誰もが一度は読んだことがあるだろう世界の童話を、まったく異なる画風という視点で選んでみました。名作に触れるのも大事ですが、いろいろな絵に触れて「こういうデザインもある」ということを子どもに教えてあげるのも、大人たちの役目でしょう。
このお話の主人公は、いつまでたっても魔法を教えてもらえず家事ばかりをやらされている、魔法使いの弟子オトール。
魔法の呪文をなかなか教えてもらえないからと、魔法使いが唱える呪文を3年もの間こっそり盗み聞きして、自分で勝手に覚えてしまいます。
早く魔法を使ってみたいオトールは、ある日、魔法使いが都へ出かけて留守の間に呪文を唱えて……。
作者は、多くの童話を残した児童文学作家の大石真。イラストは、ウイスキーのキャラクター「アンクルトリス」があまりにも有名なイラストレーター柳原良平。長らく絶版だった作品で、現在のものは2007年の復刻版です。
- 著者
- 大石 真
- 出版日
原作はゲーテの詩だそうですが、ディズニーのクラシック映画『ファンタジア』にも登場するお話なので、ディズニーでご存知の方も多いのではないでしょうか。
初めは魔法を使って上機嫌だったオトールですが、魔法を解く呪文を忘れてしまい、家が大変なことになってしまいます。
そこへ帰ってきた魔法使いが魔法を解くのですが、決して意地悪でオトールに魔法を教えてこなかったわけではないと分かるのです。オトールは反省し、無事に魔法使いになって物語は終わります。
登場人物はトリスでおなじみの二頭身半、全体的にイラストというよりも、色画用紙でつくった切り絵のように描かれています。
絵がシンプルで、文章はリズミカル。小さい子は音(魔法の呪文)を楽しみながら、大きい子は話の展開にドキドキ・ハラハラしながら楽しめる名作です。
登場人物(動物)は、仕事ができなくなり飼い主から餌をもらえなくなったロバ、猟ができなくなり飼い主に射ち殺されそうになっているイヌ、ネズミを捕れなくなり飼い主に水に沈められそうなネコ、飼い主に料理されることになったオンドリ。
年をとって同じような境遇となった動物たちは意気投合して、音楽隊に入隊しようとブレーメン(ドイツ北部)へと出かけていきます。
途中で日が暮れてしまい、暗くなってやっと辿り着いたのは、なんと泥棒の家で……。
原作はグリム童話。翻訳は、児童文学作家であり多くの海外作品を翻訳した瀬田貞二です。絵は、スイス出身の絵本作家ハンス・フィッシャー。この作品は、もともとはハンス・フィッシャーが自分の子どもに贈ったものだそうです。
- 著者
- グリム
- 出版日
- 1964-04-15
シンプルかつ美しい色遣いは、さすがハンス・フィッシャーとしかいいようがありません。構図が素晴らしく、動物たちの表情が豊か、そして何よりも絵がカラフルで美しいのです。カラフルだけど落ち着いている絵で、ポスターのように部屋に飾りたくなります。
世界の童話の中で、グリム童話の多くは残酷な内容なので、原作に忠実な作品を小さい子どもに読み聞かせするのは賛否両論あることでしょう。
しかし、老いて人間の役に立たなくなった動物たちがどうなるか、どうしてブレーメンを目指すのか、がこの作品でははっきり描かれているので、原作に忠実な内容がお好みの方・家畜と人間の関係を子どもに教えたい方には、おすすめの世界の童話です。
やや長いお話で、推奨年齢は5歳からとなっています。小さい子どもに読み聞かせするには、読み手が工夫して話を端折る必要があるかもしれません。
ファッションが大好きな王さま。100枚のパンツ、1,000枚のシャツ、10,000枚のズボン、100,000個の帽子、靴下や手袋などもあわせると、全部で1,000,000枚の服を持っていて、朝から晩まで“おめしかえ”をしています。
そんな王さまがある日、持っている服は飽きた、この世で誰も持っていない珍しい服が欲しいと言い出したから、お城の家来たちは大変です。
すでにたくさんの服がある王さまが欲しいという、誰も持っていない珍しい服とは、いったいどんな服なのでしょうか……。
原作はハンス・クリスチャン・アンデルセンです。再話は、読み聞かせボランティアグループの代表を務める、女優・エッセイストの中井貴恵。絵は、子どものマルチメディアを製作するレーベル”colobockle”(絵本作家の立花倫子)による作品です。
- 著者
- ["アンデルセン", "中井 貴恵"]
- 出版日
どのページもカラフルで、ページをめくるのがとても楽しいです。特に、王さまのたくさんの服や、靴などが並んだ衣装部屋のシーンは、まるでブティックに入ったかのよう。
お店のディスプレイを見ているような気持ちになり、どんな服があるのだろうと思わずチェックしてしまいます。
そして王さまが表情豊かで、服の柄や小物なども細かく描かれており、作者の繊細な仕事ぶりと読者への愛情が伝わってくるでしょう。
この作品は他の『はだかの王さま』とは少し異なり、はだかの王さまだと子どもたちに言われた王さまが、一緒に笑い出してしまうという、楽しい結末で描かれています。
ファッションが大好きでおしゃれな王さま。わがままなところは他の作品と同じですが、最後は騙されていたことを恥じたり怒ったりするのではなく、笑って終わるのです。説教がましくないので、温かい気持ちで読み終えることができます。
あひるの巣の中に、あひるが生んだ卵とは別の卵がどこからか紛れ込んでしまいました。雛鳥たちが次々に生まれるのですが、1羽だけ体が大きくて色が違う子が生まれます。
母鳥のあひるは「かまわないでちょうだい。この子は何もしてやしないじゃないの」とかばってくれますが、それでも他のあひるや鶏たちから、不格好だ、できそこないだと言われて相手にされません。
やがて家を離れて苦しい孤独な日々を過ごす、みにくいあひるの子。猟犬と遭遇しても、何もされずに済んだというのに、自分がみっともない姿だから犬も噛みつこうとしないのだと思い……。
絵は、アンデルセンが生まれた国デンマークの、画家であり絵本作家の、スベン・オットー・S。翻訳は、童話だけでなく推理小説の翻訳も手掛ける、木村由利子による作品です。
- 著者
- ハンス・クリスチャン・アンデルセン
- 出版日
こちらは絵がとても美しい作品です。空の青さ、鳥の躍動感、建物の立体感、身を潜める沼など、どの絵をとっても本格的で素晴らしく描かれています。
”絵本は絵が主役の本”だと考えるなら、この作品は正統派の絵本。北欧の農園の日常を、動物目線で絵画にしたような作品。原作に忠実なようで、みにくいあひるの子の苦難の数々が細かく描かれているため、お話自体は長く、読み聞かせに用いるのは難しいかもしれません。
その長さと引き換えというわけではありませんが、みにくいあひるの子が小さな雛鳥から徐々に立派な親鳥へと成長していく過程を、生き物観察かのように絵で追って見ることができます。
漢字にはルビがふってありますが、ボリュームがあるので、小さな子どもよりも小学生以上の本が好きな子におすすめです。
食べ物がなくなる冬を乗り切るために、熱い夏の間にせっせと働くあり。一方、きりぎりすは働くことはせず、バイオリンを弾いて気楽に過ごします。
やがて秋が過ぎ冬が来て、きりぎりすは食べ物を探しても見つけることができず、ありに食べ物を分けてもらおうとするのです。しかしありは、夏に何もしなかったのだから冬の間も気楽に過ごせばと、食べ物を分けることを拒否します。
ちゃんと準備していないと後で痛い目にあうという、小さい子どもでも教訓として学ぶであろう名作の、世界の童話。
原作はイソップの物語、絵は藤枝リュウジで、開くと楽しい“しかけ絵本”になっています。
- 著者
- La Zoo
- 出版日
世界の童話でも、イソップの童話は教訓めいたものが多く、たいていは残酷な結末になっています。ありときりぎりすも、最後はきりぎりすが飢えと凍えで死んでしまう結末のものが多いようです。
しかし、この作品は小さい子ども向けに生死を避けたアレンジで、ありに食べ物をもらえないというだけで話が終わります。
親御さんは、子どもにはありのようになってほしい、きりぎりすのようにならないで、というつもりでこのお話を読み聞かせすることがあると思います。この作品のきりぎりすは、ありに食べ物をもらえないだけで死にはしないのですが、それでも十分に伝わるものがあるだろう結末。
作者の子どもへの愛情と、誰かが死ぬような作品は避けたいという保護者への配慮も感じます。
絵がユーモラスかつカラフルで楽しく、“はじめてのめいさくしかけえほん”というだけあって分かりやすい構成なので、赤ちゃん~未就園くらいの小さな子どもにおすすめです。
どの作品も昔からある名作で、多くの絵本作家が作品として描いているものばかり。ここに挙げた作品だけでも種類がたくさんあるので、どれを読もうかと迷うくらいです。
自分が子どもの頃に読んでいた名作を子どもに読んであげたいという方、自分が好きな作家の絵本を読んであげたいという方もいらっしゃるでしょう。1つの名作でも親が好きな絵の作品、子どもが好きな絵の作品など、いろいろ読み比べるのも面白いかもしれませんね。