絵本というとどうしても子どものためを思って選ぶものと思ってしまいがちですが、大人にこそ読んで欲しい絵本というものがあります。絵が美しくて癒される絵本や、固まった頭をほぐしたい時に読む絵本など、大人こそ楽しめる作品を紹介します。
カナダの画家であるロブ・ゴンサルヴェスの描いただまし絵に、本人の書いた詩を載せたこの作品。表紙の絵から、その幻想的な世界観が伝わってきますね。
湖の中に体を浮かべている女性が見上げる先には魚眼レンズで覗いたような丸い空が、まるで地球がもう一つあるかのように浮かんでいるのです。この作品のなかには、目を見張るほど見事なだまし絵が他にも収録されています。
例えば、流れ落ちる滝の水が少しずつ形を変えて美しい女性がダンスをする姿に変わっていく絵や、図書館の中で積み上げられた本がだんだんと形を変えて建物の並ぶ街になっていく絵など。柔軟で自由な、子どものような発想力を再び大人の脳に呼び覚ましてくれるような絵が続くのです。
- 著者
- ロブ ゴンサルヴェス
- 出版日
- 2016-07-30
心から絵を楽しみたい。絵の奥深さを感じたいという人におすすめしたい一冊です。ページをめくるたびに不思議な世界が広がり、日常を忘れて没頭することが出来ます。
絵本の中は題名の通り夢の中の世界のようで、眠りにつかなくても自由に夢の中へ行ったり戻ったりできるような不思議な感覚に陥ります。小さな子どもから大人まで十分に満足できる美しい絵本です。
夜空の星が欲しくなってしまった泥棒。皆が寝静まった夜に、高い空へ行って星を盗むことにしました。星を盗むなんて信じられませんが、泥棒はひとつふたつと星を盗んで袋に入れ、夜空の星をすべてすっかり自分だけのものにしてしまいます。
困ったのは星空に近い村に住む村人たちです。村人たちは夜空にぽっかりと取り残された月を見て、再び泥棒が現れることを予想し、月にあるワナを仕掛けます。何も知らない泥棒が月にはしごをかけて登っていき、魚網をかけようとしたとき、月と同じ色の服を着て隠れていた若者につかまってしまうのです。
村人に責められ、盗んだ星を空に返すことになった星泥棒。でも、泥棒が星を空に付けようとしてもくっつきません。困ってしまった村人と泥棒でしたが、星を空に返す意外な方法が見つかるのです。
- 著者
- アンドレア ディノト
- 出版日
- 2011-12-01
星を盗むというのはどれほど悪いことか想像がつきませんが、この絵本に登場する星泥棒はそれほど悪い人には見えません。盗んだ星に大人たちが埋もれてしまったり、星を空に返すなんとも素敵な方法が見つかったり、ロマンチックでミステリアスな雰囲気の中、物語は続いていきます。
ラストシーンでは、子どもが星泥棒に願い事は何かと聞きますが、その答えも夢があるのです。少し長い文章ですが、子どもにもおすすめのこの絵本をぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
この絵本は人間の女の子マリーとネズミの女の子が育む内緒の友情を描いた、心がくすぐったくなるような物語です。マリーはお母さんに、ネズミは汚くて噛みついてくると教えられ、ネズミは人間を恐ろしい存在だと教えられていたため、2人は互いの存在に気づいても親には内緒にするのです。
マリーとネズミの女の子はそれから、同じように学校に行き、同じように勉強をしたり歌を歌ったりします。2人の世界が人間とネズミとで違うのに、同じことをしているのがとても面白いのです。また、ネズミの世界で使われている雑貨は、人間の捨てたゴミなどを再利用していて感心させられます。
2人が成長し、自立して、母親になるまでが描かれていて、最後のページを読み終わった後は、2人のその後に想像が膨らんでいくことでしょう。
- 著者
- ビバリー ドノフリオ
- 出版日
表紙の雰囲気からして女の子向けかと思う人もいるかもしれませんが、男の子にも楽しんでもらえる絵本です。これから自分の周りの世界が広がっていく未就学児にとっては、親の知らない自分だけの友達というのはどこかくすぐったいような、うれしい存在なのではないでしょうか。
人間の世界とネズミの世界が並行して進んでいくという世界観も新鮮で、どちらの世界もインテリアやデザインに趣向が凝らされています。文章を読まなくても、ただ絵を見ているだけで満足できる。この本にはそんな魅力もあります。
アコーディオンが上手なユックリと、ダンスが得意なジョジョニ。ユックリはアコーディオンを弾きながら森から出て、ダンスが得意なジョジョニに出会いました。ユックリの歌に合わせてジョジョニがダンスを踊り出すと、いつの間にか2人は演奏と踊りをしながら知らない町に到着します。
ユックリもジョジョニも、互いの名前以外何も知らないまま、演奏とダンスが続いていきます。町を抜け出し、いつの間にか夜が来て、2人は互いの家に帰りますが、再び2人が出会えるような期待の余韻を残しながら、夜が更けて朝がやってくるのでした。
- 著者
- 荒井 良二
- 出版日
- 1991-02-01
キャラクターの動きが生き生きと伝わってくるイラストと、優しい語り口の文体で、アコーディオンを弾く男の子と、ダンスを踊る女の子が恋に落ちそうな予感をさせるこの絵本。絵本を閉じても、その先に2人の関係が輝きだす出来事が待っているような予感を抱くことが出来ます。
ただただ好きなことを一生懸命やっている2人が出会い、素敵なものが生まれる。本作では、その瞬間にも立ち会うことが出来ます。2人が夢中になって好きなことをしているうちに知らない町に行ったり、いつの間にかその町から出ていたり。一生懸命な大人がふと立ち止まってこの本を手に取れば、自分自身の人生に重ねられる部分を見出すことが出来るかもしれません。
明日はいい事あるかもな。そんなポジティブな気持ちが湧いてくる作品です。
この絵本には文章がありません。草原にそびえ立つ一本の木を、時の流れにのってただ眺める絵本です。雪が降り積もった平原にポツンと佇む木。落ち葉の季節には、木のすぐ側に巣穴を作って寒い冬を乗り越えていく生き物も一緒に描かれています。
草原に光が満ちて、木の枝に小さな若い葉っぱが生まれ始めると、春の訪れを感じさせる動物たちが木の下に集まり始めます。葉っぱの色は新緑から深緑に変化し、草原には草花が芽吹き始めるとやがて実りの季節が訪れるのです。
- 著者
- イエラ・マリ
- 出版日
- 1977-12-10
木がある風景がこれほどまでに美しいものかと改めて思い知らされる一冊です。木や植物は声を発することはなく、自己主張もせず、ただ種が芽吹いた場所でその生命をまっとうします。
その潔い姿と、木に親しんで集まってくるリスや鳥たちも愛らしく、木の姿を誰かに重ねて見たり、四季の移り変わりに自分の人生を重ねて振り返りながら鑑賞するのもおすすめです。
疲れた心を癒したい、混乱した頭をリセットしたい。そんな気持ちになった時、この絵本のページをめくってみましょう。
いかがでしたか。年齢を問わず楽しめて、大人の心を満たしてくれるような作品ばかりでしたね。心を落ち着けたい時や、気分転換をしたい時、さまざまなシーンで読まれる作品の中から、お気に入りの一冊が見つかると良いですね。