今、絵本ブームと言われていますよね。毎月新刊が出ていますが、長く語り継がれている昔話もいいものですよ。最近の読み聞かせ会では、昔話を1つは入れようという動きもあります。言葉の宝庫とも言うべき昔話を、子どもさんに読んでみませんか?
このお話の面白さは、一見人間には不可能な事を、鬼の力で叶えてしまうことと、大工がピンチを抜け出すところ。ぜひ、お子さんに読んであげていただきたい一冊です。
- 著者
- 松居 直
- 出版日
- 1967-02-15
この作品をお子さんに読み聞かせる時は、できる事ならまず一度下読みしてみてください。擬態語が多いのに気が付くでしょう。特に、鬼の様子を表す言葉は独特です。
川から鬼が現れる場面では「ぶっくり」、大工の話を聞くと「にかっ」「にかにか」と笑います。特に「ぶっくり」は三度も出てきます。この鬼の様子を表す言葉を強調して、そしてユーモラスに言ってみると面白いですよ。
そもそもこの鬼は、ちょっと抜けているところがあります。大工は村人に頼まれて荒れる川に橋を架けるのですが、簡単にできそうにないことに気づきます。
そこに鬼が現れて頼みもしないのに橋を完成させ、その代償に大工の目玉を要求するのですが、「おれのなまえを当てればゆるしてやってもええ」というのです。ちょっとお人よしですよね。結果として大工は、ふとしたことで鬼の名前を知ってしまうのですから。
このように、鬼はちょっと滑稽な感じを出す読み方をするのも一つの方法です。また、途中で鬼の名前を知る手がかりとなる「子守歌」も出てきますが、そこは読み手が自由に節をつけていいですよ。『だいくとおにろく』の世界を楽しんでくださいね。
『手ぶくろを買いに』は、『ごんぎつね』で有名な新美南吉が書いた、母子きつねの物語です。教科書に載っているのでなじみのある作品でしょう。
この作品が黒井健のイラストで、素敵な絵本になりました。全ページ、見開きの半分、あるいはそれ以上のスペースを絵が占めています。ぜひ親子でお楽しみください。
- 著者
- 新美 南吉
- 出版日
黒井健が描いた『手ぶくろを買いに』は、ぜひ絵をじっくりご覧になって、文章もゆったりとした気持ちで読んでください。
雪の日に手がこごえてしまった子ぎつねに、母ぎつねは手袋を買ってあげようと思い、子ぎつねを町にお使いに行かせます。母ぎつねは、人間は怖いと子ぎつねに教えますが、子ぎつねは人間の優しさに触れて……。
とても心が温まるお話です。お子さんに読んであげるときは、母子ぎつねの気持ちが伝わるようにするといいでしょう。
よく、絵本の読み聞かせについては「声色を変える必要はない」とか「大げさな表現はしなくてもよい」、「淡々と読めばいい、そのほうが子どもは想像力が働く」などと言われます。
しかし最近は「読み手が感じたことは自然な読み方であれば、多少気持ちが入っても構わない」という流れも出てきているのです。
母ぎつねが子どもを心配しているのに、淡々と読むのはちょっと冷たい感じがしますよね。子ぎつねも初めての人間の世界。緊張しているはずなのに淡々と読むと、かえって気持ちが伝わりにくいです。
ですから、この作品は母ぎつねや子ぎつねの気持ちになって、自然に出てくる表現で読んであげてくださいね。もちろん、声優やアナウンサーのように読む必要はありません。お子さんは大人が自分のために読んでくれる、それだけでとっても嬉しく思うものなのです。
子どもたちの間で「落語絵本」が人気です。大人は「落語は子どもには難しいのでは」と思うかもしれませんが、落語独特の言い回しや、現実にはあり得ない出来事に胸をワクワクさせています。今回はそんな落語絵本の『じごくのそうべえ』をご紹介します。
- 著者
- 田島 征彦
- 出版日
- 1978-05-01
『じごくのそうべえ』は、もともと大阪や京都を中心として演じられていた上方落語の「地獄八景亡者戯」を題材としています。これを故・三代目桂米朝は十八番として現代風にアレンジしたものを、高座で披露していました。
その米朝が存命中に、絵本のそで(カバーの折り返し部分)に「『じごくのそうべえ』によせて」という文章を書いています。つまり、本家のお墨付きの絵本なのです。
本家のネタはもう少し複雑ですが、こちらは子どもにわかりやすく書かれています。軽業師、歯抜き師、医者、山伏が共に地獄に落ち、四人にふりかかる難題を力を合わせて解決し、無事に生き返るお話です。
上方落語が題材と言っても、無理して関西弁で読む必要はありません。読み手のペースで、お話の面白さを伝えるだけで充分なのです。
また、読んでいくうちに自然と関西弁のアクセントになっていくこともあるでしょうが、もちろんそれでも構いません。お子さんと一緒に笑いながら読みましょう。
また、『じごくのそうべえ』はシリーズ化していますから、ぜひ他の作品も読んでみてください。
『したきりすずめ』は、日本の昔話によくある勧善懲悪(善を良しとし、悪を懲らしめる)・因果応報ものの一つです。
また正直なおじいさんと、欲張りなおばあさんとの対比も、昔話にはよくあるパターン。このお話も諸説ありますが、福音館書店版はお子さんに初めて読み聞かせするのにちょうどいい内容でしょう。
おじいさんが可愛がっている雀が、おばあさんの機嫌を損ねて舌を切られ、追い出されてしまいます。不憫に思ったおじいさんが、雀を探すお話です。道行く人に雀の行く先を尋ねたどりついた雀のお宿では大歓迎をされますが……。
- 著者
- 石井 桃子
- 出版日
- 1982-06-30
正直者が身の丈にあった幸せを手に入れたのに対して、強欲な者が欲張って高望みをした結果として、しっぺ返しを食らうのは『花さかじいさん』『おむすびころりん』、イソップ寓話にも『金のおの』などがあります。
子どもは、こういった昔話を読んだり聞いたりすることで、正直に生きていこうという人間として基本的な事を、自然と身に着けていくのです。
『したきりすずめ』は、おばあさんのセリフを怖く憎たらしく読む場合もありますが、それでは子どもたちを怖がらせてしまう場合もあります。おばあさんの性格の悪さは、赤羽末吉の絵によく表現されています。
おばあさんが笑っているのは、おじいさんが宝物を貰ってきたときだけですよね。子どもは絵からいろいろな事を感じ取っていきますから、子どもの想像力をフォローするくらいの読み方でいいでしょう。
そしておじいさんが雀を呼びながら探す場面で出てくる「すずめや すずめ すずめのおやどはどこかいな ちゅんちゅん」という言葉は自由な節回しで楽しんでみるのもいいですね。
勧善懲悪・因果応報と言っても、教育やしつけのために読もうとすると面白くなくなってしまいます。昔話・おとぎ話として、おじいさんの優しさが自然と子どもに伝わるような読み聞かせをしてあげてくださいね。
『さんまいのおふだ』は勧善懲悪ものというよりは「おまじない・呪術もの」の一種です。お化けや妖怪に捕まった主人公が、不思議な力でそこから逃げ出すというのが主な筋立てで、古くは『古事記』のイザナミ・イザナギの話にも出てきます。
この作品も諸説伝わっていますが、今回ご紹介するのは福音館書店版です。
諸説あるものの、「寺の小僧が山奥にいく」「そこで山姥に出会い、食べられそうになる」「小僧は三枚のお札を使い、追ってくる山姥を振り切って寺に戻る」「寺の和尚が山姥を豆に化けさせて、食べてしまう」この4点は共通しています。
- 著者
- 水沢 謙一
- 出版日
- 1985-02-15
子どもが好むお話のパターンに「繰り返し」がありますが、『さんまいのおふだ』は繰り返しのパターンが何度も出てきます。
小僧が花を探すとき、山姥が便所にいる小僧に「もういいか(用は足したのか)」と尋ねるとき、そして一番の見どころ、小僧が三枚のお札を使うとき。だんだんとスケールが大きくなっていくのがわかるでしょう。
このように、お話自体が子どもを引き付ける力を持っているので、読み聞かせをするときは必要以上に演出しなくてもいいでしょう。読み手が自然な読み方をすれば子どももお話の世界に集中してくれます。
文章にリズムがあるので、ゆっくりと読んであげると心地よさを感じてくれます。
昔話なので、現代では使われない言葉も出てきます。もしかしたら「便所」という言葉もピンとこないお子さんもいるかもしれません。ですが、知らない言葉に触れることで子どもの語彙力が育ちます。
初めて聞いたときは意味がわからなくても、絵をよく見たり、何度も読んでもらう事によって、普段は使わない言葉がやがて子どもの心の栄養となります。
ですから、読み聞かせするときは、お子さんに絵を見る時間をたっぷりとって、ゆっくり読んであげましょう。大人が気づかない発見をすることもありますよ。
絵本の読み聞かせは、新刊や子どもたちに人気のある本もいいものですが、昔話の絵本もぜひレパートリーに入れてあげてください。お母さんやお父さんが自分のために絵本を読んでくれた想い出は、子どもの心に一生残ることでしょう。