山本容子は、やさしいタッチと一風変わった色使いで個性的な作品を多く作っています。大人にこそぜひ楽しんでもらいたい、彼女の絵本を5冊ご紹介いたします。
山本容子は、1952年埼玉県浦和生まれの版画家です。子ども時代を大阪で過ごした彼女は、京都市立芸術大学西洋画専攻科を修了しました。
また、吉本ばななの『TUGUMI』の装画で話題になるなどして、活躍しています。さらに山本容子は版画、装丁、挿画にとどまらず、エッセイ、絵本など幅広い活動をして、素晴らしい作品たちを世に残している芸術家です。
一度見ると脳裏に焼き付いてなかなか離れることのない絵は、たいへん魅力的。さらに言葉選びも独特で惹かれるものばかり……そんな山本容子の描く絵本は、コミカルなタッチとおしゃれな雰囲気でファンが多いのです。
独自の世界観は、美しくお茶目で洗練された雰囲気があり、読者が楽しくなれる素敵な魅力でいっぱいです。大人こそ楽しく読める絵本なのではないでしょうか。
『おこちゃん』は、水色のワンピースがよく似合う、元気いっぱいな女の子。おこちゃんの毎日には、周りの大人たちがびっくりしてひっくり返ってしまうような出来事がたくさん起こるのです。
おこちゃんは、ある時チューリップを片っ端から摘んでしまいました。その理由は、こんなにきれいなので茶色く枯れると可哀そうだったから、と言うのです。ワンピースのスカートを広げてたくさんのチューリップをのせて笑います。それをみたかあさんはびっくりしてひっくり返ってしまいました。
- 著者
- 山本 容子
- 出版日
また別のある時、おこちゃんは、アリのために砂糖をまきます。アリは砂糖が好きだからと、台所までの道を教えてあげるというおこちゃん。そんなおこちゃんを見つけたおばあちゃんは、びっくりしてひっくり返ってしまいます。
子どもの発想には、驚かされることがありますよね。それでも、子どもはいたって子どもなりに筋の通った理由をもっているのです。その真剣さが面白く感じてしまいますね。
当事者としては、笑ってすませられる問題ではないこともあるかもしれません。しかし、そうはいっても誰しも子どものときには、周りの人がびっくりしてひっくり返ってしまうような出来事を引き起こしたこともあるのではないでしょうか。
そんなことを、振り返りながらこの絵本を読めば、きっとおこちゃんの考えることを他人事とは思えなくなるかもしれませんね。一気に親近感がわいて、読み進められたらしめたものです。とびきり楽しい時間が訪れることでしょう。
『白雪姫』は、ドイツのグリム童話の代表的な作品。ですが、本作は、グリム童話をもとにして高津美保子が文をつくり、山本容子が絵を描いた絵本で、よく知られている白雪姫とは、一味も二味も違った個性的な仕上がりとなっています。
- 著者
- 高津 美保子
- 出版日
山本容子の独特な絵が、読者を新しい白雪姫の世界へといざないます。独特な色使いと、細やかな登場人物の表情、そしてどこかコミカルな雰囲気が、読者の心に響くことでしょう。また、まるで画集を眺めているかのような感慨にふけるかもしれません。
特に、ガラスの棺の中に入れられた白雪姫の美しさは、目を見張るものがあります。ぜひ、この絵本を実際に開いて確かめてみてくださいね。
ジャズを聴きながら、優雅に絵本を愉しんではいかがでしょうか。『山本容子のジャズ絵本 Jazzing』は、絵本とJazzを融合させた画期的な作品です。
文や絵を愉しむにとどまらず、CDが付属されているため音楽までも堪能できるこの作品、本当に素晴らしいので、ぜひおすすめさせてください。
ひとつひとつ丁寧描かれた山本容子の絵と文が、24曲分おさめられています。音楽自体も素敵なのですが、その音楽が文と絵によって、グッと山本容子ワールドの一部となり、彼女の世界観を彩っています。
- 著者
- 山本 容子
- 出版日
- 2006-10-04
どの曲もおすすめなのですが、特におすすめしたいのは、「マイ・ファニー・バレンタイン」です。
「でもね、ズレていくのは相手だけではなくて、
自分もそうだとわからないと優しくなんかなれませんし、
『ずっと、このままでいて!』と願う気持ちのせつなさが理解できませんよね。」
(『山本容子のジャズ絵本 Jazzing』より)
上記のように山本容子が恋愛についての意見を述べていますが、これには思いがけず、なるほどなぁと考えさせられてしまいます。寄り添うカップルの挿絵がまた、愛らしいのです。
『アポリネール動物詩集』は、フランスの詩人であるアポリネールの詩集から、山本容子が1編選び、絵本に仕立てた作品。多種多様な動物たちを題材とし、魅力的な挿絵も楽しめる詩集です。
らくだ、チベットやぎ、イルカ、ヘビ、猫、クラゲ、鳩……身近にいる動物から、ちょっと変わった動物まで、さまざまな動物に焦点を当てています。
優しさあふれる言葉で紡がれたこの詩集は、読者に生き物への興味や愛情を感じさせてくれるのではないでしょうか。
- 著者
- G. アポリネール
- 出版日
また、ただ単に動物の可愛らしさを歌うだけにとどまらず、この詩集にはポルトガルの王子や、ギリシア神話の英雄、イエス・キリストの12使徒の一人、古代エジプトの女王など、世界中から有名な人を集めて盛り込んでいます。そんな要素も、この詩集が味わい深くなる一因でしょう。
そして、山本容子の描く動物たちが活き活きとして、愛くるしいこと!穏やかな目の描写がなんとも素敵な絵がたっぷり詰め込まれています。
『犬のルーカス』は、実際に山本容子に飼われていた愛犬の物語です。
この絵本は、ある夏の夕暮れに迷い込んできた子犬を家族の一員として迎え入れ、ルーカスと名付けて可愛がる物語です。この犬のルーカスが活き活きと描写されています。
ひどく怯えていた子犬ルーカスは、当初、山本容子たちの外出時は自分は捨てられるのだと勘違いし、大暴れしていました。
しかし、次第に、仕事を任されたり、食卓を人間と一緒にテーブルでしたり、椅子をプレゼントされたり、おしゃべりのようなことをするまでに成長します。
- 著者
- 山本 容子
- 出版日
犬って、賢いですよね。この絵本は、家族の一員として様々な表情をみせるルーカスや、ルーカスに目一杯の愛情をそそいでいる山本容子たちの姿が垣間見える作品です。
よく観察しているからこそルーカスの一挙一動が、とても輝いて表現されており、読んでいて無性に動物と触れ合いたくなるでしょう。
山本容子が美しく描いた、大人におすすめの絵本5選!いかがでしたでしょうか。山本容子の世界観は、対象物をじっくり観察したうえで、独自の視点で表現しています。オリジナリティや茶目っ気がたっぷりあるのです。読者はきっと、次第に気持ちがはずんで明るく楽しい気分になれることでしょう。
また、愛嬌あふれるキャラクターたちにも注目したいですね。大人にこそ、ぜひ楽しんでいただきたい味わい深く面白い絵本がたくさんあるので、ぜひご覧になってみてください。