絵本といえば子供に読み聞かせてやるほほえましいものと思ってはいませんか?もちろんそれも大事ですが、大人も一緒になって楽しめる、一風変わったものもあるんです。様々な妖怪、異世界、架空の存在。そういったものが描かれた石黒亜矢子の絵本を紹介します。
石黒亜矢子は多くの妖怪画を手がけるイラストレーターです。妖怪画、と聞いて想像するように滑らかではっきりとした輪郭に鮮やかな彩色、本人の個性として豊かな表情がありありとそこに描き出されます。妖怪や妖精といった架空の存在や、動物、特に猫を好んで描くようで、猫だけもでとても豊富かつユーモラスなイラストが見られます。
1973年に千葉で生まれ、絵本やイラストの他、本の装丁も手がけています。「見たい景色と生き物を想像して描いてきました」と語る通り、数々の作品は浮き世離れをした、それでいながら触れられそうなくらいのリアリティを持った物ばかり。
ホラー漫画家である伊藤潤二の妻という、そろって独特の世界観を持った組み合わせ。一風変わった感性は理解が得られにくく、苦労をした時期もあるそうですが、怪奇小説家や、他理解者に恵まれ、個展も開けるほどに。あの世に近い世界を表現するために、この世の多くの人の手助けがあったそうです。
主人公のオレは猫をいじめる、ちょっといじわるな少年。そのせいか、猫たちに恨まれてしまいます。それを教えてくれたのは飼い猫のトン。
トンは実は化け猫で、他の怒っている化け猫たちの跋扈する夜の町へと主人公を連れ出していきます。色んな猫のお化け達と遭遇しながら、とうとう親玉と遭遇してしまいます。
大ピンチのオレを助けてくれたのは、トンでした。
不気味だけどもどこか可愛い猫たちがいっぱい登場する絵本です。
- 著者
- 石黒 亜矢子
- 出版日
- 2015-03-21
ページをめくるたびに現れる妖怪の数々は、どれも猫の変化したもの。不気味でありながら猫らしい愛嬌のある妖怪達ですが、実際に遭遇している主人公としてはたまったものじゃありません。迫られ、にらまれ、おっかなびっくり、導かれるままに夜の町を抜けていきます。
妖怪達はどれも見開きで大きく描かれていて迫力満点。今にも動き出しそうな構図は、描かれたキャラクター達の動きも想像しやすくてハラハラドキドキ楽しめるでしょう。格好良くて頼もしい飼い猫のトンももちろん、化け猫として時には恐ろしく描かれます。とはいえ、そこはやっぱり元は猫。そのうち数々の化け猫たちもかわいく見えてくるでしょう。
ひどいことをしてきたのに、助けてくれる猫のトン。読み終わる頃にはきっと、その格好良さに夢中になっている事でしょう。飼い猫との絆を大切にしようと感じさせてくれる絵本です。
物は100年経てば意思を持ち、妖怪になると言われています。大事にしてきた物ならきっと優しい妖怪でしょうが、ないがしろにされたなら、怒っているかもしれません。
針供養なんて言葉もあるように、その捨て方には気をつけなければ、物は祟るかもしれません。そんな様々な物、付喪神を描いています。
付喪神の思惑は人間への復習。人間vs付喪神の大合戦の行方はどうなるのでしょうか?
- 著者
- ["町田 康", "石黒 亜矢子"]
- 出版日
- 2015-10-08
絵本ではありますがかなり大人向けの内容です。打ち捨てられた物が、節分の夜、恐ろしい鬼へ姿を変える、というもの。とてもユニークな内容ではあるのですが、楽しく読める部分は子供にとっては限られてしまうかもしれません。
とはいえ、話は一環してユーモアたっぷりに描かれています。御伽草子を現代語訳と称し、わかりやすい単語を表現を持って描き出しています。舞台には朝廷があり、和尚もいて、とだけ言えばとっつきにくいかとも思われるかもしれませんが、何も難しい事はありません。バリアなんて単語が飛び出すのですから、気軽に楽しめる作品となっています。
思わずうんうんとうなずいてしまいそうな愚痴や近所のおじさんがしてるみたいなお説教。こうしたもののおかしさを楽しめてこそこの絵本は楽しめます。と、考えると、やはり大人の方が、この絵本を楽しめるでしょう。
色んな人が真っ先に覚える動物はきっと犬や猫の身近なもの。そしてその次に、干支の動物を覚えることと思います。そんな干支の動物達に、なんと一泡吹かせてやろうという発想からひと味違った絵本です。
いつも威張っている十二支に、今度こそぎゃふんと言わせたいたぬき。ある満月の夜、たぬきは十二支を呼び出します。お山の仲間たちと一緒に十二支に勝負を挑みます。果たして大決戦の行方は?
- 著者
- 石黒 亜矢子
- 出版日
- 2016-11-21
表紙からがつんとしたインパクトがあるこの絵本。干支、と描いてあるのに、鉢巻き巻いたたぬきが棍棒を持って、のっしのっしと歩いているのですから。まだ干支を覚えていない子供は不思議に思うでしょうが、怒っているんだ、と分かれば十分でしょう。事情は分からなくても感情が伝われば、きっと楽しく触れられます。
干支の動物達との対決もまた一風変わったもの。みんな必死なのに、懸命な決闘からの大騒動も面白いものとして読めるでしょう。
ふわふわころころした愛嬌のある動物達は、とてもかわいらしく描かれています。しかしかわいいだけじゃありません。たぬきと言えば化けるもの、さすがとも言うべき迫力がページの先に控えています。
普通の話を想像すると、思惑は見事に裏切られます。かといって話の筋自体は変わったものではありません。言うなれば、いたずら心の塊のような絵本です。面白い事は間違いがありません。ですがその面白さは、絵本を開く前に考えたものとは趣の違うものでしょう。
「ねぇねは ずるい」。いつもずるばかりするお姉ちゃんに妹てふちゃんは怒っています。
不満を貯めた妹達は、お姉ちゃん達に思い知らせてやろうと集まって、皆で「いもうとかいぎ」を開きます。さて、てふちゃん達はお姉ちゃん達をギャフンと言わせることはできるのでしょうか。
妹のかわいらしい企みがユーモラスに描かれた絵本です。
- 著者
- 石黒 亜矢子
- 出版日
表紙に描かれた不思議な少女が主人公てふちゃん。猫かな、と思うけれど、背中の羽は蝶のもの。顔は猫っぽいかな、と思いますが、他のみんなは虫ばかり。蝶の妖精なのかもしれません。
そんな浮き世離れした少女ですが、抱えた思いは身近なもの。お姉ちゃんばっかり、という思いは、姉妹で生まれてくる以上はしょうがないものなのかもしれません。
そこで開かれる「いもうとかいぎ」。皆でどうにかして、お姉ちゃんにギャフンと言わせてやろうと話し合います。しかし小さな世界の小さな子達、あんまりうまくはいきません。色々話して考えて、ようやく出した結論が気になりますね。
別の世界の生き物のような愛らしいキャラクターで、とても身近な事を描いています。妹にはお姉ちゃんのことが分からないように、きっとお姉ちゃんにも、妹の事が分かりません。だからこそ、きっと喧嘩することだって大事な事です。心温まる裏表紙を見て、お話の締めを想像できるでしょう。安心して子供に読み聞かせられる絵本となっています。
おおきなねことちいさなねこはとっても仲良し。ですがあるとき、2匹はそれぞれ、違う大きさのおにぎりを見つけます。
それが元でけんかになってしまい、賢い猿へ相談する為に訪れます。2匹は仲直りできるのでしょうか。
- 著者
- 石黒亜矢子
- 出版日
- 2016-07-22
ちょこんと描かれる書き出しから、次のページを開いた瞬間、見開きに所狭しとねこたちの仲の良い暮らしぶりが描かれています。
端から端までしっかりと書き込まれているのにごちゃごちゃしているように感じさせない見事な構図、猫たちの表情から感じられる温かみ。文章が無くても、とても楽しく、幸せに暮らしていたんだろうな、と思わせるほどです。次のページからも感情をいっぱいに感じさせる絵が続き、話をすんなりと飲み込ませてくれることでしょう。
ストーリーはとても素直なもの。ねこ達は最後には自らの行いを反省しますし、さるは昔話でよくあるさるらしい役割をまっとうします。だからこそ安心して楽しめますし、子供にも余裕を持って読み聞かせられることでしょう。
表情豊かでユーモアたっぷりに描かれる猫たちに注目して、お子さんと一緒に読んでみてください。
石黒亜矢子が描く、違う世界を垣間見る、可愛いけれどちょっと不気味な世界の数々。こうしたものに触れてみるのも、時には良いかもしれません。お子さんと一緒に大人な方も楽しく読んで欲しい絵本です。