半陰陽という生物学上男でも女でもない筆者の日常を描いた漫画『性別が、ない!』。ほぼ下ネタでかなりハードなものもありますが、それは笑いつつも考えさせられるところのあるものばかり。ぜひそんな作品が苦手だという方にも読んでいただきたい作品です。
- 著者
- 新井 祥
- 出版日
- 2005-09-30
遺伝子や染色体、性器が「一般的」とは異なり、生物学的に男でも女でもない存在・半陰陽。しかしひと言でそう言っても精巣と卵巣の両方が備わっている真性半陰陽や、症状が分かりづらい仮性半陰陽など様々です。
そのため自覚症状がない場合も多く、その正確な数は把握されていません。本作では何万人にひとりだと言われているものだとし、そんな珍しい身体的特徴を持った作者・新井祥の日常が描かれています。
辛いことも多いだろうと容易に想像できるこの特徴。しかし新井はそんなことには全く触れず、むしろこの性を楽しんでいるかのように毎日を綴ります。
普段なかなか出会うことのない特別な特徴を持った彼女やその周囲の日常は目からうろこの情報ばかり。ゆる〜く楽しむことのできる雰囲気なので、この作品で構えることなく気軽に半陰陽の世界を覗いてみましょう!
- 著者
- 新井 祥
- 出版日
- 2006-05-31
新井はもともとは女性。自分が半陰陽とは知らず、成人してから徐々に体が男性化していきました。そこで胸を手術で摘出したり、髭を伸ばしたりと男性の見た目に近づけていくことにしたそうです。
体が男になり、半陰陽だと診断されたたものの女としてのセルフイメージをそのまま持っている彼女。しかし見た目を改造しているので新井が彼氏の話をすると場が変な空気に。そこから男の話をしに行く時はホモバーに行くことにしているそうです。
そんな解決策をとるという肝の座った彼女が出会う人々はこれまた一筋縄ではいかない人ばかり。『性別が、ない!』ではそんな登場人物たちも魅力的です。
女性や男性でも不規則な生活や加齢によってホルモンバランスが乱れるというのは聞いたことがあるかと思いますが、半陰陽の場合その変化の波はかなり激しいものです。
まず一番辛そうなのは体調の悪化。男性化が進む新井の体で女性ホルモンが多くなると気分が悪くなるようです。
しかしそれにしても面白いのが体格の変化。男性ホルモンが多い時の彼女の体は胸毛が生え、足は太らずお腹が出ます。それに対して女性ホルモンが多い時は胸が膨らみ、ウエストがくびれ、お尻が丸くなるのです。
そこまで見た目が変わるほどの変化が体内で起こるというのは想像できないものがあります。本当に珍しい体質なのだなと実体験を聞いて読者も体感できます。
そしてもうひとつ面白いのがホルモンの乱れによる考え方の変化。女性ホルモンが多い時は男性がかっこよく、女性はイライラしているように見え、男性ホルモンが多い時は男性が性欲の塊に思え、女性が可愛く見えるそうです。
しかしセルフイメージが女のままなので性的な対象として見る相手は男性。ややこしく、どうにもすぐには理解できない世界のようです。
人間も生物なので遺伝子に操作されているとはいえ、ここまで変化が出てくると好きな人のことを好意的に思うのがどこまで自分の気持ちなのだろうと考えさせられますね。
新井祥の仲のいい友人としてよく登場するのが元男、現在女の雪柳くん。ニューハーフと総称するのが普通かもしれませんが、彼女はこう言います。
「たぶん私は『人ではないモノ』になりたいんじゃないかと
女になりたいわけではないのかも…」
難しいトランスセクシャルの世界。彼女の言葉を聞くとまだまだ奥深い様々な考えがあるのだと実感されますね。
しかしそんな考えをTVで主張した時には性同一性障害の方からかなりの量のクレームが来たそうです。どのような伝え方をしたのかは説明されていませんが、ますますトランスセクシャルの世界が難しいと感じられます。
そんな考え方なので銭湯にいっても雪柳くんが入るのは男湯。周囲の人たちが見てくるのが面白いらしく、わざと挑戦的なポーズをとったりするそうです。
たとえ男性から女体化してもそんなことができるのは彼女くらいでしょう。本当に肝が座った人物です。
- 著者
- 新井 祥
- 出版日
- 2006-12-20
知れば知るほど奥の深さに唸らされる「性別がない」という世界。特にこの作品は生まれた体と心のギャップに悩むというものではなく、その性を受け入れて楽しみながら追求しようとするタイプの人が多いので余計共感するのが難しいのかもしれません。
しかし新井祥や周囲の人物たちの様子は見ていて新鮮で、勉強になるもの。心が重くなることなく、軽く読めるこの作品でぜひ未知の世界を勉強してみてください。