしょうか。
ねじめ正一の体験をもとに描かれた小説です。乾物屋の息子である正一少年の目から見る商店街の人々や、古き良き商店街の様子を、短編集の形式で描いています。
- 著者
- ねじめ 正一
- 出版日
- 1992-04-28
ねじめ正一自身も、高円寺生まれ、乾物屋の息子でした。この作品は、彼の幼少時代を脚色し、より面白おかしく描いた作品です。
この作品のいちばんの魅力は、商店街の生き生きとした様子が表現されていることでしょう。風呂が壊れて銭湯に向かう様子、火消し、近所の人との交流など、経験したことは無くても、昭和時代はこんな様子だったのではないか?と感じる場面が描かれています。
本屋さん、魚屋さんなど、たくさんの店が並ぶ商店街をつい思い浮かべてしまうでしょう。まるで昭和の世界にタイムスリップしたかのような光景に、思わず懐かしいと感じる方も多くいると思います。
正一少年が見たままを伝えるため、少年ならではの気持ちが表されています。例えば、綺麗なお姉さんがいるだけでドキドキしてしまう気持ちです。思わずニヤッとしてしまうような、ねじめ正一自身もそうだったのか、と思わせるような場面になっています。
現在の高円寺は、昔ながらの下町の様子が残る場所です。現在の様子を知る人も、昔の様子と見比べるとより面白いのではないでしょうか。
昭和のホームドラマを見ているような、つい心があったかくなるようなこの作品、あなたもぜひ、昭和の商店街の風景を体験してみませんか。
小学5年生のノブオは、野球に打ち込む日々を送っていました。野球をやっている理由は、長嶋茂雄ファンであるためです。彼の生活環境は決していいものではないけれど、長嶋が大好きで、心の支えにしながらつらいことがあっても長嶋に励まされながら強く、強く生きていくという物語となっています。
- 著者
- ねじめ 正一
- 出版日
- 2014-09-02
主人公、ノブオの家庭は豊かではありません。父親は詩人をしていますが行方不明で、母親はノブオのことをほったらかしているいわゆる「育児放棄」です。ノブオは父のことが大好きでしたが、母のことは嫌いでした。
そんな家庭環境の中、ノブオは長嶋を目標にしながら日々野球に打ち込んでいきます。ノブオの野球の腕は、練習の成果もあって一目置かれているほどです。
母親のことや、友達のことで悩むことはあるけれど、なんといてもノブオには憧れの選手、長嶋の存在があります。もちろん遠い存在ですが、ノブオにとっては強い心の支えだったのです。
普通ならば傷ついているだろうと思われる心も、長嶋の存在があることで、少年を真っすぐ育てていることを表しています。
また、ノブオの周りには長嶋の他にもあたたかい人たちがたくさんいます。地域の人や友達、野球チームの人たちなど、周りの人に支えられてノブオは生きているのです。
家庭環境は荒んでいても、尊敬する、大好きなものがあって、周りの支えがあれば少年は真っすぐ生きることができるかもしれない、そんな希望を持つ物語です。少年の純粋な気持ちを、誰しもが思い出すことでしょう。
ねじめ正一自身も、長嶋のことを尊敬していました。作者の長嶋への愛も伝わるこの作品、ぜひ読んでみてほしいと思います。
ねじめ正一本人が、母親の介護をした体験を事細かに記していった作品です。母親の妄想につきあう作者や、自分のことを忘れられた様子を描いています。正一のことを名前で呼ばなくなり、好きな食べ物を食べなくなる、そんな様子が描かれていく切ない物語です。
- 著者
- ねじめ 正一
- 出版日
- 2014-11-07
一生懸命介護をして、母親のために尽くしている作者とは裏腹に、母親の症状は日々変化していきます。
介護を経験、または身近に認知症の方がいらっしゃる人は、同じ気持ちをしたことがある、と感じる場面があるはずです。
重い題材ですが、ねじめ正一独特のユーモアによって、会話や行動が非常に楽しく描かれています。それゆえ読みやすいのですが、それでも作者の母親に対する思い、症状が進むにつれ切なさが増す家族の気持ちが痛いほど伝わってくる作品です。
一番心に残る出来事は、母親が息子のことを認識していたにもかかわらず、最後の方ではもう息子すら分からなくなってしまうことです。どんなことを言われても、息子と認識している方がましだという部分がとても切ないと感じます。
もしかしたら、自分も同じ経験をするかもしれない、その前にできることがあるはずです。そんな気持ちをもって読んでほしい作品となっています。
何人もの作者や作品から例に出しながら、言葉の面白さや楽しみ方を指南する作品です。詩人、詩、絵本作家、歌など幅広く「言葉」について紹介しています。
お気に入りのフレーズが見つかること間違いなしの1作です。
- 著者
- ねじめ 正一
- 出版日
- 2009-10-21
まず目を引くのは目次です。題名の「塾」に添い、目次も「○時間目」という表し方をしています。まさに、ねじめ正一の塾に通う生徒になった気分です。自分の好きな、興味の湧いた授業からとってみましょう。
この作品の中には、多くの有名な作家が現れます。まど・みちお、甲本ヒロト、町田康……現代の作家ならではの作家のチョイスに、正一への親近感が浮かぶことでしょう。
私のおすすめの時間は、「声で遊ぶ朗読」です。朗読は、読む人の声や技術などを感じ取れるため、好きな人もたくさんいると予想されます。しかし、結局詩や文の面白さは、言葉によって表現されているのです。
また、声で「遊ぶ」という表現をされている部分も非常に粋な題名のつけ方なのではないでしょうか。
詩、というのは文学よりも芸術寄りで、詩を理解できないという方もいらっしゃるでしょう。しかし、この本を読むと、言葉自体に面白さを感じるはずです。
つまり、この作品は、ねじめ正一が思う「言葉が持つ力」が存分に表されているのではないでしょうか。
詩に長けた正一ならではの、詩を中心とした言葉遊びから、言葉って面白い、と感じるはずです。
ねじめ正一が原作を手掛けるこの作品は、お兄ちゃんが病気の妹のために奮闘する作品です。おにいちゃんにわがままを言う妹に、献身的に面倒を見るお兄ちゃん、誰もが心温まる作品となっています。
- 著者
- ねじめ 正一
- 出版日
「アイスが食べたい」と言う妹に、買ってきてあげるお兄ちゃんの関係性がとてもかわいく描かれています。
風邪をひいているからと言って、超わがままな妹はお兄ちゃんに勝手なことばっかり言うのです。しかし、お兄ちゃんはそんな妹が可愛くて仕方がなく、ついつい、甘やかしてしまいます。
バニラアイスが食べたいという妹のために買ってきたのに、妹は今度はいちごアイスが良かったとわがままを言います。いちごアイスを買ってくると、今度はプリンがいい、と言ってくるのです。それでも妹のためを思うお兄ちゃんが描かれています。
もちろん子どもにとっても、お兄ちゃんの優しさを感じることができる作品ですが、大人が読んでも面白い作品です。お子様がいる方は、ぜひお子様におすすめしてみて下さい。そして、一緒に読んでみて欲しいです。
これを読めば、こんなお兄ちゃんが欲しかった!と思うこと間違いなしの作品となっています。
ねじめ正一の、小説から詩から、絵本まで魅力のある作品を紹介しました。いかがだったでしょうか。ねじめ正一はほっこりあたたかな作品を書く作家です。昔懐かしい気持ち、優しい気持ち、様々ですが、作品にはそんな共通点があります。ぜひ、読んでみて下さい。