「あらしのよるに」は友情を描いた名作絵本。シリーズ作品をご紹介!

更新:2021.12.8

「あらしのよるに」シリーズは1994年に初版され、ストーリーの面白さから大ヒットとなった絵本シリーズです。アニメや映画、漫画など数々のメディアで作品がリメイクされています。今回はそんな「あらしのよるに」全7冊の魅力をご紹介していきます。

ブックカルテ リンク

「あらしのよるに」シリーズ1作目。大切なのは相手の本質を見るということ

「あらしのよるに」はオオカミとヤギという、相容れないはずの者同士の友情が描かれた物語。オオカミのガブとヤギのメイは、嵐の夜、真っ暗な小屋の中で出会い、次第に意気投合して友達になっていくのです。

強い雨が打ちつける嵐の中、ヤギのメイはやっとの思いで小さな小屋にたどりつきます。

するとそこにコツコツと足音をさせながら、オオカミのガブがやってきました。でも小屋の中は真っ暗で、おまけに2匹とも風邪で相手の匂いは分かりません。分かるのはお互いの声だけです。

著者
["木村 裕一", "あべ 弘士"]
出版日
1994-10-20

思い込みや偏見、見た目の第一印象で相手を判断しなければ、この2匹のように仲良くお話ができるかもしれない、と思わせてくれるお話です。

途中で何度もお互いの正体がわかりそうになって、読んでいる方がヒヤヒヤしてしまう面白さもあります。

「食べる」側と「食べられる」側という、絶対に相容れないはずではあるのに関わらず、お互いどんどん惹かれあっていくという、関係性のねじれも読んでいて楽しめる要素のひとつです。

また単純な線ではあるものの大胆に描かれた、あべ弘士の絵柄がオオカミのガブのおそろしさや荒々しさを的確に表現していて、肉食獣であることをきちんと思い出させてくれます。

利益が相反する生き物同士でも心が通じ合える、「こうあるといいな」という気持ちが満たされ、なんとなく心が温かくなる絵本です。

関係を持続するための努力に心打たれる

晴れて気持ちがいい日。ヤギのメイとオオカミのガブは、お互いお弁当を持ってピクニックに出かけます。

ところが足場が悪いところを通りかかったときに、ガブは用意してきたお弁当を谷底に落としてしまいました。

お昼になって、大飯ぐらいのガブはお腹が空いて仕方がありません。でもメイとの楽しい時間を続けたくて、空腹を我慢するのですが……。

著者
木村 裕一
出版日
1996-06-20

自分がやりたいことを我慢してでも、相手との楽しい時間を続けていきたいガブの健気な態度が胸を打つお話です。

ひょっとしてガブに食べられた?と思うような描写もあったりと、ガブがどこまで我慢し続けられるかヒヤヒヤしながら見守れる楽しさもあります。

本来だったら食べてしまう相手と友情を築く難しさ、だからこそ余計に2匹の友情のかけがえのなさが際立ちます。

次はいつ会える?とメイにはにかみながら訪ねるガブの描写は、思わず「ククク」と忍び笑いしてしまうほど可愛らしいですよ。

周りの意見じゃなくて、自分がどうしたいか

雲の切れ間から太陽が覗いたある日。ヤギのメイは、オオカミのガブに会いに出かけます。

ところが、メイを心配した友達タプがメイを追いかけてきて、ガブと鉢合わせしそうに。メイがいろいろと手を尽くしてタプに帰ってもらおうとしますが、タプは何度も戻ってきてしまうのです。

メイの努力も虚しく、ついにオオカミのガブと遭遇してしまい……。

著者
["木村 裕一", "あべ 弘士"]
出版日
1997-10-30

今回はガブが、オオカミと一緒にいることでメイに迷惑がかかるのでは、と心配するお話。

メイと友達を続けているか不安になるガブの自信のなさと、それを支えるメイの気持ちの強さが描かれています。本当は弱いはずのヤギのほうが、精神的に強いという関係性の面白さも楽しく読める要素です。

タプのうっかりしている感じやとても心配性な様子も、ユーモアたっぷりに描かれており、メイのこと心配なんだなぁとほっこりしますよ。

「こんな自分で大丈夫かな?」と思っているときに読むと、少し心が軽くなるかもしれない一冊です。

「絶対守るから安心して」と言うガブがかっこいい!

ヤギのメイとオオカミのガブの2匹は、今度はとある丘で待ち合わせ。その日はあまりお天気が良くなく、あたり一面に霧がたちこめていました。

その丘はオオカミもよくうろついている危険な場所です。メイはがんばって待ち合わせまでたどり着きます。しかし途中でガブ以外のオオカミたちに見つかってしまい……。

著者
木村 裕一
出版日
1999-03-15

実はガブは群れの中でも順位が低いオオカミ。他のオオカミには逆らえない立場です。

それにも関わらず、いろいろ手を尽くしてメイの隠れている岩場から、他のオオカミたちを遠ざけようと手を尽くし、その姿がいじらしくて、じんわりと心温かくなります。

前作の『くものきれまに』では、ヤギ側の本音を聞いてショックを受けていたガブ。今回はメイが、オオカミ側の本音を聞いてショックを受ける話です。

お互いの本音を知りながら、それでも友達で居続けたいんだという2匹の気持ちが、より強く伝わってくる一冊となっています。

激しく打ち付ける雨。「あらしのよるに」の2匹の絆がより強まる

絶対に相容れない種族の2匹が友情を築いているということが、森じゅうの噂に。

そんな噂はオオカミの群れにも届き、ヤギの群れにもオオカミと仲良くしているメイの姿が目撃されてしまいます。

メイとガブは、それぞれ相手の情報を探ってくるように命じられ、気まずい思いのままお互いに会いに行くのですが……。

著者
["木村 裕一", "あべ 弘士"]
出版日
2000-05-12

ついに、周りの意見を押し切って駆け落ちにでるのです。

それぞれの群れよりも、お互いを選んだ2匹。ついに2匹だけで暮らせる、安住の地を目指し始めます。ちょっとビックリするような展開に、読んでる方もドキドキしてしまうでしょう。

秘密の友達が秘密じゃなくなっていく過程も、読んでいて切ない気持ちに。監視されながら会うことも、集団同士が敵対しているという息苦しさを感じさせます。

お互いの集団すら捨てても構わないという潔さに、ドラマチックな面白さを味わえる一冊です。

あなたのためなら命を捨ててでも

あの高い山を越えた先に、きっと新しい緑の大地が広がっている。そう2匹は決意して、高い山を越える旅に出ました。

山の頂上に近づくと、そこは草も生えない不毛の地。おまけにひどい吹雪まで吹いてきました。

寒さにやられて弱ってしまったメイは、ガブに「自分を食べてくれ」と懇願しますが、ガブはたった1匹の大切な友達を食べることなどできないのです。

著者
木村 裕一
出版日
2002-02-27

お互いを思いやる気持ちが一層強くなっている一冊です。

2匹とも、お互いのためなら命を差し出してもいいとさえ思っている様子が、多くの感動を与えることでしょう。

ガブが餓死するなんて耐えられないメイと、メイを食べるくらいなら命を投げ出してもメイを守ることを選んだガブ。その後ガブは、雪崩に巻き込まれてしまい、2匹は離れ離れになってしまうのです。

「あらしのよるに」シリーズクライマックスといってもいいほど、中身の濃い作品。お互いの気持ちが痛いほど伝わってくる感動作です。

「あらしのよるに」最終作。君がいなくちゃ生きている意味はないんだ

ついに緑の大地を見つけたメイ。でもそこにガブの姿はありません。

ガブもやがて緑の森に来ることを信じて待ち続けるメイ。食欲もないので身体はどんどん弱るばかりです。

そんなときガブがやっと森にやってきます。でもガブはこれまでのひどい体験のせいで、メイのことも自分のことも忘れてしまっていたのです……。

著者
木村 裕一
出版日
2005-11-02

あらしのよるに初めて出会った2匹は、ついに2匹だけの世界にたどり着きます。

そこは2匹だけの楽園、でもガブはメイのことを忘れていて……。とにかくいろいろとドラマチックな展開が続き、読む側もドキドキしながらページをめくることができます。

メイとガブ、2匹の絆は結局「あらしのよる」から始まって、「あらしのよる」で完結するんだなぁと、スッキリとした気持ちで読み終えることができるでしょう。

本当は最初の1冊で完結の予定が、あまりの大反響に7冊もシリーズが続いたのだとか。やっと2匹だけの安住の地を手に入れたシーンの描写は、幸せの構図そのものです。

「あらしのよるに」シリーズは、映画やアニメのほか歌舞伎や漫画にまで展開された、絵本の中でも大ヒットした作品です。

お話の内容は、小さい子どもには少し難しい感じはしますが、そのドラマチックな展開にはぐいぐいと引き込まれていきます。小学校高学年になれば、十分面白く読める内容なので、親子で楽しんで読むのもおすすめですよ。

お話を通して、友情の大切さや、外見や属している集団だけで相手を判断しないことの重要性なども学べる今作の絵本シリーズ。人と人との関係を、親子で話し合う良いきっかけにもなりそうです。

そのほかにも、子供の成長に役立つ絵本をお探しの方は選書サービス「ブックカルテ」を使ってみてはいかがでしょうか。

選書に自信のある書店員さんを指名すると、自宅に絵本が届くサービスです。プロに選んでもらうことで、おもいがけない絵本との出会いが生まれるかもしれません。

ブックカルテについて詳しくはこちら!
  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る