ハードボイルドやアウトロー小説を得意とする深町秋生。意外な設定とその独特の世界観は、いつも大きな反響を呼んでいます。今回は深町秋生作品の中からおすすめの6選をご紹介します。
深町秋生は1975年11月19日生まれ。山形県の出身で、山形中央高校を卒業後、専修大学経済学部へ入学。卒業後は製薬メーカーに勤務しながら「加藤小判」というペンネームで山形新聞内の「山形文学賞」に投稿を続けていました。
文学評論家・池上冬樹の紹介で、かつて1993年に出版されて一躍ブームとなった『完全自殺マニュアル』を別名義で小説化。『小説完全自殺マニュアル』と題して発表し話題となりました。そして『果てしなき渇き』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、本格的に作家デビューを果たします。この『果てしなき渇き』は『渇き。』として役所広司主演で映画化されました。
また『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』が累計40万部を超える大ヒットし、人気作家の地位を手にします。同作は後にテレビドラマ化もされました。ハードボイルドな作風で多数のコアなファンを持ちますが、小説だけでなく映画評やコミック評も手掛ける一面も。また自身のブログにも多数の書評を掲載しており、造詣の深さを伺わせています。
物語は沖縄から始まります。東京から来た暴力団組織・東鞘会の若頭補佐・兼高昭吾が主人公。弟分の室岡とともに沖縄を訪れ、喜納修三という男を殺害します。
実は兼高は、警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊の潜入捜査官。兼高の最終的な任務は、東鞘会七代目会長・十朱義孝の握る秘密の解明と十朱の殺害。兼高が最後に選ぶ道とは?
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
- 2017-09-01
この作品は、深町秋生と編集者の会話で、「深町版『インファナル・アフェア』を作ろう」というやりとりがあって生まれた作品です。
法律的にも人道的にもグレーである「潜入捜査」を行うには相当にしっかりとした理由と仕掛けが必要で、この作品は見事にそれをクリアしています。
この作品の一番の見どころは、兼高がどんどん暴力団の世界に染まっていき、情も移り、任務との板挟みでおこる葛藤です。警察小説でありながら、人間ドラマであると感じさせられます。
登場人物が皆人間らしく魅力的であり、入れ込んで読んでしまい、容赦のないストーリー展開に衝撃を受けます。
バイオレンスで容赦のない、けれど男同士の友情や人情を描いた、極上の警察小説であり人間ドラマであるこの作品、一気読み必至です。
薬物の密売をおこなって急成長するある犯罪組織。刈田誠次はそこで頭角を現していました。しかし、組織の掟を破った弟・武彦を庇い制裁を受けることに。組織のボスである神宮に弟と元恋人を殺された誠次は、自身も瀕死の重傷を負ってしまいます。その後彼は警察に拾われ、マル暴の刑事・園部佳子の目論見によって顔と声を変え、神宮への復讐を果たすべく動き始めるのですが……。
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
- 2012-10-10
弟・武彦の様子がおかしい。そう気づいた誠次は、ドラッグの服用を疑います。兄に誘われて組織に入った武彦は心を病んでいました。さらに、自分の恩人を処刑したことが追い打ちをかけ、ドラッグに溺れていたのです。
やがて語られる、兄弟の悲惨な生い立ちや、整形手術で全くの別人に生まれ変わった誠次が織り成す復讐劇、マフィア・ヤクザ・警察が三つ巴で入り乱れた裏社会の人間模様が展開していきます。ミステリー要素とバイオレンス要素が絶妙に混ざり合い、銃撃戦やカーチェイスなどのアクションシーンも相まって、非常に読み応えあるストーリーに。復讐・裏切り・下剋上に塗れた熱い展開が魅力の一冊です。
「組織犯罪対策課 八神瑛子」シリーズの文庫書下ろし第1作目。
上野署組織犯罪対策課の刑事・八神瑛子は自他共に認める美貌の持ち主ですが、その美しい容姿からは想像できない辣腕で多くの犯人を検挙してきました。犯人を捕まえるためならば決して手段を選ばず、危険な女刑事として恐れられています。
とある事件が世間を震撼させます。それは、瑛子の管轄する地域で、広域指定暴力団・印旗会の組長の娘が刺殺されるという事件。瑛子は独自にその事件を調べ始めます。その矢先、似た手口の別の殺人事件が発生。執念の捜査の末に、瑛子が迫る真相とは。
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
- 2011-07-25
八神瑛子は、過去に夫が不可解な死を遂げ、自身も子どもを流産。それをきっかけに性格が豹変したとされています。
とにかくアウトローで一匹狼、ヤクザや中国マフィアと繋がったり同僚をゆすったり情報をリークしたりと、女性キャラとしては珍しくかなりのバイオレンスぶりを発揮。
不自然な夫の死を自殺と断定した警察組織への憎悪を胸に、真相を知りたいという一念が彼女を突き動かします。真相を追究するためなら手段を選ばない女刑事の予期せぬ行動には目が離せません。テンポの良い文章がダークなヒロイン像を際立たせ、ハラハラするクライムノベルとなっています。
敗戦後、アメリカの占領下にあった日本。その国内では、米兵・ヤクザ組織・工作員やテロリストらが暗躍していました。元陸軍中野学校出身のスパイ・藤江忠吾と、香港憲兵隊でスパイハンターの永倉一馬は、「CAT」と呼ばれる機関からスカウトされます。
吉田茂の右腕だった緒方竹虎が、壊滅した日本を立て直すため設立した秘密組織「CAT」に所属し、戦後の混乱と謀略が渦巻く闘いへ再び身を投じる男たちの暗闘を描いた一冊です。
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
「CAT」は、吉田茂の右腕である緒方竹虎が日本再独立と復興のために設立した秘密機関。
戦争ですべてを失った永倉は最初はスカウトを断ろうとしていましたが、生きる場所を求めて「CAT」に所属する決意をします。国を守るため、そして国を復興せんと奮闘する日本人たちのために、再び銃を手にする永倉の壮大な決意が描かれます。
全部で4つのエピソードからなる連作集で、戦後間もない1947年が舞台。当時の社会情勢が事細かに書かれているため、時代背景を追うのも楽しみのひとつです。実在した人物は事件が作中に取り入れられ、リアリティを増している一面も。藤江・長倉コンビの活躍に手に汗握る、本格スパイ小説。
警視庁組対四課に所属する米沢秀利。彼は元は優秀な刑事でしたが、50歳を過ぎてからというもの権力を乱用して暴力団に便宜を図ってもらっている悪徳刑事。今日もそんな彼の元に「黒い」依頼が舞い込みます。
ヤクザの組長を脅したり、チンピラをスタンガンで失神させたり、時には仲間の警察官に暴力を振るったり……6話構成でマル暴のベテラン刑事の罪と正義を暴く荒唐無稽な警察小説。
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
- 2016-09-29
主人公の米沢は紛うことなき不良警官ですが、どこか憎めない不思議な魅力の持ち主。今回は深町秋生の持ち前のハードボイルドは鳴りを潜め、シリアスとコミカルのバランスが取れた軽妙なストーリーが展開していきます。
まるで関取のような女上司や「幽霊(ゴースト)」とあだ名が付けられた監察官など、脇役キャラたちも個性的。特に上司の大関芳子と米沢のやりとりが面白く、笑いを誘います。優秀だった米沢は、なぜ変わってしてしまったのか?しかしただの不良刑事ではないその胸のうちとは?終盤で明らかになる事実、そして米沢が変わるきっかけとなった「ある事件」の真相にも注目です。
この作品の主人公、警視庁人事一課監査係に所属する警部補・黒滝は警察官による汚職や違反を取り締まる、アウトローな警察官です。
手段を選ばず、目的の人物をスパイに仕立て上げ、スパイとなった人物を駒として自分の検挙率を上げていく黒滝。スパイを犬に例え、その犬たちを作り上げ使いこなすことから、黒滝についたあだ名は「ドッグ・メーカー」。黒滝が警察内部に潜む闇に迫り、真相を明らかにしていく、ハードボイルドな警察小説です。
- 著者
- 深町 秋生
- 出版日
- 2017-07-28
今作品も深町秋生ワールド全開で、ファンにはたまらない作品設定。主人公の黒滝は非合法な手段で目的を果たしていく、まさにダークヒーローです。追い詰めた闇のあまりの巨大さにおののき、逆転、また逆転のストーリー展開にどんどん引き込まれていきます。
深町秋生の書く警察官はやっぱり魅力たっぷりで、今回の黒滝もやり方は汚いしダークだけれど、紛れもないヒーロー。ハードボイルド小説の主人公は、やっぱりこうでなくちゃ!と思わせてくれます。
ストーリー展開も疾走感があり、長編にもかかわらずテンポよくどんどん読み進めてしまいます。
この魅力的なニューヒーローと、さすがのストーリー展開。ぜひ今後のシリーズ化を期待したい作品です。
ハードボイルドからコミカルなものまで、幅広い作風の深町秋生。いずれも世の中の光と闇が描かれています。悪いモノについ惹かれてしまう……そんな方にぜひおすすめの作家です。