小泉八雲のおすすめ代表作5選!西洋生まれの作家が日本を描く

更新:2021.12.20

西洋で生まれ育ち、日本に魅せられて来日したパトリック・ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲。明治時代に「耳なし芳一」や「雪女」など、日本の伝説や幽霊話を語り直した再話文学で名を挙げた彼のおすすめ5作品をご紹介します。

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西洋に生まれ、明治の日本を生きた小泉八雲

1850年に当時イギリス領だったギリシャのレフカダ島でパトリック・ラフカディオ・ハーンとして生まれた小泉八雲は、明治時代に西洋と日本の両方で活躍した著名な作家です。

ヨーロッパ各地を転々としながら育った彼ですが、アメリカで働くうちに出会ったジャーナリストに日本の美しさを伝えられたことや、当時英訳されたばかりの「古事記」に記された日本に惹かれたことをきっかけに来日。

その後日本で家庭を持ち、英語教師として働きながら、小泉八雲の名で欧米に日本文化を紹介する著書を多数執筆しました。また「耳なし芳一」や「雪女」など日本の伝説や幽霊話をわかりやすく語り直した再話文学を追求したことでも、彼の名は広く知られています。

明治日本の景色は、西洋生まれの彼の目にどう映っていたのでしょうか。今回は独自の目線で様々な角度から日本を見つめ、多くの作品を残した小泉八雲のおすすめ5作品をご紹介します。

入門書としておすすめの1冊『小泉八雲集』

最初にご紹介する『小泉八雲集』は、はじめて八雲作品を読む方にもぴったりな、著者の魅力が凝縮された1冊です。

1975年、彼の死後に出版された本作には、八雲が生涯で遺した代表的な著作『影』『日本雑記』『骨董』『怪談』『天の川物語』『知られぬ日本の面影』『東の国より』『心』『仏陀の国の落穂』『霊の日本にて』の中から、優れた訳者である上田和夫によってバランス良く選び抜かれて新訳された、怪談や随筆が発表順に掲載されています。

パトリック・ラフカディオ・ハーン、邦名小泉八雲を知りたい方にとって、これ以上に適した本はないでしょう。

著者
小泉 八雲
出版日
1975-03-18

本書には全48編の作品が収められていますが、ここでは小泉八雲の代表作として最も広く知られている作品の1つ「耳なし芳一のはなし」をご紹介しましょう。

これは下関海峡、壇ノ浦の赤間が関にある阿弥陀寺を舞台にした怪談です。主人公の芳一は、盲目の琵琶法師です。

ある夏の夜でした。住職の留守中に芳一が縁側で涼んでいると、芳一の前に1人の武士が現れ、琵琶の演奏を頼みます。目の見えない芳一には、その武士が誰なのかわかりません。しかし芳一は彼に熱心に頼まれ、夜毎出掛けてゆくようになります。

ある夜、芳一を心配する住職に言いつけられて後をつけた寺男たちは、阿弥陀寺の墓地の中で雨の中琵琶をかき鳴らす芳一を見つけて仰天します。

寺に連れ戻された芳一が住職にわけを話すと、住職は芳一を守らねばと言って、彼の体じゅうに般若心経の経文を書き付け、自分の留守中に誰が来ても絶対に返事をしないように言いつけるのでした。

その晩も、縁側に座る芳一のもとに、迎えがやって来ます。しかしそこに芳一の姿はなく、経文を書き忘れられた耳が2つあるだけ。芳一の耳は引き千切られ、持ち帰られてしまいます。

帰って来た住職は傷口から血を流す芳一を見つけ、彼の耳に経文を書き忘れたことに気付いて深く詫びます。芳一は耳を無くしましたが、その傷は間も無く癒え、この不思議な出来事は噂になって、多くの高貴な人たちが芳一の琵琶の聴くために赤間が関へやってくるようになりました。

これが「耳なし芳一」の物語です。有名な昔話として語られることも多いため、知っている人も多いのではないでしょうか。

小泉八雲は日本の伝説や幽霊話に強い関心を示し、再話文学を追求したことで知られている作家です。今回ご紹介した「耳なし芳一」の物語も、彼が語り直した有名な再話文学の1つ。大筋を知っている人も、改めて読むとその味わいの深さに唸らされることと思います。

本書には他にも彼によって語り直された怪談が多数収録されており、小泉八雲の再話文学を味わうには最適な1冊となっています。まずは入門書として、是非読んでみてください。きっと夢中になってしまうはずです。

有名な日本の怪談をまとめた『怪談―小泉八雲怪奇短編集』

次にご紹介するのも小泉八雲による再話文学作品が多数収録された、その名も『怪談』。日本に古くから伝わり、江戸時代に広く信じられていた幽霊話19編をまとめた作品集となっています。

また小泉八雲の作品を多数訳した明治生まれの翻訳家、平井呈一の訳で綴られた本作は大変読みやすいため、はじめて八雲作品に触れる方や、小中学生にもおすすめの1冊です。

著者
小泉 八雲
出版日

本書には19の怪談が収められています。代表的な作品をいくつか挙げてみましょう。

まずは誰もが知っているであろう有名な伝説「雪女」。これは武蔵の国に住む木こりである巳之吉が冬の森で白い女の幽霊に出会う話です。

彼はその翌年、美しい娘に出会って結婚し、十人の子をもうけますが、ある日巳之吉が針仕事をしている妻に昔出会った色の白い幽霊の話をしたところ、その幽霊は今彼の目の前にいる美しい妻、お雪だったことがわかります。

「雪女」は雪山で出会った人の命を奪う恐ろしい幽霊として知られていますが、あなたは雪女の物語を、きちんと読んだことがありますか?もしその結末が記憶にないのなら、是非、小泉八雲が綴った「雪女」を読んで頂きたいと思います。きっと少し驚いて、胸を打たれることでしょう。

また本書には他に、麻とりの女たちが度胸試しをする「幽霊滝の伝説」、別の人の人生を生きた奇妙な夢を見る話「安芸之介の夢」、旅僧が甲斐の国で首のない妖怪に出会う「ろくろ首」など、古くから語り継がれている日本の怪談が多数掲載されています。

多くの人が知っているであろう昔話がいくつも収録されていますが、そのどれもが今一度きちんと読み直してみると大変面白く感じられる、優れた文学作品です。小泉八雲の怪談の世界を堪能できる1冊。是非手にとってみてくださいね。

明治日本の美しさを描いた傑作随筆集『新編 日本の面影』

小泉八雲は上でご紹介した怪談などの再話文学以外にも、パトリック・ラフカディオ・ハーンとして、日本の美しさを西洋に向けて紹介する紀行文や随筆、評論を多数遺しました。

今回ご紹介する『新編 日本の面影』は1894年に八雲が来日して最初に上梓した紀行文『知られぬ日本の面影』を小泉八雲研究を専門とする英文学者、池田雅之がまとめ直して刊行したものとなります。

著者がはじめて訪れた日本は、彼の目にどう映っていたのでしょうか。八雲作品を読む上で忘れてはならない、必読の1冊です。

著者
ラフカディオ ハーン
出版日

小泉八雲は明治時代に島根県の松江に赴任し、1年余を過ごしました。本書に収録された紀行文はほとんどがこの期間に書かれたものであり、そこには西洋人である彼の目を通して見た明治の日本の姿が、美しく表現されています。

彼が日本について描いた、11の随筆・紀行文が収録された本書ですが、中でも印象的なのはそのうちの1編「杵築―日本最古の神社」ではないかと思います。

本作品は1890年に、彼が外国人としてはじめて正式に出雲大社に昇殿することを認められ、出雲国造であった千家宮司と対面した時の記録を記した訪問記です。彼は出雲大社でのできごとを大変詳細に、ロマンティックに記しています。

そこには八雲の深い日本への愛情を感じられるため、日本人読者はつい、本を片手に微笑んでしまうのではないでしょうか。

日本に魅せられ、日本人としてその生涯を終えた西洋生まれの作家、小泉八雲。本書は日本を愛した彼の原点というべき作品だと思います。彼によって描かれた美しい明治日本の景色に、今度は読者が魅了されてしまうに違いありません。

古典的な訳文で楽しむ『怪談・奇談』

小泉八雲の怪談作品は、現在までに色々な訳者・編者により多数の作品集が刊行されてきました。今回ご紹介する『怪談・奇談』もそのうちの1つであることに違いはないのですが、本作はこれまでの作品集とは少し毛色の異なる作品となっています。

その理由として、本作は1人の訳者が訳し、編んだものではなく、平川祐弘をはじめとする8人の訳者がそれぞれに小泉八雲の怪談を解釈し訳したもののうち、できるだけ八雲の原文に近いであろうと思われる重厚な語り口の訳文を採用していることが挙げられます。

その結果今までのものより更に文学作品色の強い、より古典的な作品集になったといえるのではないでしょうか。

著者
小泉 八雲
出版日
1990-06-05

本書には全部で42編の怪談・奇談が収められています。上でご紹介した有名な「耳なし芳一」や「雪女」も異なる訳文のものが収録されているため、読み比べてみるのも面白いかもしれません。

また「閻魔の庁で」や「美は記憶なり」、「夜光るもの」、「ゴシックの恐怖」は現段階で本書のみに収録されている珍しい作品のため、是非読んでおくべきだと思います。

そして巻末に、収録作品の原文が30篇翻刻されていることも本書の特徴です。ヘルン文庫から専門家が選んだ原文は古典のため、読むのに苦心することは絶対ですが、興味のある方にとっては宝物になり得るはずです。是非挑戦してみてください。小泉八雲の魅力が満載された1冊です。

小泉八雲が見つめつづけた『日本の心』

最後にご紹介する本作は、編者である平川祐弘により、小泉八雲が日本について記した膨大な随筆・評論の中から特に詩的情緒に溢れる20編を収録した作品集です。

西洋生まれの著者がその繊細な感性で捉え、美しく描いた古き良き日本の風景は、現代の日本を生きる私たちが忘れてしまった日本の「良さ」を再び思い出させてくれます。

1896年に帰化し、日本で家庭を持ち、日本人としてその生涯を終えた小泉八雲。今では写真でしか見られない彼の澄んだ瞳を、その美しい文章から感じられる1冊です。

著者
小泉 八雲
出版日
1990-08-06

「いつの日か日本へ行かれるのなら、是非一度は縁日へ足を運ばれるとよい。縁日は夜見るに限る。無数のランプや提灯の光のもと、ものみなこの上なく素晴らしくみえる。縁日に出かけてみるまで、日本とは何なのか到底わかるまい。日本の庶民の生活にうかがえる、あの奇妙だがかわいげのある魅力、奇怪だが美しくもあるすばらしさなど想像もつくまい。」(『日本の心』より引用)

上記引用は「虫の演奏家」という1編の冒頭部分です。小泉八雲はこの編で縁日の素晴らしさについてポエティックに語った後、日本人の夜を彩る虫の音色の風情についてを、詳細に記述しています。

虫屋という商売に触れ、美しい音色を出す虫の産地と値段を調べて挙げ列ね、虫をうたった詩歌を味わう。その詳しさは凄いもので、その筆には勢いがあり、読者は小泉八雲の執着に驚かされることでしょう。

1編を例に挙げましたが、本書を読めば小泉八雲がすべての随筆・評論を、大変な熱量を持って執筆したことがわかるはずです。

彼が生涯抱き続けた、日本に対する惜しみない愛情。本作は、彼の細やかな感性と文才、そして愛に触れることのできる、素晴らしい1冊となっています。是非読んでみてくださいね。


いかがでしたでしょうか。日本への愛に溢れた小泉八雲作品の数々は、私たちに改めて日本の良さを教えてくれます。興味のある方は是非、手にとってみてくださいね。

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