町田尚子といえば京極夏彦とのコラボ『いるのいないの』など怪談ものが有名ですが、ほかにも幻想的な物語などの作画を手がけるなど幅広い絵本活動をしています。絵本の中にはそこかしこに猫が登場し、猫好きにもたまらないお話となっています。
町田尚子が一躍有名になったのはミステリー作家、京極夏彦とのコラボ絵本『いるのいないの』の発表からでしょうか。さらにこのあと『あずきとぎ』など怪談ものの絵本の挿絵を手がけることが多くあり、独特の暗い雰囲気に背筋が凍りそうな怖さを感じます。
町田尚子の絵本を数冊読んでみると、どれも影のあるような独特の雰囲気を感じます。また絵のあちこちに登場する猫の中には町田が飼っている「白木」が登場する場面も多くあり、ファンの中ではストーリーとともに猫探しを楽しむ方もいらっしゃるよう。
今回は町田尚子が手掛けた絵本の中からおすすめの5作品を選びました。怖い話はもちろん、日本の伝説にありそうな幻想的な物語、お化けが可愛らしく感じられる物語も紹介しています。もしかしたら「こんな絵本もあったのか」と新たな町田ワールドを知るきっかけになるかもしれませんよ。
ふてぶてしささえ感じる猫の表紙にインパクトを感じる『ネコヅメのよる』は、町田尚子の飼い猫「白木」がモデルの物語です。
ある日、いつものごとく家の中で自由気ままな時間を過ごしながらも、何かを感じ取った猫。そして夜になると「間違いない、今夜だ」と目を見開き何かを確信します。
少しだけ開いている窓から外へと抜け出す様子が見開きで描かれたページをめくると、町を埋め尽くしそうな猫、猫、猫。あちらからもこちらからも出てくる猫たちはさながら『ハメルンのふえふき』のようなすさまじさがあります。
- 著者
- 町田 尚子
- 出版日
- 2016-05-15
人間が寝静まり真っ暗になった夜中、一体猫たちはどこへ向かうのでしょう。ざわざわ移動する猫たちの中には「ついにこの日が来ましたね」と話をしている猫もいます。
たくさんの猫たちが空を見上げると夜空を覆っていた雲が風に流され、ツメの形をした月が現れます。
猫を愛する町田尚子らしさのあふれた『ネコヅメのよる』には、たくさんの猫が登場しますが、1匹1匹がとても丁寧に描かれているのが印象的。もし猫を飼っておられる方なら家にいる猫とよく似た猫も登場しているかもしれません。
この絵本を読んだ後は、夜空を照らす月の形が作中に出ている月と似ていた日には「ネコヅメの夜だね」と一味違った月の楽しみ方もできそう。猫が好きな方はもちろん、お子様と一緒に猫の世界を楽しむのもおすすめです。
『ざしきわらし』は柳田邦夫原作の『遠野物語』を、京極夏彦の新たな語り口により「えほん遠野物語シリーズ」として発売。シリーズ4作品目であり一期目の完結となる本作は、東北地方で語り継がれる旧家に住む妖怪のお話です。
昔から東北地方では、男の子や女の子の姿をした妖怪が住む家があると言われており、この妖怪はざしきわらしと呼ばれています。この話は全国的にも有名で、ざしきわらしが住む家は繁栄するとの言い伝えも、ご存知の方は多いのではないでしょうか。
また、妖怪でありながら神様のような存在で扱われることもあるざしきわらしですが、その家にずっといるわけでないようです。
- 著者
- ["京極夏彦", "柳田国男"]
- 出版日
- 2016-12-16
ある日、町から村へ帰ってきた男が道端で2人の童女とすれ違いました。男は童女に「どこから来たのか」と尋ねたところ、村の長者である「孫左衛門のところから来た。」と答えます。すれ違う童女の顔は表情がなく、ただならぬ気配を感じます。
2人の童女が出ていった村の長者、孫左衛門の家の馬小屋にある日、白蛇がとぐろを巻いていました。しかし、孫左衛門が止めるのも聞かず使用人がこの白蛇を切りつけてしまい、そこら中から蛇が湧いて出てきたのです。
また別の日には庭に見たこともないきのこが生え、孫左衛門が食べないように止めますが使用人がこれまた言うことを聞かず、皆でこれを食べてしまいます。きのこの毒により孫左衛門、使用人など屋敷にいた人は全て苦しみながら息絶えてしまい、出かけていた娘が1人取り残されました。
この物語でもページの随所に猫が描かれています。ざしきわらしから感じる独特の怖さだけでなく、何もかも知っていそうな猫の表情がより恐怖を演出している絵本です。
内田麟太郎が文久3年に書かれた絵巻『化物婚礼絵巻』を元にストーリーを書き、町田尚子が挿絵を描いた『おばけにょうぼう』。元々の題名の通りお化けの結婚式の様子が書かれている絵本です。
表紙を飾る可愛らしいお化けは猫娘でしょうか。表紙をめくると見開きいっぱいに火の玉が飛んでいて、さらにもう1ページめくると着物を着た鳥と蛙が登場。この2匹は仲人のばあさまたちですが、一体どんな縁を取り持つのでしょうか。
- 著者
- 内田麟太郎
- 出版日
- 2013-04-17
仲人の2匹はまず森の中の屋敷に住む娘のところへやってきて、好みの男を聞きます。次に娘の好みの男の所へ行ってどんな女房がいいのかを聞き、娘と男のお見合いを取り持ちます。
そしてうらぶれた屋敷でお見合いが始まりました。お見合いの席に登場したのはとても可愛い娘。この席で仲人が娘に「ばけの皮がはがれないように」とそっと耳打ちするのですが、おどろおどろしい雰囲気の絵が続く中でクスッとしてしまう一言です。
お見合いはうまく行き、娘の家へ結納の品がお化けたちによって運ばれていきます。滞りなく進みそうだなと油断していると、次のページで間違いなく驚くでしょう。
瞳が大きくとても可愛らしい娘と、手抜きのなく描かれたお化けらしいお化けが織りなすひと時の物語。ぜひどんなお話なのか手に取ってみてください。
村に独りぼっちで住んでいた女の子がいました。女の子は村人から、何にも役に立たないからと「コイシ」と呼ばれていました。
ある日、山へ出かけたコイシは奥へ奥へと進んで行くときれいな泉を見つけます。コイシが泉を覗くとと中から神秘的に青く光る龍が現れました。
毎日龍に会うために山奥へ通うようになったコイシは、浜で見つけた貝殻を龍に贈ります。そして龍もコイシに自分のうろこを贈り、互いの気持ちを通わせますが……。
- 著者
- 町田 尚子
- 出版日
- 2015-03-11
コイシが龍からウロコをもらったことで、欲深い村人に目をつけられてしまいました。そして村人は龍のウロコをはぎ取ってしまうのです。
力なく横たわる龍の体にコイシが貝を置くと龍は起き上がり、体は桜色に変わり、コイシを乗せて空のかなたへと消えてしまいました。
龍とともに飛び立ったコイシは、今どこにいるのでしょう。
全般に渡ってコイシの孤独さがにじみ出てくるような絵、そしてストーリーの相乗効果が素晴らしい作品です。低学年の課題図書に選定された絵本ですが、心大人が読んでもグングン引き込まれる幻想的な物語です。
海を行き来する船を見守る、岬の先に立つ古い灯台。ある時その役目を終え、灯台に住んでいた家族もいなくなり、毎晩海を照らしていた灯りも消え『だれのものでもない岩鼻の灯台』になってしまいました。
夜の灯台の周りは真っ暗い海から聞こえる波の音だけ。昼間もラジオの音や子どもの声も聞こえることはなくなり、灯台は寂しくてすすり泣きます。
しかし冬が過ぎ春が来て、50回目の日を迎えた灯台の足元から声がします……。
- 著者
- 山下 明生
- 出版日
- 2015-12-19
声の主は猫の家族でした。子どもたちが生まれて間借りしたいと灯台を訪ねてきたのです。その後もムササビやイノシシがやってきて、灯台の中は満杯になってしまいます。さらに何かに声をかけられた灯台は「もう満員だ」と言いますが、声の主はカモメなのでベランダを利用してもらうことにしました。
この後もまだまだ灯台に声をかける生き物が登場します。役目を終えて寂しそうにしていた灯台の周辺は再びとても賑やかになりました。
『だれのものでもない岩鼻の灯台』は、作者の山下明生が挿絵の担当に町田尚子を指名したエピソードがあります。絵本から飛び出してくるような猫やムササビの表情に町田らしさを感じるとともに、ストーリーを大切にした絵画のような挿絵が印象に残る素敵な絵本です。
物語では灯台が主人公になっていますが、読んでみると人間が年を取り老いてゆく様子と重なりあうようにも感じるスト―リー。老いて寂しくなっていくのではなく、こんな風に誰かに囲まれて過ごせたらいいなと思う作品です。
町田尚子が手がけたおすすめの絵本特集はいかがでしたか。猫を主人公にした『ネコヅメのよる』はもちろん、今回紹介した絵本の中には気ままな猫らしい猫、世の中のことを全て知っていそうな猫が登場し、物語の展開はもちろん猫たちの様子も気になって何度も読み返したくなると思います。ぜひ静かで独特の世界観を感じる町田ワールドとともにお楽しみください。