ドラマ化もされ、2017年7月には約16年振りに新作が発表された安野モヨコ作『ハッピー・マニア』。女性ならどこか共感するところのある作品で、自分のことのように重田と一緒に一喜一憂してしまいます。
主人公はとにかくだらしなく、それでいて生命力が強い雑草のような女子、重田。
安野モヨコが描く、悩めるだめんず女子の生き様を描いた作品です。過去には稲森いずみと藤原紀香でドラマ化され、2017年からは続編『後ハッピーマニア』が雑誌「フィール・ヤング」で連載され始めたことでも話題になりました。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2001-05-25
こんなにも主人公のダメさが突き抜けており、なぜか爽快感と元気をもらえる作品はなかなか無いのではないでしょうか。
しかし重田のダメさは読者にも共感できるところのあるもの。しかし彼女のように振り切れない読者としては、ダメダメじゃん、と突っ込みながらももっとやれと言いたくなるようなスペクタクル感があるのです。
読者の女性たちの思い出したくないような記憶を、掘り起こしていじくり倒すような本作。時にはツッコんでもいられないような自分の身にしみる話もあるはずです。
今回はそんな重田のダメっぷりを『後ハッピーマニア』まで徹底解説!自分の身を斬られるようなイタさがくせになること間違いなしの魅力をご紹介します。
ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2001-05-25
24歳恋人なし、フリーター、今やっている本屋でのバイトもやる気なしという主人公の重田。口癖は「彼氏がほしい!」で、ダメだと分かっているのに、どうしようもない男にハマっていきます。
そんな重田を影で密かに見守るのが高橋。自分勝手でフラフラしていて、調子のいい性格を分かっていながらも、彼女を優しくサポートします。
果たしてだめんず重田の幸せはどこに?幸せになりたいけれど、自分の欲望も捨てられないという女子全員におすすめの作品です。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
街をゆくカップルたちに呪詛の眼差しを送る重田。そんな彼女の前に今日の占いに書かれていた「理想の彼氏が急接近」という言葉を体現したかのような相手が現れます。
「なんかいい!!」と感じた彼女は熱視線を送り、彼が再びやってくるという翌日には念入りな化粧をして出勤。来店した彼に「シゲタサンデンワシテクダサイ」と書かれたメモを渡され、有頂天になります。
さっそくその男・高田に電話し、彼の家でやっちゃいます。展開が早すぎです、重田さん。幸せを求める割にはインスタントに済ませようとするのが彼女の良くないところです。
幸せを感じる重田はベッドの上で「あたしのこと愛してる? あたしって高田くんの彼女?」と聞きます。しかし高田は「そういうのナシにしようよ」と言ってくるのです。
それを聞いた瞬間、重田はベッドから降り、真っ裸のまま「あたしがほしーのは彼氏なの!!セフレじゃないの!!」と叫び、恋愛運が上がるからと買ったパワーストーンのローズクォーツを彼に投げつけ、去っていきます。
「本当の恋人はどこにいるの?どうしてあたしはひとりなの?」
夜空にそうつぶやく重田。彼女の幸せを探す旅はまだまだ続いていくのです。
悲劇のヒロインぶってうざったいところもある彼女ですが、恋愛に関して夢見がちになってしまうのは女性なら誰しもあること。また、「好きかも!」という本能のままに行動して失敗する様子も女性なら共感するところがあるのではないでしょうか?
少し急展開すぎるところもありますが、その様子には身につまされるものがあります。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
ある日クラブに遊びにきた重田が出会ったのは、まゆ毛、鼻、体型の全てがどストライクなイケメンDJ。そして彼に「あたしあのクラブから尾行してきたんです 好きだから」と直球でぶつかります。
そのまま彼の家へ直行しますが、ワンナイトで終わりではなく平和な朝チュンを迎えるふたり。重田は当たり前の会話、当たり前の食事、当たり前の友人への紹介に涙がでるほど喜びます。
その後バイトをクビになるもウキウキの彼女は再び彼の家へ向かいますが、何とそこには裸の女がいて一気に修羅場に。一応関係は続くことになりましたが、彼の浮気ぐせは治らず、重田はストーカー化します。
しかし借金取りのように暴れた後、「ひとりで生きていく!」と心に誓った重田は仕事に生きるのだと意気込むのです。
やはりこの作品の良さはやはり主人公のアホさ。意気込んではいますが、彼女が男に振られたからといって仕事に生きられる訳がありません。どこにいても考えるのは寂しい、彼氏欲しいということ。
今回の場合は一度は本当に心を許した相手だからこそ余計に深い傷を負った重田。ワンナイトしてしまう時もあるけれど、本当に求めているのは安心できる恋人なのです。
そんな心の傷を負ったことのある人にもぜひおすすめしたいこの作品。泣ける漫画で発散するのもいいですが、どポジティブで強すぎる重田の勢いにきっと励まされるはずです。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
アホすぎて、夢見がちなのに股がゆるくて、というどうしようもない重田をずっと支えていたのが同じ本屋で働いていた高橋。
しかし彼女は好みではない彼をかなり下に見ていて、振られた時にも泣いて彼の胸に飛び込みつつ「こんなのじゃないの もっとカッコイイ人がいいの」と考えるほど。
それにしてもこのシーンは悲しい、嬉しいという激しい気持ちがありながらもどこか冷静な顔を持つ女性ならではのものです。怖いなぁと思いつつも誰しも自分の冷静さが怖いと思ったことがあるのではないでしょうか?
しかし更に重田は罪深い。この後のモノローグはこう続けられます。
「あたしみたいな女の子スキになんかならないカッコイイ男の子」
彼女は自己評価が低いことが災いして、自分を好きな男子を見る目がない、好きじゃないと思う傾向があるのです。なのに、愛し愛されたいという相反する願いを持っているので、常に情緒不安定。だから下に見つつも高橋という精神安定剤がいないとダメなのです。
しかしある日高橋から言われたのは衝撃の言葉。
「もう重田さんにはあいません」
彼はずっと彼女を幸せにしたいと思っていたが、それをできるのは自分ではなく重田が好きになった男だと気づいたと言います。
下に見ていた相手からのまさかの告白にショック、さらに精神安定剤がいなくなったことでのショック。重田はこのあとさらに暴走っぷりに磨きがかかっていきます。
前作『ハッピー・マニア』に20代前半女子のダメさを体現した重田が『後ハッピーマニア』として帰ってきました。現在はまだ単行本化されていない本作ですが、そのさらにエグい見所を少しご紹介させていただきます。
16年ぶりに帰ってきた重田は齢45歳。彼女の親友のフクちゃんは何と51歳です。ふたりは登場早々それぞれの見た目についてあーだこーだ言います。地獄かな……。
はっきりと描かれた目元の小じわなど、流れた年月を感じさせますが、アラフォーアラフィフ女性にはキッツイものがあるのではないでしょうか。
美容に力をいれ、スチーマーなどを定期的に行なっていたフクちゃんだからこそショックが大きいのです。多少美容を意識している20代、30代女子も背筋がひんやりするのではないでしょうか。美貌だけが女子の魅力ではないと頭では分かるのですがね……。
しかもさらにキッツイのが、かつては自分のベタ惚れで押しに押されて結婚したとも言える高橋に好きな人ができるというサプライズ。重田に突きつけられたのは離婚という現実でした……。
本作の魅力が重田のバイタリティにあることはすでにお伝えしましたが、アラフォー女性となった今、体力的にも精神的にもあの根無し草のような生き方は難しいものがあるでしょう。
しかも重田は20代から何も学んでないのか、仕事もせず。もちろんコロコロ転職していたので専門的な能力もありません。うん、やっぱり地獄かな……。
女性共感度が高い安野モヨコの作品なだけに、確実にクリティカルヒットを打ってきそうな、何なら1話だけで瀕死にさせられそうな『後ハッピーマニア』。果たして年を重ねた重田はこれからどう生きるのでしょうか?
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
重田がとにかくハチャメチャな暴走を巻き起こす『ハッピー・マニア』。一見ハイテンションなラブコメ作品ですが、その実は女の幸せはどこにある?というテーマで描かれた読み応えのあるものです。
ぜひ作品で重田の見つけ出す答えをご覧ください!読む人それぞれで解釈が変わる深い漫画です。