爽快なだけではない非凡な小説家、深見真。彼の作品で描写されるガンアクション、格闘戦、百合、そして拷問は目の前で起こっているのではないかと錯覚するほどのリアルさです。ここではアニメの脚本もこなす深見真の紡いだ代表作をご紹介します。
深見真は、1977年熊本県で生を受けます。2000年、大学在学中『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』で富士見ヤングミステリー大賞を受賞し小説家デビューを果たしました。
その後、『ヤングガン・カルナバル』を連載し、シリーズ化される人気作品となると多彩の才能を発揮し、小説だけにとどまらず漫画原作やアニメの脚本も担当するなど様々な方面で活躍。武器を使った戦闘シーンや同性愛といった陰鬱の描写が得意とされているがそれだけでなくほのぼのとした日常生活の描写も得意としています。
2006年度には武蔵野美術大学の非常勤講師に就任し、後進の育成にも力を入れています。
2012年に放送されたアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」をノベライズ化した『PSYCHO-PASS』。上巻には、TVアニメシリーズの1クールにあたる、第1話~第11話の物語が展開されます。
“近未来SF”、“警察もの”、“群像劇”をコンセプトにしており、コンピューターが人間の心理、性格を数値化し、それが「犯罪係数」としてあらわされます。犯罪をすることも犯罪に合うこともない「理想的な人生」を送るため、その数値を算出するコンピューターのことを信じながら、人々は生きていました。
「犯罪係数」の数値が一定数を超えると、たとえ犯罪を犯していなくとも裁かれるというのです。ディストピアな近未来で物語が始まります。
- 著者
- ["深見真", "ニトロプラス"]
- 出版日
- 2013-02-04
主人公の狡噛慎也は犯罪係数の超えた人間を処分する公安局刑事課一係の執行官であり、非常に優秀な人物です。執行対象者を追い詰める狡噛の姿は肉食獣のようだと形容されるほどでした。彼を監視するために配属された新人監視官の常守朱とともに、猟奇殺人事件の犯人を執拗に追う狡噛慎也の過去が明かされていきます。
深見真の得意とする銃器を用いたアクション描写、陰鬱で張りぼてのディストピアを描いた監視社会の描写が非常に引きこまれる作品。人気アニメシリーズのノベライズ作品ですが、アニメでは描写されなかった各キャラクターの心理描写も描かれており、主役以外のキャラクターにも感情移入しやすい物語です。
今作ではヒロインの常守朱の成長と主人公の狡噛慎也の復讐がメインで物語が進み、その中コンピューターの「不完全さ」や「組織のしがらみ」などが複雑に絡み合い、まるで刑事もののドラマを見ているような作品です。
幸せの絶頂にいるところから一気に地獄に叩き落された男の復讐譚……かと思いきやそれだけで終わらない人間が持つ凶暴性を描いたかのような物語が『ゴルゴタ』です。
幸せの真っただ中にいた自衛官の真田聖人には妊娠6ヶ月の妻がいました。真田が仕事から帰ると妻は未成年の少年たちに惨殺されていたのです。司法による制裁はとても軽く、彼に残ったものは大きな虚無感とわずかな賠償金でした。ほどなくして真田は自衛隊をやめ姿を消し世間が事件を忘れていたころ、犯人グループの一人が死体で発見され、状況は動き出します。
- 著者
- 深見 真
- 出版日
- 2010-07-02
単なる首謀者たちへの復讐だけかと思いきや、彼らにかかわる人間すべてに復讐する主人公の姿には驚愕の一言です。どこかプログラムされた機械的な淡々と動く主人公には底知れぬ恐怖と執念を感じることができます。
深見真の考える人間の闇が、非常に深く描かれています。中でも復讐をなす際の執拗なまでの拷問の描写は、文章であっても目をそむけたくなるものです。読者は、なぜ彼をそうまで狂わせたのか、分からなくなるでしょう。
しかし、彼が味わった喪失感や信じていた政府の裏切りなどを考えると、彼を復讐に狂わせたのにたる理由のようにも感じられるのです。首謀者だけでなく国にまで復讐しようとする彼の生き様をぜひ目にしてみて下さい。
『ヤングガン・カルナバル』は普通の高校生として生きる木暮塵八と鉄美弓華が主人公。法で裁けぬ悪を裁く「ハイブリッド」という組織に所属する彼ら2人の葛藤と青春劇を描いた作品です。
根暗な青年とスポーツ少女の2人は同じ組織に所属し、なおかつ凄腕の「ヤングガン」と呼ばれる犯罪者を狩ることをなりわいとする裏の顔があったのです。普段ならなんて事のない仕事が邪魔が入ったことで失敗してしまい、そこから日本中を巻き込む大きな事件となり彼らも巻き込まれていきます。
- 著者
- 深見真
- 出版日
- 2011-04-01
日本を舞台にし、特異な過去を持つ2人は自らに課せられた過去と向き合いながら巨悪や他の組織と戦っていくという少年漫画のような始まりです。しかし、それぞれが仕事をする目的などが明らかになるにつれて、主人公たちの二面性が強調されていきます。また、登場人物が使用する銃器の描写が非常に細かく、専門書を読んでるかのようです。
暗い暴力描写とはまた違った軽快なアクション描写が非常に魅力的であり、話の流れが非常にスピーディーです。高校生が実は裏社会の人間という一面も持っており、ファンタジー的な要素と思春期相応の悩みなどのリアルさがきれいにミックスされています。痛快アクションコメディのような軽い感覚で読めるのが特徴です。
舞台となるのは、武力行使が可能となった自衛隊が存在する日本。刑事の主人公の塚田志士子が責任者となってから渋谷で起こった爆破事件がきっかけで、物語が展開していきます。
物語の中の日本では武器の密輸が公然と行われており、日本国内の治安が非常に悪くなっています。立ち向かう主人公は常に前線に立つことで周りの人間も引っ張っていくのです。
冒頭で起こった事件の謎がどんどん解けていく過程が非常によく練りこまれた作品です。
- 著者
- 深見 真
- 出版日
- 2013-05-15
深見真が持つバイオレンスさが少ないのですが、その分主人公の銃器に対する知識がより深いものとなっています。悪人に負けないくらい濃い主人公の仲間たちが非常に個性にあふれ、それぞれが持つ技能が十二分に生かされて事件が解決するという流れです。コメディ要素は少なめで淡々とシリアスな話が進んで行きます。
内容としてはガンアクションありミステリーあり、またラブロマンスありの物語が堪能でき、本を読み切るころには「硝煙の向こう側に彼女」というタイトルの意味が分かることでしょう。
麻布警察署刑事課二係は、一般的な警察の仕事とは異なる仕事が与えられていました。それはアイドルの薬物使用、国家を揺るがす収賄事件を隠蔽、人身売買など所轄で起こった事件を秘密裏に処理することを目的に組織されました。刑事課二係の中でもひときわ異彩を放つ汚職警官・仙谷の物語です。
仙谷の部下についた細川巡査部長は、警視庁の監察官室で潜入捜査のため二係内に配属されました。悪徳を貫く仙谷の立ち回り方は機転が利いており、なおかつ口が立ちます。そんな人間を相手に、必死で食らいついていこうとする細川との対決が非常に早く展開していきます。それぞれが正義の元、ゴールは同じでも過程が異なっている「悪を以って悪を制す」という汚職警官の姿を描いた本格警察小説です。
- 著者
- 深見 真
- 出版日
- 2016-12-22
仙谷は金さえ払えば事件をもみ消す悪徳警官なのですが、警察署内の悪は排除するという彼の持つ信念が垣間見えるため、絶対悪とは言い切れません。しかし不正に加担しているため細川が配属されることになるのですが、悪にしか倒せない悪という信念のもと行動する仙谷と対になる形で逆の正義を貫き、クールですが並々ならぬ情熱を仙谷から感じることができます。
潜入捜査する側とされる側という両方の立場から展開される、ダークでバイオレンスな世界観は、読み出したらやめられなくなってしまうでしょう。
深見真のおすすめ小説を5つ選んでご紹介しました。他にない圧倒的アクション描写と銃器の描写は、まるで目の前にあるかのように引き込まれる作品ばかりです。バイオレンスでダークな物語に興味があれば一度手に取ってみてはどうでしょうか。