子供たちにとって最も身近でペットとしても人気の高いワンちゃんたち。愛らしい様子に我が子の幼い頃を重ねて読んでみたり、捨て犬の健気な姿に飼い主の責任について考えさせられたり。子どもから大人まで犬たちから学ぶことができる5冊をご紹介いたします。
捨て犬になった犬の放浪の様を鉛筆デッサンのみで描いている字のない絵本です。
車から投げ捨てられる犬。パニックになり車を追いかけます。しかし車は見えなくなってしまいます。においを頼りにひたすら歩き続ける犬。
諦めて野をさまよい、街にきた犬は、ひとりぼっちの子どもと出会います。果たして犬はどうなるのでしょうか。
勢いのある鉛筆のタッチ。激しい流れの線と怒りに満ちた強い筆圧。ほとんど簡単な線だけなのに、必死で飼い主の車を追いかける足は本当に動いているかのよう。一本の鉛筆でここまで書けるのかと感心する作品です。
- 著者
- ガブリエル バンサン
- 出版日
文字もなく、色もない、シンプルな白黒の画面。否応なしに視線が犬に釘付けになります。
全速力で走る必死な姿、追いつかず立ち止まる疲れた体、車事故に巻き込まれそうになり怯えて尻尾を股の間に挟んで立ちすくむ様。まるで無声映画を見ているかのような感覚に陥ります。
海岸の先に見える人影。しかし飼い主ではありません。遠くを見つめ佇む後ろ姿。暗くなりかけている空に向かっての遠吠え。トボトボと足跡を残して歩き続ける浜辺。
とにかく切なくてページを捲るのが辛くなってくると同時に、命を預かることの責任について深く考えさせられます。
しかし最後には、このデッサンの中で初めて表情が描かれた人物、男の子が登場します。どんな結末が待っているか、是非手にとってみてください。文章がないだけに結末の受け取り方は読み手次第ですが、一度読んだらその感動を自分だけの心に留めておくことが難しいくらいのエンディングになっています。
誰かに必ず紹介したくなる、そんな名作です。
ハリーは黒ぶちの白い犬。お風呂が大嫌いです。お湯を入れる音が聞こえるとブラシをくわえて逃げ出します。裏庭の木の下に穴を掘ってブラシを埋め、意気揚々とお散歩へ。道路工事場では思いっきり泥だらけに。鉄道の煙を被ってススだらけ。他の犬達とおいかけっこ。思う存分やんちゃを楽しんだ挙句の果て……あら大変、「白ぶちの黒犬」に変身しちゃってます!
すっかりくたびれて家に帰るのですが、家族は誰もハリーだと気づいてくれません。いつもの芸を見せても、ハリーに似ているね、と言われるだけ。大好きな家族に自分がハリーだということをわかってもらうため、ハリーは木の下を必死で堀りおこし、ブラシをくわえてお風呂に飛び込んで……。
- 著者
- ジーン・ジオン
- 出版日
- 1964-03-15
お風呂が苦手なお子さんも多いかと思います。きっとハリーに共感して、思いっきり泥んこになる姿を羨ましく感じて憧れるかもしれません。ハリーもお風呂が嫌いなのに自分からお風呂に入るようになったなんて凄いね、ハリーって賢くて面白いね。今日はハリーみたいにお風呂入ってみようかな、なんて言葉を聞くことができそうな楽しい絵本。
もちろんお風呂大好きなみなさんも、やっぱりお家がいちばん、とくつろいでいるハリーにほのぼのとさせられるでしょう。シンプルな色合いで書かれた可愛らしいイラストも魅力の絵本です。是非読んでみてくださいね。
アンガスは体がとても小さくて頭と足が大きな子犬。見るもの嗅ぐものなんでも知りたがります。
特に、生け垣の向こうから聞こえてくる音の正体が気になってしかたがありません。そんなある日、ついにチャンスが。表のドアがうっかり開けっ放し。アンガスはこっそり表に抜け出し、生け垣をくぐります。すると目の前に、「ガー、ガー、ゲーック、ガー」が。ずっと気になっていた音の正体は、あひるでした。
アンガスが吠えるとアヒルたちは大騒ぎして逃げました。しかしアンガスがアヒルたちの水場で水を飲みはじめると、今度はあひるたちからの大逆襲が!アンガスはどうなるのでしょうか?
- 著者
- マージョリー・フラック
- 出版日
- 1974-07-15
ソファーの下、鏡の中、家中なんでも覗き込んだり、なんでも引っ張ったりして周りの世界を知っていくアンガス。家の中を知り尽くしたら、次は表への興味でいっぱいです。まるで好奇心旺盛な小さい子供です。
何でも舐めたり齧ったり引っ張ったりしたい時期のお子さんを彷彿とさせるアンガス。冒険心で見境なく行動しちゃうところは、やんちゃな男の子みたい。そして何かあると結局ママの元、という時期のお子さんがいるお母さんは、苦笑いしながらも微笑ましいなと共感できるでしょう。
アンガスの一挙一動がなんとも可愛すぎる絵本です。ぜひ一度読んで見てください。
年老いて最後を迎えたエルフィーを見送るぼくのお話。
エルフィーとぼくは大の仲良し。一緒に大きくなりました。でも、エルフィーのほうがぼくよりずっと早く年をとっていきます。
エルフィーはいたずら好きで家族に叱られてばかり。でもぼくはいつも寝る前に「だいすきだよ」と言います。家族はそんなこと言わなくてもあたりまえ、と思って言いません。
月日が経ち、ばくはどんどん背が伸び、エルフィーはどんどん太ります。そのうちエルフィーは寝てばかりに。階段も登れなくなり、もう2階で一緒に寝ることができません。そこでぼくは1階のエルフィーに「いつもだいすきだよ」と言ってから2階へ行くようになりました。
ところがある朝、エルフィーは死んでいました。みんなはエルフィーを庭に埋めて泣きましたが、ぼくはほかのみんなよりは気持ちがいくらか楽でした。だって、毎晩ちゃんとあの言葉をエルフィーに言っていたから。エルフィーはちゃんとわかってくれているはず、って思えるから。今後どんな他のペットを飼っても、あの言葉を毎晩エルフィーに言ってあげるんだ、とぼくは決めました。
- 著者
- ハンス ウィルヘルム
- 出版日
やわらかい水彩のイラストで描かれているエルフィーとぼくの日々の姿はまるでアルバムのよう。二人の成長と心の繋がり。そして、パステル調の優しいタッチのエルフィーのお墓が別れをなおさら意識させ胸に迫るものがあります。
ペットとの別れはもちろん、引っ越しに伴うお友だちとの別れ。もしかしたら大好きなおじいちゃんやおばあちゃんとの別れだってあるかもしれません。大切な人には生きている今だからこそ常に気持ちを伝えることが大事なんだ、と大人だって改めて学ぶことができる絵本。
読み終わったら近くにいる家族をぎゅーと抱きしめたくなる一冊です。
プレッチェルは兄弟の中で一番胴が長く成長したダックスフンド。そして今では世界一、ドッグショーでも優勝しました。でも、街中の犬や人が見事だと褒めてくれても、大好きなグレタだけは相手にしてくれません。
グレタと結婚したいプレッチェル。胴が長いという魅力、ドッグショーでの優勝、骨のプレゼント、どんなアプローチでがんばっても、どうながはきらい、と言われっぱなし。グレタは、プレゼントをもらうだけもらって釣れない返事と態度です。
しかしある日、グレタは深い穴に落ちてしまいます。長い胴体大活躍のチャンス!二人の恋はどうなるのでしょうか?
- 著者
- マーグレット・レイ
- 出版日
- 1978-10-20
犬も人も見た目ではなくて、肝心なのはどれだけ愛があるかだと教えてくれる絵本です。プレッチェルのめげずに、ひたすらアプローチ姿が可愛らしく、何事も諦めなければ実るのだと、子どもたちも感じ取ってくれるのではないでしょうか。
乙女心に翻弄されるお話なのか。はたまた真実の愛とは何かを伝えるお話なのか。さてさてお子さんはどんなことを感じたり発見したりするでしょうか?異性のお友達を意識し始める頃のお子さんに読み聞かせると、普段知らない一面や知らない気持ちも教えてくれるかもしれません。是非プレッチェルの恋の行方、お子さんとドキドキ・ワクワクしながら読んでみてくださいね。
一口に犬の本、といっても、お風呂嫌いや知りたい盛りのお子さんを彷彿とさせるワンちゃんのほのぼのとしたお話から、命への責任を教えてくれる捨て犬の放浪ストーリーまで、いろんな角度から読める絵本を選んでみました。誰もが人生の一部に似ているなと感じたり、人生の一時期に体験するだろうなと思えるものばかりです。どのお話に最も共感するでしょうか?是非心に響く一冊を見つけてみてくださいね。