絵本というと、まずは読み聞かせを通して作品に触れてもらおうとする方も多いのではないでしょうか?読み聞かせは挿絵で視覚に、言葉や音で聴覚に訴えかけてくるものです。聴覚を通して、生涯記憶に残る作品をご紹介します。
- 著者
- 定正, 元永
- 出版日
色鮮やかな水玉たちがひたすら転がっていく様子を描いた作品です。色彩豊かな挿絵にも心惹かれますね。また、赤ちゃんにとって心地よい「ころ ころ ころ」という音が連続するのも魅力の一つです。
元永定正は絵本作家としてだけでなく、画家としても著名な人物です。ビニール袋に様々な色水を入れて吊るすといった作品を作るなど、飛びぬけた感性を持っていました。絵本作家でもある妻・中辻悦子とタッグを組み、絵本の制作に関わるなど画家としての感性を生かした挿絵を多く発表したのです。
水玉たちは様々なところを転がっていきます。階段、坂道、でこぼこ道……コロコロと転がっていく様子は、何かに向かって急いでいるような忙しさを感じるでしょう。見えない表情すら感じさせる配色と構図に目を奪われます。
挿絵も魅力の一つですが、言葉遊びとも思えるような文章も注目してみましょう。赤ちゃんにとって音としても拾いやすく、真似をしながら自分でも読むことができるのでファーストブックとしても最適です。読み聞かせする側もリズムを意識して読みたくなる作品なので、時間を共有したいときにうってつけの絵本です。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1989-01-20
『にんじんさんがあかいわけ』はにんじん、大根、ゴボウがどうしてそれぞれの色になっているのかを子ども向けに物語をつけた作品です。食卓に登場する回数が多い野菜を使っているので、野菜デビューをしている子どもは馴染み深いのではないでしょうか?
ゴボウさん、にんじんさん、大根さんがお風呂に行ってきました。ゴボウさんは熱いお湯が苦手なのですぐ上がってしまいます。にんじんさんはじっと我慢して熱いお湯につかり、大根さんはぬるま湯につかってしっかりと体を洗うのです。それぞれの色がどうしてついたのか、ファンタジーを取り入れながら説明しています。
野菜への興味、お風呂への好奇心と様々なことに目を向けやすいストーリーなのに登場キャラクターの体の色のわけが気になって仕方がありません。おっとりと優しい表情をしている野菜たちの楽しそうな様子に笑顔がこぼれてきます。
そして最大の魅力は、読み手も聞き手も焦らずに楽しめる語り口でしょう。まるでおばあさんから昔話を聞くようなゆったりとした読み聞かせができます。スローテンポのお話なので、焦らずゆっくり読む必要がある作品として、読み手も無意識のうちにゆったり読めるようになっています。読み手も聞き手も意識した完成度の高い作品といえるでしょう。
- 著者
- マリー・ホール・エッツ
- 出版日
- 1963-12-20
版画で描いたような挿絵が印象的な表紙の『もりのなか』は、挿絵も版画調のモノトーンで描かれ物語を落ち着いたものに仕上げてくれます。深いメッセージ性に気づくためには、反復して作品を愛さないと難しいものです。
森の中を男の子が散歩をしていると、動物たちがどんどん男の子の後についてきます。そして男の子と動物たちはみんなでピクニックをしたりたくさん遊んだりしました。しかし男の子がかくれんぼで「もういいかい」と尋ねると、動物たちはいなくなっておりお父さんが心配そうな顔で見つめていたのです。
ただ男の子と動物たちが仲良く遊んでいる、というわけではありません。彼らの関係性は実は、親子間でも通用するのではと感じられます。子どもを焦らせることなくじっと見守ることや、親の考えでやらせないといった“子どもを尊重する”ことを伝えてくれているのです。
白黒をベースとしたイラストがファンタジー要素をさらに際立たせます。大人と子どもでまったく印象が変わる作品なので、何度も読んで親子で感想を伝えあうのも良いでしょう。長く手元に置いておきたい一冊です。
- 著者
- レオ バスカーリア
- 出版日
子どもにとっては死についてよりも、生についてのほうが実感しやすいでしょう。しかしこの作品はあえて死について考えさせることを目的としています。生死について、生き方についてダイレクトに訴えかける作品です。
レオ・ブスカーリアは大学卒業後、公立学校の教員となり学習障害のクラスを担当するなど、最前線で教鞭をとっていました。しかし教え子の自殺をきっかけに命について考えるようになります。人と人との絆が最も大切であり、その中核は愛だと訴えた彼は世界中で高い評価を得ているのです。
大きな木の葉っぱとして生まれたフレディは、数えきれない仲間たちに囲まれていました。親友のダニエルは物知りだったので、自分たちが葉っぱであることや季節のことをフレディに教えてくれるのです。そして季節は巡り、葉っぱたちは死を迎えます。
生まれたこと、生きること、死ぬことについて丁寧にそして繊細に描いた作品です。だからといって涙を誘うだけ物語ではなく、穏やかに語りかけてくれます。読後感も悲しみではなくどこかすっきりとした爽快感を感じられるでしょう。読み聞かせることで、人生と死について一緒に話してあげたくなる作品です。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1971-11-21
誰かを助けたい、という気持ちは誰もが持っているものですが実際に行動するには勇気が必要になってきます。『モチモチの木』はそんな優しさと勇気を持つことの大切さを直球で伝えてくれる作品です。切り絵で制作された挿絵にも注目してみましょう!
豆太は夜中に一人でトイレに行けないほどの臆病者でした。ある時一緒に住むじさまが腹痛を訴えます。ふもとの村からお医者様を呼んでくるには怖い影の大木を過ぎなければいけません。豆太は勇気を振り絞り村へ向かいます。そしてその帰り道に伝説といわれる光景を目にするのです。
じさまを助けたいという豆太の優しさとそのために振り絞った勇気に、子どもは胸を震わせるのではないでしょうか。そしてその行いを見ている人はたくさんいて、必ず自分に素晴らしい形でかえってくることも教えてくれます。最後のじさまの台詞は親子関係なく誰かを想うことの愛おしさも表しているのでしょう。
斎藤隆介と滝平二郎のタッグ作品は数多くありますが、『モチモチの木』は最も読まれている絵本といっても過言ではありません。民話を引っ張ってきたような語り口に漆黒をいかした切り絵が物語をより深い幻想の世界へと導いてくれます。タイトルの大木がステンドグラスのように彩られている挿絵は圧巻です!
子どもを引き込めるように読み聞かせするのは至難の業。それを少しでも手伝ってくれる作品をご紹介しました。リズムと音を楽しむことから入り、そこに意味や問いかけを含んだものを選ぶという子どもの成長に合わせて絵本を選んであげることも大切です。親子でも楽しめるような、魅力的な作品ばかりなのでぜひ手に取ってみてください。