「やせ願望」が強いとされる日本人女性。摂食障害に苦しむ女性も多いといいますが、正しい理解はまだまだ進んでいないようです。今回は定義や原因、実態、克服体験を参考になる本とともにご紹介していきます。
摂食障害とは、極度なダイエットや過食と嘔吐などを繰り返すといったことが特徴の精神疾患です(朝日新聞「キーワード」を参考)。患者の9割は女性で、発症する年齢の多くは10代後半とされますが、男性患者の増加や小学生の発症例など低年齢化への傾向も指摘されています。
ここでマイナビニュース(2016)を参考に、3種類の摂食障害について整理します。
①拒食症
……行き過ぎたダイエット(食事制限)や激しい運動などによって、体重が著しく減少します。
②過食症
……暴飲暴食しては吐く、下剤を利用するなどを繰り返すといった症状が見られます。
③過食性障害
……中高年の男性に多く見られます。
なお日本では、医療機関を受診する患者数は2万人強。ただし実際には、20万人〜100万人が摂食障害であるという可能性も否定できないそうです。
また患者のうち7~10%が重い栄養失調によって亡くなるのだといいます。これは精神疾患では1番目に高い致死率なのです。
ここで、摂食障害について基本的な知識を手に入れたいときにおすすめしたい本『焦らなくてもいい!拒食症・過食症の正しい治し方と知識』をご紹介しましょう。
たとえば本書ではダイエットとの関係性について、こんな記述があります。
「 摂食障害と単なるダイエットは、連続線上にありますが明らかに違う性質のものです。
摂食障害は『病気』です。
病気とはどういうことを意味するのかというと、本人にとって基本的につらいものであり、症状を自分でコントロールできない、という意味です。摂食障害の人は好んでダイエットをしていると誤解されることも多いのですが、『私はやせたいだけ』という言葉とは裏腹に、その実態は本人にとって決して心地よいものではありません」(p. 33より引用)
このようにして摂食障害とダイエットの違いが明確にされると、自分の「知識」が「誤解」であったということもあるかもしれません。拒食症や過食症について「なんとなく」わかっているだけでは、その「理解」には通じないのだと改めて痛感させられる1冊です。
- 著者
- 水島 広子
- 出版日
- 2009-12-24
ミュゼプラチナムが実施したアンケートでは、行き過ぎたダイエットや母親が摂食障害の原因だと考えた人が約20%いたといいます。
しかし実際には、遺伝的要因と生育環境といった環境的要因も関係してくるという報告もあるのです。そのため上述した過剰なダイエットや家族は、一つのきっかけであって、原因ではないとの指摘があります。
また、ファッション雑誌などで見られる痩せたモデルによる影響を懸念する声も聞かれます。たとえば、日本の雑誌に載っている多くの女性有名人の写真は、デジタル加工され、より細い体型に見えるように修正されているといいます。しかしこの事実を知る人は、マジョリティといえるのでしょうか。
なおイギリスの学校教育では、女性誌にある写真は、プロフェッショナル集団による加工の産物である(=本物ではない)ことが説明されるのだそうです。これは成長段階にある少女たちが雑誌のモデルを見て、自己肯定感や自己評価を低くしたり、無理なダイエットへ走ったりすることを防ぐためだといいます。
女優の遠野なぎこは、摂食障害をカミングアウトしている人物でもあります。そんな彼女の体験をベースとして書かれた1冊が『摂食障害。食べて、吐いて、死にたくて。』です。
本書の冒頭には編集部から、
「同じ病気の方には、時に辛く、生々しく感じる描写も出てくるかもしれません。しかし、どうしても周囲に隠してしまいがちなこの病気について、世間に理解を深めてもらいたい、この病の本質を分かってほしいという著者の願いから、辛い描写も包み隠さずに出版することに致しました」(p. 2より引用)
といった言葉が添えられています。たしかに著者の幼少期、10〜20代の頃の記録は、当事者ではない読み手にとっても「辛い描写」であるように感じられます。
たとえば著者は、拒食症状から過食症状へと移行していた20代前半の時期にであるチューイングという「食べ物を噛んで吐き捨てる行為」(pp. 40〜41より引用)を経験したのだそうです。
「〈過食〉の時にトイレで吐くのも虚しいけれど、噛んだものを飲み込まずに捨てるという行為も虚しくて悲しかった。せっかくの食べ物を、栄養として摂れない自分に嫌気がさしてしまう。大量の生ゴミを捨てに行く時は、ごめんなさい、ごめんなさい、と心の中で何度も謝っている。罪悪感と後悔で二重に苦しい」(p. 41より引用)
本書には、以上のような摂食障害の記録だけではなく、強迫性障害や身体醜形障害、依存症などについての著者の記録、接触食害などについて悩みを抱える人たちへのメッセージなども収められています。また医師による解説も添えられており、読み応えのある1冊となっています。
- 著者
- 遠野 なぎこ
- 出版日
- 2014-04-04
最後に、摂食障害を克服した事例を知ることができる本をご紹介します。
『「食べない心」と「吐く心」: 摂食障害から立ち直る女性たち』では、周囲のサポートなどを得ながら摂食障害を克服していく3人の女性のドキュメントを読めます。またそれだけではなく、摂食障害についての基本的な知識なども収められていますので、多くのことを学べる1冊といえるでしょう。
なお本書で提案されている回復への道筋や「『摂食障害』から見えてくるもの」などのなかで、母親の育て方についての記述がなされています。ただし1冊目に紹介した本では、「母親の育て方」が摂食障害の原因ではないことが示されています。たとえば、
「摂食障害は、生育環境の影響を確かに受けるものです。しかし、生育環境を母親ひとりがつくり出すということは、あり得ません。(中略)母親が自分の弱点を子どもに向けるような形の育児しかできなかったのはなぜか、ということを考えていくと、決して母親ひとりの責任だといえるようなことはありません。サポート態勢がなかったり、周囲が母親を追い込むような構造になっていたりするのです」(『焦らなくてもいい!拒食症・過食症の正しい治し方と知識』、p. 41より引用)
と述べられているのです。とはいえ同書では、虐待や不適切な言動など、謝罪が必要な出来事がある場合には、謝罪してもらいたいとも主張されています。
このようにしていくつかの本を読み進めながら、摂食障害への理解を深めていくことが重要であるように思います。
- 著者
- 小野瀬 健人
- 出版日
摂食障害は、拒食症と過食症という二つに分けられることも多いのですが、今回はマイナビニュースを参考にして、過食性障害もその定義のなかに含めました。
原因としては、遺伝的要因や生育環境といった環境的要因などが挙げられ、ファッション雑誌中の痩せたモデルの影響を懸念する声も聞かれます。
まとまった情報を吸収するためにも、ぜひいくつかの本を手に取ってみてくださいね。